ナマケモノ
ナマケモノ(樹懶)は、哺乳綱有毛目ナマケモノ亜目(Folivora)の総称。ミユビナマケモノ科とフタユビナマケモノ科が現生し、他にいくつかの絶滅科がある。分類群としては、別名食葉亜目[6]。
ナマケモノ亜目 | |||||||||||||||||||||
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ノドチャミユビナマケモノ Bradypus variegatus
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Folivora Delsuc, Catzeflis, Stanhope, and Douzery, 2001[1][2] | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
ナマケモノ亜目[4] | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
Sloth | |||||||||||||||||||||
科[5] | |||||||||||||||||||||
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概要
編集- 名前・身体
- そのゆっくりとした動作から「怠け者」という呼び名がついた。英語名の Sloth も同じく、怠惰やものぐさを意味する。体長は約41-74センチメートル。四肢は長く、前肢のほうが後肢より長く発達している。長い鉤爪を持ち、これを木の枝に引っ掛けてぶら下がっている。
- 生態
- 南アメリカ、中央アメリカの熱帯林に生息する。生涯のほとんどを樹にぶら下がって過ごす。食事や睡眠から交尾、出産までも樹にぶら下がったままで行う。主食は葉や新芽など。また自毛に生えた苔も食用とする。週に1回程度、樹上から降り、地上で排便、排尿を行う。
- 地上に降りて排泄を行うのは、ナマケモノの被毛の中に棲むナマケモノガと呼ばれるメイガ科クリプトセス属の蛾が排泄物を産卵場所かつ幼虫の餌として利用しやすいようにするためで、ナマケモノガはその見返りとしてナマケモノの被毛に食料となる苔が生えやすいように環境を整える相利共生関係にある可能性が高い、との研究結果がウィスコンシン大学マディソン校の生物学者ジョナサン・パウリ氏により発表されている[7][8]。
- 擬態
- 日中は頭を前脚の間に入れ、枝に張り付くようにして丸くなって眠るため、遠目には樹の一部のように見える。これがジャガー、ピューマなどの捕食者から身を守る擬態となっている。また、年齢を重ねた個体の被毛には藻類が生えることもあり、これも樹皮への擬態の一部となる。
- 捕食者
- 機敏に動くことができない上、非社会性動物であることから、オウギワシには簡単に捕食されてしまう。パナマのバロ・コロラド島での観察では、オウギワシの獲物の内、重量にして50%以上がナマケモノであった[9]。
- 泳ぎ
- 地上での動作は遅いが、泳ぎは上手である。生息地のアマゾン近辺で雨季に起きる洪水を生き延びるためである。
- 食事
- 非常に少食であり、1日に10gほどの植物を摂取する[10]。前述のように動きが遅いことや、現生哺乳類では珍しい変温動物であることから[11]。このことや基礎代謝量が非常に低く[12]代謝量が非常に少なく、少食でも生命活動を維持できる。よく似た生態・体重だが恒温動物であるコアラが1日当たり500g以上の植物を摂取するのに比べても[13]、ナマケモノは非常に少食である。16世紀にナマケモノがヨーロッパに初めて紹介された当初は、餌を全く摂らず、風から栄養を摂取する動物だと考えられていた[14]。
人間との関係
- 非常にストレスに弱い上に変温動物である性質上、温度変化に非常に敏感で、飼育環境を高温多湿に保つ必要があるため、一般家庭で飼育することは困難[15]。
分類
編集以前は分類名を食葉亜目Phyllophagaなどとすることもあったが[3][16]、「Phyllophaga」や「Tardigrada」は前口動物で使用されていたため、2001年に置換名としてFolivora(「葉食」の意で、Phyllophagaと同義)が提唱された[1]。
現生ナマケモノはミユビナマケモノ科とフタユビナマケモノ科の2科に分類され、以下の6種がいる[2]。和名は川田ら (2018) に[4]、英名はGardner (2005) に従う[2]。双方の科の生息域は重なっていることが多いが、同属の種間では同所的に分布しない[17]。
- ミユビナマケモノ科 Bradypodidae - 前後両足の指が3本であり、小さな尾をもつ。通常哺乳類の頸椎は7個であるが、ミユビナマケモノ科の頸椎は9個ある。首を270度回転させることができるため、体を動かさずに周りの葉を食べることができる。体長50-60センチメートル。中央・南アメリカの森林地帯に生息している。長く太い鉤爪を持ち、セクロピアの木の葉などを食べる。
- フタユビナマケモノ科 Megalonychidae - 前足の指が2本、後足の指が3本であり、尾は全くないか、わずかな痕跡があるのみである。頸椎はホフマンナマケモノで6個、フタユビナマケモノで7個である。双方を外見で判別することは困難であり、しばしば、X線撮影で頸椎の数を調べることで判別している。ミユビナマケモノ科に比べ、気性が荒く動作もすばやい。体長60-64センチメートル。中央・南アメリカの森林地帯に生息する。鋭い鉤爪を使い木の葉や木の実を食べる。地上には滅多に下りない。
形態に基づく分類体系では、ナマケモノ類はミロドン下目Mylodontaとメガテリウム下目Megatheriaに大別され、現生科はメガテリウム下目に含まれるとされていた[3][16]。上述するようにフタユビナマケモノ属は絶滅したメガロニクスを模式属とするMegalonychidae科に分類されていた[2]。以下の分類は、McKenna & Bell (1997) に従う[3]。
- (下目所属不明 incertae sedis)
- ミロドン下目 Mylodonta†
- メガテリウム下目 Megatheria
一方で、2019年にはミトコンドリアDNAとコラーゲン配列を利用した系統解析からフタユビナマケモノ属をメガロニクス属ではなくミロドン科の姉妹群とする説が提唱されている[18][19]。以下の分類は、Presslee et al. (2019) に従う[19]。上科・科和名は定義の変更されたMegalonychidae科を除いて遠藤・佐々木 (2001) に従った[5]。
- (上科なし)
- (上科)Megatherioidea
- ミロドン上科 Mylodontoidea
脚注
編集出典
編集- ^ a b Frédéric Delsuc, François M. Catzeflis, Michael J. Stanhope and Emmanuel J. P. Douzery, “The Evolution of Armadillos, Anteaters and Sloths Depicted by Nuclear and Mitochondrial Phylogenies: Implications for the Status of the Enigmatic Fossil Eurotamandua,” Proceedings: Biological Sciences, Volume 268, No. 1476, Royal Society, 2001, Pages 1605-1615.
- ^ a b c d e Alfred L. Gardner, “Order Pilosa,” In: Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.), Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 100-103.
- ^ a b c d Malcolm C. McKenna & Susan K. Bell, “Suborder Phyllophaga,” Classification of Mammals: Above the Species Level, Columbia University Press, 1997, Pages 93-102.
- ^ a b 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志 「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
- ^ a b 遠藤秀紀・佐々木基樹「哺乳類分類における高次群の和名について」『日本野生動物医学会誌』第6巻 2号、日本野生動物医学会、2001年、45-53頁。
- ^ 『新版 絶滅哺乳類図鑑』丸善。[要ページ番号]
- ^ “ナマケモノ、危険なトイレ旅の見返りは”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 2021年3月31日閲覧。
- ^ Pauli, Jonathan N.; Mendoza, Jorge E.; Steffan, Shawn A.; Carey, Cayelan C.; Weimer, Paul J.; Peery, M. Zachariah (2014-03-07). “A syndrome of mutualism reinforces the lifestyle of a sloth”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 281 (1778): 20133006. doi:10.1098/rspb.2013.3006. PMC 3906947. PMID 24452028 .
- ^ Janeene M. Touchton, Yu-Cheng Hsu, & Alberto Palleroni (2002). “Foraging ecology of reintroduced captive-bred subadult harpy eagles (Harpia harpyja) on Barro Colorado Island, Panama”. ORNITOLOGIA NEOTROPICAL 13: 365–379.
- ^ “「寒さ」と「暑さ」 人間が弱いのはどっち”. 日本経済新聞. (2016年6月20日) 2020年12月3日閲覧。
- ^ S. W. Britton, W. E. Atkinson. 1938. Poikilothermism in the Sloth.Journal of Mammalogy 19:94-99.
- ^ P. F. SCHOLANDER, RAYMOND HOCK, VLADIMIR WALTERS, and LAURENCE IRVING. 1950. ADAPTATION TO COLD IN ARCTIC AND TROPICAL MAMMALS AND BIRDS IN RELATION TO BODY TEMPERATURE, INSULATION, AND BASAL METABOLIC RATE. The Biolgical Bulletin 99:259-271.
- ^ Burnie David, Animal, 2001, DK, ISBN 978-1-7403-3578-2[要ページ番号]
- ^ 川崎悟司、「絶滅したふしぎな巨大生物」、株式会社PHP研究所、2011年、p199より。
- ^ SNSに惑わされるな、飼うとヤバい動物10種(1/4ページ) ナショナルジオグラフィック日本版 2019.02.03 (2020年8月8日閲覧)
- ^ a b 日本哺乳類学会 種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」『哺乳類科学』第43巻 2号、日本哺乳類学会、2003年、127-134頁。
- ^ Christopher R. Dickman「貧歯目総論」「ナマケモノ」伊繹紘生訳、D.W.マクドナルド編・今泉吉典監修『動物大百科 6 有袋類ほか』平凡社、1986年、42-43, 48-81頁。
- ^ Frédéric Delsuc, Melanie Kuch, Gillian C. Gibb, Emil Karpinski, Dirk Hackenberger, Paul Szpak, Jorge G. Martínez, Jim I. Mead, H. Gregory McDonald, Ross D.E. MacPhee, Guillaume Billet, Lionel Hautier & Hendrik N. Poinar, “Ancient Mitogenomes Reveal the Evolutionary History and Biogeography of Sloths,” Current Biology, Volume 29, Issue 12, Elsevier, 2019, Pages 2031–2042.
- ^ a b Samantha Presslee, Graham J. Slater, François Pujos, Analía M. Forasiepi, Roman Fischer, Kelly Molloy, Meaghan Mackie, Jesper V. Olsen, Alejandro Kramarz, Matías Taglioretti, Fernando Scaglia, Maximiliano Lezcano, José Luis Lanata, John Southon, Robert Feranec, Jonathan Bloch, Adam Hajduk, Fabiana M. Martin, Rodolfo Salas Gismondi, Marcelo Reguero, Christian de Muizon, Alex Greenwood, Brian T. Chait, Kirsty Penkman, Matthew Collins & Ross D. E. MacPhee, “Palaeoproteomics resolves sloth relationships,” Nature Ecology & Evolution, Volumr 3, Issue 7, Springer Nature, 2019, Pages 1121–1130.