マジカル・ニグロ

マジカル・ニグロ(Magical Negro)は白人の主人公を助けるストックキャラクター的な黒人を指す言葉であり、通常は洞察力や特殊な力を持つ存在として描かれる。アメリカ映画においては古くか

マジカル・ニグロ(Magical Negro)は特にアメリカ映画において白人主人公を助けに現れるストックキャラクター的な黒人のことである[1][2]。しばしばすぐれた洞察力や不思議な力を持った存在として描かれるマジカル・ニグロはアメリカにおいて長い伝統を持つキャラクター類型である[3]

マジカル・ニグロはステレオタイプな黒人像と密接な関係にある(画像はウィリアム・H・ウエストのミンストレル・ショーのポスター)

しかし、現代に入ってもこうした摩訶不思議なキャラクターが使われ続けることに不快感を表明する者が多く、アメリカの黒人社会はその代表的存在である。2001年にもワシントン州立大学イエール大学で映画論を教えるスパイク・リーは、大前提であるかのようにマジカル・ニグロを手法として使い続けるハリウッドに肩を落としている。リーによれば、例えば2000年の映画『バガー・ヴァンスの伝説』は、いまなお「超一流のマジカル・ニグロ」を登場させている[4][5][6]

批評家が「ニグロ」という言葉を使うのは、それがすでに時代遅れであり、ときに侮辱的でもあるからである。つまり白人を助けるために献身的に立ち回る「魔法のような黒人」というキャラクターは、サンボや高貴な野蛮人といった、人種を表現する上でのステレオタイプにも通じる反動的な存在であるというメッセージが明確に示されているのである[3]

類型

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フィクション

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グリーンマイル』(1999年)でマイケル・クラーク・ダンカンが演じたコーフィはマジカル・ニグロの典型である[7]

典型的なマジカル・ニグロは「何らかの形で外面あるいは内面に欠陥を抱えており、差別を受けているか、身体が不自由であるか、社会的に抑圧されているかのいずれか」である。たいていは用務員か受刑者であるが常にそうであるわけではない[8] 。そしてマジカル・ニグロには「過去」がない。白人の主人公を救うためにある日突然現れるのである[9][10]。そして何か魔法のような力を持っているのがふつうで、「定義は曖昧になるが、少なくとも普通に暮らしていたら出会うような人物ではない」[9]。我慢強く、博学でその知性を形容する言葉は多岐にわたり、さらには「地球に寄り添う」存在である[5]

マジカル・ニグロは困難にある主人公を救い出し、物語を展開させる装置となる。典型的な例として、自分の過ちを見つめ直し、それを乗り越えようとする白人を手助けする黒人が挙げられる[5] 。また不思議な力を持ってはいるのだが、その「魔法は登場人物の白人男性を支え、啓蒙するという名目でしか使われない」[8]。「そういった力は、だらしなく無教養で、自分を見失ったか身体を壊した白人(ほぼ例外なく白人男性)を救い、成功をおさめ満ち足りた優秀な人間に変身させるために使われる。贖罪と救済というアメリカの神話がその背後にはある」[11] 。そしてここにマジカル・ニグロの最も厄介な問題があるといわれている。つまり黒人を肯定的なキャラクターとして描いているようにみえても、結局このわかりやすい見取り図の中で黒人は白人に従属的であり続けているのである。この「好ましい」黒人は、『手錠のまゝの脱獄』というマジカル・ニグロの先駆的な映画でシドニー・ポワチエがそうであったように、白人の主人公を救うためなら自らを犠牲にすることもいとわない[5]。しかし当のアメリカ人男性には「黒人も個人としてなら好ましいが黒人の文化一般はそうではない」ことをよしとする存在でもある[11][12]

マジカル・ニグロの定義には、黒人だけでなく、ネイティブ・アメリカンなど、その他の有色人種もしばしば含まれる[13]

ノンフィクション

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2007年3月、アフリカ系アメリカ人の評論家デビッド・エーレンシュタインは「マジック・ニグロとしてのオバマ」と題した文章をロサンゼルス・タイムズに寄稿した[14]。この記事はパロディ作者のポール・シャンクリンにインスピレーションを与え「バラク・ザ・マジックニグロ」という歌まで書かせた。この歌はラッシュ・リンボーのラジオ番組で放送されている[15]

2008年のクリスマスにはテネシー州共和党議員チップ・ソルツマンが共和党全国委員会(RNC)の委員長選挙が行われている間、RNCのメンバーにこの歌が収録された41トラックのCDを送りつけている[16]。これについては共和党と民主党の両党で議論が起こり、結果としてソルツマンは投票前日に選挙から撤退しなければならなくなった[17][18]

関連項目

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脚注

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  1. ^ Christopher John Farley (2000年5月27日). “That Old Black Magic”. Time. http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,998604,00.html 2007年2月3日閲覧. "In The Legend of Bagger Vance, one of the more embarrassing movies in recent history, Will Smith plays a magical black caddie who helps Matt Damon win a golf tournament and the heart of Charlize Theron. ... The first is the Magical African-American Friend. Along with Bagger Vance, MAAFs appear in such films as , the upcoming Family Man (co-starring Don Cheadle) and last year's prison drama The Green Mile." 
  2. ^ 「マジカル・ニグロ」、米ハリウッド映画に見る人種差別問題、AFPBB News、2017年8月22日。
  3. ^ a b Jones, D. Marvin (2005). Race, Sex, and Suspicion: The Myth of the Black Male. Westport, Conn.: Praeger Publishers. pp. 35. ISBN 0-275-97462-6. OCLC 56095393 
  4. ^ Kempley, Rita (June 7, 2003). “Too Too Divine: Movies' 'Magic Negro' Saves the Day – but at the Cost of His Soul”. 2012年3月17日閲覧。
  5. ^ a b c d Okorafor-Mbachu, Nnedi (2004年10月25日). “Stephen King's Super-Duper Magical Negroes”. Strange Horizons. http://www.strangehorizons.com/2004/20041025/kinga.shtml 2006年12月3日閲覧。 
  6. ^ Gonzalez, Susan (2001年3月2日). “Director Spike Lee slams 'same old' black stereotypes in today's films”. Yale Bulletin & Calendar (Yale University). オリジナルの2009年1月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090121190429/http://www.yale.edu/opa/arc-ybc/v29.n21/story3.html 2008年12月29日閲覧。 
  7. ^ Wilmore, Larry (2010年1月19日). “The First 364 Days 23 Hours”. 2011年2月24日閲覧。
  8. ^ a b Hicks, Heather J. (2003-09-01). “Hoodoo Economics: White Men's Work and Black Men's Magic in Contemporary American Film”. Camera Obscura (Camera Obscura) 18 (2): 27–55. doi:10.1215/02705346-18-2_53-27. http://www.accessmylibrary.com/coms2/summary_0286-24435280_ITM 2007年2月3日閲覧。. 
  9. ^ a b Colombe, Audrey (October 2002). “White Hollywood's new Black boogeyman”. Jump Cut: A Review of Contemporary Media (45). http://www.ejumpcut.org/archive/jc45.2002/colombe/ 2006年12月3日閲覧。. 
  10. ^ Persons, Georgia Anne (2005). Contemporary Patterns of Politics, Praxis, and Culture. New Brunswick, NJ: Transaction Publishers. pp. 137. ISBN 1-4128-0468-X. OCLC 56510401 
  11. ^ a b Hughey, Matthew (2009年8月). “"Cinethetic Racism: White Redemption and Black Stereotypes in 'Magical Negro' Films."”. Social Problems (3): pp. 543-577 
  12. ^ Gabbard, Krin (2004). Black Magic: White Hollywood and African American Culture. New Brunswick, NJ: Rutgers University Press. pp. 173. ISBN 0-8135-3383-X. OCLC 53215708 
  13. ^ http://www.strangehorizons.com/2004/20041025/kinga.shtml "Stephen King's Super-Duper Magical Negroes" Nnedi Okorafor-Mbachu]
  14. ^ Ehrenstein, David (2007年3月19日). “Obama the 'Magic Negro'”. Los Angeles Times. http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-ehrenstein19mar19,0,5335087.story?coll=la-opinion-center 2010年5月12日閲覧。 
  15. ^ DeParle, Jason (2008年12月28日). “G.O.P. Receives Obama Parody to Mixed Reviews”. New York Times. http://www.nytimes.com/2008/12/28/us/politics/28rnc.html?hp 
  16. ^ Andy Barr (December 30, 08). “"'Magic Negro' flap might help Saltsman"”. www.politico.com]. 09-02-01閲覧。
  17. ^ Stein, Sam (January 29, 2009). “Chip Saltsman Withdraws From RNC Race After 'Magic Negro'l Star Spanglish Banner' Stirs”. Huffington Post. https://www.huffpost.com/entry/star-spanglish-banner-rnc_n_162249 
  18. ^ Nagourney, Adam (January 29, 2009). “Candidate Linked to Obama Parody Song Leaves Race for G.O.P. Chairman”. New York Times. http://www.nytimes.com/2009/01/30/us/politics/30chair.html 

外部リンク

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