マラヤーラム文字(マラヤーラムもじ、マラヤーラム語: മലയാളലിപി, malayāḷalipi、: Malayalam script)は、インド南部の主にケーララ州で話されているマラヤーラム語を筆記するために使用される文字。歴史的にはグランタ文字タミル文字及びヴァッテルットゥ文字の影響が加わって出来た文字である。現行の字母表については、しばしば、17世紀頃(文献によっては16世紀)に活躍した詩人トゥンチャットゥ・ラーマーヌジャン・エルッタッチャン(തുഞ്ചത്ത് രാമാനുജൻ എഴുത്തച്ഛൻ, Tuñcattŭ Rāmānujan Eḻuttacchan)の功績により普及したとされ、彼は文学上の業績を称える意味も含めてマラヤーラム語の父と呼ばれ、敬愛されている[1][2]。それ以前には、一般には、マラヤーラム語の表記にはヴァッテルットゥが用いられた。現在に近いマラヤーラム文字体系が完成したのちでも、ヴァッテルットゥ及びその変種は19世紀頃まで完全には廃れなかった。

マラヤーラム文字
類型: アブギダ
言語: マラヤーラム語
時期: 11~12世紀頃から
親の文字体系:
姉妹の文字体系: トゥル文字英語版
シンハラ文字
タミル文字
Unicode範囲: U+0D00-U+0D7F
ISO 15924 コード: Mlym
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。
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現在のアルファベットは、マラヤーラム語本来の音素とサンスクリットの音素の両方について、グランタ文字を基礎としているが、そこにないഴ, റなどはヴァッテルットゥから取られた可能性がある。ヴァッテルットゥの影響か歴史的な筆記媒体の制約のためか、角張った部分の少ない曲線的な字形が多い。マラヤーラム語はサンスクリットから強い影響を受けた言語で、結果的にデーヴァナーガリーの基本文字に対応する全文字を持っている(ただしr̥̄に対応する文字などは現代では事実上消滅)。そのため文字数は、言語的に姉妹のはずのタミル語の文字数と比べ、かなり多くなっている。ただしタミル文字が特に文字数が少ないだけで、マラヤーラム文字が異様に多い訳ではない。また文字の約半分は主にサンスクリット系の雅語を書くときにだけ必要になるもので、それらの語彙の中には日常語化しているものも若干あるとはいえ、概して日常一般に常用される文字は文字表を眺めて感じるほど多くない。もっとも他方において、基本字母表にはない合字が数十種程度(伝統的正書法ではさらに多数)常用される。

マラヤーラム文字はアブギダで、左から右へ書かれる。子音文字はデフォルトで短い a の母音(正確な発音は [ɐ] だが、以下簡略化のため /a/ で示す)を伴い、そのままの状態で「子音 + a」の音節を表す。この場合、母音記号は必要ない。母音が短い a 以外の「子音 + 母音」の音節を表す場合は、母音記号が併用される。36種の子音文字と13種(現在使われない物も含めれば16種)の母音文字、そのほか若干の記号が文字体系に含まれる。

マラヤーラム文字は半体符号や子音結合字などが複雑に絡み合って形成されるために「わかりにくい文字体系」と評される[3]。たとえば、 /ka/、 //、 /r/ という文字を使って /kka/ 、/ṅka/、/kra/ という組み合わせを作る場合、字形はそれぞれ ക്ക, ങ്ക, ക്ര というようになる。

母音

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  • 以下に示す母音記号のうち括弧で囲んだ表記は1971年以前に使用されていた旧表記である。
母音の独立形 対応する母音記号 母音記号使用例 転写 IPA表記
なし a [a](より正確にはɐ
കാ ā [aː]
ി കി i i
കീ ī [iː]
കു( ) u u
കൂ ū [uː]
കൃ [rɨ]
◌ ൢ കൢ [lɨ]
കെ e e
കേ ē [eː]
കൈ ai [ai]
കൊ o o
കോ ō [oː]
ൗ(ൌ) കൗ(കൌ) au [au]

子音

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文字 転写 IPA表記 音名 備考
ka [ka] 無声軟口蓋破裂音 日本語のカ
kha [kʰa] 無声有気軟口蓋破裂音 日本語のカ、息を出す
ga [ɡa] 有声軟口蓋破裂音 日本語のガ
gha [ɡʱa] 有声有気軟口蓋破裂音 日本語のガ、息を出す
ṅa [ŋa] 軟口蓋鼻音 鼻濁音のガ
ca [tʃa] 無声歯茎破擦音 日本語のチァ
cha [tʃʰa] 無声有気歯茎破擦音 チァ、息を出す
ja [dʒa] 有声歯茎破擦音 日本語のジャ
jha [dʒʱa] 有声有気歯茎破擦音 日本語のジャ、息を出す
ña [ɲa] 硬口蓋鼻音 日本語のニャ
ṭa [ʈa] 無声そり舌破裂音 奥で発音するタ
ṭha [ʈʰa] 無声有気そり舌破裂音 奥で発音するタ、息を出す
ḍa [ɖa] 有声そり舌破裂音 奥で発音するダ
ḍha [ɖʱa] 有声有気そり舌破裂音 奥で発音するダ、息を出す
ṇa [ɳa] そり舌鼻音 奥で発音するナ
ta [t̪a] 無声歯破裂音 歯の裏で発音するタ
tha [t̪ʰa] 無声有気歯破裂音 歯の裏で発音するタ、息を出す
da [d̪a] 有声歯破裂音 歯の裏で発音するダ
dha [d̪ʱa] 有声有気歯破裂音 歯の裏で発音するダ、息を出す
na [n̪a] 歯鼻音 歯の裏で発音するナ
pa [pa] 無声両唇破裂音 日本語のパ
pha [pʰa] 無声有気両唇破裂音 日本語のパ、息を出す
ba [ba] 有声両唇破裂音 日本語のバ
bha [bʱa] 有声有気両唇破裂音 日本語のバ、息を出す
ma [ma] 両唇鼻音 日本語のマ
ya [ja] 硬口蓋接近音 日本語のヤ
ra [r̪a] 歯ふるえ音  
la [la] 歯茎側面接近音 英語のla
va [ʋa] 唇歯接近音  
śa [ɕa] 無声歯茎硬口蓋摩擦音 日本語のシャ
ṣa [ʃa] 無声後部歯茎摩擦音 英語のsh
sa [sa] 無声歯茎摩擦音 英語のsa
ha [ɦa] 有声声門摩擦音  
ḷa [ɭa] そり舌側面接近音 奥で発音するla
ḻa [ɻa] そり舌接近音  
ṟa [ra] 歯茎ふるえ音  

子音結合

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  • 現行の正書法ではヴィラーマを用いて子音結合を表現することが多いが、以下のように例外を多く含む。
    • 子音+(l)はを変形させ、下側に配置する。(例:ക്ല(kla))。
    • 子音+(r)はを変形させ、左側に配置する。(例:ക്ര(kra))。旧表記では尾のような線を加えて表記した(例: )
    • 子音+(y)はを変形させ、右側に配置する(例:ക്യ(kya))。ただし、を連続させるときは例外的な形になる(യ്യ)。
    • 子音+(v)もを変形させ、右側に配置する(例:ക്വ(kva))。ただし、を連続させるときは例外的な形になる(വ്വ)。

数字

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マラヤーラム数字  
アラビア数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9

コンピュータ

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Unicode

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Unicode では、以下の領域に次の文字が定義されている。

U+ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
0D00
0D10
0D20
0D30 ി
0D40
0D50
0D60  ൢ  ൣ
0D70 ൿ

キーボード

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Windowsのマラヤーラム語キーボードの配列は以下の通り。

 
赤字部分は「AltGr(右Alt)」を用いて入力。[Shift]+[7]のക്ഷは、ക്‌ഷの合字。このほか、[Ctrl]+[Shift]+[1]と[Ctrl]+[Shift]+[2]でZWJZWNJ(ある種の字形の表示などに関係する制御文字)をそれぞれ入力できる。[Shift]+[AltGr]によりൠ, ൡ, ഌも入力可能。

脚注

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  1. ^ Thunchathu Ezhuthachan”. Information & Public Relations Department, Government of Kerala. 2009年10月29日閲覧。
  2. ^ Malayalam Script Details” (PDF). विश्वभारत @ tdil. Department of Information Technology, Government of India (2002年4月). 2009年9月24日閲覧。
  3. ^ 世界の文字研究会 編『世界の文字の図典』(普及版)吉川弘文館、2009年、271頁。ISBN 978-4-642-01451-9