残酷な方程式
『残酷な方程式』(ざんこくなほうていしき 原題:The Same To You Doubled)は、アメリカの作家ロバート・シェクリイが書いたSF短編集である。なお、原題を和訳すれば「倍のお返し」であるが、1985年3月に東京創元社から刊行された書籍では「残酷な方程式」のタイトルにされている。また、作家名もロバート・シェクリーとされている。
収録されている短編
編集- 倍のお返し(The Same to You Doubled)
- ニューヨークに住む男の部屋のドアベルが鳴った。入れてやろうとしたら、鍵のかかったままのドアを通り抜けて黒人が入ってきた。話を聞くと悪魔の外交員で、男の三つの願いをかなえてくれるという。ただしその願いは、男の最大の敵に対して倍になって返っていくともいうのだ。始めに男は「2万ドル欲しい」と願った。すると男の親友は4万ドルを手に入れた。親友だと思っていた男が、最大の敵だったのである。次に男が願ったものとは……。
- コードルが玉ネギに、玉ネギがニンジンに(Cordle to Onion to Carrot)
- 石化世界(The Petrified World)
- 試合:最初の設計図(Game:First Schematic)
- ドクター・ゾンビーと小さな毛むくじゃらの友人たち(Doctor Zombie and His Furry Little Friends)
- 残酷な方程式(The Cruel Equations)
- レグルス第5惑星に設置された探検隊のキャンプ。いまそこにいるのは一人の男「ハロラン」と、一台の周辺防御ロボット「マックス」だけだった。他の隊員は調査旅行に出かけていて、数日間は戻ってこない。マックスは異星人と遭遇したときに、キャンプを略奪行為から守るようにプログラムされていた。ハロランはキャンプの外を見回ることにした。出ていくときにマックスが言った。「合い言葉は知ってますね」。ハロランは答えた。「ああ、知っている」。周辺の土地を調べ終えたハロランがキャンプに入ろうとしたとき、マックスが言った。「合い言葉は?」。ハロランが答えたが、それは古い合い言葉だった。新しい合い言葉を確認するのを忘れていたのである。正しい合い言葉を言わないと、絶対にマックスはキャンプに入れてくれないし、武器を持って攻撃もしてくる。ハロランは必死に本人であることを訴えた。マックスの返事は「恐ろしいほどハロランに似ているが、合い言葉を知らなければ異星人に違いない」であった。キャンプに入るため、ハロランは様々な方法を試してみるが、マックスは許可しない。照り付ける日差しで、ハロランは脱水を起こし生命の危険を感じるほどに追い込まれた。
- こうすると感じるかい?(Can You Feel Anything When I Do This?)
- それはかゆみから始まった(Starting from Scratch)
- ある男が、何者かが話しかける夢を見た。それが住む世界では、空から直径2マイルもある巨大なシャフトが降りてきて、非常にゆっくりと動き回りながら野山や都市を破壊していると。そのシャフトは、低温にも高熱にも強く、陽子爆弾でも傷つけることができないらしい。別の日にも同じシャフトが降りてきて、同じような破壊を行ったともいう。それは「お願いだから、指で左手の第二関節と第三関節のあいだを掻くのをやめて欲しい」と切実に訴えた。男は2週間のあいだ、左手にばんそうこうを貼り、手も洗わなかった。その時間のうちに、あの世界では20から30億年は経過しているはずである。
- 記憶売り(The Mnemone)
- トリップアウト(Tripout)
- 架空の相違の識別にかんする覚え書(Notes on the Perception of Imaginary Differences)
- 消化管を下ってマントラ、タントラ、斑入り爆弾の宇宙へ(Down the Digestive Tract and Into the Cosmos with Mantra, Tantra, and Specklebang)
- シェフとウェイターと客のパ・ド・トロワ(Pas De Trois of the Chef and the Waiter and the Customer)
- ラングラナクの諸相(Aspects of Langranak)
- 疫病巡回路(Plague Circuit)
- その男は1988年8月のニューヨークに転移してきた。男は道端にスーツケースを置いて、大声を張り上げた。「いまこの都市で流行している青死病は、研究が進んでいるがまだ特効薬はない。だが私は薬をもっている」。一時は50人も集まった群衆は、どっと笑ってから散っていった。1人の女性だけが残った。彼女は、ここでは病気などは流行っていない、と言うではないか。男は転移する年を間違えたのかと思い「疫病巡回路」のパンフレットを取り出した。それを見た女が訪ねた。男は説明した。「大規模な流行病が発生したか、発生するだろう年と場所の一覧表だ」。
- 災難へのテールパイプ(Tailpipe to Disaster)
書誌情報
編集- 『残酷な方程式』(酒匂真理子訳、創元推理文庫SF) 1985年3月 ISBN 4-488-61402-7