ジャマラート橋
ジャマラート橋 (アラビア語: جسر الجمرات; Jisr Al-Jamaraat) は、サウジアラビア・メッカ(マッカ)郊外のメナー(ミナ) (Mina, Saudi Arabia) に所在し、イスラム教徒の大巡礼(ハッジ)において悪魔に対する投石の儀式 (Stoning of the Devil) に用いられる橋。
ジャマラート橋 | |
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ジャマラート橋(新橋) | |
基本情報 | |
国 | サウジアラビア |
所在地 | メッカ |
用途 | 歩行者橋 |
開通 |
1963年(最初の橋) 2007年(新橋) |
座標 | 北緯21度25分17秒 東経39度52分22秒 / 北緯21.42139度 東経39.87278度座標: 北緯21度25分17秒 東経39度52分22秒 / 北緯21.42139度 東経39.87278度 |
構造諸元 | |
関連項目 | |
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この橋は、ジャムラ (jamrah) と呼ばれる3つの石柱に対して、巡礼者が地上もしくは橋の上から投石を行うことを目的として建設されている。ジャムラは文字通りには小石や石片を意味する語であるが[1]、巡礼者の投石の儀式の対象となる石柱について用いられる。ジャムラの複数形がジャマラートである。
現在の橋は、2007年に完成した多層構造の橋である。特定の時期には、橋の周辺に一度に百万人以上の巡礼者が集まることもあり、しばしば重大な死亡事故も発生している[2]。
旧橋
編集1963年に最初の橋が建設され、その後数度にわたって拡充されてきた。2006年まで、橋は1層構造であり(巡礼者は、地上部と橋の上を用いた)、3つの石柱(ジャムラ)が橋の中の開口部から突き出していた。
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橋が作られる以前のジャムラ
新橋
編集2006年1月のハッジのあと、旧橋は解体されて新しい重層構造の橋の建設が始まった。地上部と第1層(地上階と2階)は2006年から2007年にかけてのハッジに間に合い、無事にシーズンを終えた。その後も建設は続き、2007年12月(ヒジュラ暦1428年)のハッジには2つの階層も完成した。
新橋はダル・アル=ハンダサ(Dar Al-Handasah)の設計、サウディ・ビンラディン・グループの建設によるもので、柱のない広い内部空間が確保されており、ジャムラも従来の何倍もの規模に拡大されている。容易なアクセスのために斜路やトンネルが付け加えられ、ボトルネック(狭隘部)がなくなるよう設計された。3つのジャムラを覆う大きな天蓋が、砂漠地帯の太陽から巡礼者を守るために設計された。斜路はまた非常事態が発生した際にすみやかな避難を可能にするため、石柱に隣接して作られている。ほとんどの巡礼者は真昼の投石を好むが、サウジアラビア当局はファトワーを発し、投石は日の出から日の入りまでに行われることと明確にした。
事故
編集ハッジ期間中、橋の上は過密状態になることがあり、危険をもたらす。ジャマラート橋を訪れるのはハッジの最終日であり、巡礼者の中には荷物を持つ者もある。
- 1994年5月23日 - 群衆事故により、少なくとも270人の巡礼者が死亡した (1994 Hajj stampede) 。
- 1998年4月9日 - 少なくとも118人の巡礼者が死亡し、180人が負傷した[3]。
- 2001年3月5日 - 35人の巡礼者が将棋倒しにより死亡した。
- 2003年2月11日 - 悪魔への投石の儀式で14人の巡礼者が命を落とした[4]。
- 2004年2月1日 - 将棋倒しにより251人の巡礼者が死亡し、244人が負傷した[5]。
- 2006年1月12日 - 群衆事故により、少なくとも362人の巡礼者が死亡、289人以上が負傷した[6]。
- 2015年9月24日 - 橋に向かう途中での群衆事故により、少なくとも1100人が死亡[7]、934人が負傷[8][9](2015年メナー群衆事故)。
2004年の事故の後、サウジ当局はジャマラート橋とその周辺地域で大掛かりな工事に着手し、橋への取り付け道路や歩道橋、非常口が建設された。円筒形であった3つのジャムラ(石柱)は、より多くの巡礼者が同時にアクセスできるように、横幅が長く背の高い長方形のコンクリート壁に置き換えられた[10]。翌年、サウジ当局は4層構造の橋を新設する計画を発表した。
マンチェスター・メトロポリタン大学教授での群衆科学が専門のキース・スティル (Keith Still) は、2004年にサウジ当局から、ジャムラの前のボトルネックを緩和するための橋の設計についての相談を受けた。彼は、全体的な問題が解決されていない可能性を指摘する。橋がさばくことのできる人数は、従来の1時間あたり20万人程度から50~60万人程度に改善されたが、複雑なシステムのほかの部分にも圧力がかかり、巡礼路沿いのほかの潜在的ボトルネックにさらに多くの人数が到達することも可能になる。2015年に大規模な群衆事故が発生したミーナの谷の野営地のレイアウトは変更されていなかった。キース・スティルは、全体を再設計することによってハッジを安全なものにすることができると考えているが、別の論者はハッジの群衆密度が本質的に危険であると指摘する。グリニッジ大学教授で火災安全工学が専門のエドウィン・ガレア (Edwin Galea)は、ジャマラート橋が扱う1時間あたり50万人という人数は、過去最大規模のサッカー群衆を24分間で捌くこと、あるいはドイツの人口を1週間で捌くことと等しいと指摘する。彼は、巡礼を(特定期間に集中させず)より長い期間に拡散させることが可能な解決策であると示唆する[11]。
エジプトのフェミニスト、作家のナワール・エッ=サアダーウィーは、2015年の事故に関して「ハッジの管理方法を変えるべきだとか、人々にもっと少ない人数のグループで巡礼してもらうべきだとか、みんな色々なことを言いますね。でも、この将棋倒しが、悪魔に石を投げつけるためにあの人たちが争ったから引き起こされたということについては、誰もが口をつぐんでいます。どうして悪魔に石を投げる必要があるのでしょう。どうして黒い石(訳注:カアバ神殿の黒石のこと)に接吻する必要があるのでしょう。これらのことを敢えて口に出す人はいません。(中略)この宗教への批判を受け容れない(という態度)は、リベラリズムではありません。検閲です。」とインタビューの中で述べ、そもそも悪魔への投石の儀式が必要なことなのかと問いかけ、また、このような問いを口にすることすら許されない社会を嘆いた[12]。
脚注
編集- ^ Minshawi.com
- ^ “Deadly Mecca-crush Blamed on Bridge-Bottleneck”. Sydney Morning Herald (2006年1月14日). 2016年8月4日閲覧。
- ^ “BBC News – MIDDLE EAST – Saudis identifying nationalities of 118 dead pilgrims”. bbc.co.uk. 2016年8月3日閲覧。
- ^ “BBC NEWS – Middle East – Fourteen killed in Hajj stampede”. bbc.co.uk. 2016年8月3日閲覧。
- ^ “BBC NEWS – Middle East – Hundreds killed in Hajj stampede”. bbc.co.uk. 2016年8月3日閲覧。
- ^ “Hajj crush police 'not to blame'”. BBC News (2006年2月13日). 2016年8月4日閲覧。
- ^ Piggott, Mark (26 September 2015). “Hajj stampede death toll ‘rises to 1,100’ as Saudi Arabia faces criticism over safety record”. itv 28 September 2015閲覧。
- ^ “Hajj stampede: At least 717 killed in Saudi Arabia” (24 September 2015). 2016年8月3日閲覧。
- ^ Browning, Noah (27 September 2015). “Haj death toll rises to 769, Iran denounces 'crime'”. Dubai: Reuters. 2016年8月3日閲覧。
- ^ “Hajj ritual sees new safety moves”. BBC News (2006年1月10日). 2016年8月4日閲覧。
- ^ Benedictus, Leo (October 3, 2015). “Hajj crush: how crowd disasters happen, and how they can be avoided”. The Guardian October 4, 2015閲覧。
- ^ Cooke, Rachel (2015年10月11日). “Nawal El Saadawi: ‘Do you feel you are liberated? I feel I am not’”. The Guardian 2016年8月5日閲覧. "“This crush in Saudia Arabia!” she says, referring to the recent deaths at Mecca. “They talk about changing the way it [the hajj] is administered, about making people travel in smaller groups. What they don’t say is that the crush happened because these people were fighting to stone the devil.” Her voice is full of disdain. “Why do they need to stone the devil? Why do they need to kiss that black stone? But no one will say this. The media will not print it. What is it about, this reluctance to criticise religion?” Perhaps, I say, people worry they’ll be seen as racist. “Well, religion is the embodiment of racism. All gods are jealous. People get killed because they are not praying to the right god.” She let go of God long ago, and never looked back. “These girls [who join Isis]. There is a lot of misery among young people. They can’t get work, they are poor and unemployed. But the nonsense they read about Islam and all that… I had to get educated, I had to divorce three husbands, and there they are: ignorant, brainwashed, reading about the [so-called] equality between men and women in Islam.” She waggles a finger at me, today’s representative of the lily-livered media. “This refusal to criticise religion,” she says, sombrely. “This is not liberalism. This is censorship.”"
外部リンク
編集- Study of the Jamarat Bridge Crowd Dynamics Ltd. – International Crowd Safety Consultants, 24 June 2006.
- Satellite photo of the Jamaraat Bridge taken during the 2003 Hajj — GlobalSecurity.org
- Modelling Jamarat Bridge | Prof. Dr. G. Keith Still
- Nine-storey Jamraat Bridge will accommodate 9 million pilgrims per day Saudi Arabi Information Resource 04/02/2004.
- As Hajj Begins, More Changes and Challenges In Store altmuslim.com, 13 December 2006