巨大知
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巨大知(きょだいち、英: Organic Intelligence)とは、環境を観測するセンサーや各種コンテンツ配信システムがインターネットへ接続され、地球全体で情報が統合処理される結果として成立する地球規模の知性である。端的には、地球全体を覆うコラボレーション関係の成立とも説明できる。
概要
編集楽天技術研究所が2007年に提唱を開始したサード・リアリティという概念を説明する文章の中で、都市や国家単位の規模で成立する集合知同士がインターネットで相互接続され、統合して処理が行えるようになる結果として、地球全体として成立しつつある知性として巨大知が説明されている。
環境を観測するセンサーや各種コンテンツ配信システムのインターネットへの接続により、産業、医療、気象、交通、農業、芸術作品等の様々な情報がインターネット上に蓄積され、不特定多数の人間により改変が行われることで、人類が得た多様な知識が地球全体で統合処理されるようになる結果として、地球全体を覆う程に巨大かつ高度な知性が成立する。この巨大知の成立の結果として、従来は思い付けなかったような新しい発想が生まれやすくなり、文明の進歩も大幅に加速されることになる。
歴史
編集1990年代: 前史
編集1990年代前半にインターネットが民間に開放され、全世界的にインターネットの民間への普及が始まった。しかし、当時唯一のインターネット接続端末であったパソコンは性能が低く、極めて高価であり、普及率もそこまで高くはなかった。1990年代後半は、一般家庭においてはダイヤルアップ接続を介したインターネットの利用が主流であった。アナログの音声信号を伝達する電話回線を転用した56kbps程度の帯域の回線が主流であり、従量制で課金され、サーバからのデータ取得においても長時間待つ必要があった。企業や団体のWebサイト閲覧や電子掲示板の利用や電子メール送受信が主たる利用方法であり、不特定多数の個人間では電子掲示板やネットニュースやチャットのような、知識として統合されない簡易的なメッセージ共有のみが行われていた。従って、典型的な巨大知と言えるWikiの長時間の編集には高額な接続料金が掛かり、芸術的な文化の発展を支えるマルチメディアコンテンツは、インターネット接続端末の処理能力とストレージの容量と回線の帯域の制約が厳しく、作成,集積,流通,消費共に難しい状況であったと言える。このことから、1990年代のインターネットでは巨大知は成立していなかったと推測できる。
2000年代: 成立
編集2000年代前半に高速回線によるインターネットへの常時接続サービスが一般家庭にも広く普及した。2004年には個人が世界中に向けて情報発信を行う事が可能になった事を受けて、Web 2.0という概念も提唱された。2005年から2006年に掛けてYouTubeを筆頭とする動画配信サイトやTwitterやfacebook等の大手SNSもサービスを開始した。これにより、2006年以降はインターネット上で非常に活発なコミュニケーションが行われるようになった。従って、遅くとも2006年にはインターネット上で巨大知が成立する条件が揃ったと考えられる。2006年以降は、都市や国家単位で得られる情報の統合処理では不可能であったような非常に高度な水準の知識が入手可能になっている。2008年頃から本格的に始まったスマートフォンの普及により、個人の認識や行動に関する情報のインターネットへのアップロードが大規模に行われるようになった。
社会構造の変化
編集2000年代中頃に起きた巨大知の成立は、社会構造に非常に大きな変化をもたらした。この変化により、1990年代の段階では全く想像出来ない程に、人々の生活様式も大きく変化して行った。例えば、Wikiの登場により、膨大な数の人間により広範な分野の知識がインターネット上にアップロードされ、集約された形で共有されるようになった。また、ソフトウェアのソースコードを世界中に開示して開発を進めることで、インターネットを介して膨大な数の人間がソフトウェア開発に参加することが可能になり、従来から存在する商用製品を置き換え可能なほどに高性能なソフトウェアが無償で提供されるようになった。さらに、音楽や映画と言った芸術においても、国籍や分野を問わず他者の作品に影響を受けて新たな創作が行われる創作の連鎖が毎日のように起こるようになった。毎日のようにコンテンツがアップロードされ、瞬時に世界中に共有されるようになったため、次々と新しいアイデアが生まれ、流行の激しい変化も起きるようになった。インターネットによって遠隔地とのコミュニケーションが容易になったため、現実世界において専門分野や居住地の垣根を超えて様々な人々が集うコミュニティが容易に形成されるようになった。特に、共通の志を持つ仲間を募ることが気軽に出来るようになったため、様々なテーマを持った勉強会の開催数やシェアハウスの件数が急激に増加している。
2010年代以降: 高度化
編集2010年以降は、急激に向上した計算機の性能を活かし、インターネット上に蓄積されたビッグデータの解析により様々な知識の抽出を行うことが一般化した。その知識を利用して、学術研究やビジネスを行うことが可能になった。例えば、Twitterのビッグデータのトレンドがテレビ番組で頻繁に紹介されるようになった。また、ビッグデータを利用して、人工知能の研究が盛んに行われるようになった。
巨大知の成立から10年程度経過した2015年以降も、インターネット上への知識の蓄積と通信速度の向上に伴い、巨大知の更なる高度化が進行中である。2010年代中盤においてはIoTの普及が進行している。インターネットを対象とする研究者らは、今後はセンサーにより収集された実世界に関する精緻な情報をインターネット上で統合処理できるようになると予測している。
動作機構
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その動作機構は簡単な統計モデルで説明できる。
参考文献
編集- 西垣通著『集合知とは何か -ネット時代の「知」のゆくえ-』(中公新書,2013年) ISBN 978-4-12-102203-5
- 西垣通著『生命と機械をつなぐ知 基礎情報学入門』(高陵社書店,2012年) ISBN 978-4-7711-0995-7
- 西垣通著『情報学的転回 - IT社会のゆくえ』(春秋社,2005年) ISBN 4-393-33242-3
- 森正弥著『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社,2010年) ISBN 978-4-7650-1058-0
- 日経BP社出版局編『クラウド大全 The Complete Cloud Computing <サービス詳細から基盤技術まで>』(日経BP社,2009年) ISBN 978-4-8222-8388-9
- サード・リアリティ解説 (2008年9月1日)
- サード・リアリティ講演資料 (2007年11月13日)