「図書館」の略字(としょかんのりゃくじ)とは、「𡆥「くにがまえ」にカタカナの「ト」)」もしくは「「くにがまえ」に漢字の「書」)」を指す。図書館関係者の間では「図書館」を一文字で表すために用いられる、図書館用語の一つ[1]

𡆥(くにがまえにト)

「図書館」以外を意味する場合もあり、そのほかの用法もあわせて紹介する。

概要

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「𡆥(くにがまえに「ト」)」は、「現代図書館の父[2]秋岡梧郎による考案とされている[3][4]。秋岡が図書館職員養成所での講義で、この略字を用いたことが、図書館職員らに知れ渡るきっかけになった[5]。図書館職員、関係者という集団を中心に使われる文字であるため、「集団文字」と分類される[4]

一方の「圕(くにがまえに「書」)」は、1926年頃日本に滞在していた[4]、中国図書館学者の杜定友による考案とされている[6]。早稲田大学社会科学総合学術院教授(当時)の笹原宏之によれば、「圕」は東京外国語大学蔵書印としての活用事例はあるとしつつも、「𡆥(くにがまえに「ト」)」の方が簡便性が高いとする[4]漢学者言語学者である阿辻哲次は、漢字は一字一音節が原則であることから、「圕」は漢字ではなく記号という立場を取った[7]

各集団ごとに異なる用法

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図書館関係者

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「𡆥(くにがまえに「ト」)」は「図書館」のことを指す。例えば、ウィキペディア図書館であれば、「ウィキペディア𡆥」という表記になる。

ある私立学校の例

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同大学教授の笹原によれば、ある私立学校では、「𡆥(くにがまえにト)」を「かくと」と読ませ、「各自図書館へ」という意味を付与している事例を紹介している[4]。その由来は不明であり、私立学校が独自に考案した略語か、あるいは既存の秋岡の造語に「各自図書館へ」という新たな意味を学校側が付与させた可能性について言及している[4]

法学部関係者の例

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また笹原によれば、民法での頻出用語である「登記」の略称として用いられている例があるともいう。ただし、こちらの場合は、「くにがまえ」ではなく、単なる「□(四角)」にカタカナの「ト」を組み合わせており、厳密的には「𡆥(くにがまえに「ト」)」と異なる[4]

脚注

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  1. ^ pssuser. “変わった用語 – 図書館サービス向上委員会(りぶしる)”. 2024年6月30日閲覧。
  2. ^ 宇城市 (2021-10). 広報うき. p. 20. https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/assets.ikouhoushi.jp/attachment/magazine_issue_file/files/98948/published_98948.pdf#page=20.00. 
  3. ^ 『図書館情報学ハンドブック(第2版)』丸善、1999年3月。 
  4. ^ a b c d e f g 第134回 手書き文字に味わいあり? | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム”. 三省堂WORD-WISE WEB -Dictionaries & Beyond- (2011年10月6日). 2024年6月30日閲覧。
  5. ^ 広島大学図書館. ライブラリーニュース (3). https://www.hirokoku-u.ac.jp/assets/files/library/library-news/vol-3/5-6.pdf. 
  6. ^ Next-L Enju 1.3.1 マニュアル. https://www.next-l.jp/download/manual/Enju_1.3.1_manual_20190511.pdf. 
  7. ^ 阿辻哲次(2013)『タブーの漢字学』講談社.