リーマン面

連結な複素 1 次元の複素多様体

数学、特に複素解析においてリーマン面(Riemann surface)とは、連結な複素 1 次元の複素多様体のことである。ベルンハルト・リーマンにちなんで名付けられた。 リーマン面は、複素平面を変形したものと考えられる。 各点の近くで局所的には、複素平面の部分に似ているが、大域的位相は大きく異なり得る。例えば、球面トーラス、または互いに糊付けした二枚の面のように見え得る。

f(z) = √z のリーマン面

リーマン面の主要な意味合いは、正則関数をそこで定義できることである。 今日、リーマン面は正則関数、特に、平方根や自然対数等の多価関数の大域的振る舞いを研究するための自然な土台と考えられている[1][2]

全てのリーマン面は向きづけ可能な実 2 次元の実解析的多様体(従って曲面)であって、正則関数を一義的に定義するために必要な追加的構造(特に複素構造)を含む。2 次元実多様体は、それが向き付け可能な場合、かつその場合に限り、(通常は、等価でない複数の方法により)リーマン面にすることができる。従って、球面トーラスは複素構造を持ち得るが、メビウスの輪クラインの壺および射影平面は持ち得ない。

リーマン面は、でき得る限り良い特性を有しているという幾何学的事実から、他の曲線多様体または代数多様体に対し一般化の直感および動機をしばしばもたらす。リーマン・ロッホの定理は、この影響の第一の例である。

定義

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両立的な座標近傍

X連結ハウスドルフ空間とする。開部分集合 UXU から C の部分集合への同相写像 φ の組 (U, φ)を座標近傍と言う。 2 つの局所座標 (U, φ) と (V, ψ) に対して UV ≠ ∅ の場合に、座標変換 ψ o φ−1 と φ o ψ−1 が各定義域上で正則のとき、座標近傍 (U, φ) と (V, ψ) は両立的(compatible)と言う。 A が両立的な座標近傍の集まりであって、任意の xXA のある U に含まれるとき、A座標近傍系と言う。X に座標近傍系 A が与えられたとき、(X, A) をリーマン面と言う。

異なる座標近傍系であっても、X 上で本質的に同一のリーマン面の構造を引き起こすことがある。 そこで曖昧性を排除するため、X 上に与えられた座標近傍系は、他の座標近傍系に含まれないという意味で極大であることを要求することが時としてある。 ツォルンの補題により、任意の座標近傍系 A は一意に定まる極大な座標近傍系に含まれる。

  • 複素平面 C は、最も基本的なリーマン面と言えよう。恒等写像 f(z) = zC の座標近傍を定義し、{f} が C の座標近傍系である。複素共軛写像 g(z) = z*C の座標近傍を定義し {g} は C の座標近傍系になる。座標近傍 fg は両立的でないので、2 つの異なるリーマン面の構造をもたらす。実際のところ、リーマン面 X とその座標近傍系 A が与えられたとき、共軛座標近傍系 B = {f* | f ∈ A} は A と決して両立的でなく、これにより、X に異なる、両立的でないリーマン面の構造がもたらされる。
  • 同様に、複素平面の任意の開集合は、自然にリーマン面とみなすことができる。さらに、リーマン面の任意の開集合は、リーマン面である。
  • S = C ∪ {∞} とおき、  に対し f(z) = z とおき、  に対し g(z) = 1 / z とおき、1/∞ を 0 と定義する。すると、fg は座標近傍で、互いに両立的であり、{ f, g } は S の座標近傍系をなし、S はリーマン面になる。
 
この特別なリーマン面は、球面を複素平面で包んだと解することができるため、リーマン球面と言う。複素平面と異なり、リーマン球面はコンパクト空間である。
  • コンパクトなリーマン面の理論は、複素数上に定義される非特異な射影的代数曲線の理論と等価である。非コンパクトなリーマン面の重要な例は、解析接続により得られる。

出典

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  1. ^ 神保道夫. (2003). 複素関数入門. 岩波書店.
  2. ^ Ablowitz, M. J., Fokas, A. S. (2003). Complex variables: introduction and applications. Cambridge University Press.

参考文献

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  • Forster, Otto (1981). Lectures on Riemann surfaces. Graduate texts in mathematics. 81. Springer. ISBN 978-1-4612-5963-3. https://books.google.co.jp/books?id=6wvpBwAAQBAJ 
  • Bobenko, A. I. (2011). Computational approach to Riemann surfaces, Springer Science & Business Media.
  • Weyl, H., & MacLane, G. R., The concept of a Riemann surface, Courier Corporation.
  • Weyl, H., Die Idee der Riemanschen Fläche, Tuebner, 「リーマン面」, 田村二郎訳. 岩波書店.
  • Anil Nerode and Noam Greenberg (2022): Algebraic Curves and Riemann Surfaces for Undergraduates: The Theory of the Donut, ISBN 978-3-031-11616-2.
  • 岩澤謙吉:「代数函数論」、岩波書店 (1952年3月10日). (1973年に増補版)
  • 能代清:「近代函数論」、岩波書店 (1954年3月5日).
  • Siegel: Topics in Complex Function Theory, Volume I: Elliptic Functions and Uniformization Theory, John Wiley and Sons, ISBN 0-471-60844-0 (1969年).
  • Siegel: Topics in Complex Function Theory, Volume II: Automorphic and Abelian Integrals, John Wiley and Sons, ISBN 0-471-60843-2 (1971年).
  • Siegel: Topics in Complex Function Theory, Volume III: Abelian Functions and Modular Functions of Several Veriables, John Wiley and Sons, ISBN 0-471-50401-7 (1973年).
  • 楠幸男:「函数論:リーマン面と等角写像」、朝倉書店(1973年3月30日). (2011年11月20日に復刊)。
  • H. ワイル、田村二郎(訳):「リーマン面」、岩波書店、ISBN 4-00-006126-7 (1974年5月27日).
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  • 倉持善治郎:「リーマン面」、共立出版(共立全書221) (1978年7月1日).
  • 河井壮一:「代数幾何学」、培風館(1979年11月30日).
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  • 難波誠:「代数曲線の幾何学」、現代数学社、ISBN; 4-7687-0196-5 (1991年2月5日).
  • 小平邦彦:「複素解析」、岩波書店(岩波基礎数学選書)、ISBN 978-4-00-007815-3 (1991年6月27日).
  • H. F. Baker: Abelian Functions: Abel's theorem and the allied theory of theta functions, Cambridge Univ. Press, ISBN 978-0-521-49877-7 (1995年) 初版は1897年.
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    • Project Euclid で、Cornell Hist. Math Monographs から Open Access で提供されている。DOI: 10.3792/chmm/1428686976
  • 河野俊丈:「曲面の幾何構造とモジュライ」、日本評論社、ISBN 4-535-78245-8 (1997年7月30日).
  • 硲文夫:「代数幾何学」、森北出版、ISBN 4-627-03831-3 (1999年9月25日).
  • 小木曽啓示:「代数曲線論」、朝倉書店、ISBN 4-254-11598-9 (2002年4月20日).
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  • 繭野孝和:「わかりやすい 楕円関数論への入門」、天の川教育文化研究所、ISBN 978-4-904424-01-8 (2012年4月12日).
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  • 繭野孝和:「わかりやすい リーマン面と代数曲線(上)」、天の川教育文化研究所、ISBN 978-4-904424-04-9 (2016年1月22日).
  • 宮西正宜、増田佳代:「代数曲線入門」、共立出版、ISBN 978-4-320-11144-8 (2016年8月25日).
  • 髙瀨正仁:「リーマンと代数関数論:西欧近代の数学の結節点」、東京大学出版会、ISBN 978-4-13-061311-8 (2016年11月18日).
  • 今野一宏:「平面代数曲線のはなし」、内田老鶴圃、ISBN 978-4-7536-0203-2 (2017年1月31日).
  • 繭野孝和:「わかりやすい リーマン面と代数曲線(下)」、天の川教育文化研究所、ISBN 978-4-904424-05-6 (2017年4月29日).
  • 松谷茂樹:「超楕円関数への招待:楕円関数の一般化とその応用」、近代科学社、ISBN 978-4-76490700-3 (2024年7月31日).

関連項目

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