筆順
概説
編集日本では1958年(昭和33年)に文部省(当時)から「筆順指導の手びき」が示された[1]。この「筆順指導の手びき」(1958年(昭和33年)文部省編)は教育漢字881字[2]について学習指導上に混乱を来たすことのないよう筆順をできるだけ統一する目的をもって作成された[1]。
ただし、漢字の筆順は1字につき1つとは限らず、広く用いられる筆順が2つ以上ある漢字や、時代または国によっても差異が見られるなど、筆順に明確なルールがあるわけではない。
文部省の「手びき」にも、
本書に示される筆順は、学習指導上に混乱を来たさないようにとの配慮から定められたものであって、そのことは、ここに取りあげなかった筆順についても、これを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない。 — 「筆順指導の手びき」(1958年(昭和33年))「1.本書のねらい」より
本書に取りあげた筆順は、学習指導上の観点から、一つの文字については一つの形に統一されているが、このことは本書に掲げられた以外の筆順で、従来行われてきたものを誤りとするものではない。 — 「筆順指導の手びき」(1958年(昭和33年))「5.本書使用上の留意点」より
と明示しており、したがって、これをもって唯一正しい筆順と根拠づけることはできないものとされる[1]。
「手びき」には「広く用いられる筆順が、2つ以上あるもの」として、「上」「点」「店」「取」「最」「職」「厳」「必」「発」「登」「感」「盛」「馬」「無」「興」が例示されている。もちろん、これらは例であって、このほかにも2つ以上筆順がある漢字は少なくない。
また、行書で漢字を書く際には筆順が異なることがある[3]。現行の義務教育諸学校教科用図書検定基準には、書写の教科書について「漢字の筆順は、原則として一般に通用している常識的なものによっており、行書で筆順が異なる字については、適切な説明を加えていること」とあり、「手びき」に準拠することを求めていない。
筆順の原則
編集「筆順指導の手びき」(1958年(昭和33年))の「4.本書の筆順の原則」から、抜粋・編集した。
- 大原則1……上から下へ
- 大原則2……左から右へ
- 原則1……横画が先
- 原則2……横画が後(原則1の例外)
- 横画と縦画とが交差したときは、次の場合[4]に限って、横画を後に書く。
- 田
- 田の発展したもの
- 王
- 王の発展したもの
- 原則3……中が先
- 原則4……外側が先
- 原則5……左払いが先
- 原則6……貫く縦画は最後
- 原則7……貫く横画は最後
- 原則8……横画と左払い
- 原則では説明できないもの
- 繞(にょう)には、先に書く繞と、後に書く繞とがある。
- 繞を先に書く……処、起、勉、題など
- 繞を後に書く……近、建、直など
- 先に書く左払いと、後に書く左払いとがある。
- 左払いを先に書く……九、皮、成、及など
- 左払いを後に書く……力、刀、原、反など
内外地域差
編集日本と同様に言語表記に漢字を用いる中国や台湾では筆順にそれぞれ基準があり、学校教育で日本とは異なる筆順が指導されているものもある。日本と中国とで標準的な筆順が異なる字として「右」などがある[1]。
「戈」の例
日本・中国・韓国・香港・マカオの筆順(払いを先に書く) | |
台湾の筆順(点を先に書く) |
「玉」の例
日本の筆順(真ん中の縦画を先に書く) | |
中国・台湾・香港・マカオの筆順(真ん中の横画を先に書く) |
「有」の例
日本の筆順(払いを先に書く) | |
中国・台湾・香港・マカオの筆順(横画を先に書く) |
「飛」の例
日本の筆順(真ん中の縦画を先に書く) | |
中国・台湾・香港・マカオの筆順(真ん中の縦画を最後に書く) |
同じ国・地域でも書家がそれぞれ独自の筆順で書くこともある[5]。
「必」の例
欧陽詢、王羲之、柳公権など | |
蘇軾、顔真卿、王献之など(日本の『筆順指導の手びき』でとった筆順だが、他の筆順を否定するものではない) | |
智永、張旭など | |
中国・台湾・香港の学校で教えている筆順(「心」を書いた後にはらい) | |
中国の別の書き方 |
また、中国政府は1997年に一部の漢字の筆順を調整したことがあったから[6]、改正前と改正後に初等教育を受けた世代には違いが見られる。
「方」の例
1997年以降の筆順(折れを先に書く)[7]。日本の筆順と同様 | |
1997年までの筆順(払いを先に書く)。それ以前に初等教育を受けた世代はこの筆順で書くことが多い |
脚注
編集- ^ a b c d 沖森卓也著『日本の漢字1600年の歴史』ベレ出版 p.283 2011年
- ^ 「当用漢字別表」(1948年(昭和23年)内閣告示)には教育漢字として881字が定められていた。現在は学年別漢字配当表(1006字)が用いられている。
- ^ 沖森卓也著『日本の漢字1600年の歴史』ベレ出版 p.284 2011年
- ^ 「筆順指導の手びき」によれば、「田」「王」とそれぞれの発展したものが該当する。実際には「至」も原則2が適用できるが、「手びき」はこれを採っていない。
- ^ 网易 (2020年12月2日). “王羲之等大书法家写“必”字的笔顺竟有三种,你写的是哪一种?”. www.163.com. 2022年6月25日閲覧。
- ^ 据称国家语委会对个别汉字书写笔顺作调整(图)
- ^ 現代漢語通用字筆順規範
関連項目
編集外部リンク
編集- 常用國字標準字體筆順學習網 - 中華民国教育部による筆順学習サイト
- 漢字の正しい書き順(筆順)
- 漢字書き順辞典
- 漢字の書き順ナビ
- 漢字の正しい書き順 - kanji.me