クレイシュ
クレイシュ、ないし、クレイシは、フランス語で「保育所」を意味する「crèche」に由来する動物学の用語で、例えば、コロニー(個体群)の中で、他の個体の子孫を養い育てる行動を指す。この用語は、鳥類のコロニー (bird colony) の研究において一般的に用いられる。ペンギンの多くはクレイシュを形成するが、ほかにもカナダガン、ホンケワタガモ、ツクシガモなど、数多くの鳥類もクレイシュを形成する。
ペンギンの例
編集南極のアデリーペンギンの場合、12月後半に卵から雛がかえった後[4]、3週間ほど経ち[5]、親鳥が巣を離れるようになると、雛も巣を離れてクレイシュを形成する[6]。夏の1月上旬はクレイシュの形成期であり、始めのうちは雛は巣に戻って親から給餌を受けるが程なくして巣の外で親から給餌を受けるようになる[6]。クレイシュが形成されている間、親たちはコロニーを離れて餌を集めている[4]。1月下旬はクレイシュ中期にあたり[4]、生後7週間から8週間が経つ2月ころになると、雛たちはコロニーを離れて自立し、クレイシュはなくなる[5]。
動物園や水族館で飼育されているペンギンでも、条件が揃えばクレイシュが形成されることがあり、親ではない個体が、雛の毛繕いをしたり、雛の行動を叱るようなそぶりが観察される[3]。三浦市の京急油壺マリンパーク(2021年閉館)にて飼育されていたキタイワトビペンギンの場合、2006年と2013年にクレイシュが形成された[3]。
メガネカイマンの例
編集爬虫類では、ワニの一種であるメガネカイマンが、幼い個体をクリシュで育て、雌の個体1匹が、自分の子だけでなく、他の数匹の子たちも一緒に世話をする[7]。
ライオンの例
編集ライオンもクレイシュを形成する代表的な種のひとつである。同じプライド(群れ)の雌たちは、互いに他の雌の子たちを守り、世話もする。しかし、クレイシュの中で育てられた個体は、ひとりの母親に育てられた場合よりも摂食率が低くなる傾向があることが研究によって示されている。ここから、ライオンの場合、クレイシュは防衛的な隊形であると考えられる[8]。
脚注
編集- ^ “(東山の動物たち:235)オウサマペンギン:2”. 朝日新聞・名古屋夕刊: p. 1. (2008年1月22日). "ヒナがある程度成長すると、クレイシと呼ばれる保育所を作る。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ 亀井一成 (2001年7月19日). “フラミンゴ:2 亀井一成(生きて候 動物園物語)”. 朝日新聞・大阪夕刊: p. 3. "ヒナが10羽、20羽となると、ヒナだけが集まり遊びます。これは野生でも見られ、クレイシュ(保育園)といいます。" - 聞蔵IIビジュアルにて閲覧
- ^ a b c “キタイワトビペンギン、「共同保育所」を形成-京急油壺マリンパーク”. Media 0468/横須賀経済新聞 (2013年6月19日). 2016年9月2日閲覧。
- ^ a b c Aoyanagi, Masahiro「Temporal change of an Adelie penguin population in the creche-forming period」『南極資料』第80号、国立極地研究所、1983年、39-46頁。 NAID 110000205689
- ^ a b “アデリーペンギンの紹介”. ぺんたぁず. 2016年9月2日閲覧。
- ^ a b Aoyanagi, Masahiro、Yasuomi Tamiya「A note on the feeding behavior of the Adelie Penguin」『南極資料』第32巻第1号、国立極地研究所、1988年、85-101頁。 NAID 110000205805
- ^ Life in Cold Blood: Armoured Giants
- ^ University of Minnesota Lion Research Center