トクサ目(トクサもく、学名Equisetales)は、大葉シダ植物トクサ亜綱に属する現生では唯一ので、現生のものはトクサ科 トクサ属の15種のみであるが[1][2]ロボク科などの化石種を多く含む[2]デボン紀後期から現在まで生育している[3]。形態と構造に基づき、現生のトクサ属と化石のロボク科は共通祖先を有すると考えられ、一方は胞子嚢穂苞葉がなく胞子嚢床のみをつける草本性のトクサ属に、もう一方は胞子嚢穂に苞葉と胞子嚢床をもつロボク科に分岐したと考えられる[3]

トクサ目
Equisetum pratense Arthropitys bistriata
分類PPG I (2016)[注釈 1]
: 植物界 Plantae
上門 : 陸上植物上門 Embryophyta
: 維管束植物Tracheophyta
亜門 : 大葉植物亜門 Euphyllophytina
: 大葉シダ綱 Polypodiopsida
亜綱 : トクサ亜綱 Equisetidae
: トクサ目 Equisetales
学名
Equisetales
DC. ex Bercht. & J.Presl
タイプ属
Equisetum L.
和名
トクサ目

系統関係

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Elgorriaga et al. (2018)による化石植物に系統樹に、西田 (2017)などを参考に基部にプセウドボルニア目 Pseudobornialesを加えたトクサ亜綱の系統樹は次のようになる[4][5]。なお、西田 (2017)ではアルカエオカラミテス科はロボク科に内包され、ネオカラミテスはトクサ科に内包される[2]

トクサ亜綱

プセウドボルニア目 Pseudoborniales

スフェノフィルム目 Sphenophyllales

トクサ目

アルカエオカラミテス科 Archaeocalamitaceae

ロボク科 Calamitaceae

Paracalamitina

Cruciaetheca

ネオカラミテス Neocalamites

トクサ科 Equisetaceae

Equisetales
Equisetidae

形態

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胞子体にはが分化し[6]楔葉(輪生葉)と胞子嚢床を持つ[7]。トクサ目で共通する形質は、茎に隆条があること、輪生葉(ロボク科ではその基部)が互いに融合し茎を囲む葉鞘を形成すること、茎が内原型の木部を持つ管状中心柱であること、明瞭な通水道(原生木部腔)を持つこと、節間には髄腔があること、弾糸をもつ胞子を有することが挙げられる[3]

トクサ目に含まれるロボク科トクサ科の共通祖先では、大葉シダ植物の共通祖先で中原型だった中心柱原生木部が、内原型へと進化した[7][3]。そして茎の中央が髄腔として空洞になり、原生木部周辺に通水道を形成するようになった[7]。また、この段階で胞子嚢の表面が剥がれ、4本のリボン状となって胞子散布に役立つ弾糸が進化した[7]

ロボク科ではトクサ目の姉妹群であるスフェノフィルム目とともに両面維管束形成層を持ち二次組織が作られるため、それ以前の共通祖先(トクサ類)でそれを進化させたと考えられる[7]。しかし、現生のトクサ科では両面維管束形成層を持たず、後生木部篩部の側面に形成される特有の維管束を形成する[7]。トクサ属の維管束環はトクサ型外篩管状中心柱(穿孔外篩管状中心柱)と呼ばれる[3]。また、トクサ科では通気孔をもつ[7]

通気組織

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トクサ属の地上茎の横断面。Scale = 0.525 mm
A: 表皮, B: 通気孔, C: 髄腔, D: 通水道, E: 篩部, F: 木部
トクサ属の地下茎の横断面。Scale = 0.6 mm
A: 通気孔, B: 通水道, C: 表皮, D: 篩部, E: 木部
Sphenophyllum insigne(スフェノフィルム目)の茎の断面図。通気組織を持たない。
Astromyelon williamsonis
ロボク科)の地下茎の断面図
スギナ Equisetum arvense の茎の断面図
フサスギナ Equisetum sylvaticum の茎の断面図
イヌスギナ Equisetum palustre の茎の断面図

姉妹群であるスフェノフィルム目の茎は中実であるが[8]、トクサ目では通気組織を持つようになる[2][7]

アルカエオカラミテスでは中心柱は中原型の環状で、二次木部は形成するが中央に髄腔がなく、通水道と通気孔のみをもつ[2]ロボク科は茎は髄腔と通水道を持ち中空で、節部だけ中実となる[7]トクサ科では3種類の通気組織が発達し、地上茎が中空である[2][7]。維管束内と皮層にも穴が開いている[2]。髄腔および通水道はロボク科ももつため、それらの共通祖先で獲得したと考えられている[7]

現生のトクサ科では髄腔(ずいこう、pith cavity[9], medullary cavity[10])、通水道(つうすいどう、carinal canal[9])、通気孔[7](つうきこう、通気腔[2]vallecular canal[9])からなる3種の通気組織を持つ[2]。通水道および通気孔は節にはないが、地下茎(根茎)には存在する[3]

髄腔は茎の中央にある空洞である[7]

通水道は原生木部周辺にある大きな穴で「原生木部腔」とも呼ばれ、維管束に伴っている[7][3]。通水道は節間が伸長する際に原生木部要素が分離、崩壊することにより形成される[3]。成長した茎では1本以上の遅成熟性の仮道管が通水道の縁に沿ってみられる[3]。通水道を裏打ちする柔細胞は厚い細胞壁を発達させている[3]。染料を通す実験により、通水道自体が水の運搬を担っていることが分かった[3]。通水道には一次篩部が面しており、両脇に木部を伴う[3]。この木部は過去には維管束の後生木部であると考えられてきたが、通水道を導いた原生木部細胞群から区別され、発生学的には異なると考えられている[3]。この木部はBierhorst (1958) により側方木部(そくほうもくぶ、lateral xylem)と呼ばれた[3]

茎の表面では維管束のある部分が出っ張り隆条(りゅうじょう、ridge)を形成し、隆条間のへこんでいる部分の組織には長軸方向に通気孔がある[7][3]。これらの構造は円柱のように軽く丈夫である[7]

下位分類

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アルカエオカラミテス Archaeocalamites の化石

以下にPPG I (2016)西田 (2017)Elgorriaga et al. (2018)などをもとにした、化石植物を含む属までのトクサ目の分類を示す[1][5][2][4]。ロボク科はその巨大さから単独のロボク目 Calamitales)とされたこともあった[2][3]。なお、以下の表ではアルカエオカラミテス科に置かれるアルカエオカラミテスは、西田 (2017)ではロボク科に内包されている[2]。現在では化石種には†を、特に形態属については‡を付した。

脚注

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注釈

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  1. ^ 分類体系としてはPPG I (2016)に準拠しているが、PPG I (2016)では綱以下が定められているため、それより上の分類も含め実際は巌佐ほか (2013)による。
  2. ^ Elgorriaga et al. (2018)ではトクサ科の姉妹群として置かれ、トクサ科には含まれない[4]

出典

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  1. ^ a b PPG I 2016, pp. 563–603.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 西田 2017, pp. 148–154.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w ギフォード & フォスター 2002, pp. 183–214.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n Elgorriaga et al. 2018, pp. 1286–1303.
  5. ^ a b 西田 2017, p. 294.
  6. ^ a b 岩槻 1975, pp. 170–173.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 長谷部 2020, pp. 153–157.
  8. ^ 巌佐ほか 2013, p. 1001a.
  9. ^ a b c Gifford & Foster 1988, pp. 177–205.
  10. ^ 巌佐ほか 2013, p. 720d.
  11. ^ a b Boyce & Geo 1999, pp. 311–316.
  12. ^ Rees, Tony (2018年2月28日). “Archaeocalamites Stur, 1875†”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  13. ^ Rees, Tony (2018年3月2日). “Pothocites Paterson, 1844 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  14. ^ Rubèn & Escapa 2006, pp. 167–177.
  15. ^ Rees, Tony (2018年3月4日). “Weissistachys G.W. Rothwell & T.N. Taylor, 1971 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  16. ^ Rees, Tony (2018年2月28日). “Mazostachys Kosanke, 1955 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  17. ^ Rees, Tony (2018年2月28日). “Palaeostachya C.E. Weiss, 1876 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  18. ^ Rees, Tony (2018年3月4日). “Pendulostachys C.W. Good, 1975 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  19. ^ Rees, Tony (2011年12月31日). “Tchernovia M.D. Zalessky, 1930 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  20. ^ Rees, Tony (2018年2月28日). “Gondwanostachys S.V. Meyen, 1969 †”. IRMNG. 2021年9月8日閲覧。
  21. ^ a b Bomfleur et al. 2013, pp. 1–17.
  22. ^ Osborn et al. 2000, pp. 225–235.

参考文献

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  • Bomfleur, B.; Escapa, I.H.; Serbet, R.; Taylor, E.L.; Taylor, T.N. (2013). “A reappraisal of Neocalamites and Schizoneura (fossil Equisetales) based on material from the Triassic of East Antarctica”. Alcheringa 37: 1–17. ISSN 0311-5518. 
  • Boyce, W.D.; Geo., P. (1999). “Macrofloral-based age determination of the Saltwater Cove Formation (Anguille group), Fisher Hills Bluestone Quarry”. Current Research (Newfoundland Department of Mines and Energy Geological Survey) (Report 99-1): 311-316. 
  • Cunéo, Rubèn; Escapa, Ignacio H. (2006). “The Equisetalean Genus Cruciaetheca nov. from the Lower Permian of Patagonia, Argentina”. International Journal of Plant Sciences 167 (1): 167-177. doi:10.1086/497652. 
  • Elgorriaga, Andrés; Escapa, Ignacio H.; Rothwell, Gar W.; Tomescu, Alexandru M. F.; Cúneo, N. Rubén (2018). “Origin of Equisetum: Evolution of horsetails (Equisetales) within the major euphyllophyte clade Sphenopsida”. American Journal of Botany 105 (8): 1286-1303. doi:10.1002/ajb2.1125. 
  • Gifford, Ernest M.; Foster, Adriance S. (1988). Morphology and Evolution of Vascular Plants. Series of books in biology (3rd ed.). New York: W.H.Freeman and Company. ISBN 0716719460 
  • Osborn, Jeffrey M.; Phipps, Carlie J.; Taylor, Thomas N.; Taylor, Edith L. (2000). “Structurally preserved sphenophytes from the Triassic of Antarctica: reproductive remains of Spaciinodum”. Review of Palaeobotany and Palynology 111 (3-4): 225-235. doi:10.1016/S0034-6667(00)00026-9. ISSN 0034-6667. 
  • PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563-603. 
  • Puttick, Mark N.; Morris, Jennifer L.; Williams, Tom A.; Cox, Cymon J.; Edwards, Dianne; Kenrick, Paul; Pressel, Silvia; Wellman, Charles H. et al. (2018). “The interrelationships of land plants and the nature of ancestral Embryophyte”. Current Biology (Cell) 28: 1-13. doi:10.1016/j.cub.2018.01.063. 
  • Wickett, Norman J.; et al. (2014). “Phylotranscriptomic analysis of the origin and early diversification of land plants”. PNAS 111 (45): E4859-E4868. 
  • 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也塚谷裕一『岩波生物学辞典 第5版』岩波書店、2013年2月26日。ISBN 9784000803144 
  • アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、113-181頁。ISBN 4-8299-2160-9 
  • 西田治文『化石の植物学 ―時空を旅する自然史』東京大学出版会、2017年6月24日。ISBN 978-4130602518 
  • 長谷部光泰『陸上植物の形態と進化』裳華房、2020年7月1日。ISBN 978-4785358716 

関連項目

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