ポズナン市電ポーランド語: Tramwaje w Poznaniu)は、ポーランドの都市・ポズナン路面電車高速路線ポズナン高速トラムポーランド語版を含めポズナン市内に大規模な路線網を有しており、2023年現在は路線バス軽便鉄道マルタンカ公園鉄道ポーランド語版)と共に、ポズナン市交通局ポーランド語版(Zarząd Transportu Miejskiego w Poznaniu、ZTM)の管理のもと、ポズナン市が所有するポズナン市交通会社ポーランド語版(Miejskie Przedsiębiorstwo Komunikacyjne w Poznaniu Sp. z o.o.、MPK Poznań Sp. z o.o.)によって運営が行われている[9][2]

ポズナン市電
最新鋭車両のモデルス・ガンマ (2019年撮影)
最新鋭車両のモデルス・ガンマ
2019年撮影)
基本情報
ポーランドの旗 ポーランド
ヴィエルコポルスカ県
所在地 ポズナン
種類 路面電車[1][2][3][4][5]
路線網 16系統(営業系統)+2系統(観光系統)[1][6][7][8]
開業 1880年馬車鉄道
1896年路面電車[1][3][4][5]
車両基地 3箇所(2023年現在)[9]
路線諸元
軌間 1,435 mm[4]
複線区間 全区間[5]
電化区間 全区間
電化方式 直流600 V
架空電車線方式[10]
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歴史

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ポズナン市内における最初の軌道交通となったのは、1880年7月31日に開通した、ポズナン駅と旧市場広場(Starym Rynkiem)を結ぶ馬車鉄道であった。この路線は開通直後の9月以降随時路線網を拡大し、1897年時点で全長6 km・2系統の路線網が築かれていた。運営事業者については、開通当初ドイツベルリンに本社を置くレイマー&マッシュ社( Reymer & Masch)が運営していたが、開通直後の8月にポズナン馬車鉄道合資会社(Posener Pferde-Eisenbahn-Gesellschaft)が設立され、同社に運営権が移管されている[1][2][3][5]

その後、これらの馬車鉄道を最新鋭の交通機関である路面電車へ置き換える計画が立ち上がり、1896年に運営事業者はポズナン電気軌道会社(Posener Strassenbahn)へ社名を変更し、馬車鉄道は1898年3月5日をもって廃止された。そして翌日、3月6日の路面電車が開通し、以降ポズナン市内では路面電車網の大規模な拡張が続けられた。1900年代に入ると市内のみならず郊外地域にも路線網を広げ、1900年時点で全長12 km・5系統だった路線網は1913年には22 km・9系統にまで拡大した。車両については、電化当初から乗降扉がないオープンデッキの2軸車の導入が続いたが、1914年以降は乗降扉が設置された車両が営業運転に投入されている。一方、同年には運営組織がポズナン市の子会社となり、1921年に正式名称がポーランド語表記(Poznańska Kolej Elektryczna S.A.、PKE)に変更されている[1][2][5][3][11]

第一次世界大戦を経た1920年代後半以降、更に路線網の拡張が続いた一方で、既存の路線についても線路の移設や複線化工事が実施された。1938年の時点で営業キロ31 km・11系統の路線網となり、車両数も電動車106両・付随車67両を記録した。だが第二次世界大戦期、ナチス・ドイツの占領下に置かれたポズナン市内は戦乱に巻き込まれ、特に1945年1月から2月にかけての戦闘では路面電車網も甚大な被害を受け、営業運転の一時休止を余儀なくされた。これらの路線の復興が始まったのは終戦直後の3月以降で、戦前の路線のほとんどが修復されたのは1947年となった。また、同年にはガーバリー(Garbary)方面の区間の新規建設も行われ、同年時点で営業キロ28 km・12系統の路線網を記録した[1][3][2][5]

その後、従来の株式会社からポズナン市の公営企業となった運営組織は、1951年に「都市交通会社(Miejskie Przedsiębiorstwo Komunikacyjne、MPK)」に社名を改めた。そして社会主義時代、公共交通機関の拡充が続く中でポズナン市電でも都市計画の進展と共に新規区間の建設が継続して実施された。特に1970年から1973年には市内を囲む環状区間が開通し、1985年にはラタジ(Rataj)の住宅団地と市内中心部を結ぶ路線の営業運転が始まっている。既存の区間についても線路の移設や複線化が継続して行われ、1979年以降ポズナン市電は全区間が複線となっている[1][2][5][12][13]

ポーランドの民主化後もポズナン市内では路面電車(ポズナン市電)が重要な交通機関と位置付けられており、継続的な延伸や近代化が進められている。特に1997年には、全線が道路と分離されたライトレール路線のポズナン高速トラムポーランド語版(Poznańskim Szybkim Tramwajem)が開通し2013年には延伸も実施されている他、2012年には初となる地下区間が導入されている。2016年時点でもポズナン市電では複数の延伸計画が存在しており、その中で同年時点の優先事項として建設が行われた北部のナラモヴィツェポーランド語版方面の路線は2021年から2022年にかけて順次開通している。また、後述のようにバリアフリーに適した超低床電車の導入も積極的に行われている。運営組織については、2000年にそれまでの市営企業から有限責任会社へと改められている[1][14][15]

系統

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営業系統

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2023年現在、ポズナン市電では以下の系統での営業運転が行われている。ただし、線路や施設の改修・近代化工事の状況により、一部区間の運行停止や代行バスの運用が随時行われるため注意を要する[6][16][17]

系統番号 起点 終点 備考
1 Franowo Junikowo
2 Ogrody Dębiec PKM
3 Błażeja Słowiańska
5 Górczyn PKM Unii Lubelskiej
6 Junikowo Miłostowo
7 Ogrody Zawady
8 Ogrody Górczyn PKM
9 Aleje Marcinkowskiego Dębiec PKM
10 Dębiec PKM Błażeja
11 Unii Lubelskiej Piątkowska
12 Połabska Starołęka PKM
13 Starołęka PKM Aleje Marcinkowskiego
14 Górczyn PKM Piątkowska
15 Połabska Junikowo
18 Ogrody Franowo
98 Zawady Pl. Wielkopolski

観光系統

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ポズナン市電では、通常の営業運転を行う系統に加えて、動態保存されている車両を用いた観光系統の運行も実施されている[7][8][18]

系統番号 起点 終点 備考
0 Stare Zoo Stare Zoo 環状系統
主に4月-9月の週末(日曜)および祝日に運行
H 環状系統
電化初期に導入された2軸車を使用
特定日に運行

車庫

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2023年時点でポズナン市電に在籍する路面電車車両は、グウォゴフスカ車庫ポーランド語版(Zajezdnia Głogowska)、フォルテクズナ車庫ポーランド語版(Zajezdnia Forteczna)、フラノウォ車庫ポーランド語版(Zajezdnia Franowo)の3箇所に配置されている。また、2014年まで操業していたマダリンスキ車庫ポーランド語版(Zajezdnia Madalińskiego)については路面電車博物館として再建される計画が存在する[9][19]

車両

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営業用車両

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ポズナン市電の超低床電車
左:トラミーノ
右:モデルス・ガンマ
2019年撮影)

2023年現在、ポズナン市電には以下の車両が営業用に使用されている。社会主義時代のポーランド国産車両の大量導入を経て民主化後の1990年代初頭からはドイツオランダの各都市で廃車された車両を用いた近代化が実施された一方、同年代中盤からはバリアフリーに適した超低床電車の導入も積極的に行われている。特に2000年代からは、ポズナン市交通会社の子会社を発展する形で設立されたモダトランス(Modertrans)製の電車が、既存の車両の更新事例を含めて多数導入されている[20][21][22][5][12][23]

下記の車両に加え、105Naが2両、モデルス・ベータ(MF02AC)が1両、教習用車両として在籍している他、トラミーノの試作車であるS100の大規模な近代化工事が2023年時点で進行中である。また、今後10両の両運転台車両の導入およびボン市電ドイツボン)で廃車が進んでいる部分超低床電車のR1.1形(両運転台)24両の譲受が予定されており、旧型車両の置き換えや運用上の柔軟さに長けた両運転台車両の拡充が行われる事になっている[20][24][25]

形式 車種 運転台 両数 備考
コンスタル105Na 105Na ボギー車 片運転台 50両 2両編成で使用[26]
105NaDKポーランド語版 2両 2両編成で使用
編成の両側に運転台を設置[26]
モデルス・アルファ HF04AC ボギー車 片運転台 4両 2両編成で使用[26]
HF07 36両 2両編成で使用[26]
コンビーノ 5車体連接車 片運転台 14両 超低床電車[12]
トラミーノ S100 5車体連接車 片運転台 1両 超低床電車、試作車
運用離脱、近代化工事が進行中
S105p 45両 超低床電車[27]
GT8ZR 3車体連接車 両運転台 3両 フランクフルト市電からの譲渡車両
タトラRT6 MF06AC 3車体連接車 片運転台 16両 部分超低床電車
モデルス・ベータ MF02AC 3車体連接車 片運転台 23両 部分超低床電車
MF20AC 片運転台 20両 部分超低床電車
MF22ACBD 両運転台 10両 部分超低床電車
モデルス・ガンマ LF01AC 5車体連接車 片運転台 1両 超低床電車、試作車
リース車両
LF02AC 3車体連接車 片運転台 30両 超低床電車[22]
LF03ACBD 両運転台 20両 超低床電車[22]

動態保存車両

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ポズナン市電には営業運転から撤退した複数の車両が保存用として在籍し、0号線やH号線を用いた保存運転やイベント時の走行に用いられている。そのうち、ポズナン市電で動態保存運転を実施している車両について以下に記す。これらの車両は歴史的なバスと共にポズナン市交通会社と鉄道車両愛好家協会(Klub Miłośników Pojazdów Szynowych、KMPS)による復元工事が行われており、2023年現在も複数の車両が復元待ちの状態にある[7][20][28][29][30]

形式 車種 運転台 両数 備考
ヘルブラント製客車ポーランド語版 2軸車 なし 1両 付随車
シュヴェリーン市電からの譲渡車両(1915年譲渡)
ベルギッシェ鉄鋼業社製電車ポーランド語版 2軸車 両運転台 1両 ポズナン市電最初の電車の1両[11]
カール・ウェイヤー製電車ポーランド語版 2軸車 なし 1両 付随車
KSW 2軸車 両運転台 1両 第二次世界大戦中に導入された戦時型車両
2022年に動態復元[31]
4Nポーランド語版 2軸車 片運転台 1両
NDポーランド語版 2軸車 なし 2両 付随車
102N 2車体連接車 片運転台 1両
102Na 2車体連接車 片運転台 1両
105N ボギー車 片運転台 2両 2両編成で使用
GT6 2車体連接車 片運転台 1両 フランクフルト市電からの譲渡車両[12]
GT8 3車体連接車 片運転台 1両 フランクフルト市電からの譲渡車両[12]
3Gオランダ語版 3車体連接車 片運転台 1両 アムステルダム市電からの譲渡車両[12]

過去の車両

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脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ a b c d e f g h Początki MPK”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  2. ^ a b c d e f Kalendarium”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  3. ^ a b c d e Monika Kaczyńska (2022年3月30日). “Gdy Poznań przestał chodzić na piechotę. Historia komunikacji miejskiej w Poznaniu”. Głos Wielkopolski Plus. Polska Press Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  4. ^ a b c Jan Wojcieszak 2003, p. 31.
  5. ^ a b c d e f g h Jan Wojcieszak 2003, p. 43.
  6. ^ a b Rozkład jazdy”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  7. ^ a b c Linie turystyczne”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  8. ^ a b Linie turystyczne: W niedzielę na linię H wyjedzie tramwaj Typu I”. MPK Poznań Sp. z o.o. (2022年6月23日). 2023年5月13日閲覧。
  9. ^ a b c O nas”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  10. ^ Marek Graff (2015/7-8). “Nowy tabor tramwajowy w Polsce” (PDF). TTS Technika Transportu Szynowego (Instytut Naukowo-Wydawniczy „SPATIUM” sp. z o.o): 63. https://yadda.icm.edu.pl/baztech/element/bwmeta1.element.baztech-b6a4adc0-b1a1-43b7-8650-28c3efcbc459/c/Graff_Nowy.pdf 2023年5月13日閲覧。. 
  11. ^ a b Poznań. Tramwaj elektryczny ma 125 lat”. Transport Publiczny (2023年3月7日). 2023年5月13日閲覧。
  12. ^ a b c d e f Jan Wojcieszak 2003, p. 44.
  13. ^ Trasa Kórnicka”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  14. ^ Witold Urbanowicz (2016年3月10日). “Poznań. 111 nowych tramwajów do 2021 r. Pięć nowych tras”. Transport Publiczny. 2023年5月13日閲覧。
  15. ^ Cała trasa tramwajowa na Naramowice gotowa”. Poznań (2022年4月3日). 2023年5月13日閲覧。
  16. ^ Rozkład jazdy”. Zarząd Transportu Miejskiego w Poznaniu. 2023年5月13日閲覧。
  17. ^ Mapy i schematy sieci”. Zarząd Transportu Miejskiego w Poznaniu. 2023年5月13日閲覧。
  18. ^ Discover Poznań on the HISTORY BUS and TRAM!”. Poznan.travel. 2023年5月13日閲覧。
  19. ^ Jakub Rösler (2022年3月2日). “Madalina w zawieszeniu. Na muzeum komunikacji poczekamy”. TransportPubliczny. 2023年5月13日閲覧。
  20. ^ a b c Tramwaje liniowe”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  21. ^ Vehicle Statistics Poznań, Tramway”. Urban Electric Transit. 2023年5月13日閲覧。
  22. ^ a b c Poznan/ Poznan: New Modertrans low-floor trams in service”. Urban Transport Magazine (2019年6月13日). 2021年1月17日閲覧。
  23. ^ 服部重敬「欧州のLRV 最新事情」『路面電車EX』第13巻、イカロス出版、2019年6月20日、90-91頁、ISBN 9784802206778 
  24. ^ Michael Levy (2023年4月30日). “Poznań plans purchase of Bonn’s R.1.1 Düwag low-floor trams”. 2023年5月13日閲覧。
  25. ^ Jakub Rösler (2023年1月31日). “Kto naprawi pierwszego Tramino? Dwie oferty”. TransportPubliczny. 2023年5月13日閲覧。
  26. ^ a b c d 105Na”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  27. ^ Tramino Poznań”. Solaris. 2023年5月13日閲覧。
  28. ^ Tramwaje historyczne”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。
  29. ^ a b Tabor”. Klubie Miłośników Pojazdów Szynowych. 2023年5月13日閲覧。
  30. ^ Stowarzyszenie”. Klubie Miłośników Pojazdów Szynowych. 2023年5月13日閲覧。
  31. ^ Redakcja/inf.pras. (2022年9月23日). “MPK Poznań pokazało kolejny sprawny wagon historyczny”. Transport Publiczny. 2023年5月13日閲覧。
  32. ^ a b Tramwaje wycofane z eksploatacji”. MPK Poznań Sp. z o.o.. 2023年5月13日閲覧。

参考資料

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外部リンク

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