庶民院議長(英語: Speaker of the House of Commons、しょみんいんぎちょう、下院議長)は、英国議会下院である庶民院の議長である。現議長のリンジー・ホイルは、庶民院副議長歳入委員長2010年6月8日から2019年11月4日まで約9年間務め、前庶民院議長ジョン・バーコウの勇退に伴い、2019年11月4日に議長に選出された[3]

庶民院議長
the House of Commons
Speaker
庶民院のロゴ
庶民院旗
庶民院旗
現職者
リンジー・ホイル
Sir Lindsay Hoyle

就任日 2019年11月4日
組織
地位議長最高管理責任者英語版
呼称
  • 議長(非公式・議会内)
    英語: Mr Speaker
  • 閣下(英国と英連邦内)
    英語: The Right Honourable
所属機関
庁舎議長公邸(ウェストミンスター宮殿
指名12人以上庶民院議員の推薦(異なる政党に所属する3人以上の議員を含む)
任命議会選出
欠員が発生した時に選出する
任期陛下の仰せのままに
議会選出[注 1]
創設1377年
初代トーマス・ハンガーフォード英語版 (役割は以前から存在していたが、記録に残っている最初の議長)
職務代行者歳入委員会委員長英語版
俸給年間£156,676[1]
(£79,468の議員報酬を含む[2]
ウェブサイト公式ウェブサイト

概要

編集

議長は「スピーカー」(Speaker of the House)と呼ばれ、庶民院の会議を主宰し、議員の発言、議案選択権を有する。議長は会議秩序を維持する責任があり、庶民院規則に違反した議員を罰する。議事運営のほとんどを司り、金銭法案の認定権を握るなど、権限は大きいが、中立公平を貫き先例に従って慎重に行使するべきとされているため、慣例により、議長は党籍を離脱する。

かつては法服かつらをまとう慣行があったが、1992年に女性として初の議長となったベティ・ブースロイド英語版がかつらの使用をとりやめ、後継の男性議長らもかつらを着用していない。またマーティン以降は服装も簡略化されている。

新しい議長が選出された際には、複数の議員に強引に手を引かれて壇上の議長席へ向かう慣例がある[4]。これはかつて、国王を恐れず議会の意思を述べた議長が投獄されたり、国王に配慮を見せた議長が怒った議員に拉致されたりするなど、受難の歴史が多々あり、新議長は身を守るため辞退を申し出て、それでも無理やり議長席に連れていった時代があったからである。議長の身の危険がなくなってからも、慣例として当時の様子が演じられる[5]

選出

編集

政府と野党の中立公平を守るために、大臣経験者ではなくあまり政府に関わりの無かった重鎮議員が好まれる。任期は庶民院解散までであるが、総選挙後の新議会でも希望する限りは全会一致で再度選出される習わしである。したがって政権が交代したとしても議長は交代せず、また政府与党と議長の出身政党は必ずしも一致しない。総選挙の際には議長の選挙区には対立党(主に保守、労働、自由民主の主要政党)は候補を出さないなどの配慮がなされる。地域政党やミニ政党が議長の選挙区に対抗馬を立てることはあり、選挙戦が行われる事はある。

議長の引退や死去によって新たな議長を選出する際には、従来は二大政党からそれぞれ一人ずつ候補が出され、両名のうちから記名投票で選出していた。しかし2000年の選挙英語版では与野党とも党内での候補者の絞り込みが行われず、13名の候補者(そのうち1名辞退)が出馬した。その際、従来の方法に習ったため、2名の候補者から1名を選ぶ投票を11度繰り返し、他のすべての候補に勝利したマイケル・マーティン英語版が最終的に選出された。翌年に制度が改正され、2009年の選挙英語版は、全候補者を対象とする無記名投票を行い、過半数を獲得する候補が現れるまで、得票最少の候補と得票率5%未満の候補を除いて投票を繰り返す方法で行われた。出馬には12名以上の議員の推薦が必要であるが、そのうち3名以上は候補者と異なる政党に属していなければならない。また複数候補への推薦かけもちは認められない。

伝統

編集

イギリスの庶民院議長は、伝統的に、任命時に他議員にひっぱられて議長席に連れていかれる。歴史上、庶民院議長が庶民院の総意を国王に伝えるとき、イギリス国王が庶民院の意見を拒否した場合に、庶民院議長は処刑されることもあった。そのため、議長職を受けいれてもらうため、この伝統が確立された[6]

議長の一覧

編集
リンジー・ホイル
Sir Lindsay Hoyle
  労働党 57[7]
58[8]
2019年11月4日
- (現在)
[9]

関連項目

編集

脚注

編集
  1. ^ イギリス議会開会式と、欠員が生じた時。
  1. ^ Kelly, Richard (2019年3月27日). “Members' pay and expenses and ministerial salaries 2018/19”. UK Parliament. 2019年12月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月5日閲覧。
  2. ^ What is the annual salary of an MP?”. UK Parliament. 2019年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月5日閲覧。
  3. ^ “英下院議長に労働党リンジー・ホイル氏 バーコウ氏の後任”. BBC News. BBC. (2019年11月5日). https://www.bbc.com/japanese/50297890 2023年11月20日閲覧。 
  4. ^ ホイル新下院議長、引きずられて議長席に イギリス”. BBC (2019年11月5日). 2019年11月6日閲覧。
  5. ^ 前田英昭『世界の議会1イギリス』ぎょうせい、1983年。 
  6. ^ ホイル新下院議長、引きずられて議長席に イギリス”. BBCニュース (2019年11月5日). 2022年9月24日閲覧。
  7. ^ Election of Speaker”. Hansard. 2019年12月17日閲覧。
  8. ^ Election of Speaker”. Hansard. 2019年12月17日閲覧。
  9. ^ “Hoyle re-elected Commons Speaker as MPs return” (英語). BBC News. (2019年12月17日). https://www.bbc.com/news/uk-politics-50828196 2020年3月31日閲覧。