ソングス・フォー・ア・テイラー
『ソングス・フォー・ア・テイラー』(Songs for a Tailor)は、スコットランドのミュージシャン、ジャック・ブルースがクリーム解散後の1969年に発表した、ソロ名義では初のスタジオ・アルバム。ただし、録音順としては次作『シングス・ウィー・ライク』(1968年8月録音、1970年発表)に続く2作目に当たる[1][5][6]。
『ソングス・フォー・ア・テイラー』 | ||||
---|---|---|---|---|
ジャック・ブルース の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 |
1969年4月 - 6月![]() | |||
ジャンル | ロック、ジャズ・ロック | |||
時間 | ||||
レーベル |
![]() ![]() | |||
プロデュース | フェリックス・パパラルディ | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
チャート最高順位 | ||||
| ||||
ジャック・ブルース アルバム 年表 | ||||
|
背景
編集クリームの4人目のメンバーと言われた作詞家ピート・ブラウン[7]と、クリームのアルバム『カラフル・クリーム』(1967年)、『クリームの素晴らしき世界』(1968年)をプロデュースしたフェリックス・パパラルディ[8]が引き続き起用された。
アルバム・タイトルの『ア・テイラー』とはクリームの衣装をデザインしていたジーニー・フランクリン(Jeannie Franklin)のことである。フランクリンは本作が制作されていた1969年5月12日に交通事故で死去し[注釈 1]、本作は彼女に捧げられた[9][10]。
「ハーミストンの運命」と「クリアーアウト」[11]はクリームの未発表曲の再録音で、クリームが1967年3月15日に残したデモ録音はアルバム『カラフル・クリーム』のデラックス・エディション盤(2004年発売)にボーナス・トラックとして収録された[12]。「イマジナリー・ウェスタン」もクリーム時代の曲だが、クリームによる録音は残されていない[13]。エリック・クラプトンがこの曲を嫌っていたという説もあるが[14][15]、彼は『アンカット』誌2004年5月号のインタビューにおいて、この曲を称賛している[16]。
参加ミュージシャンのジョン・ハイズマンとディック・ヘクストール=スミスはコロシアムのメンバーで[2][17]、1968年に行われた『シングス・ウィー・ライク』のセッションでもブルースと共演した[1][5]。クリス・スペディングはブラウンが率いるピート・ブラウン・アンド・ヒズ・バタード・オーナメンツのメンバーで[18]、後にブルースのツアー・バンドのギタリストとしても活動した[19]。またジョージ・ハリスンがクリームの「バッジ」に続いてL'Angelo Misteriosoという変名で「彼女は調子っぱずれ」に参加した[20]が、彼のパートの音量はミキシングの段階で抑えられた[17][21]。
ブルースは、本作の参加ミュージシャンのうちハイズマン、ヘクストール=スミス、ハリー・ベケット、ヘンリー・ロウサー、ジョン・マンフォードの5人と、ニール・アードレイ率いるニュー・ジャズ・オーケストラのアルバム『Le Déjeuner Sur L'Herbe』(1969年)[22]でも共演している[23]。
ブルースは2014年のアルバム『シルヴァー・レイルズ』を制作するに当たり、本作を雛形として使ったと語っている[24]。
反響・評価
編集母国イギリスでは、ブルースのソロ・アルバムとしては唯一の全英アルバムチャート入りを果たし、9週トップ100入りして最高6位を記録するヒット作となった[3]。アメリカのBillboard 200では55位を記録するが、以後5年間にわたり、ブルースのアルバムが全米チャート入りすることはなかった[4]。
Joe Viglioneはオールミュージックにおいて5点満点中4点を付け「このアルバムはジャズとポップの最もユニークな融合の一つであり、ブルースのキャリアにおいて特に重要なジャンルであるブルース色はそれほど重視されていない」「構造、演奏、演出のいずれも申し分ない」と評している[17]。また、ピーター・マーシュは2003年、BBC公式サイトにおいて「ありがちな言葉だが『名盤』と呼ぶに値する」「表面的にはシカゴやブラッド・スウェット・アンド・ティアーズといった初期のジャズ・ロックに近いが、このアルバムはより冒険的で、上品なご馳走だ」と評している[25]。一方、ロバート・クリストガウはB-を付け「彼の背後でどんな事が起こっていようと、ブルースはソロ・シンガーとしては成功していない」と評している[26]。
リイシュー
編集1973年のオランダ盤再発LPは『Superstarshine』というシリーズの第30弾として発売され、ジャケット・デザインはオリジナル盤と異なる[27]。また、2003年のリマスターCDには、「ミニストリー・オブ・バッグ」のデモ・ヴァージョンと、未発表の別ミックス3曲がボーナス・トラックとして追加された[28]。
収録曲
編集全曲とも作詞はピート・ブラウン、作曲はジャック・ブルースによる[17]。
- 彼女は調子っぱずれ "Never Tell Your Mother She's Out of Tune" – 3:41
- イマジナリー・ウェスタン "Theme for an Imaginary Western" – 3:30
- 滝へのチケット "Tickets to Water Falls" – 3:00
- ハーミストンの運命 "Weird of Hermiston" – 2:22
- 月への縄ばしご "Rope Ladder to the Moon" – 2:53
- ミニストリー・オブ・バッグ "The Ministry of Bag" – 2:49
- リッチモンド "He the Richmond" – 3:35
- ボストン・ボール・ゲーム "Boston Ball Game, 1967" – 1:45
- アイゼンガード "To Isengard" – 5:27
- クリアーアウト "The Clearout" – 2:35
2003年リマスターCDボーナス・トラック
編集- ミニストリー・オブ・バッグ(デモ) "The Ministry of Bag (Demo)" – 3:43
- ハーミストンの運命(別ミックス) "Weird of Hermiston (Alt. Mix)" – 2:28
- クリアーアウト(別ミックス) "The Clearout (Alt. Mix)" – 3:00
- ミニストリー・オブ・バッグ(別ミックス) "The Ministry of Bag (Alt. Mix)" – 3:53
参加ミュージシャン
編集- ジャック・ブルース - ボーカル、ベース、ギター、チェロ、ピアノ、ハモンドオルガン
- フェリックス・パパラルディ - ボーカル(#5、#9)、パーカッション(#7)、ギター(#9)
- ジョージ・ハリスン - ギター(#1)
- クリス・スペディング - ギター(#2、#3、#4、#6、#9、#10)
- ジョン・ハイズマン - ドラムス(#1、#2、#3、#4、#6、#8、#9、#10)
- ジョン・マーシャル - ドラムス(#5、#7)
- ディック・ヘクストール=スミス - サクソフォーン(#1、#6、#8)
- アート・セーマン - サクソフォーン(#1、#6、#8)
- ハリー・ベケット - トランペット(#1、#6、#8)
- ヘンリー・ロウサー - トランペット(#1、#6、#8)
- ジョン・マンフォード - トロンボーン(#8)
カヴァー
編集- 「彼女は調子っぱずれ」 - エレン・マキルウェインのアルバム『We the People』(1973年)に収録[29]。
- 「イマジナリー・ウェスタン」 - ハイズマンとヘクストール=スミスが結成したコロシアムのアルバム『ドーター・オブ・タイム』(1970年)[30]、パパラルディ(ベース、ボーカル)がレスリー・ウェスト(ギター、ボーカル)と結成したマウンテンのアルバム『勝利への登攀』(1970年)[31]、ウェストのソロ・アルバム『Theme』(1988年)に収録。ブルースはウェストのカヴァーに参加した[32]。
- 「リッチモンド」 - ブルースのアルバム『シャドウズ・イン・ジ・エアー』(2001年)に収録。ヴァーノン・リードがゲスト参加した[33]。
- 「ボストン・ボール・ゲーム」 - 「リッチモンド」と同じく『シャドウズ・イン・ジ・エアー』(2001年)に収録[34]。
脚注
編集注釈
編集- ^ フランクリンはアメリカ人で、フェアポート・コンヴェンションのリチャード・トンプソンのガールフレンドだった。彼女はマンチェスターのクラブで行なわれたフェアポート・コンヴェンションのギグに行き、メンバーのバンに同乗して帰る途中、高速道路で起こった衝突事故で死亡した。
出典
編集- ^ a b c Elliott, Bob. “Jack Bruce: Comprehensive Discography”. The Official Jack Bruce Website. 2016年2月11日閲覧。
- ^ a b Jack Bruce - Songs For A Tailor (Vinyl, LP, Album) at Discogs - アメリカ盤LPの情報
- ^ a b JACK BRUCE | full Official Chart History | Official Charts Company - 「Albums」をクリックすれば表示される
- ^ a b “Jack Bruce - Awards”. AllMusic. 2014年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年2月1日閲覧。
- ^ a b “Jack Bruce obituary”. The Guardian. Guardian News and Media (2014年10月26日). 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), pp. 120–125.
- ^ Fricke, David (2005年5月17日). “Cream's Pete Brown discusses the band”. Rolling Stone. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Felix Pappalardi | Credits | AllMusic
- ^ Shapiro (2010), p. 123.
- ^ Alexander, Phil (2014年10月26日). “Jack Bruce: 1943-2014, MOJO Writes In Tribute”. Bauer Media Group. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), p. 122.
- ^ Cream (2) - Disraeli Gears (CD, Album) at Discogs - 2004年デラックス・エディション盤の情報
- ^ Greenwald, Matthew. “Theme for an Imaginary Western - Mountain - Song Info”. AllMusic. 2016年2月11日閲覧。
- ^ “Theme From An Imaginary Western by Mountain”. Songfacts. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), pp. 121–122.
- ^ Williamson, Nigel (2004年5月). “Eric Clapton on Cream: "I was in a confrontational situation 24 hours a day…"”. Uncut. Time Inc. (UK). 2016年2月11日閲覧。
- ^ a b c d Viglione, Joe. “Songs for a Tailor - Jack Bruce”. AllMusic. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), p. 121.
- ^ Eder, Bruce. “The Battered Ornaments - Biography & History”. AllMusic. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), p. 124.
- ^ “11 May 1969: George Harrison performs on a Jack Bruce session”. The Beatles Bible. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Shapiro (2010), p. 118.
- ^ The New Jazz Orchestra - Le Déjeuner Sur L'Herbe (Vinyl, LP, Album) at Discogs
- ^ Graff, Gary (2014年4月10日). “Jack Bruce, 'Reach for the Night': Song Premiere From Cream Star's First Album in a Decade”. Billboard. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Marsh, Peter (2003年). “Review of Jack Bruce - Songs For A Tailor”. BBC. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Christgau, Robert. “CG: Jack Bruce”. 2016年2月11日閲覧。
- ^ Jack Bruce - Superstarshine Vol.30 (Vinyl, LP, Album) at Discogs
- ^ Jack Bruce - Songs For A Taylor (CD, Album) at Discogs - 2003年リマスターCDの情報
- ^ We the People - Ellen McIlwaine | AllMusic
- ^ Daughter of Time - Colosseum | AllMusic
- ^ Climbing! - Mountain | AllMusic
- ^ Leslie West - Theme (Vinyl, LP, Album) at Discogs
- ^ “Jack Bruce - Shadows in the Air”. The Official Jack Bruce Website. 2016年2月11日閲覧。
- ^ “Jack Bruce - Shadows in the Air”. The Official Jack Bruce Website. 2016年2月11日閲覧。
外部リンク
編集- ソングス・フォー・ア・テイラー - Discogs (発売一覧)