ジャコビニ・ツィナー彗星

ジャコビニ・ツィナー彗星[5]ジャコビニ・ジンナー彗星[6]ジャコビニ・ツィンナー彗星[7]ジャコビニ・チンナー彗星[8]とも。英語: 21P/Giacobini-Zinner、略称:Comet G-Z[9])は公転周期6.55年の周期彗星[1]。1900年12月20日にミシェル・ジャコビニが発見し、1913年10月23日にエルンスト・ツィナーが再発見した[2]。ジャコビニ・ツィナー彗星は10月りゅう座流星群(旧称ジャコビニ流星群)母天体である[10]。なお、ツィナーの再発見まではジャコビニ彗星と呼んだが、現在ではジャコビニ彗星は別の彗星の名前である。

ジャコビニ・ツィナー彗星
21P/Giacobini-Zinner
ジャコビニ・ツィナー彗星。 NASA/JPL撮影。
ジャコビニ・ツィナー彗星。
NASA/JPL撮影。
仮符号・別名 1900 Y1, 1900 III, 1900c
1913 U1, 1913 V, 1913e
1926 VI, 1926e
1933 III, 1933c
1940 I, 1939l
1946 V, 1946c
1959 VIII, 1959b
1966 I, 1965g
1972 VI, 1972d
1979 III, 1978h
1985 XIII, 1984e
1992 IX, 1991m[1]

ジャコビニ・ジンナー彗星
ジャコビニ・ツィンナー彗星
ジャコビニ・チンナー彗星
Comet G-Z

分類 周期彗星
発見
発見日 1900年12月20日(ジャコビニ)[2]
1913年10月23日(ツィナー)[2]
発見者 ミシェル・ジャコビニ[2]
エルンスト・ツィナー(再発見)[2]
軌道要素と性質
元期:2017年11月6.0日(TDB 2458063.5)
軌道長半径 (a) 3.5004 au[1]
近日点距離 (q) 1.0135 au[1]
遠日点距離 (Q) 5.9874 au[1]
離心率 (e) 0.7105[1]
公転周期 (P) 6.55[1]
軌道傾斜角 (i) 032.003 °[1]
近日点引数 (ω) 172.809 °[1]
昇交点黄経 (Ω) 195.405 °[1]
平均近点角 (M) 313.608 °[1]
前回近日点通過 2018年9月10日[3][4]
次回近日点通過 2025年3月25日[3]
最小交差距離 0.0179 au(地球)[1]
0.248 au(木星)[1]
ティスラン・パラメータ (T jup) 2.465[1]
物理的性質
直径 2.0 km[1]
Template (ノート 解説) ■Project

核の直径は2.0km[1]。2018年の回帰の際には見かけの等級がいつもは12~13等級であったのに対し7等級近くにまで達した[11]。1946年の回帰のときには地球に0.26 auまで接近し、見かけの等級は6まで達した[11]

発見

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1900年12月20日、フランスニースニース天文台ミシェル・ジャコビニは、みずがめ座彗星を発見した。その当時の見かけの等級は10.5~11程度だった[2]。1900年の回帰の時には、翌1901年2月16日まで観測された。6.8年の公転周期が求められ、1907年の回帰が予言されたが、その年には現れなかった[2]

1913年10月23日、ドイツバンベルクエルンスト・ツィナーは、たて座β星の近くの変光星を観測中に、ジャコビニ彗星を再発見した[2]

近日点通過

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ジャコビニ・ツィナー彗星は2018年9月10日に近日点を通過した。前回以前の近日点通過は以下の通りである[3][4]

  • 1900年11月28日
  • 1907年5月19日 (観測されず)
  • 1913年11月2日
  • 1920年5月18日 (観測されず)
  • 1926年12月11日
  • 1933年7月15日
  • 1940年2月17日
  • 1946年9月18日
  • 1953年4月16日 (観測されず)
  • 1959年10月26日
  • 1966年3月28日
  • 1972年8月4日
  • 1979年2月12日
  • 1985年9月5日
  • 1992年4月13日
  • 1998年11月21日
  • 2005年7月2日
  • 2012年2月11日
  • 2018年9月10日

次に近日点を通過するのは2025年3月25日である。次回以降の近日点通過は以下の通りである[3]

  • 2025年3月25日
  • 2031年8月30日
  • 2038年5月16日
  • 2045年2月10日
  • 2051年11月24日
  • 2058年9月6日
  • 2065年6月14日
  • 2072年3月21日
  • 2078年10月19日
  • 2085年6月29日
  • 2092年3月21日
  • 2099年1月2日
  • 2105年10月15日

10月りゅう座流星群

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ジャコビニ・ツィナー彗星は、ジャコビニ流星群母天体である。なお、「ジャコビニ流星群」というのは古くから使われていた呼び名で、2009年に名称による混乱が起こらないようにするため、放射点の星座に基づく「10月りゅう座流星群」の正式名称が付与された[12][13]

普段はあまり見られない流星群であるが1933年と1946年の10月りゅう座流星群は最大で1時間に数千個もの流星群が観測できるほど好ましい条件であった[2]。また、1998年にもアジアからヨーロッパ東部にかけては1時間の最大出現数が500にも及ぶ流星群が見られた[2]

1972年には日本で大規模な流星群がやってくると予測されていたが国立天文台(当時は東京天文台)の予想は大外れし、流星群が空を覆い尽くす、などといったことはなかった[12]

ICEによる探査

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彗星に向かうICE(想像図)

1978年8月12日、アメリカ航空宇宙局 (NASA) は太陽風探査機ISEE-3を打ち上げた。ISEE-3は地球-L-1点で長く運用された後、軌道を変更し、彗星探査機ICEとして運用されることになった[14]

ICEはその後軌道を変更し、1983年12月にはジャコビニ・ツィナー彗星に遭遇できるような軌道になった[14]。1985年9月11日、ジャコビニ・ツィナー彗星から7862 kmの距離で通過し[14]一酸化炭素を検出した[15]。ICEはその後、1986年3月28日、ハレー彗星に接近、探査した[14]

なお、日本宇宙科学研究所 (ISAS) のハレー彗星探査機さきがけが、1998年にジャコビニ・ツィナー彗星を探査することが検討されたが、推進剤の不足により断念された[要出典]

有機物

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2019年、JAXAの大坪貴文らの研究によりジャコビニ・ツィナー彗星にはケイ酸塩多環芳香族炭化水素が含まれていることが明らかになった。他にも複雑な有機物に富んでいることが分かり、これらの物質が生成されたことを考えるとジャコビニ・ツィナー彗星は比較的高温な場所で形成された可能性があることが示された[16]

また、ジャコビニ・ツィナー彗星では普通の彗星とは異なり、C2、C3、NH2のようなラジカルがあまり見られない。2020年に京都産業大学の新中善晴らによって行われた研究によると二酸化炭素も普通の彗星に比べて少ないことが分かっている[17][18]

フィクション

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松任谷由実のアルバム『悲しいほどお天気 』収録曲に「ジャコビニ彗星の日」がある[19]。1972年10月9日のジャコビニ流星群を歌った歌である。ただし、歌詞には「72年10月9日」「流星群」という言葉はあるが、彗星自体は出てこない[20]

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 21P/Giacobini-Zinner”. JPL Small-Body Database Browser. Jet Propulsion Laboratory (2020-01-30 last obs.used). 2021年9月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j Kronk, Gary W.. “21P/Giacobini-Zinner”. cometography.com. 2021年9月28日閲覧。
  3. ^ a b c d 21P/Giacobini-Zinner”. 木下一男 (2019年5月23日). 2021年9月30日閲覧。
  4. ^ a b ジャコビニ-ツィナー彗星 21P/Giacobini-Zinner”. 吉田誠一のホームページ (2019年9月15日). 2021年9月30日閲覧。
  5. ^ ジャコビニ・ツィナー彗星から複雑な有機物由来の赤外線輝線バンドを検出”. 国立天文台 (2019年11月19日). 2021年9月28日閲覧。
  6. ^ ジャコビニ・ジンナー彗星に関連する流星群出現(速報)”. アストロアーツ (1998年10月9日). 2021年9月28日閲覧。
  7. ^ ジャコビニ=ツィンナー彗星”. ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンク. 2021年9月28日閲覧。
  8. ^ 2018年9月 ジャコビニ・チンナー彗星が7等前後”. アストロアーツ. 2021年9月28日閲覧。
  9. ^ Maran, S. P. (1985). “On the Trail of Comet G-Z”. Sky and Telescope 70: 198. Bibcode1985S&T....70..198M. 
  10. ^ 主な流星群の一覧”. 国立天文台. 2021年9月29日閲覧。
  11. ^ a b COMET 21P/GIACOBINI-ZINNER SHINES IN SEPTEMBER”. Sky and Telescope (2018年8月29日). 2021年9月29日閲覧。
  12. ^ a b 渡部潤一 (2011年9月26日). “10月りゅう座流星群”. 星空の散歩道. 2021年9月29日閲覧。
  13. ^ 流星群の和名について”. 国立天文台. 2021年9月29日閲覧。
  14. ^ a b c d ISEE-3/ICE”. NASA Solar System Exploration. 2021年9月30日閲覧。
  15. ^ Wilford, John Noble (1985年9月14日). “SATELLITE'S FLIGHT SUGGESTS COMET HAS CORE OF ICE”. New York Times. 2021年9月30日閲覧。
  16. ^ Ootsubo, Takafumi; Kawakita, Hideyo; Shinnaka, Yoshiharu; Watanabe, Jun-ichi; Honda, Mitsuhiko (2020). “Unidentified infrared emission features in mid-infrared spectrum of comet 21P/Giacobini-Zinner”. Icarus 338. arXiv:1910.03485. Bibcode2020Icar..33813450O. doi:10.1016/j.icarus.2019.113450. 113450. 
  17. ^ Shinnaka, Yoshiharu; Kawakita, Hideyo; Tajitsu, Akito (2020). “High-resolution Optical Spectroscopic Observations of Comet 21P/Giacobini-Zinner in Its 2018 Apparition”. The Astronomical Journal 159 (5): 1-9. arXiv:2004.11008. Bibcode2020AJ....159..203S. doi:10.3847/1538-3881/ab7d34. 203. 
  18. ^ 他の彗星よりも暖かい場所で誕生したジャコビニ・チンナー彗星”. アストロアーツ (2020年4月17日). 2021年9月30日閲覧。
  19. ^ 8th Original Album 悲しいほどお天気 松任谷由実”. Yumi Matsutoya Official Site. 2021年9月29日閲覧。
  20. ^ ジャコビニ彗星の日”. sp.uta-net.com. 2021年9月29日閲覧。

外部リンク

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