大冒険』(だいぼうけん)は、ハナ肇とクレージーキャッツ結成10周年を記念して東宝渡辺プロダクションの提携により1965年昭和40年)に製作・公開した日本映画である[出典 4]。総天然色、シネマスコープ(東宝スコープ)[3][5]。同時上映は『喜劇 駅前大学[11]

大冒険
THE CRAZY ADVENTURE[1]
監督 古澤憲吾
脚本 田波靖男笠原良三
製作 藤本真澄渡辺晋
出演者 植木等谷啓
音楽 広瀬健次郎萩原哲晶[注釈 1]
主題歌 「大冒険マーチ」(ハナ肇とクレージーキャッツ
撮影 飯村正、小泉福造
編集 黒岩義民
製作会社
配給 東宝[3][4]
公開 日本の旗 1965年10月31日[出典 2]
上映時間 106分[出典 3][注釈 2]
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
配給収入 2億1851万円[10]
前作 無責任遊侠伝
次作 クレージーだよ奇想天外
テンプレートを表示

当時流行していたスパイ映画を題材に[出典 5]、クレージー映画として初めて円谷英二の特撮を取り入れた冒険活劇である[出典 6]

あらすじ

編集

世界中で専門家でも見分けが付かないほど精巧に作られた偽札が発見され、日本でも偽壱万円札が発見される[11]。国際的な陰謀団の存在がささやかれる中、警視庁は内閣の依頼で秘密裏に捜査を開始する[11]。一方、都内の某アパートに住む元体操選手で雑誌記者の植松唯人は片想いする隣人の悦子と結婚するため、彼女の兄にして元サントリー社員であるアマチュア発明家の啓介に「オール天然色複写機」を作らせ、特許を取って社長になろうとしていた[11]。しかし、その複写機のテスト中、悦子のボーイフレンドである石崎からもらった壱万円札が偽札であることを発見する。植松は早速偽札の記事を書くが、警察にはすでに指名手配されていたうえ、石崎に融資していた「森垣金融」を配下に入れる謎の組織も植松の命を狙い始めていた。こうして、三つ巴の大闘争劇が始まる。

キャスト

編集

※カメオ出演者

スタッフ

編集

参照[2][3][13]

挿入歌

編集
「遺憾に存じます」
作詞:青島幸男 / 作曲:萩原哲晶[注釈 1] / 歌:植木等
「ヘンチョコリンなヘンテコリンな娘」
作詞・作曲:ヘンリー・ドレナン / 歌:谷啓
「あなたの胸に」
作詞:安井かずみ / 作曲:宮川泰 / 歌:ザ・ピーナッツ
「討匪行」
作詞:八木沼丈夫 / 作曲:藤原義江 / 歌:ハナ肇
犬山城を訪れたハナ肇が口ずさむ。
犬山音頭
作詞:野口雨情 / 作曲:藤井清水 / 歌:植木等
「辞世の歌」
作詞・作曲:不詳 / 歌:植木等
「大冒険マーチ」
作詞:青島幸男 / 作曲:萩原哲晶[注釈 1] / 歌:クレージーキャッツ
ラストの植松と悦子の結婚式会場で歌う[15]。仲人役は渡辺晋・美佐夫妻が務めた。

製作

編集

プロデューサーの藤本真澄は、自身が目標に掲げるスタンリー・クレイマーの『おかしなおかしなおかしな世界』を参考にしたという[16]。偽札を巡る展開は、藤本が富士フイルムを見学した際に見た当時最新鋭の電子複写機から発想したものである[16]。本作品について、書籍『ゴジラ画報』では「クレージー版007[6]」、書籍『円谷英二特撮世界』では「ドタバタ版007[4]」と称している。

脚本は前半を笠原良三、後半を田波靖男が担当しており[16][11]、谷啓が突然神戸の街に登場したり、前半では上司のハナ肇に服従しゴマすり小心者刑事だった犬塚弘が、新幹線車内では一転してハナ肇を露骨に馬鹿にする言動をするなど、整合性の取れていない点が散見される[注釈 4]。元々は笠原が担当していたが、新藤兼人による原案が笠原の意に沿うものではなかったため筆が進まず、弟子の田波が急遽参加するに至った[16]。さらに監督の古澤憲吾と評論家の中原弓彦が脚本の修正を行ったが、前後の齟齬を修正することに時間がかかり、本来予定していたギャグ部分の監修はほとんど行えなかったという[16][11]

撮影は当初の予定より一月ほど遅れての開始となった[17]。このため、谷啓は主演舞台と重なって当初より出番が少なくなり、越路吹雪も大阪リサイタルの前後に撮影を振り分けての参加となった[17]

屋外ロケーションでワイヤーアクションを多用しており[12][11]、主演の植木等はアクションシーンのほとんどをスタントなしで演じている[4][17][注釈 5]。また、特技監督を円谷英二が担当してミニチュア特撮が用いられているのも特徴[8][11]。ミサイルが方向転換する場面は、アニメーションで表現された[4]

劇中の落馬は本当に起きたアクシデントで、植木は打撲を負うが精密検査で異常なしとの結果であった[17]。終盤の大島ロケでも右脚に打ち傷を負うなど、体をはった演技を行っている[17]

Uボートが浮上するシーンや日米連合艦隊が艦砲射撃をするシーンは、『潜水艦イ-57降伏せず』のシーンをモノクロのまま流用している[4][17]。このほか『太平洋奇跡の作戦 キスカ』などの映像も陰謀団のモニター画面などに断片的に流用され、基地の爆破シーンでは『青島要塞爆撃命令』の映像が流用されている[4][17]

音楽は、『クレージー作戦 くたばれ!無責任』(1963年)を手掛けた広瀬健次郎が担当した[15]

その他

編集
 
神戸の「メリケンホテル」として使われ、ラストの結婚式で中庭が使われた赤坂プリンスホテル(旧館)
 
劇中で植松が訪れた犬山城
  • 本作品の紙資料や予告編では「クレージーキャッツ結成十周年記念映画」と記されているが、オープニング・タイトルバックでは「クレージーキャッツ」の箇所が「クレージイ. キャッツ」となっている。
  • オープニング・タイトルバックのシーンは1965年当時の東京を空撮したもので、東京タワー東京港銀座四丁目交差点東京駅国立代々木競技場第一体育館・第二体育館東京国際空港などが登場する[11]。この「空撮」は当時の東宝古澤映画の恒例で、同年公開の『日本一のゴマすり男』や、前年公開の『続・若い季節』でも行っていた。
  • 植木等が走行中のバイクから転倒するシーンで、小松政夫スタントマンとして出演している。
  • 神戸と設定されるロケシーンは、ほとんどが横浜で撮影されている。山下公園マリンタワーなどの知名度が高く、一目で横浜と分かるロケポイントで撮影されている。
  • 神戸の場面で登場する「メリケンホテル」は、赤坂プリンスホテルの旧館。作中でも、別館玄関の文字が映りこんでいるのが確認できる。ラストシーンのガーデンウエディング会場も同ホテル中庭であり、かつて古澤が手掛けた『若い季節』のラストにも登場した。
  • 名古屋が舞台のロケーションでは当時の名古屋駅周辺の風景が登場し、国宝犬山城の天守閣でもロケーションが行われている。植木等のネイティヴの名古屋弁も登場。ただし、東海道新幹線名古屋駅ホームのシーンは東京駅ホームでの撮影で、車両の窓越しに丸の内駅舎が確認できる。
  • 作品中で蒸気機関車関東鉄道常総線で撮影された)や農耕など、当時の風俗では普通に存在した物を利用して西部劇を意識した画作りをしている。
  • プロローグの政府会議で、日銀総裁が偽札について「造幣局では、同じ番号の札を2枚も造ってるはずはありませんからねぇ」と言っているがこれは間違いで、大蔵省印刷局が正しい。
  • 全部で30作ある東宝クレージー映画の中で、最も短いタイトルを持つ作品である。
  • トミーテックから「東宝名車座」企画として、劇中で使用された自動車のミニカーが映画の説明とともに発売された[18]

映像ソフト

編集

2001年4月21日、東宝ビデオから本作品を収録したDVDが発売された[19](品番:TDV2600D)。このDVDは、4年後の2005年9月30日にディスクラベルとケースのデザインを変更した上で再発売されたが(品番:TDV15294D)、両バージョンともに映像の不具合が生じていたため、不具合ディスクの購入者に対しては修正版ディスクに無償交換することで対応した[20]

2012年、デアゴスティーニ・ジャパンから本作品を収録した『東宝特撮映画 DVDコレクション 65号』(最終号)が発売された。

2014年1月28日、講談社から本作品を収録した『東宝 昭和の爆笑喜劇 DVDマガジン Vol.22』が発売された。

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ a b c d オープニングタイトルでは「荻原哲晶」と誤表記。
  2. ^ 書籍『東宝特撮映画全史』では、「1時間47分」と記述している[3]
  3. ^ ともに本人役。
  4. ^ 書籍『東宝空想特撮映画 轟く 1954 - 1984』では、植木のキャラクターが前半は無責任男、後半が日本一男と解釈できるものと評している[11]
  5. ^ 東宝で特撮監督を務めた川北紘一は、映画で本格的なワイヤーアクションを行ったのは本作品が初めてと推測している[17]

出典

編集
  1. ^ 東宝特撮映画大全集 2012, p. 98, 「『大冒険』」
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 映画資料室”. viewer.kintoneapp.com. 2022年2月20日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h 東宝特撮映画全史 1983, p. 547, 「東宝特撮映画作品リスト」
  4. ^ a b c d e f g h i j 円谷英二特撮世界 2001, p. 112, 「大冒険」
  5. ^ a b c d e f 小林淳 2022, p. 430, 「付章 東宝空想特撮映画作品リスト [1984 - 1984]」
  6. ^ a b c ゴジラ画報 1999, p. 125, 「大冒険」
  7. ^ a b 東宝ゴジラ会 2010, p. 297, 「円谷組作品紹介」
  8. ^ a b c 「column 特撮コメディー映画」『東宝特撮全怪獣図鑑』東宝 協力、小学館、2014年7月28日、58頁。ISBN 978-4-09-682090-2 
  9. ^ a b c 超常識 2016, p. 222, 「Column 東宝特撮冒険映画の系譜」
  10. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)220頁
  11. ^ a b c d e f g h i j k l 小林淳 2022, pp. 242–247, 「第六章 奇想天外映画に華美な光彩を加える音場 [1964、1965] 五『大冒険』」
  12. ^ a b 東宝特撮映画全史 1983, pp. 430–432, 「一般映画の中の特撮」
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m 東宝特撮映画大全集 2012, p. 99, 「『大冒険』作品解説/俳優名鑑」
  14. ^ 「脇役俳優辞典29」『別冊映画秘宝 モスラ映画大全』洋泉社〈洋泉社MOOK〉、2011年8月11日、91頁。ISBN 978-4-86248-761-2 
  15. ^ a b 小林淳 2022, pp. 247–250, 「第六章 奇想天外映画に華美な光彩を加える音場 [1964、1965] 五『大冒険』」
  16. ^ a b c d e 東宝特撮映画大全集 2012, p. 100, 「『大冒険』兵器図録/資料館/撮影秘話-特別編-」
  17. ^ a b c d e f g h 東宝特撮映画大全集 2012, p. 101, 「『大冒険』撮影秘話/川北監督に訊く」
  18. ^ 発売告知 Archived 2007年12月28日, at the Wayback Machine.
  19. ^ 「綴込特別付録 宇宙船 YEAR BOOK 2002」『宇宙船』Vol.100(2002年5月号)、朝日ソノラマ、2002年5月1日、170頁、雑誌コード:01843-05。 
  20. ^ DVD「大冒険」映像不具合に関するおわびとお知らせ”. TOHO-A-PARK.COM (2007年4月27日). 2018年11月7日閲覧。

出典(リンク)

編集

参考文献

編集

外部リンク

編集