余白
余白(よはく)とは、文字通り余った白い部分。ただし漢字では余った白と表現するが、必ずしも余白の余った部分は白色ではない時もある。英語ではNegative spaceという。
タイポグラフィにおける余白
編集タイポグラフィにおけるマージン(margin)はページの上下左右端に存在する余白である[1][2]。
書籍には、写本等の手書きか印刷本かを問わず、版面を囲む上下左右端の余白がある[1][2]。これがマージンである。
分類
編集位置によって以下のように呼び分けられる[3]:
- 天(英: top edge; head): 上部マージン。読み方は「てん」あるいは「あたま」。
- 地(英: tail edge): 下部マージン。読み方は「ち」あるいは「けした」。
- ノド(英: back margin): 綴じ目側マージン
- 小口(英: fore edge): 小口側マージン
意義
編集余白には次のような存在理由がある。
- 本文の保護
- 裁断からの保護
- 傍注・側注
- 装飾
- 中世前期の福音書や中世後期の祈祷書には空白に紋章などの装飾を施すため余白を設けたものがあったが16世紀半ば以降に廃れた[2]。
- 訂正
- 印刷術が普及する前の写本では転写時の本文の訂正に余白が利用された[2]。
- 蔵書銘
- 書物の所有者などが所有権を示す記載(ownership inscription)をするのに余白が利用された[2]。
歴史
編集写本時代と印刷本の普及以後を比較すると一般的には写本時代のほうが書物の余白は大きかった[2]。印刷本の普及以後は印刷紙を節約するため余白は相対的に減ったが不都合もあったため、大型版や白紙綴じ込み本などが出版されるようになった[2]。大型版は通常版と印刷面は同一のサイズで大きく良質な紙に印刷したもので、17世紀にイギリスで出版されて以降、多くの大型版の書物が出版された[2]。また、白紙綴じ込み本は印刷面の間に白紙を綴じ込んだもので、ヨーロッパで18世紀に出版された暦(almanac)の多くは白紙綴じ込み本であった[2]。白紙を綴じ込んだ暦は判型は小さいまま書き込みの余白が必要だったため考え出されたものでポケット・ダイアリーのもとになった[2]。
美術における余白
編集絵画
編集西洋画では背景を細密に描くことで科学的な目で空間を表現することが多かったのに対し、日本画では何も描かない余白で空間の遠さや広がりが表現された[4]。
陶器
編集有田焼や九谷焼など器の世界においても余白の手法が用いられることは多い。
有田焼
編集工業製品における余白
編集プロダクトデザインの分野においても余白の兼ね合いは重要視される。スマートフォンやPC、家具に到るまで洗練されたと感じる工業製品には必ずといっていいほどこの余白を意識したものづくりがなされている。
脚注
編集出典
編集- ^ a b "マージン[margin] 出版物などのページにおいて上下左右に存在する版面以外の余白部分を指す。" 野尻 2014 より引用。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 高宮利行「余白の形態学」(慶應義塾大学藝文学会『藝文研究』第51巻、1987年)
- ^ "ノド[back margin] 本の綴じ目に沿った部分。 天[head ; top ; top edge] 本の上部。... 小口[edge ; fore edge] 仕上げ断ちした本の三方の切り口。... 地[tail edge]本の下部。" 野尻 2014 より引用。
- ^ 日本画余白の美 京都市学校歴史博物館、2020年1月25日閲覧。
参考文献
編集- 松井信義『知識ゼロからのやきもの入門』幻冬舎、2009年7月。ISBN 978-4-344-90163-6。
- 奥山清行『フェラーリと鉄瓶―一本の線から生まれる「価値あるものづくり」』PHP研究所、2007年4月。ISBN 978-4-569-65643-4。
- 野尻, 研一 (2014). “【DTPキーワード】版面の設計”. Jagat info (公益社団法人日本印刷技術協会) (2014年9月号) .
関連項目
編集- 欄外古註(スコリア) - 古代の文献の余白部に書かれた注釈