参議院合同選挙区(さんぎいんごうどうせんきょく)とは、日本参議院議員通常選挙における隣接する都道府県を一つに合わせた選挙区

概要

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参議院議員通常選挙において議員一人当たりの人口・有権者に不均衡が生じている一票の格差について、2012年に最高裁判所が都道府県単位を選挙区とする選挙制度に否定的見解を出したことを受けて、2015年公職選挙法が改正されて人口の少ない県を合区して新たな選挙区を設けることになった[1]

改正公職選挙法では、合区された選挙区において行われる選挙を「参議院合同選挙区選挙」としている。合同選挙区には2県の選挙管理委員会による合同選挙区選挙管理委員会を発足させて選挙長一人が選ばれ、さらに各県に設置される選挙管理委員会それぞれに選挙分会長が置かれる。大きさやデザインなどがバラバラな立候補者の選挙七つ道具をどちらの県に統一するか、公示前の立候補説明会の場所をどちらの県施設(県庁)で行うか、2県の選挙管理委員会の協議場所をお互いの県庁の中間地点で行うようにする等、合区対象の選挙管理委員会は対応に追われることになった[2]。また政見放送では合同選挙区に該当する都道府県の放送局が異なる場合、それぞれの都道府県で同一回数放送が行われるように調整が行われる[3]

なお、日本以外の国で国政選挙における選挙区制度において、都道府県に相当する人口規模、立法、行政機能を持つ広域自治体を合区した事例は見当たらず、選挙区区分のある国政選挙において広域自治体を合区した事例は日本のみである[4]

改正公職選挙法の附則には、2019年の参院選に向け、一票の格差の是正を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るとの規定が盛り込まれている。

2016年参院選の一票の格差訴訟では被告の選挙管理委員会側は、都道府県単位の選挙制度の意義は尊重されるべきだと主張し、合区解消などを求める自治体の意見書約150通を最高裁に提出した[5]

2つの参議院合同選挙区が創設されたことにより、参議院に選出されない可能性がある県の代表者を参議院に確実に輩出することを意図した自民党の意向が2018年に国会で反映されたことにより、2019年7月第25回参議院選挙から参議院比例区で政党等の判断で拘束名簿式の「特定枠」として設定することが可能となり(なお、特定枠に掲載された候補者は候補者名を冠した選挙運動を行うことができず、特定枠に掲載された候補者は政党票としてカウントされる)、参議院比例区では拘束名簿式非拘束名簿式の両方が混合することになり、参議院合同選挙区は参議院比例区の選挙制度にも影響を与えている。

経緯

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  • 2015年7月21日鳥取県島根県徳島県高知県の選挙区をそれぞれ2つ選挙区に合区することを含む公職選挙法改正案(10増10減案)を自民党維新の党など野党4党で合意[6]。元となる案は荒井広幸新党改革代表が事実上発案した[7]。合区が4県のみとなった理由として、都道府県単位の選挙区を極力尊重しつつ最高裁判決を踏まえて較差是正を目指すという考え方に基づき、最大会派である自民党が合意できそうな案であること、合区の対象となった4県は人口の少ない順からの4県でありなおかつ互いに隣接する人口の少ない県同士での組合せが可能であるが、それ以外の合区については次に人口の少ない福井県については福井県に隣接する県のいずれも人口がそれほど少ないわけではなく、合区対象県と福井県を合区した場合には合区対象県より人口が少ない県との間で不公平さを生じさせることが説明された[8]
  • 2015年7月28日、公職選挙法改正案が成立[9]。しかし、国会の採決において合区対象の県選出の数人の自民党議員が棄権するなどの造反が出た[10][11]
  • 2015年8月5日、改正公職選挙法が公布[12]
  • 2015年11月5日、改正公職選挙法が施行。
  • 2016年第24回参議院議員通常選挙から適用。

特例

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参議院合同選挙区では、選挙運動に係る数量の制限を一般の選挙区の2倍とする特例を設けている。

合同選挙区 一般選挙区
選挙事務所の数 2ヵ所 1ヵ所
選挙カー(自動車・船舶または拡声機)の数 2台(隻) 1台(隻)
新聞広告の回数 10回 5回
個人演説会の会場前に掲示する立札及び看板の類の数 10枚 5枚
街頭演説の標旗の交付数 2本 1本
特殊乗車券の交付数 30枚 15枚
推薦演説会の回数 推薦候補者数の8倍 推薦候補者数の4倍
再選挙補欠選挙における確認団体の自動車の台数 2台 1台

懸念

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  • 合区した県(どちらか片方)から、議員を選出できなくなるとの指摘がある[13]。実際に実施された2016年参院選では47都道府県で唯一鳥取県に選挙地盤を置く候補を比例区を含めて選出できなかった[14][15][16][17](5年後の2021年10月に竹内功が比例区で繰り上げ当選)。
  • 合区した2つの県の間で意見に相違があった場合、それぞれの県単位での民意を反映することが難しくなるとの指摘がある[18]
  • 合区された県と合区されない都道府県との間に新たな不公平が生まれるとの指摘がある[19]
  • 合区により選挙区が拡大することから、選挙運動において、選挙区内を十分に回り切れないとの懸念がある[20]
  • 投票率低下の懸念がある[21]。合区された選挙区では2016年参院選では4県の内で島根県を除く3県で、2019年参院選では4県の内で高知県を除く3県で過去最低の参院選投票率を記録した。また、「合区反対」と書かれたものも含めて無効票が増加する等して合区された選挙区では有権者の投票意欲が低下している[14][22][23][24]

自治体等の声

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立候補者の声

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  • 鳥取県・島根県選挙区に与党候補として立候補をして当選した青木一彦参議院議員は「広い選挙区で有権者の民意を伝えきれない」と選挙戦を振り返った[31]
  • 徳島県・高知県選挙区に与党候補として立候補をして当選した中西祐介参議院議員は「2つの選挙を同時にやっている感じだった」「高知では全く無名の新人。訴えるのが難しい」と選挙戦を振り返った[14][32]
  • 野党第一党の民進党(旧民主党)は一票の格差の解消に合区を推進しているが、2016年参院選における2つの合同選挙区では民進党が支援する野党統一候補(政党は無所属)は「合区は人口の少ない所にしわ寄せした(福嶋浩彦)」「(合区は、)過疎化が進む地方の声が届きにくくなる(大西聡)」と2人とも選挙演説で語って「合区解消」を訴えた[33][34][35]

有権者の声

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  • 朝日新聞社が合区4県の有権者を対象に行った世論調査では、合区容認が2割にとどまった。一方、全国の有権者に行った調査では、合区容認が4割、東京に限っては合区容認が57%に上った[36]
  • 共同通信社などが合区対象となる4県の有権者を対象に行った世論調査では、合区に反対する人は65.8%で、賛成の18.3%を大きく上回った[37]

参議院合同選挙区の一覧

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過去の参議院合同選挙区での勝敗

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過去の参議院合同選挙区での勝敗 詳細の太字は与党、斜字は一部与党


詳細 備考
24 2016年 2 0 2 自民2 鳥取・島根、徳島・高知が合区へ
25 2019年 2 0 2 自民2
26 2022年 2 0 2 自民2
25補 2023年 0 1 1 無所属(野党系)1 徳島・高知(議員辞職に伴う)

脚注

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  1. ^ 総務省|参議院選挙区選出議員の選挙区及び定数の改正等について
  2. ^ 参院選・手探りの合区 /下 合同選管 異例ずくめ、増える仕事 公示までわずか「しっかり準備整えたい」 /鳥取 毎日新聞 2016年6月10日
  3. ^ 政見放送はなぜNHKばかりで放映されているのか? 意外と複雑な放映の仕組みを調べてみると… 産経新聞 2016年7月3日
  4. ^ 衆議院憲法審査会 2017年3月16日
  5. ^ 「合区」で是正、評価は=27日に最高裁判決-参院「1票格差」訴訟 時事通信 2017年9月24日
  6. ^ 自民と4野党、2合区案で正式合意 参院選改革 日本経済新聞 2015年7月21日
  7. ^ 自民、4野党と合意/包囲網形成に「陥落」/合区なし固執、窮余の策 東奥日報 2015年7月10日
  8. ^ 参議院本会議 2015年7月24日
  9. ^ 「合区」導入の改正公選法が成立 「10増10減」一票の格差是正へ 産経新聞 2015年7月28日
  10. ^ 自民6議員が参院本会議で造反! 採決退席、参院選挙制度改革「10増10減」の合区案に反発 産経新聞 2015年7月24日
  11. ^ 衆院本会議採決、合区対象県の3氏が欠席、2氏が採決前に退席 産経新聞 2015年7月28日
  12. ^ 公職選挙法の一部を改正する法律の施行について(施行通知)
  13. ^ 【Q&A改正公選法】1票の格差是正へ合区導入 「地方創生に逆行」批判も 共同通信 2015年7月29日
  14. ^ a b c 候補者の妻「よさこい」と「阿波おどり」を披露、投票で「合区反対」抗議票も…参院選騒動記 産経新聞 2016年8月9日
  15. ^ 比例の竹内さん落選 自民「鳥取枠」獲得できず 日本海新聞 2016年7月12日
  16. ^ 自民「合区」救済策が失敗=比例転出に不満、強まる解消論【16参院選】 時事通信 2016年7月12日
  17. ^ 山陰両県在住 比例候補4人全員落選 山陰中央新報 2016年7月11日
  18. ^ 「山陰人」なんてありえない!参院合区は「切り張り」第一声から批判渦巻く 産経新聞 2016年6月30日
  19. ^ 徳島・高知合区 【社説】 徳島新聞 2016年6月21日
  20. ^ 参院選:合区「回りきれない」 毎日新聞 2016年6月1日
  21. ^ 山陰中央新報 - 投票率、過去最低水準か 合区影響避けられず 山陰中央新報 2016年7月9日
  22. ^ 参院選で高知県内の無効票1.6倍 合区に“抗議”の票も 高知新聞 2016年7月12日
  23. ^ 有権者が合区に異唱えた?「反対」「やめるべき」無効1万1千票 日本海新聞 2016年7月13日
  24. ^ 投票率、合区県で軒並み最低 日本経済新聞 2016年7月11日
  25. ^ 「今回限りに」知事合区批判 /鳥取 毎日新聞 2016年6月24日
  26. ^ 【参院合区成立】格差是正の大都市圏は理解も合区、定数減には根強い反発…「歓迎すべき」「地方の声届けられない」 産経新聞 2015年7月28日
  27. ^ a b 見えぬ候補、冷める有権者=国政不信もたらす合区【16参院選】 時事通信 2016年7月7日
  28. ^ 福井県知事、合区は「地域無視」 否定的な見解あらためて 福井新聞 2016年7月13日
  29. ^ 平成27年07月24日 参議院選挙制度改革(合区案)に関する懸念表明(緊急アピール)について/全国知事会ホームページ
  30. ^ 島根)「今回の合区は憲法違反」片山善博教授 朝日新聞 2016年7月3日
  31. ^ 「合区は今回限りに」…再選の自民青木一彦氏、硬い表情で強調 産経新聞 2016年7月10日
  32. ^ 「高知では全く無名の新人。訴えるの難しかった」…再選の自民・中西祐介氏「合区解消へ頑張る」 産経新聞 2016年7月11日
  33. ^ 自公vs民共 合区の徳島・高知 与野党とも「合区解消」盛り上がらぬ選挙戦 産経新聞 2016年6月6日
  34. ^ <参院選>合区広すぎて 与野党が批判 河北新報 2016年6月27日
  35. ^ 進まぬ参院「一票の格差」改革 合区で低投票率、さらに拡大も 自民は改憲掲げるも各党に溝 産経新聞 2017年2月25日
  36. ^ 合区の4県、「容認」は2割 朝日・参院選世論調査 朝日新聞 2016年6月27日
  37. ^ 参院選「合区」反対65% 対象選挙区の世論調査 共同通信 2015年12月19日

関連項目

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