割譲
割譲(かつじょう、英語・仏語:cession[1][2][3][4])とは、他の法的実体へ所有物(財産)を譲渡すること。特に国際法では条約により領土を移転すること。割譲対象の土地は割譲地と表現され、逆に譲渡を受けることは割取(かっしゅ)と表現されることがある[5]。国際法では領域権原[注釈 1]の一つとされる[6][7][8]。
Ballentine's Law Dictionaryでは、「割譲とは、引き渡すこと、諦めて手放すこと、あるいは他の機関に有利な会議体により管轄権を放棄すること」[9] と定義している。管轄権を有する土地、領土が強制的に放棄される併合とは対照的に、割譲は自発的、あるいは少なくとも明白に自発的にみえる行為による。
領土・領域の割譲例
編集アメリカ合衆国では、1790年、メリーランド州とバージニア州が、前年のアメリカ合衆国憲法での合意にもとづき、連邦政府に土地をともに割譲したことによりコロンビア特別区が成立した。ただし、バージニア州から割譲された土地の一部、ポトマック川以南の領域は1847年にバージニア州に返還された。これは"retrocession"(レトロセッション、返還での割譲)[注釈 2][注釈 3]として知られている。
アジアでは、阿片戦争(1839年 – 1842年)とアロー戦争(1856年 – 1860年)の結果、香港島が1842年の南京条約により、九龍半島南部が1860年の北京条約により清国政府からそれぞれイギリスに割譲され、さらに日清戦争で清が敗北した結果、台湾は1895年に日本に割譲された例がある。
領土の割譲は、金銭の支払いによっても成立することがあり、例としてはルイジアナ買収とアラスカ購入がある。
各法分野
編集契約法
編集契約法では、割譲は、明け渡し(英: yielding up)あるいは放棄(英: release)とされる[9]。フランスは1803年4月30日のパリでのルイジアナ買収条約[注釈 4]によリアメリカ合衆国にルイジアナを割譲した。スペインは1819年2月22日のアダムズ=オニス条約(1821年7月10日発効)によってフロリダ州東部と西部を割譲した。この他に、ニューヨーク州、バージニア州、マサチューセッツ州、コネチカット州、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州、ジョージア州でそれぞれ割譲が行われた。
市民法
編集大陸法における私法体系では、割譲は、譲渡(英: assignment)と同等とされ、人的請求が譲渡人(英: cedent)から譲受人(英: cessionary)へと移転される行為をいう。物権が引渡しによって移転されるのに対して、人的権利(債権)は割譲によって移転される。 債務者の債務が移転される場合であれば、譲受人は完全にその債務を代わりに負うことになる。また、譲渡人は、元の請求権を失い、譲受人が新たにその権利を獲得する。
教会法
編集教会法の分野では、聖職者が司教に叙階されるとき、あるいは主任司祭または教区牧師が特免状なしで別の聖職禄を受けるとき、最初の聖職禄は法的な割譲または放棄によって無効となる。
レトロセッション
編集"retrocession"(レトロセッション[注釈 3])とは、元へ返還する形での割譲をいい、例えば割譲されていた土地といった"事物"の返還をいう。具体例としては次の通り。
- コロンビア行政区の返還、バージニア州への再度の割譲であり、そして潜在的にはメリーランド州へのその可能性がある事象。コロンビア特別区を創設するために割譲された。
- スペインからフランスへのルイジアナ(ヌエバ・エスパーニャ)の割譲[注釈 5]、正式にはアメリカ合衆国がフランスからルイジアナ購入によりその土地を受け取るたった3週間前に完了した。
保険分野
編集保険分野では再々保険(英: retrocession)[10][11][12] は、一般に再保険契約または再々保険契約によって運営され、再保険に適用される原則は再々保険にも適用される。
脚注
編集注釈
編集- ^ 英: title to territory/territorial title、仏: titre territorial
- ^ コロンビア行政区の返還も参照。
- ^ a b 仮に音訳とした。適当な定訳は見当たらない。文脈によっては単に"返還"と表現可能。
- ^ 「Louisiana Purchase Treaty」(ルイジアナ買収条約)も参照。
- ^ 第三次サン・イルデフォンソ条約も参照。
出典
編集- ^ 割譲を英語で言うと(プログレッシブ和英中辞典(第4版)) - コトバンク 和英辞典
- ^ 割譲の英訳|英辞郎 on the WEB
- ^ 割譲 | 広辞典 | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス
- ^ 「割譲」の解説 - アドバンスドフェイバリット和英辞典
- ^ 精選版 日本国語大辞典『割取』 - コトバンク
- ^ 酒井啓亘 et al. 2011.
- ^ 国際法学会 2005.
- ^ 筒井若水ほか 1998.
- ^ a b Ballentine's Law Dictionary, p. 72.
- ^ 生命保険用語 英和辞典詳細|公益財団法人 生命保険文化センター
- ^ retrocessionの意味・使い方 - 英和辞典 Weblio辞書
- ^ R|米国保険用語の解説(アルファベット順)損保ジャパン日本興亜総合研究所
参考文献
編集- 『国際法辞典』筒井若水(編集代表)、有斐閣、1998年。ISBN 4-641-00012-3。
- 国際法学会 編『国際関係法辞典 第2版』三省堂、2005年。ISBN 4-385-15751-0。
- 酒井啓亘、寺谷広司、西村弓、濵本正太郎『国際法』有斐閣、2011年。ISBN 978-4-641-04655-9。
関連項目
編集外部リンク
編集- 日本大百科全書(ニッポニカ)『割譲』 - コトバンク
- C1- BALLENTINE'S LAW DICTIONARY. A LAW DICTIONARY WITHOUT PRONUNCIATIONS. JAMES A. BALLENTINE. THIRD EDITION,1969 < Citizen Legal Reference Materials - Legal Dictionary
- Ceded Territory - Background to Treaty Rights - WDNR
- 北アメリカ大陸における領土の割譲と先住民に関する歴史研究 (KAKENHI-PROJECT-20K01043) < KAKEN — 研究課題をさがす
- タイから見た領土の喪失と一時的な失地回復|マンボウ|note
- 「租借」と「割譲」の違いとは?分かりやすく解釈 | 言葉の違いが分かる読み物
- 『不割譲条約』 - コトバンク