ビニールハウス
ビニールハウスまたはプラスチックハウスとは、木材又は 鋼材を躯体とし合成樹脂のフィルムで外壁を被覆した、作物栽培のための農業施設である。被覆材料には、農業用ポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)が使われることが多い事から、ビニールハウスと一般的に呼ばれる。また単に「ハウス」やポリ塩化ビニル以外の被覆資材も多いことから「プラスチックハウス」と呼ばれることもある。和製英語であり、英語ではGreenhouse(グリーンハウス:温室参照)の一形態である。
一般的にイメージされるビニールハウスは、 鋼管(パイプ)を躯体としたものが圧倒的に多く、パイプハウスと呼ぶこともある。構造全てをフィルムで覆う場合と、降雨による農作物への影響を防ぐためにハウス上面だけを覆う場合がある。上面だけを覆う栽培方法は、雨よけ栽培と呼ばれる。
歴史
編集ビニールを使う試みは昭和26年頃から行われ、従来の油紙などにかわり昭和30年(1955年)から実用化された。ただ、この頃はビニールハウスなどなく、より小型で畝毎にビニールで覆うトンネル栽培である。トンネルを大型にした方が、燃費や設置費用が高くなるが、雨天でも作業が行え保温性能も高くなるなどのメリットからビニールハウスが実用化された[1]。
ビニールハウスとプラスチックハウス
編集作物栽培に利用する農業施設として「ビニールハウス」という呼称が、現在も一般的に使われる。しかし、実際にポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)を使用する「ビニールハウス」は43%(2014年現在)で[2]減少傾向にあり、48%は農ビよりも軽くべとつかない特徴をもつポリオレフィンフィルム(農PO)を使用している[2]。また、特定波長域の光の透過を制限する資材や入射光を散乱させる資材など様々な機能性を有する資材も開発・実用化されている。こうした現状から様々な資材を包摂するプラスチックハウスの名称が正式に使用される[3][4][5]。
日本で使用されるプラスチックハウスの種類
編集プラスチックハウスの設置面積は、昭和40年代頃から増加を続け、1999年には栽培実面積で約5万1千 ヘクタールを超えたものの、近年では農産物価格の低迷や後継者不足、高齢化に伴う農業全体の縮小傾向と歩をあわせるように、面積も横ばいないし減少傾向にある(2014年現在の実面積は約4万1千 ヘクタール[2])。これは温室の設置面積の95%以上を占める。
後述のフィルムの種類のうち、農POや硬質フィルム、硬質板を用いた鉄骨を構造部材とするハウスもあり、これはプラスチックハウスであり、同時に鉄骨ハウスであるという区分となる。被覆資材による区分はプラスチックハウスとガラス室(いわゆる温室)であり、本項ではプラスチックハウスのみを扱う。
なお、以下においてプラスチックハウスのうち、パイプハウスであるものを一般的な呼称にならい「ビニールハウス」と表現する。
H型鋼や角形鋼を合掌や柱に、C型鋼を母屋に使用する。設置コストが非常に高い。
鉄骨補強パイプハウス
編集屋根に曲げパイプ(アーチパイプ)を用い、鉄骨と組み合わせて補強したハウス。
最も簡易なハウスで、基礎を用いず、肩部で曲げられたパイプを地中に挿入し、棟部で2本のパイプを接続し、棟方向に配した母屋パイプで補強する構造。
構造と組立方法
編集素材
編集- このため、より耐候性に優れる農業用ポリオレフィン系フィルム(農ポリ、POフィルム)やフッ素樹脂のフィルム(硬質フィルム)が開発され、シェアを年々拡大しており、これらを含めてビニールハウスと呼称する場合も依然として多いが、近年はプラスチックハウスという呼称が使われている[4]。
- 使用済みのフィルムは産業廃棄物であり、許可を得ず農家が個別に処理することは禁止されている。このため、他の農業用使用済プラスチック製品と同様、行政と農業団体、農家の取組みによって回収、処分及びリサイクルが行われることとされている。ポリ塩化ビニルフィルムのリサイクル率は、2003年(平成15年)現在で約60 %となっている。以前は不要になったビニールシートが野焼きされ、ダイオキシン類の発生や悪臭などの公害が問題になることがあった。
- パイプの外径は規格化され、19.1ミリメートル、22.2ミリメートル、25.4ミリメートル、28.6ミリメートル、31.8ミリメートル、38.1ミリメートル、42.7ミリメートル、48.6ミリメートルのものがある。一見中途半端な数字に見えるが、これはヤードポンド法のインチを基準に定められたためである。
パイプハウス
編集最も簡易な構造のものでは、あらかじめ湾曲させたパイプを互いに向かい合わせ、一端を地面に刺して、もう一端を継ぎ手で連結し、アーチをかたどる。このアーチを奥行き方向に延長したものが基本的な骨組みとなり、必要に応じて筋交いなどの補強を行う。降雪の多い地域では、ビニールハウス内に梁を渡す耐雪仕様のものもあるが、パイプそのものの強度の限界のため、豪雪の際にはしばしば倒壊などの被害に見舞われる。
被覆フィルムは、一度天井部全面に展張した後、パッカーと呼ばれるプラスチック製器具や金属製の専用器具によって、パイプの各部分に押し付ける形で固定する。さらに、フィルムの上からハウスの横方向にプラスチック製の紐を渡して補強することがある。
固定されていない展張したフィルムは風を孕みやすいため、少しの風でも展張・固定作業は難しくなる。時には突風により、作業者がフィルムごと飛ばされる事故も起こるので、フィルムを貼る作業は無風条件下での作業が望ましい。
大型のものになると、躯体の部品は細分化され、継ぎ手の種類も増える。また、横方向にハウスを連結した構造のものも見られる。現在では一構造体として延べ面積が1 ヘクタールを超えるものも珍しくなく、この規模になると外見や機能面での温室との差は殆どなくなる。
このほか、メーカー独自の外形や形状を持つものがあり、ビニールハウスの大きさ、耐風性、降雪量、経済性を考慮して選択される。
補助的な設備
編集効率的に太陽の熱を集め、また外気と遮断されることにより一定の温度を保つことができるが、農作物の生育に必要な温度が確保できない場合は、保温・加温を行うため、暖房設備を併設する。
他方、ビニールハウス内の温度が上がりすぎるのを防ぐため、換気窓や大型換気ファンを設置して換気を行ったり、日照を抑える遮光幕を設置する場合もある。換気にはビニールハウス側面の被覆を開閉することも有効であるが、人力による開閉労力を軽減するため、被覆を巻き取る補助器具も開発されている。
光合成に必要な二酸化炭素の欠乏を防ぐため、換気のほかに二酸化炭素ガスを導入する事もある。これは生育促進の目的で行われる場合もある。
また、ビニールハウス内では降雨による水分補給は期待できないので、潅水設備は欠かせない。
用途
編集農作物の育苗や栽培に広く活用される。他方、設置の簡便性を生かして、作業小屋や格納庫、畜舎など作物の栽培以外の多用途に利用されることがある。栽培の用途に供しない場合は、透明でないフィルムや、フィルム以外の素材で被覆することもあるが、この場合は用途名の頭に「パイプハウス」を付けて「パイプハウス○○」と呼称されることもある(例:「パイプハウス牛舎」等)。
税制上の取扱い
編集簡易な建造物であるため、仮設の小屋と言う解釈から税制上の家屋として見なされないため、ビニールハウス自体に固定資産税はかからない。ただし、基礎を設けたり床面をコンクリート打設するなどすると仮設の小屋とは見なされず、課税対象となることがある。
出典
編集- ^ 清水茂, 「1. 施設園芸と気象[ソ菜]」『農業気象』 1964-1965年 20巻, 2号, p.69-73, ISSN 0021-8588, doi:10.2480/agrmet.20.69
- ^ a b c d “施設園芸の設置等の状況”. 農林水産省. 2018年5月16日閲覧。
- ^ 日本施設園芸協会 (2015年5月30日). 施設園芸・植物工場ハンドブック. 農文協
- ^ a b “農業技術辞典 NAROPEDIA”. 2018年5月16日閲覧。
- ^ 農業施設学会 (2012年9月15日). よくわかる農業施設用語解説集. 筑波書房