コンスピリチュアリティ
コンスピリチュアリティ(英: conspirituality)は、ニューエイジなどのスピリチュアルと陰謀論が融合したものを指す用語である[1][2]。コンスピリチュアリティは、陰謀論(コンスピラシー・セオリー、conspiracy theory)とスピリチュアリティ(spirituality)を組み合わせたかばん語である[1][2]。現代のコンスピリチュアリティは、1990年代に広まった[3]。コンスピリチュアリティは、極右の陰謀論であるQアノンや、新型コロナウイルス感染症に関する陰謀論と関連している[1][2][4]。
概要
編集この用語は、社会学者のシャーロット・ワードとデイビッド・ボアスが2011年に著した論文『The Emergence of Conspirituality』(Journal of Contemporary Religion掲載)で造語したものである[4]。彼らは、この運動を次のように特徴づけている。
他の過激派運動と同様に、コンスピリチュアリティのナラティブでは、信者は世間よりも啓発されており、「本当の真実」に気づいているために迫害を受けやすいという表現がなされている[6]。ワードとボアスは、楽観的でホリスティックなニューエイジ文化と、悲観的で保守的な陰謀論文化の融合を逆説的なものと捉えている[3]。コンスピリチュアリティには、陰謀論文化の「ダーク・オカルチャー」(陰鬱なオカルト文化)が含まれている[7]。コンスピリチュアリティ運動の統一理念は、「社会はエリート集団による秘密の支配下に置かれており、『宇宙の力を利用した意識のパラダイムシフト』によってその支配から解放される」というものである[6]。コンスピリチュアリティは、「世界で起きているすべての問題の真相を解明するのは自分自身である」という自己陶酔的な着想が魅力となっている[8]。
トロント・スター紙に寄稿したアレックス・マッキーンは、次のように述べている。
コンスピリチュアリストは、政治や科学、そして人間の「3次元」における関心事など、ありふれたすべてのものから離れた上位の次元に悟り(enlightenment)が存在するという信念を共有している(スピリチュアルの一般的表現は、5次元の意識に到達するというものである)。一度それを経験すると、それは主観的で私的な経験ではあるが、もう「3次元」には親しみを感じられなくなるのである[9]。
アスビョルン・ディレンダルは、陰謀論とニューエイジのスピリチュアリティの融合は今に始まったことではなく、西洋の秘教(エソテリシズム)は本質的に疑わしいものであると反論している。陰謀論文化と秘教主義は、どちらも秘密主義と高次の知識の啓示を強調するものである。彼女は、Marta Steinsvik、Alf Larsen、Bertram Dybwad Brochmann、およびネオペイガニズムなどを、オルタナティブ・スピリチュアリティと陰謀論の推進が行われた初期の例として挙げている[3]。ロンドン大学クイーン・メアリー校のジュールス・エバンスは、オルタナティブ・スピリチュアリティと伝統主義者の極右ポピュリズムとの重なりを指摘している[8]。
ワードとボアスは、ニューエイジの信念を持つ人々は、時に陰謀論者のように考える傾向にあることを指摘している[1][5]。同研究では、活動家グループの「ツァイトガイスト運動」がコンスピリチュアリティ運動の一部とされている[5]。コンスピリチュアリティは、極右の陰謀論であるQアノンや、新型コロナウイルス感染症に関する陰謀論[1][2]のほか、「絶対的存在への精神統一のための運動」(英: Movement for Spiritual Integration into the Absolute、略称: MISA)[10]、およびニューエイジの宗教運動「Love Has Won」[9]などとも関連があるとされる。オンラインのヨガやウェルネスのコミュニティには、新型コロナウイルス感染症とマスクに関する陰謀論や、児童搾取の存在を訴えるQアノン関連の陰謀論を投稿している人々がいる[11][12]。「ライトワーカー」や「インディゴ・チルドレン」などのニューエイジのコミュニティでは、アメリカ同時多発テロ事件陰謀説が広まった[9]。宗教人類学者のアダム・クリンオロンは、イスラエルにおいて、「かつて『愛』や『光』について語っていた人々が、赤ん坊の血を飲む小児性愛者の陰謀団があると信じている人々と肩を並べている光景を目の当たりにしている」と述べている[13]。
ノルウェーでは、オンラインマガジンの『Nyhetsspeilet』(The News Mirror)が「コンスピリチュアリティのフラッグシップ」であると評されている。このマガジンが掲げている「三大覚醒」(英: triple awakening)の目標は、意識とスピリチュアリティ、地球外知的生命体、そして新世界秩序陰謀論に焦点を当てている[3]。『Conspirituality』というポッドキャストは、ウェルネス業界と陰謀論の交錯に関する最新情報をリスナーに提供しており、それを「最悪のスピリチュアリティ」と呼んでいる[14]。
主要人物、団体
編集以下は、コンスピリチュアリティ運動を構成しているとされる人物、団体の一覧である。
- デイビッド・アイク - イギリスの陰謀論者[3][7]。爬虫類人が世界を動かしていると主張[4]。
- クリスティアン・ノースラップ - 疑似科学を拡散している産婦人科医[4][15]。
- ジェイク・アンジェリ - アメリカ人の陰謀論者。「Qアノン・シャーマン」や「バッファロー男」という異名で知られる[4][8]。
- ピーター・ジョセフ - アメリカの映画監督でツァイトガイスト運動の指導者。ツァイトガイストシリーズという一連の映像作品を通じて運動をリードした。
- ピート・エバンス - オーストラリア人の陰謀論者[6]。
- JP Sears - アメリカのYouTuber、コメディアン[16]。
日本
編集関連文献
編集脚注
編集- ^ a b c d e Love, Shayla (2020年12月16日). “'Conspirituality' Explains Why the Wellness World Fell for QAnon” (英語). Vice News. 2021年1月18日閲覧。
- ^ a b c d “COVID-19 and "(con)spirituality"” (英語). ABC News (2020年10月13日). 2021年1月18日閲覧。
- ^ a b c d e Dyrendal, Asbjørn (2015). “Norwegian 'Conspirituality' A Brief Sketch”. In James Lewis. Handbook of Nordic new religions. Boston: Brill. pp. 268-290. ISBN 978-90-04-29244-4. OCLC 910964138
- ^ a b c d e f g h i j k 横山茂雄、竹下節子、清義明、堀江宗正、栗田英彦、辻隆太朗、雨宮純『コンスピリチュアリティ入門: スピリチュアルな人は陰謀論を信じやすいか』創元社、2023年3月27日。ISBN 978-4422701271。
- ^ a b c Ward, Charlotte; Voas, David (2011-01-01). “The Emergence of Conspirituality”. Journal of Contemporary Religion 26 (1): 103–121. doi:10.1080/13537903.2011.539846.
- ^ a b c “The pandemic has provided fertile conditions for conspiracy theories and "conspirituality" in Australia”. ABC Australia (October 13, 2020). 2021年7月17日閲覧。
- ^ a b Lewis, J.R.; Tollefsen, I.B. (2016). The Oxford Handbook of New Religious Movements: Volume II. Oxford Handbooks. Oxford University Press. p. 256. ISBN 978-0-19-061152-1 2021年7月17日閲覧。
- ^ a b c Meltzer, Marisa (March 29, 2021). “QAnon's Unexpected Roots in New Age Spirituality”. The Washington Post Magazine July 17, 2021閲覧。.
- ^ a b c McKeen, Alex (February 27, 2021). “The rise of 'conspirituality'”. The Toronto Star. ProQuest 2493855989
- ^ Thejls, Sara Møldrup (2015). “MISA and Natha”. In James Lewis. Handbook of Nordic new religions. Boston: Brill. pp. 62-76. ISBN 978-90-04-29244-4. OCLC 910964138
- ^ Roose, Kevin (September 15, 2020). “Yoga Teachers Take On QAnon”. The New York Times July 17, 2021閲覧。
- ^ “Why are women more hesitant to get the Covid-19 vaccine?”. The Irish Times. July 17, 2021閲覧。
- ^ Benjakob, Omer (April 21, 2021). “Iranian Accounts, Russian Tactics and Q”. Haaretz. July 17, 2021閲覧。
- ^ Phillips, Charlie (April 16, 2021). “Podcasts of the week”. The Guardian July 17, 2021閲覧。
- ^ “Dr. No” (英語). Mainer (2020年11月9日). 2020年11月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月17日閲覧。
- ^ Jerry, Jonathan (2020年11月19日). “The Clown Prince of Wellness” (英語). Office for Science and Society. 2021年1月18日閲覧。
- ^ a b “陰謀論のゆくえ 「耳に心地よい物語」の危うさ 京都府立大教授 川瀬貴也氏”. 中外日報 (2023年5月2日). 2024年1月14日閲覧。
- ^ “【陰謀論とスピリチュアリティの最前線】『コンスピリチュアリティ入門』の「はじめに」を無料公開!”. 創元社note部 (2023年3月14日). 2024年1月14日閲覧。