姦通罪
姦通罪(かんつうざい、英: adultery, criminal conversation)とは、婚姻して配偶者のある者が、他の者と姦通することにより成立する犯罪。
概要
編集日本においては伝統的に、姦通(あるいは不義密通、不倫)は重罪とされ、公事方御定書でも両者死罪の重罪とされ、協力者もまた中追放か死罪であった。また夫は現行犯の場合には姦男と妻を殺害しても罪には問われることがなかった。アイヌの社会においても、不義密通を犯した者は見せしめとして男女ともに耳そぎ、鼻そぎ、あるいは頭髪や髭を抜き取られた。
明治期に入り、1880年7月17日に布告された旧刑法(明治13年太政官布告第36号、1882年1月1日施行)においては、その353条に規定され、1907年4月24日に公布された刑法(明治40年法律第45号。1908年10月1日施行)183条に引き継がれた。
戦前の日本における犯罪構成要件
編集姦通罪は必要的共犯として、夫のある妻と、その姦通の相手方である男性の双方に成立するものであり、夫を告訴権者とする親告罪で、女性は告訴することができなかった。また、告訴権者である夫が姦通を容認していた場合には、告訴は無効とされ罰せられないものとされた。夫が告訴するには、姦婦との婚姻を解消し、または離婚の訴を提起した後でなければならない。再婚または離婚の訴の取下は告訴の取消と見なされる。内縁の夫のある婦女が他の男子と私通しても姦通罪は成立しない。正妻のある男が他の婦女と私通しても姦通罪は成立しない。
法律 | 条数 | 条文 |
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旧刑法(明治13年太政官布告第36号) | 第353条 |
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旧刑法(明治40年法律第45号) | 第183条 |
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旧民法 | 第768条 | 姦通によって離婚または刑の宣告を受けた者は相姦者と婚姻することはできない。 |
戦後の廃止
編集第二次世界大戦後、1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法には、男女平等が定められ(第14条)、男性にとって都合の良い姦通罪は、同条に違憲となる状態となった。一部には「妻のある男性にも平等に適用するように改正すれば、憲法に違反しない」とする意見もあり[1]、当時の世論は、若者が両罰化に賛成で、年配者が姦通罪廃止に賛成という意見だったが[2]、同年10月26日の刑法改正によって、刑事罰としての姦通罪は廃止された。
他の地域の状況
編集アメリカ合衆国
編集東部、南部を中心に21州において、姦通は犯罪とされている。またアメリカ軍においても、潜在的な軍規違反行為とされており、軍事裁判の対象となっている。
大韓民国
編集大韓民国においては、1905年の大韓帝国時代から姦通罪が法制化され、1953年成立の刑法241条で、2年以下の懲役刑が制定されていたが、2015年2月26日に憲法裁判所で、裁判官9人のうち7人の多数決で違憲との確定判決が下された事で、即時廃止された[3][4][5]。
この判決により、2008年10月31日以降にまで遡及適用され[6]、その日以降に発生した姦通罪の罰則無効の効力が発生した[7]。韓国の憲法裁判所はこれまで、1990年・1993年・2001年・2008年10月30日の過去4回に渡り、姦通罪は大韓民国憲法と照らし合わせて『合憲』との確定判決を下していた[7]。
日本の旧規定とは異なり、配偶者のある者には、男性・女性を問わず姦通罪が適用され、両性から告訴が出来た。姦通罪を犯した者の配偶者が告訴権者となる親告罪であり、告訴権者が姦通を
また刑法罰のため、性交しなければ成立せず、男性器が膣に挿入される行為がなければ、ほかに何をしようと処罰出来ないため、自白せず容疑を頑なに否認されると、立証はとても難しかった[8]。捜査で不倫現場に警察官が踏み込み、逮捕されることがあったが[8]、違憲判決により、それが無くなった[6]。
中華民国・台湾
編集中華民国においては、姦通罪が刑法239条で定められていた(認定されると浮気相手を含めて1年以内の懲役刑を科すことができる)が、既婚男性が妻以外の女性と性的関係を持った場合、妻が浮気相手の女性だけを訴えるケースが多く、女性に不利な法律と指摘されてきた[9]。2017年5月18日の司法改革国是会議において、姦通罪の廃止を目指す決議案が全員一致で採択され[10]、それから3年後の2020年5月29日の司法院大法官会議(=憲法裁判所)において「憲法が保障する性の自主権を制限している」などとして、違憲とする憲法解釈を示した。これにより、長年続いてきた同罪は失効し、即日廃止された[11]。
フィリピン
編集カトリックが国教であるフィリピンにおいては、最高で禁固6年の犯罪にあたる。
イスラム圏
編集イスラム国家では、殆どの国家が禁止している。ハンムラビ法典で姦通は重罪とされ、イスラム法での最高刑は死刑である[12]。また、アフガニスタン・イラン・パキスタンにおいてはズィナーとされ、最高刑は石打ちによる死刑である。
アフリカ
編集脚注
編集- ^ “参議院会議録情報 第001回国会 司法委員会 第7号”. 2013年8月9日閲覧。
- ^ “韓国がようやく廃止した「姦通罪」――かつて日本にもあったが、なぜ廃止された?”. 弁護士ドットコム. (2015年3月13日) 2017年6月15日閲覧。
- ^ “韓国が姦通罪廃止 憲法裁が違憲判決” (日本語). 47NEWS (共同通信). (2015年2月26日) 2015年2月26日閲覧。
- ^ “姦通罪は違憲…62年ぶり韓国社会から消える” (日本語). 中央日報 (中央日報). (2015年2月26日) 2015年2月26日閲覧。
- ^ “男性浮気率4割の韓国、姦通罪廃止は“第2の日本になる前兆”=中国で賛否両論「韓国はモラルを失う」「中国は執行すべき」” (日本語). Record China. (2015年2月27日) 2015年9月21日閲覧。
- ^ a b ハフィントンポスト編集部 (2015年2月27日). “「姦通罪」韓国で62年ぶり廃止 もう不倫現場に警察官が踏み込まない” (日本語). ハフィントンポスト 2017年4月21日閲覧。
- ^ a b 福田 恵介 (2015年2月28日). “韓国で「姦通罪」が廃止された裏事情 あの有名女優も有罪判決を受けた過去”. 週刊東洋経済 (東洋経済新報社) 2017年4月3日閲覧。
- ^ a b クム・テソプ (2015年2月27日). “韓国の姦通罪、検事はこんなしょうもない捜査をしていた” (日本語). ハフポスト 2017年12月2日閲覧。
- ^ “台湾、姦通罪を廃止 「性の自主権制限」と違憲判断”. 時事通信社 (2020年5月29日). 2020年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月30日閲覧。
- ^ “台湾、姦通罪廃止に動く=司法改革国是会議が決議を採択”. 中央社フォーカス台湾 (2017年5月20日). 2017年5月21日閲覧。
- ^ “台湾、姦通罪を廃止 「性の自主権制限」と違憲判断”. 時事通信社 (2020年5月29日). 2020年6月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月30日閲覧。
- ^ “姦通罪女性に「石打ち」死刑判決、イランに批判” (日本語). 読売新聞. (2010年7月31日) 2010年7月31日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- Adultery - 姦通罪