塩化セシウム
塩化セシウム | |
---|---|
組成式 | CsCl |
式量 | 168.36 g/mol |
形状 | 無色固体 |
結晶構造 | 塩化セシウム型 |
CAS登録番号 | 7647-17-8 |
密度と相 | 3.99 g/cm3, 固体 |
水への溶解度 | 162 g/100 mL (1 °C) |
融点 | 645 °C |
沸点 | 1295 °C |
塩化セシウム(えんかセシウム、cesium chloride)は化学式 CsCl で表される無機化合物である。無色の固体であり、セシウムイオン源としてさまざまな用途に使われる。結晶構造型のひとつとしても知られる。
調製
編集結晶構造
編集固体はイオン結晶であり、アニオン(塩化物イオン、Cl−)とカチオン(セシウムイオン、Cs+)の組み合わせからなる単純立方格子である。1:1の組成比を持つ塩の結晶において、2種のイオンの半径がほぼ等しい(フィールドホッケーの球とテニスボール程度のような)場合には塩化セシウム型の構造をとる。塩化セシウムの場合では、各塩化物イオンは8個のセシウムイオンと隣接する。塩化セシウム型構造をとる化合物として臭化セシウム、ヨウ化セシウム、また銅・亜鉛や鉄・ロジウムの1:1合金などが知られる。一方、イオン半径が大きく異なる(バスケットボールとゴルフボールのような)場合には、バスケットボールの隙間にゴルフボールが挟まったような構造、すなわち塩化ナトリウム型構造をとる。塩化ナトリウムの結晶中では、各塩化物イオンは6個のナトリウムイオンと隣接する。
用途
編集導電性ガラスの製造に用いられる。
塩化セシウムはまた、DNAの遠心分離を行う際に広く用いられる。等密度遠心法 (isopycnic centrifugation) と呼ばれる技法では、塩化セシウムの溶液を遠心分離し、遠心力と分散力によって遠心管中に濃度勾配(すなわち密度勾配)を作り出す。この溶液を使ってDNAを遠心分離すると、DNAの各断片は溶液中で密度の等しい部分にそれぞれ移動する。この現象を利用し、密度の異なるDNAを分離することができる。
非放射性の塩化セシウムはがんの代替医療に利用できると主張されているが、科学的根拠で裏付けられたものではない。カナダ保険省によれば、継続したセシウム化合物(主に塩化セシウム)の使用は命にかかわる心臓病のリスクをもたらす可能性がある[1]。
放射性同位体
編集放射性同位体を含む塩化セシウムはがん治療におけるシンチグラフィに使われる。放射線源の製造においては、普通、事故が起こった場合に備えて分散しにくい化学種が選択される。例えば原子力電池には水に不溶なチタン酸ストロンチウムが使われる。しかしながら、体外放射線療法 (external beam radiotherapy, teletherapy) 用の線源には高い放射能濃度が要求されるため、不溶性のセシウム化合物ではこれを調製することができない。放射性塩化セシウムは通常、指ぬき型の缶に入れて放射線治療用の線源として利用される。ブラジルにおいて、このような放射線源が廃病院から盗み出され、これを破砕することによってガンマ線被曝が発生する事件が起こった。