ヘルクリーク累層(ヘルクリークるいそう、英語: Hell Creek Formation)は、北アメリカ大陸に存在する白亜紀後期と暁新世地層である。命名はモンタナ州ジョーダン近郊のヘルクリークに由来する。この地層はモンタナ州、ノースダコタ州サウスダコタ州、そしてワイオミング州にまたがっている。モンタナ州では、ヘルクリーク累層はフォックスヒルズ累層の上に堆積している。ポンピーズピラー国立記念公園のポンピーズピラーはヘルクリーク累層のごく小さなセクションの1つである。

モンタナ州ボーズマンにあるロッキー博物館はヘルクリーク累層産の化石を世界で最も多く収蔵している。その展示物はモンタナ州立大学とワシントン大学の協力によって1998年から続いているヘルクリーク・プロジェクトの集大成である[1]

地質学

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北アメリカ西部のヘルクリーク累層とランス累層の地図

モンタナ州のヘルクリーク累層はフォックスヒルズ累層の上、フォートユニオン累層の下に堆積している。そしてフォートユニオン累層との境界は、白亜紀の終わりを定義するK-Pg境界(6600万年前頃)近辺にある[2]。ヘルクリーク累層を特徴的づける動物相(ランシアン)はその境界の数メートル下に存在する[3]

その境界は一般的にヘルクリーク累層上部とフォートユニオン累層のルドロウ部層下部の接触面に位置し、ルドロウ部層に入り込んでいる。ヘルクリーク累層のいくつかのエリアでは約3mの厚みになっている[3]。モンタナにおける一部エリアでもK-Pg境界は見られ、暁新世の地層に薄く伸びている[4]

生物相

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ヘルクリーク累層の動物たち

恐竜を含む多くの動物がヘルクリーク累層で生きていた。ヘルクリーク累層は世界で最も有名な恐竜化石サイトである。化石は当時の内陸海路由来の海生動物のものも見つかっている。脊椎動物は2017年現在で鳥盤類14種、翼竜1種、クロコダイル3種、チャンプソサウルス類1種、ヘビやトカゲ等の有鱗類14種、カメ20種、カエルサンショウウオからなる両生類12種、硬骨魚類16種、軟骨魚類5種、そして哺乳類60種が報告されている。アンモナイトのような無脊椎動物、植物哺乳類魚類海生爬虫類恐竜翼竜などの印象化石等の生痕化石も知られている。著名な恐竜が多く発見されており、トリケラトプスティラノサウルスアンキロサウルスパキケファロサウルスなどもヘルクリーク累層のメンバーである。最も完全なハドロサウルス類エドモントサウルス・アンネクテンスの化石も2000年に発掘され、2007年のナショナルジオグラフィック製作のドキュメンタリー番組等で広く報道された。 ヘルクリーク累層の生物相ランス累層と同じくランシアンであるが、ランシアンは系統発生的にカンパニアンの北アメリカの動物相よりも西アジアやカナダ・アラスカの動物相に似ている。

 
ヘルクリーク州立公園の景

堆積環境

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ヘルクリーク累層における支配的な植物は顕花植物である。

粘土泥岩、そして砂岩はヘルクリーク累層がマーストリヒチアンダニアンの期間(白亜紀末期から暁新世黎明期)において淡水域と汽水域であったことを示している。膨大な量の砂岩と泥岩から成る堆積物は、山脈から河川系による西への流送と川の氾濫による浸食で堆積されたものと思われる。

ヘルクリーク累層、ランス累層、そしてスコラード累層西部内陸海路の西海岸の異なるセクションに位置していた。低地の水系は多様な動物たちに生息域となっていた。沿岸平原は海路の西側からロッキー山脈まで広がっていた[5] [6] [7]。 ヘルクリークはこれらの古環境を学ぶ上で最高のものである。当時、この地域は亜熱帯であり、温暖湿潤な気候だった。

恐竜

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古生物群(古生物集団の総体を指す概念であり、またその集団を構成する個体の総数を指す統計上の概念)の研究はフィールド古生物学の分野で最も難解なものの1つである。現生動物と違って、環境によって化石の保存される確率が左右される事や、同じ場所で発見されたからといって同時に生きていたとは限らない事などを考慮しなくてはならないからだ。ここでは1998年のホワイトの研究による詳細なヘルクリーク累層の最も一般的な恐竜の8つの科における群集の割合を示す。[要出典]

  • ケラトプス科 61%
  • ハドロサウルス科 23%
  • オルニトミムス科 5%
  • ティラノサウルス科 4%
  • ヒプシロフォドン科 3%
  • ドロマエオサウルス科 2%
  • パキケファロサウルス科 1%
  • トロオドン科 1% (歯のみで記載されている)
 
ヘルクリーク累層の研究対象エリア全体における当時の大型恐竜の平均センサスを表した円グラフ

ヘルクリーク・プロジェクトによって化石が採取された露頭は、下部、中部、上部の3つのセクションに分けられる。下部の頂上にあたる場所はどこの層においてもトリケラトプス、エドモントサウルス、そしてティラノサウルス等の化石を多量に保存していた。トリケラトプスはどのセクションにおいても最も普通的な存在で、ティラノサウルスも普通種だが、エドモントサウルスをわずかに上回る程度である。ヘルクリーク累層上部では、例えば20個体分のトリケラトプス、5個体分のティラノサウルス、5個体分のエドモントサウルスの化石が発見されている。

テスケロサウルスオルニトミムスパキケファロサウルスそしてアンキロサウルスといった恐竜も数は少ないが、統計に含められた。スファエロトルス、デンバーサウルス、トロサウルス、ストルティオミムス、アケロラプトル、ダコタラプトル、ペクティノドン、リカルドエステシア、パロニコドン、アンズ、レプトリンコス、そしてトロオドンといった他の恐竜は報告数が極めて少なく、全体の1%にも満たないので統計から除外された。

ヘルクリーク・プロジェクトで過去10年間にわたってなされた恐竜の採集は、予期しなかった相対的な恐竜の存在量と以前はまれであると考えられてきた個体発生期のクラスを明らかにした。以前の調査よりもティラノサウルスの割合がはるかに高いことがわかっている。ティラノサウルスはトリケラトプスの次、2番目に多い分類群として大型恐竜動物相の割合を占め、それに3番目のエドモントサウルスが続く。これはアペックス砂岩とジェンレックス砂岩における2つの主要な標本(HC-530とHC-312)の個々の骨が計数された結果である。それらの露頭の体積の3分の2がティラノサウルスとエドモントサウルスの骨格で占められていた。

トリケラトプスが最も普通的な恐竜で40% (72個体)、ティラノサウルスが2番目で24% (44個体)、エドモントサウルスが3番目で20% (36個体)、続くテスケロサウルスが8% (15個体)、オルニトミムスが5% (9個体)、そしてパキケファロサウルスとアンキロサウルスが共に1% (2個体)という結果になった。

鳥盤類

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曲竜類

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ヘルクリーク累層から報告されている曲竜類
層序 標本 メモ 画像

アンキロサウルス[8]

A. magniventris[8]

  • モンタナ[8]

アンキロサウルス科ランス累層スコラード累層からも見つかっている。

 

デンバーサウルス[8]

D. schlessmani [8]

  • モンタナ[8]
  • サウスダコタ[9]

ノドサウルス科

 

堅頭竜類

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以下の他、未記載のパキケファロサウルス類がノースダコタ州から発見されている[10]

ヘルクリーク累層から報告されている堅頭竜類
層序 標本 メモ 画像

ドラコレクス[11]

D. hogwartsia[11]

  • サウスダコタ[11]

パキケファロサウルス科、恐らくパキケファロサウルスのシノニム。

 

パキケファロサウルス[8]

P. wyomingensis[8]

  • モンタナ[8]
  • サウスダコタ[9]

パキケファロサウルス科。ランス累層からも見つかっている。

 

スファエロトルス[8]

S. buchholtzae[8]

  • モンタナ[8]

"頭骨要素"[12]

パキケファロサウルス科。プレノケファレのシノニムかもしれない。

 

スティギモロク[8]

S. spinifer[8]

  • モンタナ[8]
  • サウスダコタ
  • ノースダコタ

パキケファロサウルス科。恐らくパキケファロサウルスのシノニム。ランス累層からも知られている。

 

角竜類

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分類不能の角竜類の化石断片が最も普通に見られる。ヘルクリーク累層の脊椎動物の8.31%が未記載の角竜類である。[13]

ヘルクリーク累層から報告されている角竜類
シノニム 層序 メモ 画像

レプトケラトプス[8]

Leptoceratops c.f. gracilis[8]

  • モンタナ[8]

レプトケラトプス科。小型の祖先に似た角竜類

 

タタンカケラトプス

T. sacrisonorum

  • サウスダコタ

ケラトプス科。恐らくトリケラトプスのシノニム。[14]

 

トロサウルス[15] [8]

T. latus[15][8]

  • モンタナ[8]
  • ノースダコタ[16]

[10]

上部[17]

ケラトプス科。[18] 希少な角竜類[17]

 

トリケラトプス[15][8]

T. horridus[15][8]

下部から上部。下部において最も豊富。[17]

4種が記載されているが、恐らくすべて T.horridusのシノニム。[13]

ケラトプス科[15]エヴァンストン累層フレンチマン累層ランス累層ララミー累層スコラード累層からも見つかっている。

 

T. prorsus[8]

  • モンタナ[8]

非常に普通[要出典]

フレンチマン累層ランス累層でも見つかっている。

 

鳥脚類とテスケロサウルス類

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分類不能の鳥脚類は非常に多く見られる[15]パラサウロロフスに似たランベオサウルス亜科が発見されているが、恐らく未記載の新種である。しかし保存が悪いため記載するだけの情報に欠く。ランベオサウルス亜科は当時の北米ではすでに絶滅した、あるいはしかかっていたと考えられているが、ヨーロッパやアジアでは生存していたことがわかっている[19][20]

ヘルクリーク累層から報告されている鳥脚類テスケロサウルス類
シノニム 層序 メモ 画像

エドモントサウルス

E. annectens

  • Anatosaurus annectens[21]
  • Anatotitan copei[21]
  • モンタナ[8]
  • サウスダコタ[9]
  • ノースダコタ(ミイラ化石)

非常に普通。

ハドロサウルス科。デンバー累層フレンチマン累層ランス累層ララミー累層スコラード累層からも見つかっている。

 

テスケロサウルス[9]

T. garbanii[22]

  • Bugenasaura garbanii

T. infernalis

  • Bugenasaura infernalis

疑問名

T. neglectus[15][9]

下部から上部まで[17]

50の標本[13]

小型のテスケロサウルス科動物。以前は鳥脚類に含められていた。フレンチマン累層、ランス累層、ララミー累層、スコラード累層からも見つかっている。[24]

 

獣脚類

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アジアのモノニクスに近縁な動物が見つかっている

[25][26]

ティラノサウルス類

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ヘルクリーク累層から報告されているティラノサウルス科
シノニム 層序 メモ 画像

ティラノサウルス[15][8]

T. rex[15][8]

下部から上部まで。

ジェーンの愛称で呼ばれる個体を含むいくつかの幼若個体の標本が知られているが、ナノティラヌスという別属かもしれない。デンバー累層、フレンチマン累層、ヒルクリークサウス累層、ジャヴェリナ累層、ランス累層、フェリス累層、リビングストン累層、マクレー累層、ノースホーン累層、スコラード累層、ウィロウクリーク累層、ローマスコロラダス累層からも報告されている。

   

オルニトミモサウルス類

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オルニトミムス科はヘルクリーク累層においてよく見られる[15]。 ヘルクリーク累層からは未同定のオルニトミムス科が15標本産出している[13]

ヘルクリーク累層から報告されているオルニトミモサウルス類
層序 標本 メモ 画像

オルコミムス

種小名は未命名。

  • サウスダコタ[27]

一つの部分骨格

オルニトミムス科。裸名。

ストルティオミムス[9]

S. sedens[28]

  • モンタナ
  • AMNH 975, 後肢の末節骨
  • UCMP 154569, 部分骨格

ガリミムスに似たサイズの大型オルニトミムス科。ランス累層からも見つかっている。[28]

 

分類不明のオルニトミムス科

不明

  • モンタナ
  • サウスダコタ
  • ノースダコタ

断片的な標本

かなりの数のオルニトミムス類がOrnithomimus veloxと誤同定されていたが、後に何だかわからないがとりあえずオルニトミムスではないと見直された[29]

オヴィラプトロサウルス類

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ヘルクリーク累層から報告されているオヴィラプトロサウルス類
標本 層序 メモ 画像

アンズ[8][30]

A. wyliei[30]

12のよく保存された標本[17]

下部から上部[13]

北米最大のオヴィラプトル科として知られている。以前はカエナグナトゥス科に含められていた[30]

 

レプトリンコス

L. elegans

  • モンタナ

カエナグナトゥス科。

 

出典

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  1. ^ http://faculty.washington.edu/gpwilson/wordpress/hell-creek-project/
  2. ^ Husson, D., Galbrun, B., Laskar, J., Hinnov, L. A., Thibault, N., Gardin, S., & Locklair, R. E. (2011). “Astronomical calibration of the Maastrichtian (late Cretaceous)”. Earth and Planetary Science Letters 305 (3): 328–340. Bibcode2011E&PSL.305..328H. doi:10.1016/j.epsl.2011.03.008. 
  3. ^ a b Pearson, D. A., Schaefer, T., Johnson, K. R., Nichols, D. J., & Hunter, J. P. (2002). Vertebrate biostratigraphy of the Hell Creek formation in southwestern North Dakota and northwestern South Dakota. Hartman et al, 145-167.
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参考文献

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