タトラKTNF6
タトラKTNF6は、ドイツ各地の路面電車で使用されている電車の1形式。チェコスロバキア(現:チェコ)のČKDタトラによって製造された2車体連接車のタトラKT4に新造した中間車体を挿入した部分超低床電車である。この項目では、エストニア向けのKT6Tおよび同様の改造が行われた部分超低床電車のKTNF8についても解説する[1][5][6][7]。
タトラKTNF6 タトラKT6T タトラKTNF8タトラKT6TM | |
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KTNF6(コトブス) | |
基本情報 | |
種車 | タトラKT4 |
改造所 |
ミッテンヴァルト機械製造(KTNF6) ČKDタトラ、ボンバルディア・トランスポーテーション(KTNF8) |
改造年 |
KTNF6 1996年 - 1998年 KT6T 2001年 - 2007年 KTNF8 1998年 - 2003年 |
投入先 |
KTNF6 コトブス市電、ブランデンブルク市電 KT6T タリン市電 KTNF8 ゲーラ市電 |
主要諸元 | |
編成 | 3車体連接車 |
軌間 | 1,000 mm、1,435 mm |
電気方式 |
直流600 V (架空電車線方式) |
起動加速度 |
KTNF6 1.0 m/s2 KTNF8 1.2 m/s2 |
車両定員 |
KTNF6 着席52人 折り畳み座席3人分 立席93人(乗客密度4人/m2時) 最大246人(乗客密度8人/m2時) KTNF8 着席60人 折り畳み座席3人分 立席92人(乗客密度5人/m2時) 最大214人(乗客密度8人/m2時) |
車両重量 |
KTNF6 29.8 t KT6T 27.1 t KTNF8 29.8 t |
全長 |
KTNF6、KT6T 26,770 mm KTNF8 26,554 mm |
車体長 | 7,500 mm(中間車体) |
車体幅 | 2,180 mm |
車体高 | 3,560 mm |
床面高さ |
KTNF6 900 mm(高床部分) 350 mm(低床部分) (低床率30%) KTNF8 900 mm(高床部分) 360 mm(低床部分) (低床率30%) |
主電動機出力 |
KTNF6 56 kw KT6T 40 kw KTNF8 54 kw |
出力 |
KTNF6 224 kw KT6T 160 kw KTNF8 220 kw |
制御方式 | 電機子チョッパ制御 |
制動装置 | 発電ブレーキ、ドラムブレーキ、電磁吸着ブレーキ |
備考 | 主要数値は[1][2][3][4][5][6][7][8]に基づく。 |
概要
編集1984年、スイスのジュネーヴ市電に登場したBe4/6形電車を皮切りに、ヨーロッパ各都市の路面電車には床上高さを抑えバリアフリーに適した構造を有する超低床電車が登場するようになった。その一方で、各地のメーカーが新造した超低床電車の導入が予算面の都合で困難な地域も多数存在しており、これらの場所を走る路面電車では既存の車両を改造する事で床上高さを下げた部分超低床電車が導入されている。 その事例の1つが、ČKDタトラが製造した連接車のタトラKT4を改造したKTNF6(KT6T)やKTNF8である[1][9][2][4][10]。
KTNF6(KT6T)の改造に際して挿入された中間車体はミッテンヴァルト機械製造(Mittenwalder Gerätebau)が製造したもので、車体に繊維強化複合材料を用い、配線に巻線技術を用いる事で大幅な軽量化が実現しており、改造前の重量(22.3 t)と比較して増加分の重量は7.5 tに抑えられている他、製造コストも安価に抑えられている。台車はスイスのシンドラー・ワゴンが開発した小径車輪を用いた1軸台車が使われており、床上高さは350 mm(乗降扉付近は300 mm)に抑えられている。車体中央部にある両開きの乗降扉下部には収納式のスロープがあり、車椅子やベビーカー利用客でも容易に乗降が可能となっている一方、高床式の前後車体と繋がっている貫通路付近には3段のステップが設置されている[1]。
一方、KTNF8に挿入された中間車体はKT4の製造メーカーであるČKDタトラやボンバルディア・トランスポーテーションによって作られたものでKTNF6(KT6T)と同型だが、台車はアルストムLBHによって開発された直径410 mmの小径車輪を用いた、回転軸を有するボギー台車が使用されており、油圧式ディスクブレーキや電磁吸着ブレーキが搭載されている。これらはČKDタトラが開発した部分超低床電車のRT6の構造を元に設計されたもので、中間車体の床上高さはKTNF6より僅かに高い360 mmである[6][7]。
ドイツ向けのKTNF6やKTNF8は、この改造と同時に電気機器の改良工事も行われ、主電動機の出力が増加している他、消費電力が削減出来る回生ブレーキが備わった一方、エストニア向けのKT6Tについては改造時点で主電動機の交換は実施されず、これらの工事は再度の更新が行われた2017年以降となった[1][6][2][11]。
運用
編集コトブス
編集ドイツの都市・コトブスを走るコトブス市電には、1992年から1995年にかけて近代化工事が施工されたKT4Dmを種車としたKTNF6が導入され、1996年1月29日から営業運転を開始した。以降1998年まで26両を対象に改造が実施され、KT4Dmおよび近代化工事未施工のKT4Dの他都市への譲渡も行われた事から、2004年4月1日以降コトブス市電の定期列車にはKTNF6のみが使用されている。最初の改造から15年以上が経過した2012年以降は再度の近代化工事が行われている[1][2]。
2020年現在在籍するのは21両で、残りの5両のうち1両は事故で廃車となった一方、4両は以下のように他都市の路面電車への譲渡が行われている[9][2]。
- シェーンアイヘ - ベルリン近郊に路線を有するシェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道では、主力車両としてコトブス市電から譲渡されたKT4Dが使用されていたが、それらの置き換えおよびバリアフリー化の推進のため、初の超低床電車(部分超低床電車)として同じくコトブス市電で使用されていたKTNF6のうち3両を2009年から2010年にかけて譲受した。塗装変更や内装、機器などシェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道に適合させるための改造を受けたのち、同年春季から営業運転に用いられている。また2014年には次に述べるセゲド市電の車両も譲受しているため、2020年現在は4両が使用されている[2][12][3][13][14]。
- セゲド - 2009年にはハンガリーのセゲド市電にも1両が譲渡されたが、1度も営業運転につくことがないまま放置された後、2014年にシェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道への再譲渡が実施された[15]。
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KTNF6(コトブス)
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KTNF6(シェーンアイヘ/リューダースドルフ軌道)
ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェル
編集ドイツ・ブランデンブルク州のブランデンブルク・アン・デア・ハーフェルを走るブランデンブルク市電では、1997年9月27日に実施された開通100周年記念パレードに合わせ、KT4D[注釈 1]を改造したKTNF6のお披露目が実施された。同年から営業運転を開始しており、1998年までに10両のKT4Dが改造を受けた。その後、2015年以降は全車両に対し再度の更新工事が実施されている[16][4]。
タリン
編集エストニアの首都・タリンを走るタリン市電では、新造時からタリン市電で使用されていたKT4SUとドイツ(旧:東ドイツ)各都市[注釈 2]から譲渡されたKT4Dの計12両を対象に、2001年から2007年までに低床車体の組み込みを含めた近代化工事を実施し、形式名をKT6Tに改めた。2016年から2018年にかけては再度の近代化工事がチェコ・オストラヴァのエコヴァ・エレクトリック(EKOVA ELECTRIC)で実施され、電気機器をセゲレツ(Cegelec)製のTVプログレス(TV Progress)に交換し主電動機の出力が54 kwに増大した他、塗装も新型超低床電車であるウルボスAXL(CAF製)に合わせた白と赤を基調としたものに変更されており、形式名についてもKT6TMに変更されている[5][17][18]。
ゲーラ
編集ドイツ・テューリンゲン州の都市・ゲーラを走るゲーラ市電では、1998年からČKDタトラによってKT4DからKTNF8への改造工事が行われ、2000年に同社が倒産して以降はボンバルディア・トランスポーテーションによって2003年まで実施された。そのうちČKDタトラによって改造された車両は2両、ボンバルディアが手掛けた車両は4両だが、2017年の時点で在籍しているのは5両である[7][19][20]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f "Die Cottbuser Niederflur-Lösung Ein Mittelweg zwischen teurem Neuwagenkauf und Vertröstung der Fahrgäste". Signal (ドイツ語). GVE-Verlag: 4–5. 1996年2月. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b c d e f Christoph Pohl (2018年12月26日). “Cottbuser Tatra-Bahnen fahren seit 40 Jahren”. Lausitzer Rundschau. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b Redaktion (2019年5月1日). “Betriebsstart für finnische Straßenbahnen bei Schöneicher – Rüdersdorfer Straßenbahn”. Urban Transport Magazine. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b c Ondřej Matěj Hrubeš (2015年2月19日). “Brandenburg: Další modernizace tramvají KT4”. MHD86.cz. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b c “TRAMVAJE Z TALLINNU MÍŘÍ DO OSTRAVY”. Československý Dopravák (2016年7月13日). 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b c d “The KTNF8 (KT4NF) Tram Unit” (英語). SKD Trade. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b c d 鹿島雅美 2007, p. 138.
- ^ “Tänane trammiveerem”. Tallinna Linnatranspordi Aktsiaselts. 2020年2月19日閲覧。
- ^ a b Ralf Thalmann (2019年3月7日). Strategien für kommunale Verkehrsanbieter im ländlichen Raum - „Der Weg von Cottbusverkehr“ (PDF) (Report). Cottbusverkehr. pp. 6–7. 2020年2月19日閲覧。
- ^ Michael I. Darter (1995) (英語) (PDF). Report 2: Applicability of Low-Floor Light Rail Vehicles in North America. pp. 2 2020年2月19日閲覧。
- ^ Tallinn tram modernisation contract (Report). Railway Gazette. 23 December 2016. 2020年2月19日閲覧。
- ^ “DIE SCHÖNEICHER-RÜDERSDORFER STRASSENBAHN”. Straßenbahn Schöneiche bei Berlin. 2020年2月19日閲覧。
- ^ IGEB Stadtverkehr (2010年3月). "Brandenburg Niederflurbahnen für Schöneiche und Rüdersdorf". Signal. GVE-Verlag. 2020年2月19日閲覧。
- ^ Stefan Reimann. “Kleine Bahn mit bewegter Geschichte”. Strassenbahn Magazine. GeraMond Verlag GmbH. 2022年5月21日閲覧。
- ^ “100 ezres túlteljesítésért 2 milliós prémium?” (ハンガリー語). delmagyar.hu (2013年11月14日). 2020年2月19日閲覧。
- ^ “110 Jahre Straßenbahn Brandenburg an der Havel 1897 bis 2007”. VBBr. 2020年2月19日閲覧。
- ^ “V OSTRAVĚ BYLA DOKONČENA PRVNÍ TRAMVAJ PRO TALLINN”. Československý Dopravák (2017年6月17日). 2020年2月19日閲覧。
- ^ Cegelec a.s. BRIEF COMPANY PROFILE (PDF) (Report). Cegelec a.s. 2018年9月. p. 6. 2020年2月19日閲覧。
- ^ 鹿島雅美 2007, p. 137.
- ^ Ondřej Matěj Hrubeš (2017年3月2日). “Gera: 125 let provozu tramvají”. MHD86.cz. 2020年2月19日閲覧。
参考資料
編集