離角りかくとは、位置天文学において、ある点から見た2つの天体のなす角度である。とりわけ「惑星の離角」と言った場合は、地球の中心から見た太陽惑星のなす角度(地心真角距離)をさす[1]。太陽と惑星の黄経の差と説明されることもあるが正しくない(一致しない)。

内惑星・外惑星と地球の位置関係 図中央が太陽、図中央下が地球である。地球から内惑星に伸びる点線が最大離角を示している。点線は地球から見た内惑星の軌道に対する接線でもある。左上に伸びる点線は東方最大離角、右上に伸びる点線は西方最大離角を現している。内合のほか、外惑星に対する外合、東矩と西矩の位置も記入されている。

天体の位置を、基準点を中心とする天球上の経緯度で表した場合、天体1の経度緯度 とし、天体2の経度・緯度を とすると、天体1と天体2の離角

で表される。この場合の経緯度は、黄経・黄緯でも、赤経・赤緯でも良い。

天体1と天体2の経度が等しい()場合、上式のは緯度の差に等しい。また、天体1と天体2の緯度がともに0度の場合、上式のは経度の差に等しい。すなわち、太陽と惑星の離角が黄経の差と等しいのは、太陽と惑星がともに黄緯0度の場合に限られる。

2つの天体の地心視黄経の差が容易に0度になるのに比べると、離角が0度になるのは極めて稀である。なぜならば、離角が0度の時は視黄経も視黄緯も(あるいは視赤経も視赤緯も)どちらも厳密にピッタリ一致することが必要だからである。例えば、2012年6月6日の金星の太陽面通過において、金星は太陽との地心視黄経の差が0度になるを迎えたが、離角の最小値(最小角距離)は約0.153度(約550秒角)でゼロにはならない。

最大離角

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ある惑星から見て、それよりも内側に軌道のある惑星(内惑星)は、太陽とその惑星との離角がある一定の値以上にはならない。これを最大離角といい、太陽よりも内惑星が東側にある場合を東方最大離角、西側にある場合を西方最大離角という。ここでいう「東方」「西方」とは、内惑星が太陽に対して相対的に位置する方角であり、地上から観望できる方位とは関係がない。もし東方最大離角の内惑星を眼視で観望するには、太陽が沈んだ後の西の空に残る内惑星を観望することになる。また、内惑星の離角あるいは最大離角は、地上から観望できる高度とも関係がない(離角が大きいほど、太陽から離れているので、より高い高度で観望できる、という点はあるが)。

水星金星の太陽からの平均距離(それぞれ0.3871 au、0.7233 au)を用いると、地球から見た水星と金星の最大離角はそれぞれ22.8度、46.3度となる。しかし、地球と内惑星の軌道がともに楕円をなし、また互いの公転面が一致していないために、毎サイクルにおける最大離角は同じではなく、毎回異なる。特に水星は軌道の離心率が約0.2と大きいため、近日点と遠日点の距離に大きな隔たりがあり、最大離角の範囲も約18度~28度と広い(すなわち、水星の最大離角の最大値は、約28度である)。金星の最大離角は、約45度~47度の範囲に収まる。

次表に2013年以降の直近の水星と金星の最大離角を掲げる。

東方最大離角 西方最大離角
水星 2013年 2月16日 21:35頃 (UTC) 18.13° 3月31日 21:50頃 (UTC) 27.83°
6月12日 16:40頃 (UTC) 24.28° 7月30日 8:50頃 (UTC) 19.63°
10月 9日 10:10頃 (UTC) 25.34° 11月18日 2:25頃 (UTC) 19.48°
2014年 1月31日 10:05頃 (UTC) 18.37° 3月14日 6:30頃 (UTC) 27.55°
5月25日 7:10頃 (UTC) 22.68° 7月12日 18:25頃 (UTC) 20.91°
9月21日 22:05頃 (UTC) 26.40° 11月 1日 12:40頃 (UTC) 18.66°
2015年 1月14日 20:30頃 (UTC) 18.90° 2月24日 16:20頃 (UTC) 26.75°
5月 7日 4:50頃 (UTC) 21.18° 9月 4日 10:15頃 (UTC) 27.14°
10月16日 3:15頃 (UTC) 18.12° 12月29日 3:10頃 (UTC) 19.72°
金星 2013年 11月 1日 7:55頃 (UTC) 47.07° (なし)
2014年 (なし) 3月22日 19:45頃 (UTC) 46.56°
2015年 6月 6日 18:30頃 (UTC) 45.39° 10月26日 7:15頃 (UTC) 46.44°
2016年 (なし) (なし)

外側に軌道のある惑星(外惑星)の離角は理論的には0度~180度の値をとりうる。最大離角という言葉は、内惑星にのみ用いる。

合・衝・矩・留と最大離角

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惑星と太陽が同じ方向にあるときを(ごう)と言うが、こちらは地心視黄経が等しくなる瞬間であり[1]、必ずしも離角が0度とは限らず(地心視黄緯が等しくないこともあるため)、また地心視黄経が等しいときに離角が最小とも限らない。太陽と惑星が反対の方向にあるときを(しょう)と言うが、こちらも地心視黄経の差が180度になる瞬間であって[1]、離角が180度とは限らないので注意が必要である。同様に、(く)も、地心視黄経の差が90度・270度になる瞬間(東矩(とうく)・西矩(せいく))であるから[1]、内惑星から見て外惑星が東矩のときに同時に、外惑星からみて内惑星が西方最大離角であるとは限らない(前者が地心視黄経の差で定義するのに対し、後者が地心真角距離で定義するため)。国立天文台『こよみ用語解説』[1]によると、惑星の運行や相対位置を表す用語では、「」は地心視赤経で、「」「」「矩」は地心視黄経度で、「最大離角」は地心真角距離で定義されているので注意が必要である[2]

  1. ^ a b c d e 国立天文台 暦計算室『こよみ用語解説』惑星現象
  2. ^ 一方、『天文年鑑』では、観測に都合の良いよう「合」「衝」「矩」「最大離角」は赤道座標系を使っており、「合」は赤経差が0時間(0°)、「衝」は赤経差が12時間(180°)、「矩」は赤経差が6時間(90°)、「最大離角」は内惑星と太陽の赤経差が極大となる時の離角としている(離角そのものの極大時の離角ではない)。軌道傾斜角の大きい天体では、赤経の合・衝の時刻は黄経の合・衝の時刻と数日の差が生じることがある。