前川 明人(まえかわ あきと、1928年3月28日 [1] - )は、長崎県長崎市生まれ。長崎原爆を体験した被爆者のひとり。現在、長崎市在住。9冊の短歌の著作集がある短歌歌人である。

短歌会「未来」「幻桃」に所属。「幻桃」では顧問を務める。長崎県文芸協会常任委員。長崎歌人会相談役。長崎原爆忌文芸大会選者。歌集『褐色山脈』は長崎県文学奨励賞、『空間』は第18回長崎県文学賞を受賞した[2]

略歴

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1928年、長崎市に生まれる。山里国民学校を卒業後長崎逓信講習所[3][4](長崎市麹屋町[5])に入学。1944年4月、長崎本博多郵便局[6]に勤務。1945年6月、通信書記補に任官。空襲警報が鳴ると夜中でも鉄かぶとを頭にかぶり、足にはゲートルを巻いて、大浦・日の出町[7]の自宅から同局まで走った[8]

1945年8月9日、17歳のとき長崎市にあった 本博多郵便局 [6](当時は、本博多町にあった。現在この場所は、万才町の名称になっている。跡地には「長崎東京間郵便線路開通起点の跡石碑」がある[9]。)で電報の受付の勤務中に被爆した[注釈 1][注釈 2]

戦後、歌誌「短歌長崎」に入会し短歌を始める。ここで18年にわたり短歌を学んだ。1952年に日本歌人クラブ会員となり、1961年有志らと超結社の短歌研究グループ「渦」を結成した。その後、短歌会「未来」・「歌の実」・「幻桃」などに所属した。

退職後、61歳で歌集「褐色山脈」を、65歳で「黄砂の周囲」、74歳で「空間」、77歳で「円型」、81歳で「破裂」の歌集を発表。「空間」は長崎県文学賞を受賞した。

1994年、短歌講座の講師を務めるとともに、修了生により結成された「れもん短歌会」の指導者となり、20年間にわたり、合同歌集「檸檬」を発行している。また、現在も、各短歌会の運営に参画し、短歌の選考を行っている[11]

著作

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  • 前川明人『明るい驟雨』秀文社、1967年。 [12][13]
  • 前川明人『褐色山脈 (歌の実叢書 第5篇)』歌の実短歌会、1989年。 
  • 前川明人『黄砂の周囲』短歌新聞社、1993年。 
  • 前川明人『空間』六法出版社、2002年。ISBN 4-89770-692-0 
  • 前川明人『円型』本阿弥書店、2005年。ISBN 4-7768-0187-6 
  • 前川明人『破裂』本阿弥書店、2009年。 [14]
  • 前川明人『曇天』本阿弥書店、2015年。 
  • 前川明人『遠雷』本阿弥書店、2017年。 
  • 前川明人『頓着』本阿弥書店、2020年。ISBN 978-4-7768-1520-4 

脚注

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注釈

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  1. ^ 1945年、17歳のとき、本博多郵便局内で電報の受付および送受信を担当していた。戦争中であったため、一般市民からの電報は、「チチシス」(父が死去した)など急を要するものだけで「カネオクレ」(生活が苦しいので現金を送ってほしい)などは受け付けなかった。受信した電報を各家庭や企業などに自転車に乗って届ける係に16歳の谷口稜曄の姿があった。局舎は原爆による爆風によって半壊、その後県庁から出火した火が広がり焼失した[1]
  2. ^ 局舎の被害状況は写真で見ることができる。長崎原爆資料館 収蔵品検索で「本博多郵便局」を検索する[10] 、小川虎彦 撮影。

出典

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  1. ^ a b NBC長崎放送、番組「長崎は証言する」(毎週土曜日06:40-06:45)、「前川明人の証言(第1話) 」、2024年10月26日放送。
  2. ^ 紀伊國屋書店 (2020年). “頓着―前川明人歌集 著者等紹介”. https://www.kinokuniya.co.jp/. 紀伊國屋書店. 2025年1月12日閲覧。
  3. ^ Google Maps – 長崎逓信講習所之跡石碑 (Map). Cartography by Google, Inc. Google, Inc. 2025年1月12日閲覧
  4. ^ 長崎経済研究所 2004年10月 No.29 H.16.10.5 ながさきの空 長崎逓信講習所の跡の記念碑建立と電報昔話 川口寿男
  5. ^ 布袋 厚 2020, p. 111.
  6. ^ a b 布袋 厚 2020, p. 110.
  7. ^ Google Maps – 長崎市日の出町 (Map). Cartography by Google, Inc. Google, Inc. 2024年12月1日閲覧
  8. ^ 空襲警報 夜中でも局舎へ 戦時下、電報業務多忙極め 頓着 歌人前川明人さんのあの日(上) 長崎新聞 2021-04-14
  9. ^ Google Maps – 長崎東京間郵便線路開通起点の跡石碑 (Map). Cartography by Google, Inc. Google, Inc. 2025年1月12日閲覧
  10. ^ 長崎原爆資料館 収蔵品検索本博多郵便局
  11. ^ 内閣府 「前川 明人さん 短歌講座の講師や歌集の発表により地域文化の発展に寄与。」 内閣府 平成26年度 エイジレス・ライフ実践事例
  12. ^ 驟雨、しゅうう、急に降りだす雨、にわか雨のこと。
  13. ^ ミライon図書館(長崎県立図書館・大村市図書館)に所蔵されている。
  14. ^ 第6歌集は、2005年7月から2009年5月までの『未来』『幻桃』および『歌壇』等に発表した中から420首を自選して収めた。

参考文献

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  • 布袋 厚『復元! 被爆直前の長崎 原爆で消えた1945年8月8日の地図』長崎文献社、2020年8月8日。ISBN 978-4-88851-348-7 

関連項目

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外部リンク

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