三菱・クライスラーシリーズ
三菱・クライスラーシリーズは、三菱自動車工業が1972年から発売していたフラグシップスポーツセダンおよびクーペで、クライスラーのオーストラリア部門で生産していたヴァリアントを輸入して三菱ブランドで販売したものである。
オイルショックによるガソリン高・景気後退と排気ガス規制強化の影響により、わずか3年ほどしか販売されず、世に出たのは318とチャージャー770との合計でもたったの240台のみであった。
概要
編集1970年2月、当時の三菱重工業社長、牧田與一郎は、当時の通商産業省の自動車業界再編計画に対抗し、三菱ブランドによる自動車生産の存続を図るべく、電撃的にクライスラーとの合弁事業契約を締結するとともに、三菱自動車工業を分離・独立させた。これは、自動車部門の分社化と並行して外資導入を行い、意思決定の迅速化と自動車生産ノウハウの吸収を通じての企業体質強化を企図したものであった。
これに伴い、北米のクライスラーチャンネルでの三菱製自動車の販売を通じての海外事業強化を進め、加えて国内事業においてもクライスラーとの協業を通じ車種体系の強化を進めるという構想の下、本車種の導入が進められた。
1970年代前半、それまで日本メーカーによる富裕層向け最高級乗用車はトヨタ・センチュリー、日産・プレジデント、最高級ハイオーナー車はトヨタ・2000GT、日産・フェアレディZ、マツダ・コスモスポーツ、マツダ・ルーチェロータリークーペ、いすゞ・117クーペに限られていたが、日本の高度経済成長によって最高級乗用車・ハイオーナー車市場の拡大の動きがある中、三菱自動車工業は最高級乗用車の拡充・最高級ハイオーナー車市場への参入を図ったが、当時の三菱自動車工業は自社最高級乗用車の三菱・デボネアが新型6気筒SOHCエンジンを導入して間もない時期であり、開発費の回収が未達であったこともあり、新たなフルモデルチェンジは時期尚早であった。またトヨタや日産などのように最高級車を自社独自で開発するような企業体力の余裕はなかった。 そこで三菱自動車工業はクライスラーとの提携関係を活かし、子会社のクライスラー・オーストラリア製の乗用車を輸入し(オーストラリアは日本と同じ左側通行・右ハンドル)、日本の保安基準に適合するよう最小限の改造(当時日本で認可されていなかったドアミラーをフェンダーミラーにするなど)を名古屋自動車製作所で施した上で自社系販売店で販売した。
両車種ともエンジンは、5,211cc(318ci)のクライスラー・LA型OHV・V型8気筒エンジンが搭載された。これは、6−7L級エンジンが標準の当時のフルサイズのアメリカ車から見れば比較的小さな排気量(当時の米国内のコンパクトカーに近い)であったが、豪州でも最上位クラスのグレードにしか用いられなかったエンジンだったほか、およそ5mにおよぶ全長と1.9m近い全幅、更に2.9mのホイールベースでは当時の日本の道路事情から見れば過大とも思える寸法であった。当時は固定相場制で1ドルが360円だったこともあり、価格は当時の価格で318が396万円、チャージャー770が373万円。同社最高級車の三菱・デボネアの実に2倍以上であり、これにより深刻な販売不振にも陥っていた。
なお、キャッチフレーズは、318が「ビッグビジネスの国が鍛えあげたグランドサルーン」、チャージャー770が「フリーウェイの国が育てあげたグランドクーペ」であった。
クライスラー318
編集三菱・クライスラー318 | |
---|---|
1971-1973年式 クライスラー・バイ・クライスラー(豪州仕様) | |
概要 | |
販売期間 | 1972年 - 1974年 |
ボディ | |
乗車定員 | 6名 |
ボディタイプ | 4ドア セダン |
駆動方式 | FR |
パワートレイン | |
エンジン | 5.2L V型8気筒 OHV 230PS/34.0kgm(グロス)150PS(ネット) |
変速機 | 3速AT |
前 |
前:ウィッシュボーン・コイル 後:半楕円リーフリジッド |
後 |
前:ウィッシュボーン・コイル 後:半楕円リーフリジッド |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,910mm |
全長 | 4,980mm |
全幅 | 1,885mm |
全高 | 1,407mm |
車両重量 | 1,460kg |
クライスラー318はクライスラー・ヴァリアント(en:Chrysler Valiant)のリバッジモデルである。ヴァリアントの中でもVHヴァリアントと呼ばれるシリーズの最高級グレード、クライスラー・バイ・クライスラー(en:Chrysler by Chrysler、CHシリーズ)がベースとなっている。
「318」の名称は、日本へ導入されたVHヴァリアントのV8エンジン搭載オプションパッケージ「ファイアーボール318」に由来している。なお、豪州本国のヴァリアントは"Hemi 6"直列6気筒が主体で、クライスラー318に搭載されているV8エンジンは、CHクライスラー・バイ・クライスラーをはじめとする上位のグレードにしか搭載されていなかった。クライスラー318の排気量は5.2Lで、米国の排気量表示で一般的な立方インチ(キュービックインチ、ci)に換算すると、名称と同じ「318」となる。
クライスラー・チャージャー770
編集三菱・クライスラー・チャージャー770 | |
---|---|
1971-1973年式 クライスラー・ヴァリアント・チャージャー(豪州仕様) | |
概要 | |
販売期間 | 1972年 - 1974年 |
ボディ | |
乗車定員 | 5名 |
ボディタイプ | 2ドア クーペ |
駆動方式 | FR |
パワートレイン | |
エンジン | 5.2L V型8気筒 OHV 230PS/34.0kgm(グロス)150PS(ネット) |
変速機 | 3速AT |
前 |
前:ウィッシュボーン・コイル 後:半楕円リーフリジッド |
後 |
前:ウィッシュボーン・コイル 後:半楕円リーフリジッド |
車両寸法 | |
ホイールベース | 2,660mm |
全長 | 4,600mm |
全幅 | 1,885mm |
全高 | 1,407mm |
車両重量 | 1,372kg |
クライスラー・チャージャー770はヴァリアント・チャージャー(en:Chrysler Valiant Charger)のリバッジモデルである。318同様、VHと呼ばれるシリーズがベースとなっている。
「チャージャー770」の由来はヴァリアント・チャージャーの1グレードである「チャージャー 770」によるものであるが、豪州本国のVHヴァリアント・チャージャーも殆どは直列6気筒で、V型8気筒は「チャージャー 770 SE(スペシャル・エディション)」といった特別バージョンにしか搭載されていなかった。なお、豪州仕様の770 SEのV型8気筒は340立方インチ(5.6L)で、318立方インチ(5.2L)を搭載したモデルは日本向けのクライスラー・チャージャー770のみとなっている。また、豪州仕様はヘッドライトが角目2灯(+フォグランプ)となっているのに対して、クライスラー・チャージャー770はクライスラー318と同じく丸目4灯となっていた。
その後
編集三菱・クライスラーシリーズの販売終了後も、三菱は度々クライスラーや提携企業の車種の輸入販売を行なっている。1976年にはダッジ・アスペンのプリムス仕様であるプリムス・ボラーレ、1979年にはダッジ・オムニのスポーツモデルであるダッジ・オムニ024を三菱・クライスラー・オムニ024として、1988年にはヒュンダイ・エクセルをヒュンダイ1.5XL、オーストラリア三菱の三菱・マグナをマグナステーションワゴン2600として、1996年には三菱・カリスマをそれぞれ輸入車種扱いで販売している。
-
三菱・プリムス・ボラーレ(1976MY)
-
三菱・クライスラー・オムニ024(写真はプリムス・ホライズンTC3)
-
三菱・ヒュンダイ1.5XL
-
三菱・マグナステーションワゴン2600
-
三菱・カリスマ
参考文献
編集- 『三菱自動車 - 航空技術者達が基礎を築いたメーカー』三樹書房、2010年
関連項目
編集- トヨタ・センチュリー
- 日産・プレジデント
- トヨタ・2000GT
- 日産・フェアレディZ
- マツダ・コスモ
- マツダ・ルーチェロータリークーペ
- いすゞ・117クーペ
- 三菱・デボネア
- マツダ・ロードペーサー - 三菱・クライスラーシリーズ同様、オーストラリアから車体を輸入したもの。
- いすゞ・ステーツマンデビル - 三菱・クライスラーシリーズ同様、オーストラリアから車輌を輸入したもの。
- プリムス・ヴァリアント