怒りの攻撃ツォルンハウドイツ語: Zornhau)は、中世ドイツの伝説的剣術師範ヨハン・リーヒテナウエルの流派における、両手剣で使用する五種の基本的な防御技法の一つ。

リーヒテナウエルの流派

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左側の剣士が〈怒りの攻撃〉で相手の〈上からの攻撃〉を制し、顔面に切っ先を突き付けている。イラスト写本『ゴリアテの剣術書』 (MS Germ.Quart.2020) より。

リーヒテナウエルの流派は、両手剣[注 1]同士での戦いで用いる5種の基本的な防御技法を伝えていた。これらの技法のうち、 〈捻れの攻撃〉〈斜めの攻撃〉〈垂直の攻撃〉〈斜視の攻撃〉はそれぞれ〈牛の構え〉〈天の構え〉〈犂の構え〉〈柳の構え〉という構えを敵が取った場合の対抗手段であるが[1]、この〈怒りの攻撃〉は敵が〈上からの攻撃〉 (oberhau) を仕掛けてきた際に行うものである。写本3227a (Nürnberger Handschrift GNM 3227a) に書き込まれた注釈によると、この〈怒りの攻撃〉そのものもまた〈上からの攻撃〉の一種である。

ヴィールシン(Martin Wierschin)の用語集では〈怒りの攻撃〉は「上からの攻撃。左右の肩越しに、体全体の力を用いて相手に一直線に実施する攻撃。」と定義されている[1]

マルクス兄弟団の入団試験

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剣士団体マルクス兄弟団の規約は、それぞれ異なる年のものが複数現存している。写本 Cod.I.6.2º.5 が所収する同団体の規約の内の一つ、1534年に制定され1536年に改定されたものは、他の年のものと比較して、入団試験に関して詳細な記述を行っている。これによると、入団試験には〈怒りの攻撃〉など各種の剣術の実演が含まれていたとされる。[1]

注釈

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  1. ^ 14世紀後半から15世紀前半にかけて現れた、いわゆる「ツヴァイヘンダー」であるが、当時はまだこの名で呼ばれる事はなく、単に長剣と呼ばれた[1]

参考文献

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  1. ^ a b c d 楠戸一彦『ドイツ中世後期の剣術と剣士団体』溪水社、2020年、112,122,127,163f,173f頁。