曽良ちゃん命名事件
曽良ちゃん命名事件(そらちゃんめいめいじけん)とは戸籍法施行規則にない漢字を人名漢字に使用しようとして拒否されたことで起こった訴訟。
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 市町村長の処分不服申立審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 |
事件番号 | 平成15(許)37 |
2003年(平成15年)12月25日 | |
判例集 | 民集第57巻11号2562頁 |
裁判要旨 | |
1 戸籍法施行規則60条に定める文字以外の文字を用いて子の名を記載したことを理由とする市町村長の出生届の不受理処分に対する不服申立て事件において、家庭裁判所は、審判手続に提出された資料、公知の事実等に照らし、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときには、当該市町村長に対し、当該出生届の受理を命ずることができる。 2 戸籍法施行規則60条に定める文字以外の文字である「曽」の字は、社会通念上明らかに常用平易な文字であり、子の名に用いることができる。 | |
第三小法廷 | |
裁判長 | 藤田宙靖 |
陪席裁判官 | 金谷利廣、濱田邦夫、上田豊三 |
意見 | |
多数意見 | 全会一致 |
反対意見 | なし |
参照法条 | |
戸籍法50条,戸籍法118条,戸籍法施行規則60条,戸籍法施行規則別表第二,特別家事審判規則15条 |
概要
編集2002年11月に札幌市厚別区の行政書士の男性は、妻が長男を出産した際、松尾芭蕉の弟子の河合曽良から名前を取って長男の名前を「曽良」とする出生届を厚別区役所に提出したが、戸籍法施行規則に規定された人名漢字に「曽」がないことを指摘されたため、名前を未定としたまま提出し、その後で再び「曽良」とする届けを出したが不受理となった[1][2]。それを受けて、同年12月に男性は札幌家裁に家事審判を申し立てた[1]。戸籍法第50条第1項は「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」と規定し、具体的な文字の範囲は法務省が専門家の意見を聞くなどの手続を経て戸籍法施行規則で定めているが、当時の戸籍法施行規則では常用漢字(1945字)と人名用漢字(285字)に限定されており、「曽」は含まれていなかった[3][4]。
2003年2月27日に札幌家裁は「曽」の使用を認めた上で厚別区長に対して出生届を受理するよう命じる判決を言い渡した[1]。厚別区側が抗告したが、同年6月18日に札幌高裁は、「『曽』の字が古くから用いられている」「中曽根や曽我、曽根などの名字や河川名の木曽川は広く国民に知られている」「国内に『曽』の字を含む地名が300以上ある」等を指摘した上で「『曽』は社会通念に照らして明らかに常用平易な文字で、戸籍法施行規則が列挙していないのは戸籍法の趣旨に反する」と判断して、「規則にないことを理由に届けを不受理にすることはできない」として厚別区の抗告を棄却した[3]。戸籍法施行規則にない漢字の使用を認める高裁判断は初めてとなる[3]。厚別区は最高裁に抗告した。
2003年12月25日に最高裁は「常用平易な文字であるかは社会通念に基づいて判断されるべき。『曽』は古くから使われ、名字や地名も多く、国民に広く知られている。明らかに常用平易な文字に当たる。」と判断し、「『曽』の字が使えないとしている戸籍法施行規則はその限りにおいて無効」として抗告を棄却し、「曽良」の出生届を受理すべきとする一審判決が確定した[5]。最高裁が子供の名前に戸籍法施行規則が定めていない文字の使用を認めたのは初めてとなる[6]。
2004年1月に法務省は最高裁決定を受けた措置として全国の市区町村に子どもの名前に「曽」の使用があれば受理するように通知し[7]、同年2月23日に法務省は戸籍法施行規則を改正して「曽」1字を人名用漢字に追加した。
脚注
編集- ^ a b c 「札幌家裁、区長に出生届受理命じる 曽 名前に使用異例のOK 人名漢字拡大に先取り?」『北海道新聞』北海道新聞社、2003年3月8日。
- ^ 「親心が増やす?人名漢字 法務省、リスト作成中 法制審が検討へ」『読売新聞』読売新聞社、2003年3月8日。
- ^ a b c 「子どもの名前、「曽」の使用認める――札幌高裁、区長側の抗告棄却。」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2003年6月23日。
- ^ 「名前に「曽」の字 札幌高裁も認定 札幌市厚別区の抗告棄却」『北海道新聞』北海道新聞社、2003年6月23日。
- ^ 「最高裁 名前に「曽」使用可 「平易な文字に当たる」」『毎日新聞』毎日新聞社、2008年12月26日。
- ^ 「名前に「曽」使用可――最高裁、省令外だが「常用平易」。」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2008年12月26日。
- ^ 「人名に「曽」使用OK 法務省 最高裁決定受け」『中国新聞』中国新聞社、2009年1月9日。