ケプラー9 (: Kepler-9) は、こと座の方向にある、太陽に似た恒星である。ケプラーによる観測によって、トランジット法を用いて複数の惑星からなる惑星系が存在することが確認された。

ケプラー9
Kepler-9
ケプラー9、及び惑星b、cの想像図。
ケプラー9、及び惑星b、cの想像図。
仮符号・別名 KOI-377
星座 こと座
見かけの等級 (mv) 13.9[1]
変光星型 惑星による食変光星
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  19h 02m 17.756s[1]
赤緯 (Dec, δ) +38° 24′ 03.18″[1]
固有運動 (μ) 赤経: 5.6 ミリ秒/[1]
赤緯: -12.5 ミリ秒/年[1]
距離 2,120 光年
(650 パーセク[2]
物理的性質
半径 1.02 R[2]
質量 1.07 M[2]
表面重力 32 G
スペクトル分類 G2 V
表面温度 5,777 ± 61 K[3]
金属量[Fe/H] 0.12 ± 0.04[3]
年齢 ~ 1 ×109[2]
他のカタログでの名称
KIC 3323887, 2MASS J19021775+3824032
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命名と経緯

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ケプラー9は、NASAが主導した太陽系外惑星探査のケプラー計画から名付けられた。

2010年6月、ケプラーの本格運用開始後43日間で得たデータから、700を超える数の精査すべき系外惑星候補が提示された。その中に、複数の惑星がトランジットしている可能性がある恒星が5つ含まれており、その一つがケプラー9であった。ケプラーの観測で惑星が存在する可能性を示すシグナルが検出されたことから、ケプラーの重点観測対象 "Kepler Objects of Interest" の一つとして、KOI-377 という名称が与えられた。

2010年8月26日に、KOI-377 に3つの惑星が見つかったことが発表された[4]。これによって、既にケプラーによって惑星が発見されていたケプラー8に続き、「ケプラー9」と命名された。ケプラー9に複数の惑星があることは、惑星がトランジットを起こす周期が著しく変動することから確認された[4]。ケプラー9は、トランジット法で一度に複数の惑星を発見した最初の例となり、各惑星がトランジットを起こすタイミングの変化を用いて惑星の質量も計算できた最初の例ともなった[5]

特徴

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ケプラー9は、地球からおよそ2,120光年(650 pc)の距離にある。ケプラー9の質量は太陽の1.07倍、半径太陽の1.02倍で、太陽とほぼ同じ大きさの恒星である。表面温度は 5,777 K でこれも太陽とほぼ同じ[6]であり、金属量は太陽より3割程度多い。年齢は太陽よりも若く、およそ10億年と推定される[2]

大きさの比較
太陽 ケプラー9
   


惑星系

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ケプラー9の惑星トランジットによる光度曲線

ケプラー9の周りを公転する3つの系外惑星は、ケプラー9bケプラー9cケプラー9dと名付けられた。母星から遠い方の2つの惑星ケプラー9bとケプラー9cは、それぞれ木星の25%および17%の質量を持ち、密度の低いガス惑星である。直径はどちらも木星の80%程度である。密度はどちらもよりも小さく、その点では土星に似ている。最も内側の軌道を回る惑星ケプラー9dは、直径が地球の1.64倍のスーパーアースで、公転周期は1.592851日である[2]。ケプラー9dを視線速度法で確認することは困難だが、発見が誤りである確率は、統計的に見積もって、悲観的に考えても0.06%であり、存在はほぼ確実とみられる[2]。ケプラー9dの事例はフォローアップ観測が困難な惑星候補が真の惑星であることを確率論的に確認 (validate) する技法が適用された初期の例であった[7]。このような技法は、後にケプラーが検出した惑星候補を確認するために広く用いられるようになった[7]


内側2つの惑星、ケプラー9dとケプラー9bの公転周期の比は1:12である。一方、外側2つの惑星ケプラー9bとケプラー9cの公転周期の比は1:2で、これらは軌道共鳴していると見られている。軌道共鳴している惑星がトランジット法で発見されたのは、ケプラー9bとケプラー9cの組が初めてである[3]

この軌道共鳴は、2つの惑星の公転速度を変化させ、その結果トランジットが起こる時間も変化する。1回公転するごとに、ケプラー9bのトランジットの周期は4分長く、ケプラー9cのトランジットの周期は39分短くなっている。通常、トランジット法では惑星の質量は推定できないが、この場合は公転軌道の変化から力学モデルを使って質量が推定された。後にケックI望遠鏡の HIRES (高分散エシェル分光器) を使ってドップラー分光法により精密に質量が推定された[3][8]

ケプラー9bと9cの軌道は、かつてはもっとケプラー9から遠く、雪線よりも外側に位置していたが、残存していた原始惑星系円盤との相互佐用によって内側に移動したと考えられている。その過程で軌道共鳴に捕獲されたとみられる[3]

ケプラー9の惑星[3][2][9]
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
d 4 - 16 M 0.02730 +0.00042
−0.00043
1.592851 ± 0.000045 0 1.64 +0.19
−0.14
 R
b 0.252 ± 0.013 MJ 0.140 ± 0.001 19.24 0.15 0.842 ± 0.069 RJ
c 0.171 ± 0.013 MJ 0.225 ± 0.001 38.91 0.13 0.823 ± 0.067 RJ

参考文献

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  1. ^ a b c d e Kepler-9 -- Rotationally variable Star”. SIMBAD. CDS. 2017年9月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h Torres, Guillermo; et al. (2011-01). “Modeling Kepler Transit Light Curves as False Positives: Rejection of Blend Scenarios for Kepler-9, and Validation of Kepler-9 d, A Super-earth-size Planet in a Multiple System”. Astrophysical Journal 727 (1): 24. arXiv:1008.4393. Bibcode2011ApJ...727...24T. doi:10.1088/0004-637X/727/1/24. 
  3. ^ a b c d e f Holman, Matthew J.; et al. (2010-10). “Kepler-9: A System of Multiple Planets Transiting a Sun-Like Star, Confirmed by Timing Variations”. Science 330 (6000): 51-54. Bibcode2010Sci...330...51H. doi:10.1126/science.1195778. PMID 20798283. 
  4. ^ a b NASA's Kepler Mission Discovers Two Planets Transiting the Same Star”. NASA (2010年8月26日). 2010年8月26日閲覧。
  5. ^ Nancy Atkinson (2010 -08-26). “Kepler Discovers Multi-Planet System”. Universe Today. 2011年1月13日閲覧。
  6. ^ David R. Williams (2004年9月1日). “Sun Fact Sheet”. Goddard Space Flight Center. NASA. 2011年3月20日閲覧。
  7. ^ a b Morton et al. (2023). RNAAS 7. Bibcode2023RNAAS...7..107M. 
  8. ^ Alexander, Amir (2010年8月27日). “From the Ground and from Space, New Planetary Systems Unveiled”. Planetary Society web site. The Planetary Society. 2010年9月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月27日閲覧。
  9. ^ Havel, M.; et al. (2011-07), “The multiple planets transiting Kepler-9. I. Inferring stellar properties and planetary compositions”, Astronomy and Astrophysics 531: A3, Bibcode2011A&A...531A...3H, doi:10.1051/0004-6361/201116779 

関連項目

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外部リンク

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座標:   19h 02m 17.756s, +38° 24′ 03.18″