幾原邦彦

日本のアニメーション監督、小説家 (1964-)

幾原 邦彦(いくはら くにひこ、男性、1964年12月21日 - )は、日本アニメ監督音楽プロデューサー小説家漫画原作者ラジオパーソナリティ[2]日本映画監督協会会員。

いくはら くにひこ
幾原 邦彦
本名 幾原邦彦
別名義 渦薪かい
Yoshikatsu Kasai(笠井 由勝)
生年月日 (1964-12-21) 1964年12月21日(59歳)
出身地 日本の旗 日本大阪府[注 1]
血液型 A型
職業
ジャンル テレビアニメアニメ映画
活動期間 1986年 -
公式サイト IKUNI.net
主な作品
美少女戦士セーラームーンR
『美少女戦士セーラームーンS』
『美少女戦士セーラームーンSuperS』
少女革命ウテナ
輪るピングドラム
ユリ熊嵐
さらざんまい
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略歴

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人物

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  • エヴァンゲリオンシリーズ庵野秀明や『機動戦艦ナデシコ』の佐藤竜雄らと並び、1990年代の日本を代表するアニメーション監督の一人[8]。代表作としては『美少女戦士セーラームーンR』『少女革命ウテナ』『輪るピングドラム』などが挙げられる[8]
  • 学生時代、テレビ放送されていた『哀しみのベラドンナ』を偶然観て、アニメーションを意識するようになった[9]。従って、アニメーションは元から好きだった[10]
  • 影響を受けたアニメーション監督として、出崎統押井守の名を挙げている[8][11]。押井作品で一番好きな作品は、舞台劇の演出を取り入れたコメディでアバンギャルドと娯楽性を両立された『御先祖様万々歳!』とのこと[12]
  • 幾原から影響を受けたアニメ監督も細田守[13]五十嵐卓哉長濱博史[14]など数多く、脚本家の榎戸洋司[注 3]大河内一楼[注 4]などのように、幾原自身によってその才能を見出された者も少なくない[3]
  • 庵野秀明も幾原に惚れ込んだ人間のひとりであり、彼が『エヴァンゲリオン』以降、急に演劇的要素を取り入れるようになったのは幾原の助言によるものである[17]
  • 学生時代に日本を代表する劇作家のひとりである寺山修司の劇団「天井桟敷」に傾倒していたことから、同劇団の音楽担当であるJ・A・シーザーと親交があり、自作『少女革命ウテナ』にも起用している[8]
  • 母子家庭で育った。学校では同級生を軽蔑しており、「早く大人になって、早くそこから抜け出たかった」と述べている[18]。自身の作品は母も鑑賞しており『ウテナ』は「わけわからん」と言われているが、『ピングドラム』は評価されている[19]
  • プラモを作るのが好きだった。絵を描くのが得意だった。女の子にもてていた。女の子と『チュー』するよりプラモや絵を貯めることを好んだ」[18]、「学生時代は剣道部であったが、とにかく暗かった」と語っている[10]
  • グラフィックデザイナーに憧れていたが、バイトで仕事をすると個性のぶつかり合いで、その怖さにびびってしまい断念する[10]
  • 学生時代から映像を作ったりはしていたが、それを生業にするのはリアリティがなかった[20]。労働環境的にシビアだと分かっていたし、門戸が狭くて、関西にいた時に映画会社の採用試験に潜り込んだこともあったが、競争率の高さに「自分は無理だな」と思っていた[20]実写映画監督も兼任しようと思った時期もあったが、「助監督になれるまで20年かかる」と聞き、断念した[10]
  • アニメ業界に入った理由は「楽そうだったから」[10]。アニメを仕事にしたいとは大して思っていなかった[10]。大学の頃、たまたま東映動画の演出採用試験案内を見て、一回東京に行ってみたくて冷やかし半分に研修生試験を受けたところ、論文のための原稿用紙に絵を描いたりしていたのに合格した[20][18]。後で合格した理由を聞いたところ、実技試験の結果と、労働環境が過酷で皆すぐ辞めるのでいろいろなタイプの人間を採用しておく方針だったからと聞かされた[20]
  • メディアに出る際は前髪を金髪のメッシュに染め、原色を生かした服装で出演する場合が多い。これは、「作品に興味を持ってもらう為に制作する側に注目されるようにするのは不必要な方法ではない」という考えから来ている[21]。その派手なルックスから、メディアでは“アニメ界のヴィジュアル系”という冠で紹介されることがある(さいとうちほ曰く「アニメ界の小室哲哉[22]佐藤順一曰く「どうすれば目立つかということを色々考えていた人」[23])。
  • 新世紀エヴァンゲリオン』の登場人物、渚カヲルのモデルだという説がある[注 5]
  • 辻村深月の小説『ハケンアニメ!』の中心人物の一人であるアニメーション監督・王子千晴のモデルと言われ、単行本には幾原による謝辞も掲載されている[25]
  • ファンからは「イクニ」という愛称で呼ばれ、自身のホームページやブログ、ツイッターでも用いている。
  • 自身を「褒められて伸びるタイプ」と語る。
  • TVアニメ「さらざんまい」のラジオ番組「ぷれざんまい」にメインパーソナリティとして出演[26]

作風

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作品において、少女向け変身ヒロインものや学園もの、同性の友愛を描くジャンルを横断しながら、ファンタスティックかつシュールな雰囲気のなかで、哲学的なテーマを扱っている[8]。また、「百合」のような「ホモソーシャルな関係性」を現代における「システムへの抵抗」の契機として表現した草分け的存在である[8]。『魔法少女まどか☆マギカ』についても幾原の影響が論じられることがある[8]

技巧派である幾原の強みは「テーマ性」と「映像表現」、そして「演出」であるが、その真髄はそこで繰り広げられる「ヒューマンドラマ」である[8]

作品は「ルーティンワークでやらない」ことを信条にしている。先人たちが長い時間をかけて作ったルールだが、そのルール内では自分が考えている作品は出来ないし、はみ出したところに「何か」があると分かっているから[20]

アニメーション監督としては、「セル画の枚数・作画の力に頼らずに面白い物を作る」ことをポリシーとしている[8][13]。その信条を元に、独特の止め絵、バンクのトリッキーな使い方・ギャグ演出などを得意とする[8][27]。師匠格にあたる佐藤順一は、「シナリオが直せないなら直せないなりの、作画が期待できないなら期待できないなりの、制作現場に対応した絵コンテを描ける人」と評している[23]

演劇にも造詣が深く、その手法を模した映像表現には定評がある[8]

象徴表現を好む作家であり、一般的な意味合いにおけるリアリティよりも抽象的な描写を選び、シリアスな出来事にも心理的なアプローチを行おうとする志向性を持つ。それゆえ、ハッタリを効かせたり、メタファーメタフィクションを多用したりしがちである[8]。現実世界における物理法則や外的必然性ではなく、作品世界における内的必然性に従って描こうとする傾向があり、意図の読み難い演出や現実と時系列順的にはありえないような不自然な展開が多い。これは、「リアリズムよりも抽象化された画面の方がテーマが伝わる」[19]、「シリアスな出来事を、ありのままに描くのはつまらない」[28]と考えているからである。

難解な作風は意識的ではなく、「自分が見ていて良いと思うものにカメラを向け、ピュアでいようとしたら自然にそうなった」「描写の対象には、普段みんながわかっているのに語らない部分、見て見ぬふりをするものを選んでいる」と語る[29]

敵役を描く上では、そのキャラクターに「プライベートな生活感がある、一種の人間臭さ」を出すように気を使っている。作品を見ている視聴者が「主人公と戦っていない時は、たぶんこんなことをやっている」と簡単に想像できる程の背景を描く様に心がけている[30]

作品の登場人物の名前に、ある程度の縛りを設ける事が多い[注 6]

作品

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テレビアニメ

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劇場版アニメ

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舞台

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  • 少女革命ウテナ『絶対進化革命前夜』(1997年) - ボーカル
  • 少女革命ウテナ『バーチャルスター発生学』(1997年) - ボーカル
  • 少女革命ウテナ『体内時計都市オルロイ』(1998年) - ボーカル
  • 少女革命ウテナ『麗人ニルヴァーナ来駕 ボクのアンドロギュヌス』(1999年) - ボーカル
  • 川上とも子ファーストアルバム『ADOLESCENCE DOLL』(1999年) - プロデュース
  • Schell:Bullet『サナフス68』(2000年) - プロデュース、ボイスナレーション
  • 少女革命ウテナ『少女革命ウテナ コンプリートCD-BOX』(2008年) - スーパーバイザー
  • 輪るピングドラム vol.8 特典ドラマCD(2012年) - 貝国人
  • さらざんまい挿入歌(2019年) - 作詞
    • 『さらざんまいのうた』『カワウソイヤァ』『ふたりの箱は届かない』『トオイ・マネー』『僕はリコーダー』

出版物

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小説

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  • 『シェルブリット』 - 幾原邦彦・永野護(共著)
  • ノケモノと花嫁』 幾原邦彦
    • KERA」2006年2月号から2007年9月号まで連載(未単行本化)。
  • 『輪るピングドラム』(幻冬舎コミックス、2011-2012年、上・中・下巻) - 幾原邦彦・高橋慶(共著)
  • 『ユリ熊嵐』(幻冬舎コミックス、2015年、上・下巻) - 幾原邦彦・伊神貴世・高橋慶(共著)
  • 『さらざんまい』(幻冬舎コミックス、2019年、上・下巻) - 幾原邦彦・内海照子(共著)

漫画

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  • ノケモノと花嫁 THE MANGA』 - 幾原邦彦(原作)、中村明日美子(作画)
    • ノケモノと花嫁 THE MANGA(幻冬舎コミックス、2009-2020年、全8巻)
    • ノケモノと花嫁 完全版(バーズコミックス スペシャル、2022年、全4巻)
  • 『ユリ熊嵐』コミカライズ(バーズコミックス、2014-2016年、全3巻) - イクニゴマキナコ(原作)、森島明子(作画)
  • 『輪るピングドラム』コミカライズ(バーズコミックス、2014-2017年、全5巻) - イクニチャウダー(原作)、柴田五十鈴(作画)
  • レオとマブ 〜ふたりはさらざんまい〜(幻冬舎コミックス、2018-2019年、全1巻) - イクニゴラッパー(原作)、斎藤岬(作画)
  • 『さらざんまい』コミカライズ(幻冬舎コミックス、2020年-) - イクニゴラッパー(原作)、ミギー(作画)

アートブック

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  • 『でんぱ組.incアートブックコレクション 相沢梨紗×四方あゆみ キラキラって輝く星はどこにあるの』(小学館、2017年) - 相沢梨紗(モデル)、四方あゆみ(アートディレクション・撮影)、幾原邦彦(作・構成)
  • 『幾原邦彦と運命の子供たち』(幻冬舎コミックス、2022年12月27日)

関連人物

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脚注

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注釈

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  1. ^ 徳島県小松島市出身とされることもあるが、本人はTwitterで、「いえ、僕は大阪出身なんです。徳島には実家がありますが僕は住んだことないのです」とコメントしている[1]
  2. ^ しかし、実際にはその後も永野護との共著「シェルブリット」やさいとうちほの漫画「SとMの世界」にクレジットされていた。
  3. ^ 高校時代からの友人。幾原の紹介によりアマチュアから脚本家への道を開いた[15]
  4. ^ アニメへの関わりを持った最初が幾原との仕事である[16]
  5. ^ この件について本人がインタビューを受けている[24]
  6. ^ 美少女戦士セーラームーンシリーズ』では太陽系の惑星、鉱物、自然、『少女革命ウテナ』では植物、『輪るピングドラム』では銀河鉄道の夜南極物語、『ノケモノと花嫁』では動物に関連した名前を付けている(ただし、『美少女戦士セーラームーン』に関しては大半が原作由来のものや偶然によるものであり、オリジナルの敵に向けた場合が多い)。
  7. ^ 11話はカサヰケンイチと共同。

出典

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  1. ^ Twitterより
  2. ^ "アニメさらざんまい ラジオ番組「ぷれざんまい」 第01回". A&G TRIBAL RADIO エジソン. 2019年1月5日. 文化放送
  3. ^ a b c d e f はるしにゃんの幾原邦彦論 Vol.1 少女的理想と現実の狭間にゃん (2)”. KAI-YOU.net. 株式会社カイユウ (2015年3月2日). 2022年11月19日閲覧。
  4. ^ 幾原邦彦『少女革命ウテナ L’Apocalypse:1』(ライナーノーツ)(ブックレット)キングレコード、1998年(原著1997年)。 
  5. ^ ヒーローは殺人鬼?」より。
  6. ^ 「少女革命ウテナ」放送開始20周年を記念し、Blu-rayBOXが発売決定!”. アキバ総研. カカクコム (2017年10月19日). 2022年11月19日閲覧。
  7. ^ a b c IKUNI.net - Profile”. ikuni.net. 2023年2月7日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l はるしにゃんの幾原邦彦論 Vol.1 少女的理想と現実の狭間にゃん (1)”. KAI-YOU.net. 株式会社カイユウ (2015年3月2日). 2022年11月19日閲覧。
  9. ^ 「月刊「アニメージュ」インタビュー、月刊「Newtype」のクリエーターの好きなアニメランキングよりコメント。
  10. ^ a b c d e f 『Voice animage vol.27』、徳間書店、1999年。 
  11. ^ 「輪るピングドラム 久々のオリジナル新作! 鬼才・幾原邦彦監督の仕事を大研究」『オトナアニメVol.27』、洋泉社、2011年7月8日。 
  12. ^ 『押井守全仕事 『うる星やつら』から『アヴァロン』まで』キネマ旬報社〈キネ旬ムック〉、2001年1月1日。 
  13. ^ a b 「特集 細田守 - 『時をかける少女』を作った男」『フリースタイル VOL.7』、フリースタイル、2007年6月30日。 
  14. ^ 『Newtype 2005年5月号』、角川書店、2005年5月1日。 
  15. ^ 「アニメージュ」インタビューより。
  16. ^ 「Newtype」 2008年8月号 『コードギアス 反逆のルルーシュ』オフィシャルブログより。
  17. ^ 庵野秀明『庵野秀明のフタリシバイ―孤掌鳴難』徳間書店、2001年7月1日。 
  18. ^ a b c Newtype mk. Ⅱ』、角川書店、1997年。 
  19. ^ a b 「アニメ「輪るピングドラム」幾原邦彦」『季刊 S 2011年10月号 (36号)』、飛鳥新社、2011年9月15日。 
  20. ^ a b c d e 『ピンドラ』幾原監督「繊細な部分と同時に鈍感力が必要」 痛恨の会社員時代を振り返る”. ananweb. マガジンハウス (2022年5月21日). 2022年11月19日閲覧。
  21. ^ 「幾原邦彦は今」『Newtype 2000年8月号』、角川書店、2000年8月1日。 
  22. ^ 『少女革命ウテナ 第3巻』小学館フラワーコミックス〉、1997年9月1日。 
  23. ^ a b 「OTONA ANIME Director's File "アニメ屋"稼業30年 佐藤順一の世界」『オトナアニメVol.32』、洋泉社、2013年11月27日。 
  24. ^ 『ALL ABOUT 渚カヲル A CHILD OF THE EVANGELION』KADOKAWA、2008年10月25日。 
  25. ^ 映画『ハケンアニメ!』原作 辻村深月インタビュー アニメ監督が託す葛藤とは”. KAI-YOU.net. 株式会社カイユウ (2022年5月14日). 2022年11月19日閲覧。
  26. ^ ラジオ番組「ぷれざんまい」出演者:諏訪部順一(ケッピ役)、幾原邦彦(監督)”. さらざんまい公式サイト. 2022年11月19日閲覧。
  27. ^ "「美少女戦士セーラームーン」(メインゲスト:佐藤順一)". 創ったヒト. 2010年2月13日. アニマックス
  28. ^ 「輪るピングドラム」『Newtype 2011年10月号』、角川書店、2011年9月10日。 
  29. ^ "『輪るピングドラム』と大まぐねったーin早稲田祭". MAG・ネット 〜マンガ・アニメ・ゲームのゲンバ〜. 2011年12月3日. NHK
  30. ^ 「敵か、味方か新戦士登場! 天王星(ウラヌス)と海王星(ネプチューン)には謎がいっぱい」『アニメージュ 1994年5月号』、徳間書店、1994年5月1日、38頁。 
  31. ^ Lynzee Loveridge (2019年5月15日). “Utena, Sarazanmai's Ikuhara Likely Directed TMNT Episode” (英語). Anime News Network. 2022年11月19日閲覧。
  32. ^ Twitterより
  33. ^ 「イクニのメルとも蔵」 2008年3月10日分より。クレジット未表記。
  34. ^ STAFF/CAST”. 劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM』公式サイト. 2022年11月19日閲覧。

外部リンク

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