ブルックラディ蒸留所
ブルックラディ蒸留所(ブルックラディじょうりゅうしょ、Bruichladdich Distillery 英語: [brʊxˈlædi] スコットランド・ゲール語: [pɾuə'xl̪ˠat̪ɪç])は、スコットランドのアイラ島にあるスコッチ・ウイスキーの蒸留所。「ブルイックラディ」とも表記される。
地域:アイラ | |
---|---|
所在地 | アイラ島 |
所有者 | レミーコアントロー |
創設 | 1881年[1] |
現況 | 稼働中 |
水源 | 丘の上の貯水池[2] |
蒸留器数 |
初留器2基[3] 再留器2基[3] ローモンドスチル1基[4] |
生産量 | 150万リットル[注釈 1][2] |
使用中止 | 1929-1936, 1995-2000[注釈 2][1] |
ブルックラディ / Bruichladdich | |
種類 | シングルモルト |
熟成期間 | ノンエイジ |
度数 | 50% |
ポートシャーロット / Port Charlotte | |
種類 | シングルモルト |
熟成期間 | 10年 |
度数 | 50% |
スコッチウイスキーの蒸留所としては珍しくテロワールを重視した生産方針で知られ、「ブルックラディ」「ポートシャーロット」「オクトモア」という3種類のウイスキーを製造しているほか、ジンの「ザ・ボタニスト」も製造している。
歴史
編集1881年、ロバート、ウィリアム、ジョン・ゴーレイ・ハーヴェイの3兄弟によって設立された。この兄弟は当時スコットランドで最大の蒸留所だったダンダスヒル蒸留所を経営しており[8]、ブレンダーとしても名が知られていた[7]。
その後は何度もオーナーの変更が繰り返される。1938年にトレイン&マッキンタイヤー社へ、1952年にロス&コールター社へ売却され、1954年にはDCL社の傘下となるが、1960年にはロス&コールター社ごとA.B.グラント社に買収される。その後1968年にインヴァーゴードンディスティラーズ社に買収され、1993年にホワイト・アンド・マッカイが同社を買収、1995年1月から生産が停止された[1]。
2000年にマーク・レイニエが率いるインディペンデントボトラーのマーレイ・マクダヴィッド社を中心とした個人投資家のグループによって買収される[8] [1][9]。買収額は650万ポンド[1]。買収後、蒸溜所の責任者としてジム・マッキュワンが招聘され、翌2001年に蒸留を再開する。ジム・マッキュワンはボウモア蒸留所長時代にディスティラリー・オブ・ザ・イヤーを3度獲得しており、「アイラの伝説の男」として知られていた[10][1]。
製造
編集仕込み
編集マッシュタンは元々ブナハーブン蒸留所で使われていたもので、蓋のない鋳鉄製。創業時から140年以上使い続けている。仕込み1回に使われる麦芽は7トンで、3万5000リットルの麦汁を得られる[注釈 3][11][1]。
発酵
編集発酵に使う発酵槽(ウォッシュバック)はオレゴンパイン製のものが6基ある。発酵にはマウリ社のドライイーストが用いられ、60~100時間の発酵を経て6~7度のもろみが得られる[1]。
ポットスチル
編集蒸留に用いるポットスチルは初留器(ウォッシュスチル)と再留器(スピリットスチル)がそれぞれ2基ずつある。初留器は容量17300リットル、再留器は12274リットル[12]。どちらもストレートヘッド型で、なおかつネック部分が通常より長い。それゆえ蒸留時にアルコール以外の成分が抜けやすくなり、ブルックラディの特徴とも言えるドライで雑味の少ない味わいになる[13]。
また、ウイスキー用とは別にジンを製造するための"アグリー・ベティ"(醜いベティ)と名付けられたローモンドスチルが1基ある。これは2004年にインヴァーリーヴン蒸留所[注釈 4]が取り壊される際に引き取られたもので[12]、これを独自に改造して使用されている[15]。
熟成
編集ブルックラディ蒸留所の敷地内と、付近のポートシャーロット村にあるポートシャーロット蒸留所の跡地に熟成庫があり、生産された原酒はすべてどちらかで熟成される[16]。
瓶詰め
編集スコッチウイスキーの蒸留所としては珍しく、敷地内に自社でボトリング設備を所有しており[注釈 5][16]、瓶詰め後のラベリングから梱包まですべて自社内で完結させている[17]。
製麦
編集ウイスキー作りに関するほとんどの工程を蒸留所内で完結させているが、製麦だけは1961年に中止して以来行われなくなっている[1]。2023年の完成を目標に製麦施設が建設中[1]。
製造方針
編集スコッチウイスキーとしては珍しくテロワールにこだわった方針で知られており[1]、大麦の栽培、蒸留、熟成、瓶詰めの一連の工程をアイラ島内で完結させようとしている[13]。
蒸留所が再稼働した当時、アイラ島には大麦を栽培する農家がいなかった。そもそもアイラ島は大麦の栽培に適さない土地だとされており、栽培されなくなってから100年近くが経過していた。しかし、2020年現在ではトータルで26の契約農家から大麦を仕入れており(うちアイラ島の農家が14軒)、仕込みに必要な大麦の50%をアイラ島産で賄えるようになっている。また、残りの50%もスコットランド産である[1][13]。
上述のアイラ島産大麦のうち5%は有機農業によるものであり[13]、この麦から蒸留されたウイスキーはオーガニックと名付けてボトリングされる[17]。
製品
編集現在は「ブルックラディ」「ポートシャーロット」「オクトモア」の3シリーズをリリースしており[19]、それぞれの生産割合はブルックラディ70%、ポートシャーロット20%、オクトモア10%となっている[20]。
ブルックラディ
編集蒸留所名を冠し、旧来の主力製品をそのまま踏襲したシリーズ[13]。
製造工程においてピートをほとんど炊いていない麦芽を使用しており、なおかつ泥炭層ではない土地から湧出したピーティさがほとんどない仕込み水を使用するため、アイラ島のウイスキーとしては珍しくピートフレーバーがない[17]。
ポートシャーロット
編集フェノール値40ppmのアイラ島としては中庸なピーティさを特徴とするシリーズ[13]。
ブルックラディ蒸留所から南におよそ6kmの地点にかつて存在したポートシャーロット蒸留所[注釈 6]が名前の由来となっており[21][13]、その跡地で熟成とボトリングがされている[13]。
オクトモア
編集原料となる麦芽のフェノール値はスコッチウイスキーでもトップクラスの80~309ppmで[注釈 7][23]、それゆえの強烈なピートフレーバーを特徴とするシリーズ[13]。
オクトモアのフェノール値はバッチごとに大きな差がある。というのも、通常のウイスキーに使われる麦芽はピーテッド麦芽とノンピート麦芽を混ぜることでフェノール値が一定になるよう調整されているところ、オクトモア用の麦芽では一切ノンピート麦芽を混ぜていないためだ[24]。それゆえオクトモアはすべて限定品で、それぞれエディションナンバーが付与されている[25]。
名前の「オクトモア」は、ブルックラディとポートシャーロットの中間地点にある農場の名前が由来で[21]、オクトモアという単語自体はゲール語で「偉大なる8番手(Big Eighth)」を意味している[26]。
ザ・ボタニスト
編集"アグリー・ベティ"(醜いベティ)と名付けられたローモンドスチルを用いて製造されているジン。ジュニパーベリーなど9種類の基本的なボタニカルとは別に、アイラ島に自生する22種類の山野草をボタニカルとして使用している[15]。
名前の「ボタニスト」は英語で植物学者の意[15]。
仕様は700ml入りでアルコール度数46%[15]。
評価
編集評論家のマイケル・ジャクソンはブルックラディのハウススタイルをライトからミディアム、非常にしっかりしている、かすかにパッションフルーツ、塩っぽい。スパイシー(メース?)非常に飲みやすい。食前酒。
[27]と評している。
注釈/脚注
編集注釈
編集脚注
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m ウイスキー文化研究所 2020-10、46頁
- ^ a b 土屋守 2021、77頁
- ^ a b ウイスキー文化研究所 2020-10、56頁
- ^ 土屋守 2021、79頁
- ^ 土屋守 2021、10頁
- ^ 土屋守 2021、56頁
- ^ a b 土屋守 1995、50頁
- ^ a b チャールズ・マクリーン2017、54頁
- ^ “進撃のLaddie ― ブルックラディ蒸溜所【前半/全2回】”. whiskymag.jp. 2022年10月25日閲覧。
- ^ 和智英樹、高橋矩彦 2021、118頁
- ^ 和智英樹、高橋矩彦 2021、120頁
- ^ a b 和智英樹、高橋矩彦 2021、121頁
- ^ a b c d e f g h i 和智英樹、高橋矩彦 2021、123頁
- ^ 土屋守 2021、306頁
- ^ a b c d ウイスキー文化研究所 2020-6、26頁
- ^ a b c マイケル・ジャクソン 2021、137頁
- ^ a b c 和智英樹、高橋矩彦2014、65頁
- ^ 講談社MOOK 2017、42頁
- ^ 土屋守 2021、78頁
- ^ “アイラらしさを極めたウイスキー「ポートシャーロット」新発売【前半/全2回】”. whiskymag.jp. 2022年10月26日閲覧。
- ^ a b c “Lost Distilleries―アイラ島”. whiskymag.jp. 2022年10月13日閲覧。
- ^ ウイスキー文化研究所 2020-10、16頁
- ^ “ピートの謎を解く【第1回/全3回】”. whiskymag.jp. 2022年10月13日閲覧。
- ^ “ピートの謎を解く【第3回/全3回】”. whiskymag.jp. 2022年10月14日閲覧。
- ^ “世界最強のピート香を「オクトモア」で味わう”. whiskymag.jp. 2022年10月13日閲覧。
- ^ “ピート最強「オクトモア」の深化を証明する新エディションが登場”. whiskymag.jp. 2022年10月14日閲覧。
- ^ マイケル・ジャクソン2005、150頁
参考文献
編集- ウイスキー文化研究所『Whisky Galore(ウイスキーガロア) Vol.22 2020年10月号』ウイスキー文化研究所、2020年。
- ウイスキー文化研究所『Whisky Galore(ウイスキーガロア) Vol.20 2020年6月号』ウイスキー文化研究所、2020年。
- 土屋守『完全版 シングルモルトスコッチ大全』小学館、2021年。ISBN 978-4093888141。
- 土屋守『モルトウィスキー大全』小学館、1995年。ISBN 4093871701。
- 和智英樹; 高橋矩彦『スコッチウィスキー 新時代の真実 世界的ブームの果てに残るもの』スタジオ タック クリエイティブ、2021年。ISBN 4-883-93886-7。
- 和智英樹; 高橋矩彦『男のスコッチウィスキー講座 100蒸留所巡礼試飲旅』スタジオ タック クリエイティブ、2014年。ISBN 978-4-88393-691-5。
- マイケル・ジャクソン 著、山岡秀雄,土屋希和子 訳『モルトウイスキー・コンパニオン 改訂第7版』パイ・インターナショナル、2021年。ISBN 4-756-25390-3。
- マイケル・ジャクソン 著、山岡秀雄,土屋希和子 訳『モルトウイスキー・コンパニオン 改訂第5版』小学館、2005年。ISBN 4-09-387512-X。
- チャールズ・マクリーン; デイヴ・ブルーム,トム・ブルース・ガーダイン,イアン・バクストン,ピーター・マルライアン,ハンス・オフリンガ,ギャヴィン・D・スミス 著、清宮真理,平林祥 訳『改訂 世界ウイスキー大図鑑』柴田書店、2017年。ISBN 978-4388353507。
- 講談社MOOK『世界の名酒事典 2019年版』講談社、2019年。ISBN 4065137896。