嫦娥5号
嫦娥5号(じょうが5ごう)は、嫦娥計画第三段階の月探査機で、計画第三段階に実施するサンプルリターンを任務とする[3]。嫦娥5号は海南省の文昌衛星発射場から発射され、月面で自動的にサンプルを採取して月から戻るミッションである[4][5]。
嫦娥5号 | |
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嫦娥5号の発射 | |
所属 | 中国国家航天局(CNSA) |
任務 | サンプルリターン |
軌道投入日 | 2020年11月28日晩 (CST)[1] |
打上げ日時 | 2020年11月24日午前5時半(JST)[2] |
打上げ機 | 長征5号 |
打上げ場所 | 文昌衛星発射場 |
任務期間 | 約1か月 |
帰還 |
2020年12月16日午後5時59分 (UTC) カプセル帰還 |
質量 | 8,200キログラム (18,100 lb) |
電池 | ソーラーパネル、リチウム電池、同位体熱源(保温専用) |
月面着陸 | |
着陸日 | 2020年12月1日 |
着陸地点 | リュムケル山付近 |
離陸 | 2020年12月3日 |
概要
編集嫦娥5号は、中国の宇宙開発史上最初となる試みを、以下の4点で実現させる狙いがある[6]。
- 月面自動サンプリング
- 月面離陸
- 38万km以上離れた月周回軌道上での無人ドッキング
- 第二宇宙速度まで加速して月の土壌サンプルとともに地球に帰還
嫦娥5号は、軌道船と帰還船、離陸船と着陸船から構成される。設計された2種類のサンプリング機構を搭載し、サンプルの種類を増やしている。一つは鏨を打ち込んで比較用の深層土壌を採取する。もう一つはロボットアームで有効範囲内をかき取って月の土壌を収集する。二つのサンプルの比率は1:3(すなわち約0.5kgと約1.5kg[7])で、表面で収集するサンプルの方が多い。採取後、離陸船はサンプルを搭載して月面の着陸船上から上昇し、軌道船とドッキング後に土壌サンプルを帰還船に移動させる[8]。月面でのサンプル採取ののち、最終的に帰還機は2020年12月17日に内モンゴル自治区の草原地帯へ帰還に成功した[9]。
発射に至るまで
編集2019年春までの時点では2019年末発射予定とされていた[10][11]が、2019年10月に2020年となることが報じられた[12][13]。2020年9月に開かれた中国宇宙大会で、月探査プロジェクトの副チーフデザイナーが「年内に」打ち上げられると発表した[14]。2020年11月24日、文昌衛星発射場より打ち上げられ、軌道への投入に成功した[2]。
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発射
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打ち上げ後の経過
編集- 2020年
- 11月24日 22時06分(CST) - 1回目の軌道修正[15]。
- 11月25日 22時06分(CST) - 2回目の軌道修正[15]。
- 11月28日 20時58分(CST) - 3回目の軌道修正(楕円月周回軌道に投入)[16]。
- 11月29日 20時23分(CST) - 4回目の軌道修正(近円形月周回軌道に変更) [17]。
- 11月30日 [18]。 4時40分(CST) - 着陸モジュール・上昇モジュール結合体と軌道モジュール・帰還モジュール結合体を分離
- 12月月面軟着陸[19]。 1日 23時11分(CST) -
- 12月[20]。 2日 4時53分(CST) - サンプル採取開始
- 12月[21] 2日 22時(CST) - サンプル密封完了
- 12月[22]。 3日 23時10分(CST) - 上昇機が月面離陸
- 12月[23]。 6日 5時42分(CST) - 中国初の、月軌道上でのドッキングに成功
- 12月[23]。 6日 6時12分(CST) - サンプル容器を上昇機から帰還機に移す
- 12月[24]。 6日 12時35分(CST) - 上昇機を分離
- 12月[25]。 8日 6時59分(CST) - 上昇機の制御落下を開始
- 12月[25]。 8日 7時30分(CST)頃 - 上昇機が月面に制御落下
- 12月12日 午前(CST) - 復路1回目の軌道変更[26]。
- 12月13日 [27]。 9時51分(CST) - 復路2回目の軌道変更を完了し、地球への遷移軌道に移行
- 12月13日 11時13分(CST) - 復路の遷移軌道における1回目の軌道修正[28]。
- 12月16日 [29][30]。 9時15分(CST) - 復路の遷移軌道における2回目の軌道修正
- 12月17日 [31][32]。 1時59分(CST) - 帰還機は地球に着陸した
- 12月19日 - 合計1731gのサンプルが確認されたことを発表し、サンプルが研究者に引き渡された[7]。
科学的目標
編集着陸地点周辺の月面地形観測と地質の実地調査をおこない、サンプルから取得された現地での分析データと、研究室での解析データとの関係を調査する。主要なものは以下の通り。
- 着陸地点周辺の地形調査
- サンプル地点周辺の地形と構造の特徴
- クレーターの形や大きさ、分布等
- 物質成分の調査
- サンプル地点の物質成分の特徴
- 月の土壌の物理特性と構造
- 浅い地殻層の温度勾配調査
地球に持ち帰る月のサンプルは、長期間にわたる研究室での測定(物理的特性と物質構造、鉱物と化学的組成、微量の元素や同位体の組成、月の石が形成・変化する過程での同位体年齢など)を通じて体系化され、宇宙放射や太陽風イオンと月の相互作用、風化と環境による変化の過程など、月の成因と変化の歴史に対する研究を深める。
搭載機器
編集着陸用カメラ、光学カメラ、鉱物スペクトル分析器、土壌気体分析器、土壌構造探測計、サンプリング切断面温度測定計、岩石ボーリング機ならびにサンプリングマシン
着陸地点
編集中国科学院学士会員で嫦娥計画の主任科学者である欧陽自遠は、2019年に、着陸地点は月の表側で、搭載したコンピュータにより確定すると述べた[33]
結果として着陸した地点は嵐の大洋にあるリュムケル山付近の台地で、これまで米ソが回収した月の石よりも比較的新しい年代にできた場所である可能性から科学的意義が期待された[34]。得られた試料を解析した結果、実際にアポロ計画で得られたものよりも新しい年代の岩石だったとみられることが2021年10月に発表されている[35]。
技術的成果
編集嫦娥5号のサンプルリターン成功で、中国はアメリカ、ソ連に次いで月面の岩石などの回収に成功した3番目の国となった[9]。中国は、嫦娥5号を通じて5つの中国初を達成したと報道された[36]。
- 地球外天体での試料採取と密封保存。
- 地球外天体における点火・離陸、正確な軌道投入。
- 月周回軌道における自動ドッキング、試料の移動。
- 月試料を携え第2宇宙速度に近い速度での再突入・帰還。
- 中国の月試料の保存、分析、研究システムの構築。
写真
編集
はやぶさ2との比較
編集嫦娥5号のミッションはちょうど日本の小惑星サンプルリターン機はやぶさ2の帰還時期と重なっていたため、しばしばメディアでは両機を比較する報道も見られた。月と小惑星では難易度の方向性が異なるため一概には比較できないとしながらも、中国メディアは日本の惑星探査には米国の影響がある点などを指摘して中国の独自技術の優位性などを強調した。その一方で嫦娥5号の採取した試料が計画よりも少なかった点は計画以上の成功が得られたはやぶさ2とは対照的であり、日本の技術力の高さも認めている[37][38][39]。
参考文献
編集- ^ “嫦娥五号已顺利进入环月轨道”. Zaobao (2020年11月29日). 2020年11月29日閲覧。
- ^ a b 濱野祐司 (2020年11月24日). “中国、無人月面探査機打ち上げ成功”. TBS NEWS. 2020年11月24日閲覧。
- ^ 張巧玲 (2011年12月9日). “欧陽自運院士描絵嫦娥工程后続藍 図” (中国語). 科学時報 2020年2月29日閲覧。
- ^ 張棉棉 (2013年3月11日). “探月工程副総設計師:嫦娥五号計画于2018年発射” (中国語). 中国新聞(中央人民広播電台からの引用) 2020年2月29日閲覧。
- ^ 韩娜 (2012年7月25日). “欧陽自運:嫦三明年発射” (中国語). 北京晨報. 2013年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月29日閲覧。
- ^ “六位“嫦娥”去探月 各司其職有不同”. 新華社. (2017年3月1日) 2020年2月29日閲覧。
- ^ a b “中国、月面サンプルリターンミッション「嫦娥5号」地球へ帰還 1731gの試料採取に成功”. sorae (2020年12月22日). 2020年12月23日閲覧。
- ^ “欧陽自運:嫦娥5号発射計画目前没有受長5失利影響”. 新浪科技 (2017年7月13日). 2020年2月29日閲覧。
- ^ a b 井上孝司「航空最新ニュース・海外装備宇宙 「嫦娥五号」回収の月試料カプセルを回収」『航空ファン』通巻819号(2021年3月号)文林堂 P.117
- ^ “嫦娥5号、年末までに月でサンプル採取へ”. Science portar China. (2019年1月15日) 2020年2月29日閲覧。
- ^ “嫦娥5号は年内発射、火星探査機は来年発射 中国”. 人民網日本語版. (2019年3月5日) 2020年2月29日閲覧。
- ^ “China to launch Chang'e-5 lunar probe in 2020” (英語) (2019年10月28日). 2020年2月29日閲覧。
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- ^ “「嫦娥5号」、年内に打ち上げへ”. 人民網. (2020年9月21日) 2020年10月3日閲覧。
- ^ a b “嫦娥5号 2回の軌道修正に成功”. 中国国際放送 (2020年11月26日). 2020年12月2日閲覧。
- ^ “月探査機「嫦娥5号」 月周回軌道に入る”. 中国国際放送 (2020年11月29日). 2020年11月30日閲覧。
- ^ “嫦娥五号探査機、近円形月周回軌道に入る”. 中国網日本語 (2020年11月30日). 2020年11月30日閲覧。
- ^ “月探査機「嫦娥5号」、結合体の切り離しに成功”. 人民網日本語版date=2020-11-30. 2020年11月30日閲覧。
- ^ 中国の無人探査機が月面着陸 嫦娥5号、土壌採取へ共同通信2020年12月2日
- ^ “「嫦娥5号」 月面で土壌サンプル採取開始”. Sputnik (2020年12月2日). 2020年12月4日閲覧。
- ^ “嫦娥5号、試料の自動採取と密封完了”. 新華社 (2020年12月3日). 2020年12月4日閲覧。
- ^ “月の土壌採取し離陸 中国探査機、地球に帰還へ”. 時事通信 (2020年12月4日). 2020年12月4日閲覧。
- ^ a b “「嫦娥5号」 中国初 月軌道でドッキングに成功”. 中国国際放送 (2020年12月6日). 2020年12月7日閲覧。
- ^ “嫦娥5号、上昇機から軌道機と帰還機が分離”. 新華社 (2020年12月7日). 2020年12月7日閲覧。
- ^ a b “月探査機「嫦娥5号」の上昇モジュール、制御を受け月に落下”. 人民網日本語版 (2020年12月9日). 2020年12月10日閲覧。
- ^ “嫦娥5号、軌道機と帰還機が最初の軌道変更 地球帰還目指す”. 新華社 (2020年12月12日). 2020年12月13日閲覧。
- ^ “嫦娥5号の軌道・帰還モジュール結合体、月から地球への遷移軌道へ”. 中国国際放送 (2020年12月14日). 2020年12月14日閲覧。
- ^ “Chang'e-5 completes first orbital correction en route to Earth” (English). Xinhua (2020年12月14日). 2020年12月17日閲覧。
- ^ “Chang'e-5 completes 2nd orbital correction en route to Earth” (English). CHINADAYLY(Xinhua) (2020年12月16日). 2020年12月17日閲覧。
- ^ “Second orbital correction for Chinese Chang'e-5” (English). AvioNews (2020年12月16日). 2020年12月17日閲覧。
- ^ 共同通信 (2020年12月16日). “中国探査機が月の試料持ち帰りに成功 | 共同通信”. 共同通信. 2020年12月17日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “月の土壌試料44年ぶり地球に 中国の無人探査機が採取し帰還”. 毎日新聞 (2020年12月17日). 2020年12月17日閲覧。
- ^ “嫦娥五号将利用 AI 確定登陸位置” (中国語). 科技行者. 2019年7月8日閲覧。
- ^ 松村武宏 (2021年10月11日). “月探査機「嫦娥5号」のサンプルから約20億年前に形成された比較的新しい火山岩を発見”. sorae 2021年11月24日閲覧。
- ^ “「嫦娥5号」任務、5つの「中国初」を達成”. 人民網 (2020年12月18日). 2020年12月23日閲覧。
- ^ “日本の「はやぶさ2」と中国の月探査ではどちらの難度が上か=中国メディア”. サーチナ (ポータルサイト)(モーニングスター (企業)) (2020年12月4日). 2020年12月23日閲覧。
- ^ “中国の探査船が月から帰ろうとしたとき、日本の探査器は3億キロ先から戻ってきた”. サーチナ (ポータルサイト)(モーニングスター (企業)) (2020年12月8日). 2020年12月23日閲覧。
- ^ “日本の技術力がここまでとは! 中国は「はやぶさ2」においしいところを持って行かれた=中国”. サーチナ (ポータルサイト)(モーニングスター (企業)) (2020年12月22日). 2020年12月23日閲覧。