ボク少女

一人称に関わる名称
ボクっ娘から転送)

ボク少女(ボクしょうじょ)、またはボクっ子(ボクっこ)、ボクっ娘(ボクっこ)、僕女(ぼくおんな)は、主に男性によって使われる一人称である「ボク」などを使う少女のこと[1]類義語に一人称の「俺」を使う女性を指す俺女(おれおんな)、オレっ娘(オレっこ)がある[2]

本項ではサブカルチャー作品に登場するものを中心に、少女に限らないそれらの類義語全体について説明する。

概要

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大勢の女性キャラクターが登場する美少女ゲーム作品では、台詞の発言者を区別しやすくするため、キャラクターごとに異なる一人称を設定してキャラクターの個性を際立たせることが、作劇上の基本的なテクニックとして用いられている[3]漫画アニメ、ゲームといったサブカルチャーにおけるそのような作品においては、「ボク」「僕」「俺」「オレ」「オイラ」「ワシ」「俺様」などの男性用の一人称を使う少女がしばしば作品に一人程度は登場しており[4]、それらを総称する言葉として「ボク少女」やその類義語が用いられる。このような特徴に惹かれる者もおり、いわゆる「萌え要素」としても確立している[5]

ボク少女にはボーイッシュな性格付けがしばしばなされるが[5]フェミニンなキャラクターが「ボク」と自称する場合もある[6]。また「オレっ娘」に関しては、人格が豹変し凶暴となったキャラクターや怒った際などに伝法な男口調になるキャラクターがその際に「俺」や「ワシ」を用いることも多々ある。叙述トリックとして利用するためにボク少女が使われることもある[注 1]

サブカルチャーにおけるこうしたボク少女は、周囲に男と思わせているようなキャラクターを除外しても第二次世界大戦前から存在した。小説の例では横溝正史の1936(昭和11)年発表の短編『蜘蛛と百合』の伊馬とり子や、『噴水のほとり』の百合園美々子(ミミ)などが存在する[注 2]

漫画では手塚治虫『リボンの騎士』の「サファイア」や同『ひまわりさん』の「風野日由子」など1950年代から散見されるが、普及のきっかけとなった作品やその時期については諸説ある。手塚治虫が上記のような少年的立ち居振る舞いの少女キャラクター像を確立した背景には、宝塚歌劇団の影響があることが指摘されている[8][要ページ番号]。具体的には、宝塚や松竹ほか諸少女歌劇団の人気が成人男性中心から女学生や若い女性中心に移行した昭和9、10年ころ、女学生のあいだに「君」「ボク」「ナニ言ってやがるンだい」などの男言葉が流行したのを先駆とする[9][要ページ番号]。 「男装の麗人」「東洋のマタ・ハリ」としてマスコミに謳われた川島芳子(清朝、皇族)は、婦人公論への寄稿などでも「僕」の代名詞を使っていた。 1933(昭和8)年の7月には、家出した文学に親しむ女子高生達が平常から「僕」「君」という代名詞を使っていたと報道された[注 3]

日本の女性歌手には昔から一人称の「ボク」の歌を歌うものも珍しくない。歌詞語り手を男性に設定した「男唄(おとこうた)」と解釈できるものもあるが、そうでない例も見られる。例えば「四季の歌」(1972年)には「ぼくの恋人」というフレーズがあるが、その恋人は男性の詩人ハイネに例えられており、この歌の主体は女性であると解釈することもできる[注 4]。ただし、こういった実例とは異なり、明確にボク少女のことを歌った歌として、松本ちえこの「ぼく」(1976年)がある。

ボク少女と現実

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前述のように、フィクションの世界において女性が男性一人称を用いることは珍しいことではない。その一方で明治維新以降の大日本帝国や、太平洋戦争以後の日本においては、女性が「僕」や「俺」のような一人称を用いることは社会的に歓迎されていない[6][12]

しかし近年では、現実にそのような人称を使う女性も増えているとも言われている[5]心理学者富田隆はこのような傾向について、単に男友達や、フィクション作品の一人称を真似ているうちに定着してしまった場合などが多いとしつつも、男性への憧れや、既存の女性のように成長したくないという願望の現れである場合もあると説明している[5]

当事者として「ぼく」を使用するタレントの春名風花は、「女性が使う一人称は『わたし』だけど、ちょっと堅苦しくて、しっくりこない。……男性は時と場合に応じて『オレ』や『ぼく』、『わたし』も使えてうらやましい。どうして女性には普通の一人称がないんだろう。女の子だって、改まるでも、こびるでもない、人と対等に話せる一人称が欲しいのに」[13][14]と考えていたときにアニメ『少女革命ウテナ』と出会い、それ以来「ぼく」を好んで使うようになったという[13][14]。ただし春名の場合、男性でも「わたし」を使うような改まった場面では自身も同様に「わたし」を使うとしている[15]

教育学者本田由紀が2009年 - 2010年に神奈川県公立中学校の生徒を対象に行ったアンケート調査によると、一人称に「ボク」「オレ」を使用しているのはそれぞれ女子全体の1.2%・3.8%であり、「ジブン」も含めて男性一人称を使用している者は5.0%を占める[16]。このような言葉遣いは一般人に限った話ではなく、矢口真里が自身を「おいら」と称している例、近年でも上述の春名やでんぱ組.inc最上もが、タレントのあのらが常時「ぼく」という一人称を使っている事例がある。

なお、江戸時代には「俺」という一人称が老若男女問わず広く使われていたこともある[17]。他、中部地方、特に山梨県などでは現在でも方言で「オレ」という一人称を用いる女性[18]、東北地方、特に福島県では「ワシ」を使う女性は存在している。

脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば、小説『涼宮ハルヒシリーズ』における佐々木の登場場面では、渦中の人物が女性であることが読者に伏せられたまま物語が進行し、語り手以外の人物による指摘によって初めて状況が明かされる[7]
  2. ^ とり子は現在でいうボーイッシュ少女、ミミは劇団所属の男役俳優だが、両者とも女性であることは周囲に既知。
    なお、「蜘蛛と百合」は角川文庫『蝶々殺人事件』(ISBN 4-04-130409-1)、柏書房『由利・三津木探偵小説集成1 真珠郎』(ISBN 978-4-7601-5051-9)。「噴水のほとり」は角川文庫『誘蛾灯』(ISBN 4-04-130456-3)、柏書房『横溝正史ミステリ短篇コレクション4 誘蛾灯』(ISBN 978-4-7601-4907-0)などに収録。
  3. ^ 名殘りの京見物 四少女…死の道行き 家出の福岡縣嘉穂高女生 三原山への途中發見さる[10](中略)文學かぶれから三原山に憧れ十七日學校からの歸途家出しこの世の名殘りに京見物中を發見されたものである キミ、ボクと呼ぶ近代娘 福澤方を訪ふと家人は「いたつて快活の性で平常文學書等に親しみ又ダンスなどもやり友達との文通も全部君、僕などと男のような代名詞をつかつてゐたほどですから別に心中せねばならぬような事情があるとは思ひません」と語つた(記事おわり)
  4. ^ ただし、これは口伝によって曲が広まる過程で歌詞が変化した結果であり、荒木とよひさが作詞した際には、男性の語り手を想定した歌であったという[11]

出典

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  1. ^ “ボクっ娘 【ボクっこ】”, 大辞林goo辞書 (第二 ed.), 三省堂, (1995-11-03), ISBN 4-385-13902-4, http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn/237468/m0u/ 2009年7月2日閲覧。 .
  2. ^ “俺女 【おれおんな】”, 大辞林goo辞書 (第二 ed.), 三省堂, (1995-11-03), ISBN 4-385-13902-4, http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn/237377/m0u/ 2009年9月28日閲覧。 .
  3. ^ 涼元悠一「第7章第1節 今、誰が喋っているのか?」『ノベルゲームのシナリオ作成技法』(第1版)秀和システム、2006年8月5日、142-146頁頁。ISBN 4-7980-1399-4 
  4. ^ 花井拓登「妄愛・珍愛・偏愛コラム - ボク女トラップ」『空想美少女大百科・電脳萌え萌え美少女大集合!』宝島社別冊宝島〉、1999年1月、122頁頁。ISBN 4-7966-9421-8。「「ボク女」というのは、一人称に“ボク”を使っている女の子のこと。十人前後の女の子が登場する作品にたいてい一人いて、必ず二人以上はいないタイプである。」 
  5. ^ a b c d 篠本634; 富田隆 (2008年8月22日). ““ボクっ娘”“俺女”の接し方マニュアル!”. R25.jp. リクルート. 2009年8月26日閲覧。
  6. ^ a b 花井拓登「妄愛・珍愛・偏愛コラム - ボク女トラップ」『空想美少女大百科・電脳萌え萌え美少女大集合!』宝島社別冊宝島〉、1999年1月、122-123頁頁。ISBN 4-7966-9421-8 
  7. ^ 谷川流『涼宮ハルヒの分裂』(初版)角川書店〈角川スニーカー文庫〉、2007年4月1日、82頁頁。ISBN 978-4-04-429209-6 
  8. ^ 『ポップ・カルチャー・クリティーク2.少女達の戦歴』(青弓社、1998年)
  9. ^ 下川耿史、家庭総合研究会『昭和・平成家庭史年表 1926→1995』
  10. ^ Shin Sekai Nichi Nichi Shinbun 1933.01.21、新世界日日新聞/nwd_19330724(スタンフォード大学フーヴァー研究所)」 アジア歴史資料センター Ref.J21021910600  p.2
  11. ^ 驚き桃の木のりへぇ〜 男性の詩人ハイネが僕の恋人?”. 桃屋ホームページ のり平 アニメCMアニメ博物館. 桃屋. 2009年8月24日閲覧。
  12. ^ 玉利越「空想美少女整理箱49 - 田中美沙(同級生シリーズ) 「オレ系」だけど「オレ」とは言わない」『空想美少女大百科・電脳萌え萌え美少女大集合!』宝島社別冊宝島〉、1999年1月、130頁頁。ISBN 4-7966-9421-8。「女性読者の方は試しに明日から一人称を「ボク」または「オレ」に変えてみよう。(中略)通常であれば、あなたはたちまち社会的信用を失うであろう。」 
  13. ^ a b “女の子も仮面ライダーになっていいんだよ 春名風花さん”. 朝日新聞デジタル. (2017年3月7日). https://www.asahi.com/articles/ASK3654KKK36UTIL02X.html 2019年3月15日閲覧。 
  14. ^ a b 朝日新聞「Dear Girls」取材班『Dear Girls -自分らしく生きていくための28の言葉-』朝日新聞出版社、2019年2月、118-122頁。ISBN 978-4022515940 
  15. ^ 本人Twitter (2017年3月9日) より。
  16. ^ 本田由紀 『学校の「空気」 (若者の気分) 』岩波書店、2011年、61頁。ISBN 978-4000284516
  17. ^ “おれ”, 大辞林goo辞書 (第二 ed.), 三省堂, (1995-11-03), ISBN 4-385-13902-4, http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn/28006/m0u/ 2009年8月26日閲覧。 .
    “おれ”, 大辞泉Yahoo!辞書, 小学館, ISBN 978-4095012124, http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?enc=UTF-8&p=%E3%81%8A%E3%82%8C&dtype=0&index=03304602644000 2009年8月26日閲覧。 .
  18. ^ 方言ジャパン(株式会社トーマ)

関連項目

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