北朝鮮によるミサイル発射実験
北朝鮮によるミサイル発射実験(きたちょうせんによるミサイルはっしゃじっけん)は、北朝鮮による大規模な弾道ミサイル発射実験。
概要
編集1980年代から、北朝鮮はスカッドミサイルの発射実験を行っていた。技術を蓄積し、独自のミサイルを開発。そして1993年、1998年、北朝鮮はミサイル発射を行う。
1999年9月に、北朝鮮はミサイル発射のモラトリアム(一時停止)を発表。その後、ミサイル発射のモラトリアムの維持を誓約。しかし北朝鮮は2006年7月5日にミサイル発射実験を行った[1]。
2006年7月15日、国連安保理は国際連合安全保障理事会決議1695を決議した。正文では、"Demands that the DPRK suspend all activities related to its ballistic missile programme, and in this context re-establish its pre-existing commitments to a moratorium on missile launching;"と決議していて、北朝鮮に弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を一時停止することを要求している。日本政府などは、以降の発射は、たとえ宇宙開発が目的であろうとも国連安保理決議に違反していると見做している。
また、他国は一般的には、ミサイルやロケットの発射をする際には、船や航空機の安全のために事前通告を行っている[1][2]。
北朝鮮は発射実験を国際機関へ通告せずに行うことがある。2009年から2016年の銀河2号・銀河3号・光明星の発射時は事前に国際海事機関や国際民間航空機関に発射を通告している。北朝鮮は人工衛星搭載の打ち上げロケット発射は純粋な平和目的の宇宙開発であると主張している。これに対し、日本・韓国・アメリカ・国際連合安全保障理事会は、仮に人工衛星搭載でも、ミサイル関連技術の一時停止を要求する安保理決議1718と安保理決議1874に違反していると見なしている[3]。
日本はミサイル発射のたびに厳重な抗議をしているが、元東京新聞論説兼編集委員の半田滋によれば「ファクスで一方的に抗議文を送りつけるだけ」であるとしている[4]。
ミサイル発射の年表
編集No. | 日時 | 型 | 飛翔エリア | 予告 | 北朝鮮の主張 | 衛星名 | 推定飛行距離 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1998年8月31日 | テポドン1号 | 秋田県沖 | なし | 衛星打ち上げ | 光明星1号 | |
2 | 2009年4月5日 | 銀河2号 | 秋田県・岩手県 | あり | 光明星2号 | ||
3 | 2012年12月12日 | 銀河3号 | 沖縄県沖 | 光明星3号 | |||
4 | 2016年2月7日 | 光明星1号(銀河3号) | 沖縄県 | 光明星4号 | |||
5 | 2017年8月29日 | 火星12 | 北海道沖 | なし | ミサイル発射 | 該当なし | |
6 | 2017年9月15日 | ||||||
7 | 2022年10月4日 午前7時22分頃 |
新型地対地中長距離弾道ミサイル | 北海道・青森県 | 該当なし | 約4600 km(過去最高)[5]。 |
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (1993年) - 日本海に向けた初の飛翔体。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (1998年) - 光明星1号も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2006年) - 北朝鮮の核実験 (2006年)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2009年) - 北朝鮮の核実験 (2009年)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2012年) - 光明星3号1号機と光明星3号2号機を参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2013年)
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2014年)
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2016年) - 北朝鮮の核実験 (2016年1月)、北朝鮮の核実験 (2016年9月)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2017年) - 火星12、火星14、火星15、北朝鮮によるミサイル発射実験 (2017年8月)も参照。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2018年)[6] - 日本に向けた飛行は行われていない。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2019年)[7][8][9][10][11][12][13] - 1年間の重大実験が2回と打ち上げが13回、計15回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2020年)[14][15][16] - 1年間の打ち上げが計5回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2021年) - 1年間の打ち上げが計8回に及んだ。
- 北朝鮮によるミサイル発射実験 (2022年) - 3月24日に発射されたロケットが青森県沖のEEZ内へ落下した[17]。
- 北朝鮮による飛翔体発射実験 (2023年)
- 北朝鮮による飛翔体発射実験 (2024年)
対策
編集国際連合報告者は、北朝鮮は物資不足で飢餓の恐れがあるなか、ミサイル発射実験を行っていると報告した[18]。北朝鮮当局は、2021年4月、国民に対し「苦難の行軍」を実施すると公表し、1990年代後半の飢餓の再来を予告している[19]。
2021年9月11日、12日、北朝鮮は2度にわたり日本海に向けて巡航ミサイルを発射した[20]。また、同月15日12時32分頃と12時37分頃[21]、有蓋貨車から[22]日本海に向けて弾道ミサイルを2発発射した[23][24]。
これについて、岸田文雄前政調会長は9月13日に外交・安全保障政策について記者会見し、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有について「有力な選択肢」と発言[25]、内閣総理大臣就任後も、北朝鮮のミサイル基地を先制攻撃して無力化する能力の向上に前向きな姿勢をみせた[26]。高市早苗もまた、そのための法整備を急ぎたい考えを示した[27][注釈 1]。こうした流れを受けて、11月12日、日本の防衛省では「防衛力強化加速会議」についての会合が持たれた。また、2021年10月17日、アメリカ国防総省の情報機関は、北朝鮮の軍事力に関する報告書を発表し、北朝鮮が2021年から2022年にかけて長距離弾道ミサイルの発射実験を再開する可能性があるとして、警戒感を示した[28]。
東京新聞は2023年3月19日の報道で国際NPO法人グローバル・フィッシング・ウオッチとの共同調査の結果、北朝鮮の弾道ミサイルが日本の漁船にとって脅威であるにもかかわらず、それらに対する情報発信が消極的なことを指摘した[29]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b “核不拡散ニュース No.0021 2006.07.13”. 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 核不拡散・核セキュリティ総合支援センター (2006年7月13日). 2023年6月1日閲覧。
- ^ “中国、東シナ海にロケット落下警告 16日、航行禁止区域を設定”. 毎日新聞 (2023年4月13日). 2023年6月1日閲覧。
- ^ “Statement by the President of the Security Council S/PRST/2012/13” (PDF). UN (2012年4月16日). 2024年9月5日閲覧。
- ^ 半田滋 (2022年10月6日). “Jアラートは誤報、「火星12」は撃ち落とせない…北朝鮮「ミサイル」発射で判明した残念な事実”. 現代ビジネス. p. 4. 2023年9月13日閲覧。
- ^ “4600キロの飛行距離は過去最長と防衛相 | 共同通信”. web.archive.org (2022年10月4日). 2022年10月4日閲覧。
- ^ “North Korea Says It Has Tested ‘Ultramodern Tactical Weapon’”. www.nytimes.com (2018年11月15日). 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮はことし7月25日以降、短距離弾道ミサイルとみられる飛しょう体の発射を繰り返していて”. www3.nhk.or.jp (2019年9月11日). 2019年9月11日閲覧。
- ^ “北朝鮮ICBM施設で動き、韓国は「ミサイル関連活動」と判断 ロイター”. ロイター (2019年3月16日). 2019年9月11日閲覧。
- ^ “北朝鮮が弾道ミサイル発射、EEZ内には落下せず 5月以降13回目”. www.sankei.com. 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮から弾道ミサイル発射か EEZ外に落下と推定 政府”. www3.nhk.or.jp. 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮の弾道ミサイル” (PDF). www.mod.go.jp (2018年11月15日). 2019年12月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮の重大実験 日本政府「弾道ミサイル関連か」 警戒万全に”. www3.nhk.or.jp (2019年12月9日). 2019年12月9日閲覧。
- ^ “北朝鮮、再び「重大な試験した」発表 新型のミサイルか”. 朝日新聞デジタル. (2019年12月15日) 2019年12月15日閲覧。
- ^ “北朝鮮 日本海に向けて飛しょう体2発を発射 韓国軍”. www3.nhk.or.jp. NHK NEWS WEB (2020年3月2日). 2020年3月2日閲覧。
- ^ “北朝鮮が飛翔体3発、韓国軍発表 EEZ外の日本海落下”. www.nikkei.com. 日本経済新聞. 2020年3月9日閲覧。
- ^ “「北朝鮮、弾道ミサイル防衛網突破の核ミサイル製造に躍起」米議会調査局が報告書”. 高橋浩祐. Yahoo!ニュース. 2020年7月18日閲覧。
- ^ “ミサイル落下予測情報”. www7.kaiho.mlit.go.jp. 海上保安庁 (2022年3月24日). 2022年3月24日閲覧。
- ^ NHK NEWS WEB (2021年10月23日). “国連報告者 “北朝鮮 物資不足で飢餓のおそれ””. 日本放送協会 2021年11月5日閲覧。
- ^ 李泰炅 (2021年8月10日). “想像以上の苦境? 北朝鮮が再び「苦難の行軍」を決めたのはなぜか”. JBプレス 2021年11月5日閲覧。
- ^ 讀賣新聞 (2021年9月14日). “北巡航ミサイル、高性能なら難しい探知・迎撃…低空を地形に沿って進む可能性”. 讀賣新聞社 2021年9月18日閲覧。
- ^ “お知らせ(続報)” (PDF). 防衛省. (2021年9月15日) 2021年9月18日閲覧。
- ^ . 朝鮮中央放送. (2021年9月16日). https://www.youtube.com/watch?v=RpGxtCKy19Q&feature=youtu.be+2021年9月16日閲覧。
- ^ 防衛省大臣官房広報課 (2021年9月15日). “防衛大臣臨時記者会見”. 防衛省 2021年9月18日閲覧。
- ^ 日本経済新聞 (2021年9月15日). “北朝鮮が弾道ミサイル2発発射 日本のEEZ外落下と推定”. 日本経済新聞社 2021年9月18日閲覧。
- ^ 東京新聞 (2021年9月13日). “岸田文雄氏 敵基地攻撃能力「有力な選択肢だ」 中期防見直しで「防衛費増」にも意欲”. 東京新聞社 2021年11月5日閲覧。
- ^ 時事ドットコム (2021年10月19日). “岸田首相、敵基地攻撃能力保有も選択肢 北朝鮮ミサイル技術に危機感”. 時事通信社 2021年11月5日閲覧。
- ^ 産経ニュース (2021年9月13日). “高市氏「敵基地の早期無力化を」 北ミサイルに懸念”. 産経新聞社 2021年11月5日閲覧。
- ^ NHK (2021年10月17日). ““北朝鮮が来年にかけ長距離弾道ミサイル再開の可能性”米機関”. 日本放送協会 2021年11月5日閲覧。
- ^ “北ミサイル着弾海域で操業中の日本漁船「2019年以降8隻判明」 本誌と国際NPO調査 脅威は現実的”. 中日新聞社. 2023年9月13日閲覧。
参考文献
編集- 香田洋二『北朝鮮がアメリカと戦争する日』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2017年12月。ISBN 978-4-344-98479-0。
- 萩原遼『金正日 隠された戦争 金日成の死と大量餓死の謎を解く』文藝春秋〈文春文庫〉、2006年11月(原著2004年)。ISBN 4-16-726007-7。
関連項目
編集- 朝鮮人民軍
- 北朝鮮核問題
- 朝鮮民主主義人民共和国の大量破壊兵器
- 北朝鮮の軍事パレード
- 26号工場・351号工場 - 慈江道江界市に所在するミサイル製造工場
- 新五里 - 戦略国際問題研究所(CSIS)が2019年1月21日に、北朝鮮が未公表のミサイル基地があることを特定。
- 舞坪里 - 慈江道前川郡の同行政区から2017年7月にICBM「火星14」が発射された。
- 山陰洞 - ミサイル工場で物資運送用車両が活動。
- 国際連合安全保障理事会決議1540 - 2004年4月
- 国際連合安全保障理事会決議1695 - 2006年7月
- 国際連合安全保障理事会決議1718 - 2006年10月
- 国際連合安全保障理事会決議1874 - 2009年6月
- 国際連合安全保障理事会決議2087 - 2013年1月
- 国際連合安全保障理事会決議2270 - 2016年3月
- 国際連合安全保障理事会決議2356 - 2017年6月
- 国際連合安全保障理事会決議2371 - 2017年8月
- 国際連合安全保障理事会決議2397 - 2017年12月
- 東港市 - 東倉里から発射された飛翔体をNHKをはじめとするメディアがカメラで捕捉する場所
外部リンク
編集- 北朝鮮の主なミサイル基地 (asahi.com)
- 地図蔵「北朝鮮」