H をヒルベルト空間 とし、G を H 上の有界可逆作用素 で I + T と書き表されるようなもの(ここで T はトレースクラス作用素 (英語版 ) とする)とする。G は、
(
I
+
T
)
−
1
−
I
=
−
T
(
I
+
T
)
−
1
{\displaystyle (I+T)^{-1}-I=-T(I+T)^{-1}}
が成立するために、群 である。
トレースクラスノルムを || · ||1 と表すとき、G には d (X , Y ) = ||X - Y ||1 で定義される自然な計量が存在する。
H を、内積
(
⋅
,
⋅
)
{\displaystyle (\cdot ,\cdot )}
を備えるヒルベルト空間としたとき、k 次の外積冪
Λ
k
H
{\displaystyle \Lambda ^{k}H}
も、内積
(
v
1
∧
v
2
∧
⋯
∧
v
k
,
w
1
∧
w
2
∧
⋯
∧
w
k
)
=
d
e
t
(
v
i
,
w
j
)
{\displaystyle (v_{1}\wedge v_{2}\wedge \cdots \wedge v_{k},w_{1}\wedge w_{2}\wedge \cdots \wedge w_{k})={\rm {det}}\,(v_{i},w_{j})}
によりヒルベルト空間となる。
特に、H の正規直交基底 を (e i ) としたとき、
e
i
1
∧
e
i
2
∧
⋯
∧
e
i
k
,
(
i
1
<
i
2
<
⋯
<
i
k
)
{\displaystyle e_{i_{1}}\wedge e_{i_{2}}\wedge \cdots \wedge e_{i_{k}},\qquad (i_{1}<i_{2}<\cdots <i_{k})}
は
Λ
k
H
{\displaystyle \Lambda ^{k}H}
の正規直交基底となる。
A を H 上の有界作用素とするなら、A は
Λ
k
H
{\displaystyle \Lambda ^{k}H}
上の有界作用素
Λ
k
(
A
)
{\displaystyle \Lambda ^{k}(A)}
を
Λ
k
(
A
)
v
1
∧
v
2
∧
⋯
∧
v
k
=
A
v
1
∧
A
v
2
∧
⋯
∧
A
v
k
{\displaystyle \Lambda ^{k}(A)v_{1}\wedge v_{2}\wedge \cdots \wedge v_{k}=Av_{1}\wedge Av_{2}\wedge \cdots \wedge Av_{k}}
として functorially に定義する。
A がトレースクラスであるなら、
‖
Λ
k
(
A
)
‖
1
≤
‖
A
‖
1
k
/
k
!
.
{\displaystyle \|\Lambda ^{k}(A)\|_{1}\leq \|A\|_{1}^{k}/k!.}
によって
Λ
k
{\displaystyle \Lambda ^{k}}
(A ) もトレースクラスとなる。このことから、
d
e
t
(
I
+
A
)
=
∑
k
=
0
∞
T
r
Λ
k
(
A
)
{\displaystyle {\rm {det}}\,(I+A)=\sum _{k=0}^{\infty }{\rm {Tr}}\Lambda ^{k}(A)}
として定義されるフレドホルム行列式 には、意味があることが分かる。
d
e
t
(
I
+
z
A
)
=
∑
k
=
0
∞
z
k
T
r
Λ
k
(
A
)
{\displaystyle {\rm {det}}\,(I+zA)=\sum _{k=0}^{\infty }z^{k}{\rm {Tr}}\Lambda ^{k}(A)}
は
|
d
e
t
(
I
+
z
A
)
|
≤
exp
(
|
z
|
⋅
‖
A
‖
1
)
{\displaystyle |{\rm {det}}\,(I+zA)|\leq \exp(|z|\cdot \|A\|_{1})}
を満たす整関数 である。
|
d
e
t
(
I
+
A
)
−
d
e
t
(
I
+
B
)
|
≤
‖
A
−
B
‖
1
exp
(
‖
A
‖
1
+
‖
B
‖
1
+
1
)
.
{\displaystyle |{\rm {det}}(I+A)-{\rm {det}}(I+B)|\leq \|A-B\|_{1}\exp(\|A\|_{1}+\|B\|_{1}+1).}
という不等式によって、トレースクラス作用素の空間上で連続となる。
また、この不等式は、Simon (2005) の第5章で述べられているように、
|
d
e
t
(
I
+
A
)
−
d
e
t
(
I
+
B
)
|
≤
‖
A
−
B
‖
1
exp
(
max
(
‖
A
‖
1
,
‖
B
‖
1
)
+
1
)
{\displaystyle |{\rm {det}}(I+A)-{\rm {det}}(I+B)|\leq \|A-B\|_{1}\exp(\max(\|A\|_{1},\|B\|_{1})+1)}
という不等式によって、わずかに改良される。
d
e
t
(
I
+
A
)
⋅
d
e
t
(
I
+
B
)
=
d
e
t
(
I
+
A
)
(
I
+
B
)
{\displaystyle {\rm {det}}(I+A)\cdot {\rm {det}}(I+B)={\rm {det}}(I+A)(I+B)}
が成り立つ。
関数 det は、非ゼロ複素数の乗法群 C * への G の準同型写像 である。
d
e
t
X
T
X
−
1
=
d
e
t
T
{\displaystyle {\rm {det}}\,XTX^{-1}={\rm {det}}\,T}
が成り立つ。
d
e
t
e
A
=
exp
T
r
(
A
)
{\displaystyle {\rm {det}}\,e^{A}=\exp \,{\rm {Tr}}(A)}
と
log
d
e
t
(
I
+
z
A
)
=
T
r
(
log
(
I
+
z
A
)
)
=
∑
k
=
1
∞
(
−
1
)
k
+
1
T
r
A
k
k
z
k
{\displaystyle \log {\rm {det}}\,(I+zA)={\rm {Tr}}(\log {(I+zA)})=\sum _{k=1}^{\infty }(-1)^{k+1}{\frac {{\rm {Tr}}A^{k}}{k}}z^{k}}
が成り立つ。
(a , b ) から G への関数 F (t ) は、F (t ) -I がトレースクラス作用素への写像として微分可能であるとき、すなわち、極限
F
˙
(
t
)
=
lim
h
→
0
F
(
t
+
h
)
−
F
(
t
)
h
{\displaystyle {\dot {F}}(t)=\lim _{h\rightarrow 0}{F(t+h)-F(t) \over h}}
がトレースクラスノルムについて存在するとき、微分可能 であると言われる。
g (t ) を、トレースクラス作用素に値を取る微分可能関数とするとき、exp g (t ) もそのような関数となり、
F
−
1
F
˙
=
i
d
−
exp
−
a
d
g
(
t
)
a
d
g
(
t
)
⋅
g
˙
(
t
)
{\displaystyle F^{-1}{\dot {F}}={{\rm {id}}-\exp -{\rm {ad}}g(t) \over {\rm {ad}}g(t)}\cdot {\dot {g}}(t)}
が成立する。ここで
a
d
(
X
)
⋅
Y
=
X
Y
−
Y
X
{\displaystyle {\rm {ad}}(X)\cdot Y=XY-YX}
である。イスラエル・ゴーベルグ (英語版 ) とマーク・クライン (英語版 ) は、F が G への微分可能関数であるとき、f = det F は C * への微分可能写像で、
f
−
1
f
˙
=
T
r
F
−
1
F
˙
{\displaystyle f^{-1}{\dot {f}}={\rm {Tr}}F^{-1}{\dot {F}}}
が成立することを証明した。この結果は、ジョエル・ピンカスとウィリアム・ヘルトンおよびロジャー・ハウ (英語版 ) によって、A と B が有界作用素で、その交換子 AB -BA がトレースクラスであるなら、
d
e
t
e
A
e
B
e
−
A
e
−
B
=
exp
T
r
(
A
B
−
B
A
)
{\displaystyle {\rm {det}}\,e^{A}e^{B}e^{-A}e^{-B}=\exp {\rm {Tr}}(AB-BA)}
が成立することの証明に用いられた。
H = L 2 (S 1 ) とし、P をハーディ空間 H 2 (S 1 ) の上への直交射影 とする。
f がその円板上の滑らかな関数 であるとき、対応する H 上の乗算作用素を m (f ) と表すことにする。
交換子
Pm (f ) - m (f )P
はトレースクラスである。
T (f ) を、
T
(
f
)
=
P
m
(
f
)
P
{\displaystyle T(f)=Pm(f)P}
のように定義される H 2 (S 1 ) 上のテープリッツ作用素 (英語版 ) とする。このとき、加法的な交換子
T
(
f
)
T
(
g
)
−
T
(
g
)
T
(
f
)
{\displaystyle T(f)T(g)-T(g)T(f)}
がトレースクラスであるための十分条件は、f と g が滑らかであることである。
ベルガーとショウは、次の等式を示した:
t
r
(
T
(
f
)
T
(
g
)
−
T
(
g
)
T
(
f
)
)
=
1
2
π
i
∫
0
2
π
f
d
g
.
{\displaystyle {\rm {tr}}(T(f)T(g)-T(g)T(f))={1 \over 2\pi i}\int _{0}^{2\pi }fdg.}
f と g が滑らかであるなら、
T
(
e
f
+
g
)
T
(
e
−
f
)
T
(
e
−
g
)
{\displaystyle T(e^{f+g})T(e^{-f})T(e^{-g})}
は G に含まれる。
ハロルド・ウィドム (英語版 ) は、ピンカス=ヘルトン=ハウの結果を使って、次の等式を示した:
d
e
t
T
(
e
f
)
T
(
e
−
f
)
=
exp
∑
n
>
0
n
a
n
a
−
n
.
{\displaystyle {\rm {det}}\,T(e^{f})T(e^{-f})=\exp \sum _{n>0}na_{n}a_{-n}.}
但し
f
(
z
)
=
∑
a
n
z
n
{\displaystyle f(z)=\sum a_{n}z^{n}}
とする。彼はこの等式を使って、セゲー・ガーボル の有名な極限公式
lim
N
→
∞
d
e
t
P
N
m
(
e
f
)
P
N
=
exp
∑
n
>
0
n
a
n
a
−
n
,
{\displaystyle \lim _{N\rightarrow \infty }{\rm {det}}P_{N}m(e^{f})P_{N}=\exp \sum _{n>0}na_{n}a_{-n},}
の新たな証明方法を考案した。ここで、P N は 1, z , ..., z N によって張られる H の部分空間の上への射影とし、a 0 = 0 とする。
セゲーの極限公式は、1951年、イジング模型 の自発磁化 (英語版 ) の計算に関するラルス・オンサーガー と楊振寧 の研究で生じた問題に対する答えとして、証明された。ウィドムの公式は、セゲーの極限公式をより早く導くものであり、共形場理論 におけるボース粒子 とフェルミ粒子 の間の双対性と恒等的なものである。円板の弧の上でサポートされる関数に対する、セゲーの極限公式の特殊な場合の証明も、ウィドウによるものである;この結果は、ランダム行列 の固有値分布に関する確率論的結果を得るために応用されている。
この節では、フレドホルム行列式のある非公式な定義を紹介する。以下のフレドホルム行列式が与えられる状況において、より望ましい定義のためには、いくつかの点が well-defined であったり、収束したりすることについて証明することが求められる。以下で現れる核 K は様々なヒルベルト空間 やバナッハ空間 上で定義され得るものであるため、それらはつまらない練習問題という訳ではない。
フレドホルム行列式は
det
(
I
−
λ
K
)
=
[
∑
n
=
0
∞
(
−
λ
)
n
Tr
K
n
]
=
exp
(
∑
n
=
0
∞
(
−
1
)
n
+
1
Tr
A
n
n
z
n
)
{\displaystyle \det(I-\lambda K)=\left[\sum _{n=0}^{\infty }(-\lambda )^{n}\operatorname {Tr} K^{n}\right]=\exp {(\sum _{n=0}^{\infty }(-1)^{n+1}{\frac {\operatorname {Tr} A^{n}}{n}}z^{n}})}
のように定義され得る。但し、K は積分作用素 である。その作用素のトレースは
Tr
K
=
∫
K
(
x
,
x
)
d
x
{\displaystyle \operatorname {Tr} K=\int K(x,x)\,dx}
および
Tr
Λ
2
(
K
)
=
1
2
!
∬
K
(
x
,
x
)
K
(
y
,
y
)
−
K
(
x
,
y
)
K
(
y
,
x
)
d
x
d
y
{\displaystyle \operatorname {Tr} \Lambda ^{2}(K)={\frac {1}{2!}}\iint K(x,x)K(y,y)-K(x,y)K(y,x)\,dxdy}
および、より一般的に
Tr
K
n
=
1
n
!
∫
⋯
∫
det
K
(
x
i
,
x
j
)
|
1
≤
i
,
j
≤
n
d
x
1
⋯
d
x
n
{\displaystyle \operatorname {Tr} K^{n}={\frac {1}{n!}}\int \cdots \int \det K(x_{i},x_{j})|_{1\leq i,j\leq n}\,dx_{1}\cdots dx_{n}}
で与えられる。これらの核はトレースクラス あるいは核作用素 であるため、そのようなトレースは well-defined である。
フレドホルム行列式は、物理学者 John A. Wheeler (1937, Phys. Rev. 52:1107) によって、共鳴群法により部分波動関数の反対称な組み合わせとして構成される、複合原子核に対する波動関数の数学的表記を与えるために、用いられた。この方法は、アルファ粒子 やヘリウム-3、重水素 、トリトン、重中性子など、基本的なボース粒子やフェルミ粒子のクラスター群あるいは構成要素へと、中性子や陽子のエネルギーを分配するためのさまざまな方法に対応するものである。ベータやアルファ安定アイソトープのために共鳴群法が応用されるとき、フレドホルム行列式は、(1) 複合システムのエネルギー値を決定するため、および (2) 分布と崩壊の断面図を決定するために用いられる。Wheeler の共鳴群法は、以後のすべての核子クラスターモデルに対する理論的な基盤と、すべての軽および重質量アイソトープのための対応するクラスターエネルギーダイナミクスをもたらすものであった(N.D. Cook, 2006 に含まれる、物理学でのクラスターモデルについてのレビューを参照されたい)。
Simon, Barry (2005), Trace Ideals and Their Applications , Mathematical Surveys and Monographs, 120 , American Mathematical Society, ISBN 0-8218-3581-5
Wheeler, John A. (1937), On the Mathematical Description of Light Nuclei by the Method of Resonating Group Structure , Physical Review, 52 , p. 1107
Bornemann, Folkmar (2010), “On the numerical evaluation of Fredholm determinants”, Math. Comp. (Springer) 79 : 871–915