コムフィルタにはフィードフォワード型とフィードバック型がある。これらの名称は追加する信号を遅延させる方向に対応している。
コムフィルタは、離散信号でも連続信号でも実装できる。ここでは主に離散信号での実装を解説する。連続信号用コムフィルタも特性はよく似ている。
フィードフォワード型コムフィルタの大まかな構造を右図に示す。これは次の式で表せる。
ここで、 は遅延長(標本数)、 は遅延信号に適用する倍率である。この式の両辺のZ変換を行うと、次の式が得られる。
伝達関数は次のように定義される。
Z領域で表される離散時間系の周波数応答を得るには、 と置き換える。すると、フィードフォワード型コムフィルタの伝達関数は次のようになる。
オイラーの公式を使うと、周波数応答は次のように表すこともできる。
位相を無視して振幅の周波数特性だけを必要とすることが多い。それは次のように定義できる。
フィードフォワード型コムフィルタでは、これが次のようになる。
という項は定数であり、残る は周期関数である。したがって、コムフィルタの周波数特性は周期的である。
右の2つの図は様々な の値について、周波数特性の周期性を表したものである。次のような特性が重要である。
- 応答は周期的に局所最小値に落ち込み(「ノッチ」などと呼ぶ)、周期的に局所最大値になる(これを「ピーク」などと呼ぶ)。
- 最大と最小は常に 1 から等しい距離にある。
- のとき、最小の振幅がゼロになる。この場合の局所最小値を「ヌル」などと呼ぶ。
- が正のときの最大と が負のときの最小は同じ周波数であり、逆も同様である。
再びZ領域でのフィードフォワード型コムフィルタの伝達関数を考える。
見ての通り、 のとき分子がゼロになる。つまり、 の解は複素平面上の円周に等間隔で並ぶ。それらが伝達関数の零点である。分母は のときゼロとなるので、 が一定なら が極となる。以上から次のような極と零点の図が得られる。
|
|
フィードバック型コムフィルタの大まかな構造を右図に示す。これは次の式で表せる。
を含む項を左辺に集め、両辺をZ変換すると次のようになる。
したがって、伝達関数は次のようになる。
フィードバック型コムフィルタのZ領域表現で と置き換えると、次の式が得られる。
振幅の周波数特性は次のようになる。
こちらも周期的な特性となっていることを右の2つの図で示す。フィードバック型コムフィルタはフィードフォワード型と次のような点が共通である。
- 応答は周期的に局所最小値と局所最大値を繰り返す。
- が正のときの最大と が負のときの最小は同じ周波数であり、逆も同様である。
しかし、上の式で全ての項が分母にあることから、重要な差異もある。
- 最大値と最小値は 1 から等しい距離にあるわけではない。
- が 1 未満のときだけ安定である。図を見て分かるとおり が大きくなると、最大値の振幅が急激に増大する。
再びZ領域でのフィードバック型コムフィルタの伝達関数を考える。
この場合、分子がゼロになるのは のときであり、 が固定なら が零点となる。分母は のときゼロになる。これには 個の解があり、複素平面上の円周上に等間隔に並ぶ。それらが伝達関数の極である。以上から次のような極と零点の図が得られる。
|
|
コムフィルタは連続信号に対しても実装できる。その場合のフィードフォワード型コムフィルタは次の式で表される。
そして、フィードバック型は次の式で表される。
ここで は遅延である(単位は秒)。
これらの周波数特性はそれぞれ次の式になる。
連続信号の場合の特性は離散信号の場合と全く同じである。