グリーンウォッシング
グリーンウォッシング(英: greenwashing)は、環境配慮をしているように装いごまかすこと、上辺だけの欺瞞(ぎまん)的な環境訴求を表す。 安価な”漆喰・上辺を取り繕う"という意味の英語「ホワイトウォッシング」とグリーン(環境に配慮した)とを合わせた造語である。
上辺だけで環境に取り組んでいる企業などをグリーンウォッシュ企業などと呼ぶ場合もある。
従来、環境NGOなどで批判的文脈で使用されてきたほか、2020年代には国際連合にグリーンウォッシュ排除のための専門家グループが設置され[1]、欧州連合でグリーンウォッシングが禁止されるなど[2]、また増加する社会的責任投資にかかわる問題として[3]、公共の分野でも重要な概念となっている。
概要
編集CSR報告書に関係の無い緑の写真を使うなど、エコなイメージを流布する行為を揶揄した言葉。
グリーンウォッシュは1980年代半ばから、欧米の環境活動家を中心に使われ始めた。 環境に優しい、地球に優しい、グリーンなどという表記がある商品を、環境意識が高い消費者が選択することを狙い、消費者に誤解を与えるような訴求を行っている商品に対し、グリーンウォッシュ商品と名づけられる。 80年代後半から90年代にかけては、森林や海洋の写真を使った広告キャンペーンにより安易にグリーンな印象付けを行おうとしていたが、現在のグリーンウォッシュはさらに洗練されている。 イメージ先行のものから、実績アピール型に移行しており、CSR報告書なども、グリーンウォッシュのツールの一つに用いられている場合もある。
偽る方法として
- 意図的な情報の隠蔽(危険物質を含む「省エネ」家電)
- 無関係(CFCの使用禁止が遥か以前に決定しているにもかかわらず、CFC未使用を謳う)
- あいまいさ(100%天然を打ち出しているが、自然に存在する砒素などの定量的な評価がない)
- 証拠がない
- 空言
- より悪いものとの比較
などの6つのパターンがあるとされる[4]。
また、企業がCSR報告書はエコ商品を発表する際は、グリーンウォッシュなものにならないよう事業者自身が配慮する必要があるとの専門家の指摘がある(外部リンク参照)。
グリーンウォッシングの見抜き方
編集グリーンウォッシングを行っているかもしれない企業を見抜くには様々な方法がある。商品を購入する時にそれが本当に自然にやさしいものなのか、それとも単なる広告であるのかを見抜くために考慮すべきことは次のようなことである。
- 科学的な事実が欠如していないか。
- 「炭素強度」、「持続可能な発展」、「カーボンオフセット」、「クリーンテクノロジー」などのような言葉が混乱するほどにうるさく使われていないか[5]。これらの用語は消費者が商品を調査しようとするのに対して注意をそらすために使われているかもしれない。
- 商品に貼ってあるシールや環境に関するラベルを見てみる。信用できるラベルもあるが、規制されておらず、環境にやさしくなくても貼れる場合もある。
- 一般的な感覚をもつ。もし、主張が正しくないと感じたならば、その通りなのかもしれない。
- 商品をより自然にやさしいものにすることによって、実際にはより環境を汚染している企業に注意しよう。例えば、エネルギー効率のよい電球はエネルギーを節約するが、責任を持って製造し正確にリサイクルされなければ環境への負荷は貢献した分よりも大きくなってしまう。
- 緑の絵や自然の写真などは、商品が自然にやさしいとほのめかすために使われているのかもしれない。それだけで、環境にやさしいという意味をもつものではない。
- 見当違いの主張に注意する。主に企業が小さなひとつの環境にやさしい特性を強調するとき、企業や商品の他の部分は環境にやさしくはないかもしれない。
これらは商品を購入したりTVで広告を見たときに、それがグリーンウォッシングなのかを見抜く簡単な方法であるが、もしある企業がグリーンウォッシングを行っているのではないかと感じた時にもっともよい方法は単純に何らかの調査をしてみることである。
グリーンウォッシングとみなされている例
編集グリーンウォッシングまたはそれが疑われる主張は様々な産業に少なからず蔓延しており、不公正な市場を形作り、気候変動対策の障害となっている。欧州委員会の2020年の調査によれば、様々な業種の環境に関する150件の主張のうち、53.3%は誤解を招く可能性があり、40%は根拠に欠いた[9]。オーストラリア競争・消費者委員会の2023年の調査によれば、様々な業種の247社のうち、57%の企業が環境に関する疑わしい主張をおこなっており、特に化粧品、アパレル、食品の分野で問題が多くみられた[10]。国連が引用する環境NGOの2021年の報告によれば、ヨーロッパにおける大手ファッション業者の持続可能性に関する主張の60%は、根拠がなく、誤解を招く内容のものであった[1]。
- 自然に対する影響を減らそうという配慮がなされていなくても、多くの食品は自然にやさしいと思わせるようなパッケージがしてある[11][12][13]。
- 2009年にヨーロッパのマクドナルドはロゴの色を黄色と赤から黄色と緑に変えた[14]。
- ガーディアンの掲載されたフレッド ピアスのコラムによれば、クリーンコールは究極の気候変動の矛盾語法であり、完全なグリーンウォッシングであると彼は語っている[15]。
- イギリスの広告基準協議会は、スズキやセアト、トヨタ/レクサスなど乗り物について間違った主張をする自動車メーカーに対するいくつかの不平を支持した。[16][17][18][19][20]
- 英国の自動車番組「トップ・ギア」は時折エコカーが必ずしもエコではないと主張している。極端な例として以下がある。
- キンバリー・クラークはおむつやおしりふきの製品パッケージに「ピュア&ナチュラル」や「植物由来」といった文言を表記したが、実際の根拠が曖昧とされ、訴訟も起こった[21][22]。これらの製品では外側のみに有機栽培の綿が使用されていたり、素材の由来が不詳であったり、多くの合成素材も用いられているとされ、訴訟では連邦取引委員会のグリーンガイドからの逸脱が指摘されている。
- 日本政府と米国の木質ペレット製造企業のエンビバがグリーンウォッシュを行っていると批判された。米国の環境団体によるもので、日本政府が環境に優しい再生エネルギーとして調達している木質ペレットの製造や輸送に大量のCO2が使用され、また原材料である木質バイオマスの確保のために天然林や湿地などが破壊されており、また現地住民の間で公害問題が発生していると訴えられている。[23]
- 国際連合事務総長のアントニオ・グテーレスは、化石燃料業界が広告キャンペーンなどを通じてグリーンウォッシングをおこなっていると非難し、各国政府に化石燃料業界の広告の禁止を、広告業界に化石燃料業界との関係解消を求めた[24]。有名な大手メディアもその対象となっているが、2024年時点ではガーディアン、Vox Media、ル・モンドなどの限られたメディアが化石燃料の広告禁止を実施している[25]。
グリーンウォッシングに対する反感
編集個人や団体がグリーンウォッシングを減らすために、それを公にさらすことができる。オーストラリアのCHOICE[26]はグリーンウォッシングであるという主張を報告する機会を提供している。オレゴン大学によって考えられたグリーンインデックス[27]によって、グリーンウォッシングを評価することが可能になった。[28]国際的な環境保護団体であるグリーンピースには、グリーンウォッシングの主張を評価することが可能なブログ[29]がある。グリーンウォッシングのブログは主張の真実でない部分を明らかにするために存在する。
脚注
編集- ^ a b “Greenwashing – the deceptive tactics behind environmental claims”. United Nations. 2024年1月13日閲覧。
- ^ “EU to ban greenwashing and improve consumer information on product durability”. European Parliament (2023年9月19日). 2024年1月13日閲覧。
- ^ “IV. 監査をめぐる環境変化への対応”. 令和5年版モニタリングレポート. 公認会計士・監査審査会. (2023-7)
- ^ The six sins of Greenwashing
- ^ Naish, J. (2008). LIES…DAMNED LIES…AND GREEN LIES. Ecologist, 38(5), 36-39. Retrieved from Academic Search Co mplete database.
- ^ GREENWASH 101. Retrieved November 14, 2009.
- ^ Ju, S. (2008, December 31) How to spot greenwashing. Mother nature network.
- ^ How To Identify Greenwashing. (n.d.). Received November 14, 2009
- ^ “Consumer protection: enabling sustainable choices and ending greenwashing”. European Commission (2023年3月22日). 2024年1月14日閲覧。
- ^ 「海外ニュース: オーストラリア 企業のグリーンウォッシングに厳しく対処」『国民生活』第129号、国民生活センター、2023年5月、25頁。
- ^ Severson, Kim (2007-01-03). "Be It Ever So Homespun, There's Nothing Like Spin". The New York Times.Retrieved 2009-01-28.
- ^ “絶滅危惧種「ウナギ」は食べないほうがいいのか 持続可能なウナギはどこで買える?”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2019年10月1日). 2019年11月14日閲覧。
- ^ “グリーンウォッシュ”. 「京都鳥日和」. 2019年11月14日閲覧。
- ^ http://greenbiz.com/blog/2009/11/24/mcdonalds-new-green-strategy-extends-its-signage
- ^ Pearce, Fred (2009-02-26)."Greenwash: Why 'clean coal' is the ultimate climate-change oxymoron". The Guardian. Retrieved 2010-02-13.
- ^ "ASA Adjudications - Suzuki GB plc". ASA. 2009-06-10. Retrieved 2009-07-20.
- ^ "ASA Adjudications Volkswagen Group UK Ltd t/a Seat UK". ASA. 2009-04-22. Retrieved 2009-07-20.
- ^ "ASA Adjudications Toyota (GB) plc". ASA. 2008-12-10. Retrieved 2009-07-20.
- ^ "ASA Adjudications Lexus (GB) Ltd". ASA. 2008-09-24.Retrieved 2009-07-20.
- ^ “業界ニュース:「グリーンウオッシュ」を知っていますか? エコロジー宣伝へのきびしい目はやがて繊維業界にも - Apparel Business Magazine”. legacy.apparel-mag.com. 2019年11月14日閲覧。
- ^ “Green Products”. Environmental Communication Greenwashing Critiques. St. Lawrence University. 2021年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月13日閲覧。
- ^ “Kimberly-Clark Sued for “Greenwashed” Baby Wipes”. Law Street Media. Fastcase (2022年11月15日). 2024年1月13日閲覧。
- ^ 米国環境17団体、日本の固定価格買取制度(FIT)の輸入木質ペレット燃料のバイオマス発電は「グリーンウォッシュ」。森林皆伐により、CO2吸収機能なく、生物多様性を破壊(RIEF) | 一般社団法人環境金融研究機構
- ^ TJ Jordan & Kathryn Clare (2024年6月26日). “A ‘Carbon Sucking’ Mural? Campaigns for Big Oil? Global Ad Agency Dentsu Does Both.” [「炭素を吸い取る」壁画?大手石油会社のキャンペーン?世界的な広告代理店電通は両方を行う]. DeSmog. 2024年9月6日閲覧。
- ^ Noor, Dharna (2024年6月7日). “News and tech media mostly quiet after UN chief calls for ban on ads for oil and gas”. ガーディアン 2024年9月6日閲覧。
- ^ "Green Watch". CHOICE.Retrieved 2009-09-11.
- ^ Post. "Greenwashing Index". Greenwashing Index.Retrieved 2009-09-11.
- ^ "StopGreenwash.org". StopGreenwash.org.Retrieved 2009-09-11.
- ^ "The Unsuitable Blog". Thesietch.org. Retrieved 2009-09-11.
参考文献
編集- Greenwash Fact Sheet (CORP WATCH)
- STOP Greenwash.org (GreenPeace)
- 『日経エコロジー』2007年11月号
関連項目
編集外部リンク
編集- 『グリーンウォッシュとその回避方法』日本語版 2023年10月版(クライアントアース、気候変動に関するアジア投資家グループ〈AIGCC〉)- 金融分野を中心とした解説