リマンの戦い

2022年ロシアのウクライナ侵攻における戦闘

リマンの戦い(リマンのたたかい、: battle of Lyman)は、2022年ロシアのウクライナ侵攻におけるドネツィク州クラマトルシク地区リマンを巡る戦闘である。

リマンの戦い
ロシアのウクライナ侵攻
ウクライナ東部攻勢
2022年5月23日 - 2022年10月2日[1]
場所ウクライナの旗 ウクライナ
ドネツィク州リマン
現況 ロシアによる占領[2][3][4][5]後、ウクライナが奪還[6]
衝突した勢力
ロシアの旗 ロシア ウクライナの旗 ウクライナ
部隊

ロシア陸軍

GRU

ウクライナ空中機動軍

ウクライナ陸軍

被害者数
不明 戦死:100人以上 捕虜:200–300人[7]
Per Russia: 捕虜:500人[10][11][12]

ウクライナ東部攻勢ドンバスの戦いで2022年5月23日から5月27日までロシア軍の攻撃を受けて占領された。2022年ウクライナ夏季の反転攻勢ウクライナ軍ハルキウ州からドネツィク州およびルハーンシク州にかけて東進し、10月1日にウクライナ軍参謀本部はリマンの解放を[13]ロシア国防省は同地からの撤退を[6]それぞれ発表。ウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは翌2日、同日時点でリマンのロシア軍は完全に掃討されたと語った[1]

背景

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ウクライナへの侵攻開始から1ヶ月後には、ロシアは、ドネツィク州の東北にあるルハーンシク州の93%を支配し[14]リシチャンシクセヴェロドネツィクといった戦略的に重要なウクライナの抗戦拠点を残すのみであると発言した。ロシアのセヴェロドネツィク占領の計画は北のルビージュネや南のポパスナで軍事的に成功を収められるかにかかっていた[15]。伝えられるところによると、4月6日頃には、ロシア軍はルビージュネの60%を占領し[16]砲撃ロケット攻撃が定期的に持続的な間隔でセヴェロドネツィクに着弾していると伝えられた[17]。翌日、ウクライナ軍の第128独立山岳強襲旅団が攻勢をかけ、ロシア軍をクレミンナから6~10キロメートル離れたところまで後退させた。伝えられるところによると、5月12日には、ロシア軍がルビージュネとVoevodivkaを占領したという[18]

5月中旬に、リマンの南でドネツ川の戦いが勃発し、ウクライナ軍はロシア軍の渡河作戦を頓挫させた[19]。ロシア軍の渡河作戦において400人から485人が戦死したと推定されている[20][21]

戦闘経過

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ロシア軍による攻勢・占領

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ロシア軍はリマン周辺での攻勢を強化し、5月23日には優勢となった。リマン北部を強襲し、少なくとも一部を占領した[22]。さらに、アウディーイウカへの砲撃を強化し、過去に占領したNovoselivkaを利用してアウディーイウカに進軍し、スラヴャンスクにつながる高速道路を奪取した[23]。翌日には都市の中心への攻撃を強化し、市街戦が勃発した。砲撃と航空戦力の支援を受けて、5月25日、ロシア軍はリマンへの攻勢を継続し、およそ70%を占領した。ウクライナ軍は南に撤退し、激しく抵抗したが、一部の兵士が包囲戦中に投降した[24]

市民の最後の避難を行い、居残りを決めた市民への物資を残して、ウクライナ軍の最後の部隊が5月26日の午後に撤退し、最後まで残った橋を破壊した[25]。ウクライナのオレクシイ・アレストビッチ大統領府顧問がリマンがロシア軍に占領されたと発言し[3]米国のシンクタンク戦争研究所がその発言を裏付けた[2]

しかし、翌日、ウクライナ国防省は都市の支配をめぐる戦いが未だに進行しているとし[3]、ウクライナ軍が南西部と北東部を確保し続けていると発言する一方で、他のウクライナ当局は中心を含むリマンのほとんどがロシア軍に占領されているとの認識を示し[26]、イギリスもまた、5月27日頃には、ほとんどがロシア軍に占領されているとした[27]。親ロシアの分離主義勢力とロシア軍は、27日と28日にそれぞれ勝利を主張した[4][28]。5月30日未明には、ウクライナ軍は、ロシア軍がリマンを制圧し、スラヴャンスクへの攻撃の準備に入ったとの認識を示した[5]

戦闘中、ウクライナ軍の第79独立空中強襲旅団の部隊で100人以上が戦死し、200人から300人が捕虜になったと報じられた[7]。他の報道では、ウクライナ軍の60人の部隊の一つでは、わずか4人しか生き残らなかったという[29]

ウクライナ軍による奪還

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ドネツィク州西北にあるハルキウ州でウクライナ軍は反撃を進め、ウクライナのゼレンスキー大統領は2022年9月14日、州のほぼ全域を解放したと宣言した[30]。ウクライナ軍はさらに東進してリマンも奪還目標に挙げられ[31]、9月30日にリマンをほぼ包囲したと発表[32]。ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、ウクライナ軍による包囲の脅威に対して、ロシア軍が「より有利な戦線へと撤退した」と述べた[6]

10月1日、ウクライナ軍はリマンを奪還したことを発表。同月7日、ドネツィク州の知事は、市内で集団墓地が発見されたことを明らかにした[33]

影響・反応

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ウクライナを軍事支援している北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は10月2日「ウクライナ軍はロシア軍を押し返す能力を実証してみせた」と、アメリカ合衆国国防長官ロイド・オースティンは「非常に勇気づけられている」とそれぞれ評価した[34]

一方、ロシア連邦を構成するチェチェン共和国ラムザン・カディロフ首長は撤退を非難し、戦術核兵器の使用を含めた「決定的な手段」を求めた[34]

脚注

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  1. ^ a b ゼレンシキー宇大統領、東部リマン市の完全解放を発表ウクルインフォルム(2022年10月2日)2022年10月6日閲覧
  2. ^ a b RUSSIAN OFFENSIVE CAMPAIGN ASSESSMENT, MAY 26”. Institute for the Study of War (26 May 2022). 28 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ27 May 2022閲覧。
  3. ^ a b c Russia squeezes Ukrainian strongholds in eastern Donbas region” (英語). AP NEWS (2022年5月27日). 28 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月27日閲覧。
  4. ^ a b “Russia claims seizure of key Ukrainian transport hub in boost for Putin”. The Daily Telegraph. (28 May 2022). オリジナルの28 May 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220528133035/https://www.telegraph.co.uk/world-news/2022/05/28/russia-claims-seizure-key-ukrainian-transport-hub-boost-putin/ 28 May 2022閲覧。 
  5. ^ a b Окупанти закріплюються в Лимані та на північно-східній і південно-східній околицях СєвєродонецькаArchived 30 May 2022 at the Wayback Machine.
    Operational update regarding the #russian_invasion on 06.00 on May 30, 2022 Archived 30 May 2022 at the Wayback Machine.
  6. ^ a b c ロシア軍がウクライナ東部・リマンから撤退「より有利な戦線へ」毎日新聞(2022年10月1日)2022年10月2日閲覧
  7. ^ a b c d e f Cooper, Tom (29 May 2022). “Ukraine War, 26–29 May 2022”. Medium. オリジナルの29 May 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220529111645/https://medium.com/@x_TomCooper_x/ukraine-war-26-29-may-2022-1c2855e4f179 29 May 2022閲覧。 
  8. ^ Exhausted Ukrainian soldiers return from eastern front”. France 24 (1 May 2022). 1 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ26 May 2022閲覧。
  9. ^ Ukraine’s Guns Are In Range Of Izium. That’s Bad News For Russia. フォーブス
  10. ^ 500 украинских боевиков сдались в плен в Красном Лимане – Марков”. novorosinform.org. 23 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ27 May 2022閲覧。
  11. ^ Армия России штурмует Лиман, сдались около 500 военных ВСУ”. newsfrol.ru. 27 May 2022閲覧。
  12. ^ Бои за Красный Лиман: города Украины постепенно берут под контроль” [Battles for Krasny Lyman: Ukrainian cities are gradually taken under control] (Russian). Baltnews (May 26, 2022). 26 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ27 May 2022閲覧。
  13. ^ ウクライナが東部要衝リマン解放 ゼレンスキー氏、さらなる奪還に意欲テレビ朝日(2022年10月2日)2022年10月6日閲覧
  14. ^ Russia claims it has taken 93% of territory of Ukraine's Luhansk region - TASS” (英語). finance.yahoo.com (25 March 2022). 21 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月21日閲覧。
  15. ^ Russia aims to capture 4 regions in new eastern offensive: Ukraine”. www.aa.com.tr (19 April 2022). 21 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月21日閲覧。
  16. ^ “Russian forces control 60% of Rubizhne town in east Ukraine, says governor” (英語). Reuters. オリジナルの1 June 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220601061623/https://www.reuters.com/news/picture/russian-forces-control-60-of-rubizhne-to-idUSKCN2LY0Y5 2022年4月8日閲覧。 
  17. ^ Sustained bombardment seen in Severodonetsk” (英語). www.barrons.com. 10 April 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年4月8日閲覧。
  18. ^ Lister, Tim; Kesaieva, Julia (13 May 2022). “Ukrainian forces lose foothold in eastern town”. CNN. オリジナルの13 May 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220513185139/https://edition.cnn.com/europe/live-news/russia-ukraine-war-news-05-13-22/h_67faa3f08da188441de767341e390737 26 May 2022閲覧。 
  19. ^ “Bloody river battle was third in three days - Ukraine official”. BBC News. (13 May 2022). オリジナルの27 May 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220527023840/https://www.bbc.co.uk/news/world-europe-61399440 28 May 2022閲覧。 
  20. ^ Growing evidence of a military disaster on the Donets pierces a pro-Russian bubble”. New York Times (15 May 2022). 16 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ。16 May 2022閲覧。
  21. ^ Russian Offensive Campaign Assessment, May 14”. Institute for the Study of War (14 May 2022). 21 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ17 May 2022閲覧。
  22. ^ Sievierodonetsk, Avdiivka, Lyman: Russians shell all over front line and kill civilians” (英語). Ukrinform. 26 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月24日閲覧。
  23. ^ “War in Ukraine: Heavy pounding on Donbas front with Russian army advancing whatever the cost” (英語). Le Monde.fr. (24 May 2022). オリジナルの26 May 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220526014501/https://www.lemonde.fr/en/international/article/2022/05/24/war-in-ukraine-heavy-pounding-on-donbas-front-with-russian-army-advancing-whatever-the-cost_5984557_4.html 2022年5月25日閲覧。 
  24. ^ Russian ground forces claim to capture Lyman city center”. Atlas News (25 May 2022). 1 June 2022時点のオリジナルよりアーカイブ26 May 2022閲覧。
  25. ^ В офисе Зеленского допустили потерю контроля над Лиманом” (ロシア語). РБК. 27 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月27日閲覧。
  26. ^ Latest Developments in Ukraine: May 27” (英語). VOA. 28 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月28日閲覧。 “Russian forces in eastern Ukraine captured the centre of the railway hub town of Lyman and encircled most of Sievierodonetsk, Ukrainian officials acknowledged on Friday, as Kyiv's forces fell back in the face of Moscow's biggest advance for weeks, though Ukraine insisted its forces were still holding firm at new defensive lines in the eastern Donbas region, Reuters reported. Ukrainian officials acknowledged that Russia had captured most of Lyman. But the defense ministry said forces were still holding out in northeastern and southwestern districts, blocking the Russians from launching an advance towards Sloviansk, a major city a half-hour drive further southwest.”
  27. ^ Russia captures strategically important town ahead of 'next stage' of Ukraine invasion: UK intelligence”. news.yahoo.com. 30 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ1 June 2022閲覧。
  28. ^ Russia takes small cities, aims to widen east Ukraine battle” (英語). AP NEWS (2022年5月27日). 27 May 2022時点のオリジナルよりアーカイブ2022年5月28日閲覧。
  29. ^ Inside the battle for Severodonetsk, where a Ukrainian unit of 60 was reduced to just 4 soldiers
  30. ^ ゼレンスキー氏、奪還の要衝訪問 ハルキウ州「ほぼ解放」宣言 朝日新聞デジタル(2022年9月16日)2022年9月27日閲覧
  31. ^ 「ルガンスク州内に進軍、集落掌握」ロイター(2022年9月20日)同日閲覧
  32. ^ ウクライナ「東部要衝の包囲完了」陥落なら露に打撃 産経新聞ニュース(2022年10月1日)同日閲覧
  33. ^ ロシア軍から解放のウクライナ東部で集団墓地、遺体180体との情報”. ロイター (2022年10月8日). 2022年10月10日閲覧。
  34. ^ a b ドネツク 要衝奪還 欧米から賞賛/ロシア側 核使用の強硬論」『朝日新聞』夕刊2022年10月3日(社会・総合面)2022年10月6日閲覧