デルヴェニ・パピルス
デルヴェニ・パピルス(Derveni papyrus)は、1962年に発見された古代ギリシアの古文書である。
その本文自体は、オルペウス詩(神々の誕生に関する神統譜)を寓意的に注釈した哲学論文であり、紀元前5世紀後半にアナクサゴラスなど自然学者の影響が見られる。「ルネッサンス以降に新しく発見された、ギリシャ哲学と宗教に関する典拠の、最も重要な部分」とされている(Janko,2005)。
ヨーロッパ最古の残存する文書であり、このパピルス自体の埋葬期はマケドニア王国のピリッポス2世の治世である約紀元前340年にさかのぼる[1][2]。最終的には2006年に刊行された。
発見の経緯
編集この巻物は、ギリシア北部のマケドニアのデルヴェニにて発見された。デルヴェニとは古都レテに属す、富裕層のためのネクロポリス(墓地)である。西洋の歴史において現存する最古の文献であり、現代に残ったきわめて僅かなギリシアのパピルスの一部である[1]。パピルスは貴族の墓の火葬用の薪のために炭化しており、現在はテッサロニキ考古学博物館で保存されている。
内容
編集本文はオルペウス作に帰された六歩格詩に対する注釈であり、詩の断片が引用されている。
詩の形で叙述された神統譜によると、ニュクス(夜)は、ウーラノス(天)を生み、天が最初の王となる。その後を受けてクロノス(時間)が王位につくが、ゼウスがその後を襲う。父から神託を聞いたゼウスはニュクスの聖域に赴き、そこで彼から、後に全て実現することになる神託を聞かされる。そこでゼウスは、最初に天の輝きを射精した王ウーラノスの男根を呑み込んだ[3]。
読解の状況
編集テキストは発見後、44年の間、公式に十全な形で刊行されることは無かった。出版者であるA.L.Pierrisによれば、出版を遅らせたのは、テッサロニキのアリストテレス大学名誉教授のKyriakos Tsantanoglouである。2005年の秋、専門家チームが結成され、the Institute for Philosophical studiesのA. L. Pierrisと、オックスフォード大学のthe Oxyrhynchus papyrus projectのディレクターであるDirk Obbinkにより主導された。さらに、ロジャー・マクファーレンによる最新の多重スペクトルの映像技術および、ブリガムヤング大学のGene Wareの協力を得た。
2006年にテッサロニキの学者(Tsantsanoglouら、「参考文献」に列挙)らにより、公式版が出版されたが、それは、様々な学者の異読を記録するapparatus criticsを欠いたままとなっている[4]。そのため、断片の詳細な検討に基づいたパピルスのテキストの提供および、写真版の作成と翻訳作業が行われ、さらなる問題が解明されることが期待されている(参考文献のJanko,2006を参照)。
脚注
編集- ^ a b “Ancient scroll may yield religious secrets”. The Associated Press. 2006年6月1日閲覧。
- ^ “THE PAPYRUS OF DERVENI”. Hellenic Ministry of Culture. 2006年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年6月1日閲覧。
- ^ Bowersock, G. W. Tangled Roots. From The New Republic Online 2005,6,8. Retrieved 2006,6,6.
- ^ K. Tsantsanoglou, G.M. Parassoglou, T. Kouremenos (editors), 2006. "The Derveni Papyrus" (Leo. S. Olschki Editore, Florence [series "Studi e testi per il "Corpus dei papiri filosofici greci e latini", vol. 13]).
参考文献
編集- Andre Laks and Glenn W. Most, editors, 1997. Studies on the Derveni Papyrus (Oxford University Press)
- Gabor Betegh, 2004. The Derveni Papyrus: Cosmology, Theology and Interpretation (Cambridge University Press). A preliminary reading, critical edition and translation. ISBN 0-521-80108-7
- Richard Janko's Review of Betegh 2004
- K. Tsantsanoglou, G.M. Parassoglou, T. Kouremenos (editors), 2006. "The Derveni Papyrus" (Leo. S. Olschki Editore, Florence [series "Studi e testi per il "Corpus dei papiri filosofici greci e latini", vol. 13]). ISBN 88-222-5567-4.
- Richard Janko's Review of Tsantsanoglou, Parassoglou, & Kouremenos 2006;Tsantsanoglou, Parassoglou, & Kouremenos' Response to Janko; Janko's Response