不信者たち (クルアーン)
クルアーンの第109章
不信者たち(アル・カーフィルーン、アラビア語: سورة الكافرون)とは、クルアーンにおける第109番目の章(スーラ)。6つの節(アーヤ)から成る[1]。井筒俊彦訳では「無信仰者」章となっており、井筒の弟子に当たる牧野信也も「無信仰者」章としている[2][3]。章題の「カーフィルーン」は無信仰者を示すアラビア語であるカーフィルの複数形であり、イスラームでは「神の恩恵に感謝しない者」という意味で使われる[4]。多神教を信仰する人々がムハンマドに対して多神教への信仰を求めた際に下された啓示であるとされ、多神教との絶縁を宣言した章であるこの章はわずか6節の短い章であるもののクルアーン全体の1/4にも1/3にも相当するとされている[5]。
不信者たち | |
啓示 | マッカ啓示 |
---|---|
章題の意味 | 真理には妥協がない信仰を拒否する者に対する正しい態度が教えられ、誰の信仰に対してもそれを貶したり蔑視したりしてはならない[1] |
詳細 | |
スーラ | 第109章 |
アーヤ | 全6節 |
ジュズウ | 30番 |
語数 | 27語 |
文字数 | 98文字 |
前スーラ | 潤沢 |
次スーラ | 援助 |
سورة الكافرون |
内容
編集異教徒への姿勢を示した章であり、イスラームの独自性を宣言した独立宣言であるとされる[6]。第2節の「おまえらの崇めるもの」とは偶像崇拝を示している[2]。第6節に「お前にはお前の宗教、わしにはわしの宗教」と記されているように、他者の信仰を蔑視することの禁止を含意している[1]。これは、イスラームがアッラーフより戦争を命じられるよりも以前に下された啓示であると考えられている[7]。
啓示時期
編集イスラーム学者であるテオドール・ネルデケはメッカ初期の啓示であるとしているが[8]、井筒俊彦はその内容や文体からメディナ期の啓示でありメッカ初期の啓示であるように形を整えたものであるとしている[9]。スーラの教義面に着目して啓示時期を類推したヒューバート・グリメはメッカ後期の啓示に含めている[10]。クルーアン注解書であるタフスィール・アル=ジャラーラインでは、マッカ啓示あるいはマディーナ啓示であるとして啓示時期を特定していない[5]。
脚注・出典
編集- ^ a b c 日本ムスリム情報事務所 聖クルアーン日本語訳
- ^ a b 井筒 (1991) 368頁。
- ^ 牧野 (2001) 538頁。
- ^ 後藤明. “イスラム事典データベース”. カーフィル. 日本イスラム協会/東洋文化研究所. 2013年11月10日閲覧。(原典:『イスラム辞典』 平凡社、1982年)
- ^ a b アル=マハッリー、アッ=スユーティー (2006) 626頁。
- ^ 井筒 (2013) 298-299頁。
- ^ アル=マハッリー、アッ=スユーティー (2006) 627頁。
- ^ ベル (2003) 299頁。
- ^ 井筒 (1958) 368頁。
- ^ ベル (2003) 301-302、331頁。
参考文献
編集- 井筒俊彦『コーラン(下)』岩波書店、1958年。ISBN 4-00-338133-5。
- 井筒俊彦『コーランを読む』岩波書店、2013 (原書:1983)。ISBN 978-4-00-600283-1。
- ジャラール・アッ=ディーン・アル=マハッリー、ジャラール・アッ=ディーン・アッ=スユーティー『タフスィール・アル=ジャラーライン』 第三巻、中田香織 訳、中田考 監修、日本サウディアラビア協会、2006年。
- 牧野信也 訳『ハディース IV』中公文庫、2001年。ISBN 4-12-203816-2。
- リチャード・ベル『コーラン入門』医王秀行 訳、筑摩書房、2003年。ISBN 4-480-08783-4。