ヨードアメーバ
ヨードアメーバ(Iodamoeba buetschlii)は、ヒトの大腸に片利共生するアメーバである。
ヨードアメーバ | ||||||||||||||||||||||||
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ヨードアメーバのシスト(トリクローム染色)
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Iodamoeba buetschlii (Prowazek, 1912[1]) Dobell, 1919[2] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
ヨードアメーバ[6] |
形態
編集栄養体は直径9-14 µm程度のアメーバで、鞭毛を持たず短い仮足でゆっくりと動く。細胞核は1つのみで核小体が明瞭である。
シスト(嚢子)はやや不規則な形状で、直径8-10 µmほど。細胞核が1つのみであることと、ヨウ素により染色される大きなグリコーゲン胞を持っていることが特徴的である。
分類
編集古典的には肉質虫亜門葉状仮足綱無殻アメーバ亜綱アメーバ目管形亜目エントアメーバ科の所属とされてきた[7][8]。しかし分子系統解析に基づけば、アメーバ動物門アーケアメーバ綱ペロミクサ目マスチゴアメーバ科の所属となる[9]。
歴史
編集チェコ出身で帝政ドイツの微生物学者スタニスラヴ・プロヴァーゼクが1911年にサバイイ島で発見し、Entamoeba williamsiと命名した[3]。ただしこの時の標本には大腸アメーバが混在していた[10] 。プロヴァーゼクは翌1912年にサイパン島の子供由来の標本からEntamoeba buetschliiと命名している[1]。このことはヨードアメーバの学名に混乱をもたらした。
ヨウ素で染色される特徴的なシストは1915年にイギリスの原生動物学者チャールズ・モーリー・ウェニヨンにより報告され[11]、彼はこれを"iodine cysts"と呼んだ。このシストとプロヴァーゼクが発見したアメーバとの関係性は1919年にオランダの寄生虫学者Steffen Lambert Brug[4]と、イギリスの原生動物学者クリフォード・ドーベル[2]がそれぞれ独立に発見した。
動物の腸管から見出されるアメーバ類は基本的にエントアメーバ科に所属させられてきたが、2013年に分子系統解析に基づいてマスチゴアメーバ科に移された[12]。
学名の問題
編集プロヴァーゼクが1911年に命名した際の標本には、大腸アメーバとヨードアメーバが混在していたため、このとき命名されたEntamoeba williamsiがどちらの生物を指しているのかが問題となる。大腸アメーバを指しているのであれば、この種小名は大腸アメーバのシノニムとなって使えず、したがって翌年に命名されたEntamoeba buetschliiに由来するIodamoeba buetschliiがヨードアメーバの学名となる。逆にEntamoeba williamsiがヨードアメーバを指しているのであれば、先に命名されたこの種小名に由来するIodamoeba williamsiがヨードアメーバの学名となる。これは1920年代に論争となっており、イギリスのドーベルは前者、アメリカ合衆国の寄生虫学者たちは後者の立場であった[5]。
参考文献
編集- ^ a b c von Prowazek, S. (1912). “Weiterer Beitrag zur Kenntnis der Entamöben”. Arch. Protistenk. 26 (2): 241-247.
- ^ a b Dobell, C. (1919). “Genus Iodamoeba Nov. Gen.”. The amoebae living in man. p. 110-121
- ^ a b von Prowazek, S. (1911). “Beitrag zur Entamoeba-Frage”. Arch. Protistenk. 20: 345-350.
- ^ a b Brug, S.L. (1919). “Endolimax Williamsi: the amoeboid form of the iodine-cysts” (pdf). Ind. J. Med. Res. 6: 386-392 .
- ^ a b Taliaferro, W.H. & Becker, E.R. (1922). “The human intestinal amoeba, Iodamoeba williamsi, and its cysts (iodine cysts)”. Am. J. Epidemiol. 2 (2): 188-207. doi:10.1093/oxfordjournals.aje.a118533 .
- ^ 用語委員会 (2018年3月). “新寄生虫和名表”. 日本寄生虫学会. 2019年11月21日閲覧。
- ^ 猪木正三 監修 編『原生動物図鑑』講談社、1981年、357-380頁。ISBN 4-06-139404-5。
- ^ Bovee, Eugene C. (1985). “Class Lobosea Carpenter, 1861”. In Lee, J.J., Hutner, S.H., Bovee, E.C. (eds.). An Illustrated Guide to the Protozoa. Lawrence: Society of Protozoologists. pp. 158-211. ISBN 0-935868-13-5
- ^ Pánek, T., et al. (2016). “First multigene analysis of Archamoebae (Amoebozoa: Conosa) robustly reveals its phylogeny and shows that Entamoebidae represents a deep lineage of the group”. Mol. Phylogenet. Evol. 98: 41-51. doi:10.1016/j.ympev.2016.01.011.
- ^ Brug, S.L. (1921). “Die Jodzysten”. Archiv für Schiffs- und Tropen-Hygiene 25: 47-58 .
- ^ Wenyon, C.M (1915). “Observations on the Common Intestinal Protozoa of Man: Their Diagnosis and Pathogenicity” (pdf). J. R. Army Med. Corps 25 (6): 600-632. doi:10.1136/jramc-25-06-02 .
- ^ Ptáčková, E., et al. (2013). “Evolution of Archamoebae: Morphological and Molecular Evidence for Pelobionts Including Rhizomastix, Entamoeba, Iodamoeba, and Endolimax”. Protist 164 (3): 380-410. doi:10.1016/j.protis.2012.11.005.