バンド理論
固体物理学における固体のバンド理論(バンドりろん、英: band theory)または帯理論とは、結晶などの固体物質中に分布する電子の量子力学的なエネルギーレベルに関する理論を言う。1920年代後半にフェリックス・ブロッホ、ルドルフ・パイエルス、レオン・ブリルアンらによって確立された[1]。なお、価電子帯の最高部(英: valence band maximum, VBM)と伝導帯の最低部(英: conduction band minimum, CBM)とのエネルギー差をバンドギャップといい、価電子帯での電子が占める最高エネルギー準位をフェルミ準位という
概要
編集量子力学によると、束縛状態の電子が取りうるエネルギー準位は、特定の準位のみに限定され飛び飛びに(離散的に)なる。しかし、固体中の外殻電子は、隣接する原子の電子との相互作用によって、電子の取りうるエネルギー準位の幅が広がって連続的(バンド構造)になる。
一方で、電子が取りえないエネルギー準位も依然として存在し、バンドとバンドの間の空隙(ギャップ)となる。これをエネルギーバンドギャップという。
ブロッホの定理によると、結晶中の電子の波動関数(結晶中の電子の電子状態)は、波数と呼ばれる量子数によって指定される。このことが、エネルギーと波数の関係式が原理的に書き下せることを保障している。
エネルギーバンドの特徴は、絶縁体と金属の違いを説明することができる。絶縁体や半導体では、フェルミ準位は価電子帯と伝導帯の間のギャップの中に存在するため、自由電子が存在しない。一方、金属はエネルギーバンドの中にフェルミ準位が存在するため、バンドギャップを超えることなく電子がエネルギーを得ることができる、すなわち、わずかなエネルギーで電子を動かすことができる(電流が流れる)。このような絶縁体、金属の分類の描像は20世紀の半ばには確立されていた。しかし単純なバンド理論では説明できない絶縁状態(モット絶縁体)も存在し、強相関電子系と呼ばれる分野で研究されている。
方法
編集脚注
編集参考文献
編集- J.N.シャイヴ 著、神山 雅英, 小林 秋男, 青木 昌治, 川路 紳治(共訳) 編『半導体工学』岩波書店、1961年。
- 久保 脩治『トランジスタ・集積回路の技術史』オーム社、1989年。
- 和光信也:「コンピュータでみる 固体の中の電子:バンド計算の基礎と応用」、講談社サイエンティフィク、ISBN 4-06-153207-3 (1992年12月1日).
- 小口多美夫:「バンド理論:物質科学の基礎として」、内田老鶴圃、ISBN 978-4-7536-5609-7 (1999年7月25日).
- Richard M. Martin: Electronic StructureーBasic Theory and Practical Methods, Cambridge University Press, ISBN 978-0-52153440-6 (2008年10月23日). (初版)
- R.M. Martin:「物質の電子状態」上、丸善出版、ISBN 978-4-621-06249-4 (2012年1月). (原著第1版の訳)
- R.M. Martin:「物質の電子状態」下、丸善出版、ISBN 978-4-621-06523-5 (2012年11月). (原著第1版の訳)
- 小口 多美夫:「遷移金属のバンド理論」、内田老鶴圃、ISBN 978-4753655717 (2012年6月).
- Richard M. Martin: Electronic Structure: Basic Theory and Practical Methods(2nd Ed), Cambridge University Press, ISBN 978-1-10842990-0 (2020年8月27日).