ミオパチー
定義
編集ミオパチー(ラテン語・英語・Myopathy):筋疾患とは、骨格筋障害であり、その原因が筋自体にあって神経性でないものの総称である。[1]
分類
編集主な筋疾患
編集筋そのものの異常であっても、筋細胞の異常、エネルギー代謝異常(先天性・後天性)、炎症性に細別できる。
筋細胞の異常によるもの
編集- a)デュシェンヌ型筋ジストロフィー
- b)ベッカー型筋ジストロフィー
- c)肢帯型筋ジストロフィー
- d)顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
- e)眼筋咽頭型筋ジストロフィー
- f)エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィー
- g)先天性筋ジストロフィー
- h)遠位型筋ジストロフィー(遠位型ミオパチー)
- i)筋強直性ジストロフィー
- a) 縁取り空胞型遠位型ミオパチー
- b) 三好型遠位型ミオパチー
- c) 眼咽頭型遠位型ミオパチー
- d) Welander型遠位型ミオパチー
- a) ネマリンミオパチー
- b) ミオチューブラーミオパチー
- c) 還元小体ミオパチー
- d) セントラルコア病
- e) 先天性筋線維タイプ不均等症
エネルギー代謝の異常によるもの(先天性)
編集ミトコンドリアミオパチー(Mitochondrial Myopathy)
編集エネルギー代謝の異常によるもの(後天性)
編集甲状腺中毒性ミオパチー(Thyrotoxic Myopathy)
編集- a) 甲状腺中毒性四肢麻痺
- b) 甲状腺中毒性周期性四肢麻痺
- c) 甲状腺機能低下ミオパチー
ステロイドミオパチー(Steroid Myopathy)
編集アルコール性ミオパチー(Alcoholic Myopathy)
編集炎症性のもの
編集- 炎症性ミオパチー(Inflammatory Myopathies)
- a) 封入体筋炎
- b) 皮膚筋炎
- c) 多発筋炎
- d) サルコイドミオパチー
主な神経筋接合部疾患
編集Lambert-Eaton症候群
編集ミオパチーの所見
編集ミオパチーにはいくつかの特徴的な所見が知られている。
問診
編集病歴ではADL障害、学校体育の状況、健康診断での異常、家族歴、既往歴などに特徴がある。しばしば脳神経麻痺を伴う疾患もあるので下記以外も問診することが必要である。
- ADL障害
- 主に近位筋や体幹筋の筋力低下、眼球運動障害や嚥下障害に関して聴取する。
- 階段昇降が難しい。
- 歩いていて腰が落ち着かない。
- 低い椅子やトイレから立ち上がれない。
- ドライヤーで十分に髪を乾かせない。
- 髪をとかしにくい。
- 重いものを持ち上げにくい。
- 洗濯物を干しにくい
- 寝ている時に頭が持ち上げられない。
- つり革を握った手がパッと離せない。
- ものが二重にみえる。
- 飲み込みにムセが生じてしづらい。
- 話すと声が鼻にぬける。
- 学校体育での状況
- 発症時期を特定するのには体育の状況の聴取が重要である。特に以下の病歴が参考になる。
- 徒競走が飛び抜けて遅かった。
- 逆上がりができなかった。
- 跳び箱が飛べなかった。
- 運動後筋痛が長く続いた。
- 健康診断の異常
-
- 肝機能障害
- 心筋症や不整脈の指摘
- 家族歴
-
- 若い頃から杖を用いて歩いている親戚がいる。
- 若い頃から車椅子を用いている親戚がいる。
- 血族婚がある。
- 既往歴
- 不整脈、心筋症、てんかん、膠原病、網膜症、低身長、難聴など筋疾患では多様な既往歴をもつものがいる。
身体所見
編集- 徒手筋力検査
- この節の加筆が望まれています。
- 筋萎縮、筋肥大
- 肩関節を外転し外方挙上位や前方挙上位によって僧帽筋の評価ができる。僧帽筋や翼状肩甲を確認することで顔面肩甲上腕型ジストロフィーなどの肩甲帯をおかす疾患の評価がしやすくなる。側頭筋萎縮は特徴的なミオパチー顔貌をしめす。下腿の仮性肥大などにも注意をはらう。
- 歩行
- 動揺性歩行は筋疾患でみられる代表的な歩行異常である。腰帯筋筋力低下によって起こる歩行異常である。つま先歩きの障害は脛骨神経麻痺などの他に遠位型ミオパチーのひとつの三好型ミオパチーによる腓腹筋障害の可能性がある。また、踵歩きができない場合は遠位型ミオパチーの縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーによる前脛骨筋槽外の可能性がある。
- しゃがみ立ち
- 登攀性起立やガワーズ徴候が知られる。
- ミオトニア
- 筋肉の打診で叩打性ミオトニアや把握性ミオトニアが有名である。弛緩させた骨格筋を叩打すると数秒にわたり筋の一部の膨隆が観察されるこれを筋膨隆現象(mounding phenomenon)と呼ばれ甲状腺機能低下症で見られる。
- 筋把握痛
- 筋炎など演奏性筋疾患では筋把握痛が認められる。
- 眼瞼下垂
- 眼瞼下垂は動眼神経麻痺による眼瞼挙筋麻痺で生じることが多いが筋疾患でも起こることがある。上眼瞼の下端が瞳孔上縁にかかるかどうかがポイントとなる。外眼筋麻痺もミトコンドリア病、眼咽頭型筋ジストロフィー、外眼筋炎、甲状腺眼症などの筋疾患が鑑別にあがってくる。
- 眼輪筋、口輪筋
- 眼輪筋、口輪筋麻痺は顔面神経麻痺のほか、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーをはじめ多くのミオパチーで認められる。
- 脊椎の屈曲制限
- 坐位や立位で首の前屈や体幹の前屈の屈曲制限がある場合がある。rigid-spine症候群(強直性脊椎症候群)といわれる。
検査所見
編集- 血清クレアチンキナーゼ
- →詳細は「クレアチンキナーゼ」を参照
- 筋疾患と心疾患の鑑別のためしばしばアイソザイムの分析が行われる。CK-MBでも骨格筋由来が正常でも5%程度認められる、骨格筋は筋再生時にはCK-MBが産出されることが知られている。この場合はトロボニンTなども同様に産出される。特に皮膚筋炎、多発性筋炎の活動期にはCKの25%がCK-MBとなることもある。上記疾患の合併症に心筋炎が認められることもあるため心臓超音波検査の併用が必要である。
- ミオグロビン尿
- ミオグロビン尿は潜血が強陽性でありながら沈渣で赤血球の増加がない点が特徴である。ヘモグロビン尿とはハプトグロブリンが低下していない点、筋痛、筋力低下などの筋症状を合併していることで判断できる。
診断 尿潜血反応 尿沈渣 血液生化学 血尿 陽性 赤血球増加 ミオグロビン尿 陽性 正常 ハプトグロブリン正常、CK上昇 ヘモグロビン尿 陽性 正常 ハプトグロブリン低下、ビリルビン上昇、CK正常 ボルフィリン尿 陰性 正常
ミオパチーの臨床像
編集筋力低下のパターンには間欠性と持続性の2種類がある。間欠性筋力低下では筋無力症、周期性四肢麻痺、高カリウム血症、先天性パラミオトニア、解糖系の代謝エネルギー欠乏(糖原病の一部)、脂肪酸代謝異常(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損)、ある種のミトコンドリアミオパチーで認められる。筋型糖原病である糖原病V型(McArdle病)、VII型(Tarui病)では労作時筋痛、筋硬直を示し高CK血症とミオグロビン尿を認めるのが特徴である。
筋ジストロフィの各病型、多発筋炎および皮膚筋炎のほとんど筋障害では持続性の筋力低下を示す。通常は腱反射や感覚は保たれる。近位筋が遠位筋よりも強く対称性に障害され、顔面筋は障害されない肢体(limb-girdle)型の筋力低下を起こすことが多い。これ以外の筋力低下の分布を示す場合は鑑別診断はもっと絞り込むことができる[3]。顔面の筋力低下(閉眼困難、笑顔がつくれない)と翼状肩甲は顔面肩甲上腕型ジストロフィーに特徴的な所見である。顔面の筋力低下や把握性ミオトニアを伴う遠位筋優位の筋力低下は筋強直性ジストロフィーI型に特徴的な所見である。眼瞼下垂や外眼筋の筋力低下を起こすような脳神経障害をみた場合、脳神経接合部疾患、眼咽頭筋ジストロフィー、ミトコンドリアミオパチー、先天性ミオパチーなどを考慮する。封入体筋炎では手首と手指の屈曲を行う前腕屈筋群や大腿四頭筋の萎縮と筋力低下がしばしば非対称性に起こる。四肢遠位筋優位の筋力低下では遠位型ミオパチーが知られている。頸部伸筋の筋力低下を示唆する首下がり症候群(drop head syndrome)は頻度は少ないが診断学的に重要な徴候である。この分布と関連した最も重要な神経筋疾患には重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、遅発性ネマリンミオパチー、副甲状腺機能亢進症、限局性筋炎、ある種の封入体筋炎である。筋力低下の分布に関しては機能障害を疑うエピソードから調べていくことが重要である。
機能障害 | 筋力低下 |
---|---|
眼を強く閉じることができない | 上顔面筋 |
唇を尖らすことができない | 下顔面筋 |
腹臥位で頭を持ち上げることができない | 頸部伸筋 |
仰臥位で頭を持ち上げることができない | 頸部屈筋 |
腕を頭上に持ち上げることができない | 上肢近位筋(肩甲骨固定筋のみの場合もある) |
膝を過伸展(反跳膝)させずに歩くことができない | 膝の伸筋 |
踵を床につけて歩くことができない(つま先歩行) | アキレス腱の短縮 |
足を持ち上げて歩くことができない(鶏歩または下垂足) | 下腿の前区間 |
よたつかずに歩くことができない(動揺性歩行) | 殿筋 |
下肢に手をあて、よじ登ろうとしないと床から起き上がれない(Gowers徴候) | 殿筋、大腿筋、体幹筋 |
腕を使わないと椅子から立ち上がれない | 殿筋 |
治療法
編集ミオパチーは種類が多く原因も多岐にわたっている。したがって、治療法もそれぞれ異なってくるが、根本的な治療法がないものも多い。近年、筋ジストロフィーをはじめとする筋疾患のモデル動物の作製、治療法の開発が積極的に行われつつある。また、iPS細胞の開発は再生医療に大きなインパクトを与えたが、まだまだ発展途上の段階であり、本格的に臨床応用されるまでにはかなりの時間を要するものと考えられている。