イヌトウキ
イヌトウキ(犬当帰、学名: Angelica shikokiana)は、セリ科シシウド属の多年草[2][3][4][5]。
イヌトウキ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Angelica shikokiana Makino ex Y.Yabe (1902)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
イヌトウキ(犬当帰)[2] |
特徴
編集根は太い。茎は直立し、下部から多く分枝して、高さは40-80cmになる。茎に毛はほとんどなく、茎の中は白い髄がある。茎につく葉は互生し、1-3回3出羽状複葉で、小葉は長卵形になり、長さ4-8cm、幅1.5-3cm、先は尾状に伸び、縁に低い鋸歯がある。葉の質はやや厚く、無毛で、表面に光沢はなく、裏面はやや白みをおびる。根出葉や下部の葉柄は長さ20-40cmになり、葉柄の基部はややふくらんで楕円状の鞘になる[2][3][4][5][6]。
花期は8-9月。茎先と枝先につく複散形花序は径6-15cmになり、小型の白色の花を多数つける。萼歯片は無い。花の径は3-4mm、花弁は5個で、先端が尾状になって内側に曲がる。複散形花序の花柄は15-30個あり、長さ3-7cm、小花柄は20-30個あり、長さ6-10mmあり、花柄、小花柄ともに細かい毛が密に生える。複散形花序の下に総苞片は無く、小花序の下の小総苞片は無いか小数あり、線形で長さ5-10mmになる。雄蕊は5個あり、葯は紫褐色になる。子房は2室ある。果実は扁平な長卵形で、2個の分果からなり、長さ6-7mm、幅2.5-4mm、基部は心形にへこむ。分果の背隆条は脈状で3脈あり、側隆条は翼状になる。油管は分果の表面側の各背溝下に各1個、分果が接しあう合生面に2個ある。染色体数は2n=22[2][3][4][5][6]。
分布と生育環境
編集日本固有種[7]。本州の紀伊半島、四国、九州に分布し、山地の斜面や岩崖地、河原、渓流の岩石地に生育する[2][3][4][5][6]。
名前の由来
編集和名イヌトウキは、「犬当帰」の意で[2]、薬草として利用されるトウキ Angelica acutiloba に似るが、比べて役に立たないことからいう[5]。和名 Inutōki 「イヌタウキ」 は、牧野富太郎 (1892) による命名である。ただし、牧野が和名とともに発表した学名 Ligusticum shikokianum は、記載文を伴わないことから裸名であった[1][8]。
種の保全状況評価
編集絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)
都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は、奈良県が希少種、山口県が絶滅危惧IA類(CR)、徳島県が絶滅危惧II類(VU)、愛媛県が絶滅危惧II類(VU)、高知県が準絶滅危惧(NT)、熊本県が絶滅危惧II類(VU)、大分県が絶滅の恐れのある地域個体群(LP)、鹿児島県が絶滅危惧I類となっている[10]。
下位分類
編集イヌトウキの下位分類に、変種のクマノダケ Angelica shikokiana Makino ex Y.Yabe var. mayebarana (Koidz.) H.Hara[11]がある。同種は、葉は3-4回3出羽状複葉で、最終裂片もさらに3裂する傾向にあり、小葉または裂片は細長い。花柄の内側にわずかに微突起毛が生え、小花柄はほとんど無毛である。熊本県に分布し、日当たりの良い山地の石灰岩地に生育する[12]。同種は、環境省のレッドデータブックでは、絶滅危惧IB類(EN)となっている。都道府県別の評価では、熊本県が絶滅危惧II類(VU)に、宮崎県が情報不足(DD-1,2)となっている[13]。
一方、同種は、北川正夫 (1982)による『日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類』および鈴木浩司 (2017)による『改訂新版 日本の野生植物 5』では、独立種 Angelica mayebarana の扱いとなっている[4][14]。
「日本山人参」との混同
編集薬効のあるセリ科植物「日本山人参」は、シシウド属ヒュウガトウキ Angelica tenuisecta (Makino) Makino var. furcijuga (Kitag.) H.Ohba[15](シノニム Angelica furcijuga Kitag.)[16]である[17]。2002年に、平成14年11月15日付け医薬発第1115003号厚生労働省医薬局長通知「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」において、植物由来物等の表に「ヒュウガトウキ、日本山人参、根」が加えられた[18]。しかし、「日本山人参」については、イヌトウキを原植物とする混同、混乱があったことがある[17]。
ギャラリー
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複散形花序に小型の白色の花を多数つける。花弁は5個で、先端が尾状になって内側に曲がる。葯は紫褐色になる。
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複散形花序の下に総苞片は無く、小花序の下の小総苞片は無いか小数ある。花柄、小花柄ともに細かい毛が密に生える。
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葉身は1-3回3出羽状複葉、小葉は長卵形で、先は尾状に伸びることが多く、縁に低い鋸歯がある。
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小葉の裏面、やや白みをおびる。
脚注
編集- ^ a b イヌトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b c d e f 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.476
- ^ a b c d 『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』p.27
- ^ a b c d e 鈴木浩司 (2017)「セリ科」『改訂新版 日本の野生植物 5』p.390
- ^ a b c d e 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1254
- ^ a b c 藤井伸二 (2015)「イヌトウキ」『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版』p.227
- ^ 門田裕一、秋山忍 (2011)「セリ科」『日本の固有植物』pp.99-100
- ^ Tomitaro Makino「日本植物報知 第十五」『植物学雑誌』第6巻第60号、日本植物学会、1882年、51頁、doi:10.15281/jplantres1887.6.45。
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1513
- ^ イヌトウキ。日本のレッドデータ検索システム、2024年1月23日閲覧
- ^ クマノダケ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ 清水建美「熊本県南部における石灰岩地帯の植物 1 - 「イヌトウキとクマノダケ」」『植物分類,地理 (Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第18巻第4号、植物分類地理学会、1960年、118-120頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001077819。
- ^ クマノダケ。日本のレッドデータ検索システム、2024年1月23日閲覧
- ^ 北川正夫 (1982)「セリ科」『日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類』p.289
- ^ ヒュウガトウキ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ ヒュウガトウキ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b 一般社団法人 高千穂郷日向当帰研究会 | 公式ホームページ. 2024年1月23日閲覧。
- ^ 厚生労働省医薬局長 (2002-11-15), 医薬品の範囲に関する基準の一部改正について (医薬発第1115003号), 厚生労働省 2024年1月23日閲覧。
参考文献
編集- 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類』、1982年、平凡社
- 北村四郎・村田源著『原色日本植物図鑑・草本編II(改訂53刷)』、1984年、保育社
- 加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
- 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
- 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版』、2015年、山と溪谷社
- 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
- 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
- 日本のレッドデータ検索システム
- Tomitaro Makino「日本植物報知 第十五」『植物学雑誌』第6巻第60号、日本植物学会、1882年、51頁、doi:10.15281/jplantres1887.6.45。
- 清水建美「熊本県南部における石灰岩地帯の植物 1 - 「イヌトウキとクマノダケ」」『植物分類,地理 (Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第18巻第4号、植物分類地理学会、1960年、118-120頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001077819。