キシュタ (アラビア語: قِشْطَة, ローマ字: qišṭa, 発音: [qiʃ.tˤa](IPA)、英語: qishtaまたはashta, アシュタ) は、伝統的にはから熱凝固の方法で作られる濃厚なクリーム状の乳製品で、スウィーツとして中東を始めとして東地中海地域で広く食されている[1][2][3]

キシュタ
(アシュタ)
キシュタ
キシュタ
別名 ギシュタ、イシュタ、エシュタ
種類 乳製品
地域 中東マグレブ、東地中海地域
提供時温度 2-5度
主な材料 牛乳水牛乳
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概要

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キシュタは、イギリス西部で作られる乳製品、クロテッドクリームに近いとされ、中東料理においてシロップ (قَطْر、カタールまたはアタール) などをかけそのまま提供されるか、デザートフィリングとして主に使用される[1]

ヨーグルトチーズなどその他の多くの乳製品と違い、伝統的キシュタは、微生物を利用した発酵触媒によるタンパク質変性に頼らず、熱変性によって作られる[1]

キシュタの成分は脂質タンパク質の割合が平均それぞれ11.7パーセントと12.1パーセントとほぼ同等なリポタンパク質食品で、乳脂肪をそれぞれ約55パーセントと約30パーセントを含むクロテッドクリームと泡立てた生クリームよりも、製法や食感こそ違えど、キシュタは成分的には全乳から作られたリコッタに大変似ていると分析されている[2]

伝統的キシュタ作りには大変時間と手間がかかる一方、含まれる水分量多いこととpH値がチーズなどに比べて高めなことから、細菌の繁殖には最適な状態であるため「非常に傷みやすく」、適切に調理または保存されていない場合、リステリアなどの食中毒の原因となる可能性が高い[1][4][5]。よって賞味期限も短く2–5度の温度で冷蔵されていても4日程度とされる[1]

名称

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中東、マグレブ、東地中海地域と広域に渡って食されている食品ゆえに、諸語や緒方言によるさまざまな表記と発音、そしてそれらに依拠する多数の英語表記と発音、その上で日本語の翻字へ至ることから名称の表記は多数に渡る。英語ではqishta、kishta、kashta、kachta, ghishta[1][2][6]や、アラビア語で「ق」(ラテン文字のQに対応) を発音しない地域ではashtaと綴られ、日本語ではキシュタ以外にも、カシュタギシュタアシュタイシュタエシュタなどかなりの表記の揺れが存在する。

起源

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史料に裏付けされたキシュタの起源は判明していないが、家庭で作られたのが始まりだと考えられている。そしてオスマン帝国時代に、同帝国の支配下に置かれた地域に広く広まり、トルコには同様のカイマクという乳製品が存在する[2]

製法

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伝統的キシュタの製法は2段階に分けられる、第一段階は、傾けて設置された容器に生乳を入れ、2-3時間かけてゆっくりと熱し続け、温度が比較的に低めな部分の表面に集まって浮いて来たクリーム状の皮膜を何度もすくい取り、その皮膜を集めることで、第二段階は、集めた皮膜を45度程度の温度で2時間ほどをかけて水分を切りながら粗熱をとり、その後冷却することである[1][2][3]

しかし、近代では調理時間を短縮し手間を省くために、また生乳の入手が難しいため、低温殺菌乳に生クリーム、レモン汁乳酸マスティック、そしてコンスターチなどを加えることによって凝固を早める方法が取られることが多くなってきている[3][7][8][9]

キシュタが作られた後の乳はレバノンでは赤い乳と呼ばれ、レバノンに限らずその他の乳製品の原料として利用される[2]

原材料

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主に牛の全乳が使われるが、水牛乳が使われる事もある[9]レバノンで牛乳が不足した時代には粉乳が使用された[1]

提供と使用方法

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キシュタは前述のようにそのまま蜜やシロップをかけて食されるが、シロップには香り付けにオレンジ花水が加えられたり、飾りとしてフルーツが添えられたり、ピスタチオをトッピングするなどして提供される[8]

キシュタはさまざまなデザートに使用され、エジプトレバントでは焼いたパンをベースに敷き詰めた上にキシュタをたっぷりと敷き詰めて切り分け、ピスタチオやアーモンドでトッピングしたアイシュ・エル・サラヤ英語版(宮廷のパン)[8][10]シリアレバノンでは、カターイフのフィリングにキシュタを使うカターイフ・アサフィーリ(小鳥)[7][11][12]、やはりシリアのホムスハマー及びレバノンのタラーブルスで特に有名なセモリナ粉とチーズを練って作ったモッチリとした柔らかい皮にキシュタをフィリングとして巻いたハラーワートジュブン英語版などがあげられる[8][6]

中東の代表的デザートのクナーファは、レバノンにおいてもパレスチナナーブルス風も人気が高い一方、レバノン風はカターイフ同様、チーズの代わりにキシュタを使用する[2][6][13]

レバノンを始めとしたレバンドやサウジアラビアでも、カラメル色になるまで炒ったセモリナ粉とサトウキビシロップを練った作った生地の上にキシュタを盛り、揚げた若しくは炒ったナッツ類をトッピングしたマフルーケアラビア語版というデザートが食される[2]

フィロ生地でアシュタを筒状に巻いて揚げたZnoud el Settアラビア語版(貴婦人の腕)は、シリア、レバノン、イラクなどで食され[6]マアムールと同じセモリナ粉とバタービスケット生地でアシュタ(キシュタ)を上下で挟んだMaamoul Mad Bil Ashta(معمول مد بالقشطة、アシュタ入りのマアムール)も人気が高い[14][15]

「東方菓子の中心地」と呼ばれるレバノンのタラーブルスに本店を構える老舗菓子店ハーラーブ1881は、キシュタを使用した50品以上の商品を製造販売しているようにキシュタは多種多様のデザートに用いられている[2][6]

なお、これらのデザートで熱調理されるものは、最終熱調理直後の熱いうちに冷ましたシロップがかけられ、その中に浸される。最終調理手順に熱調理が含まなくても多くのものにシロップがかけられる。

これらのデザートは、特別な行事や結婚式や出産祝いなどの集まりのほか、ラマダーン期間中のスフール英語版(日の出前の食事)またはイフタール英語版(日没後初の食事)に多く食される料理となっている[6][10][12][13]

ギャラリー

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関連項目

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出典

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  1. ^ a b c d e f g h emhj. “Microbiological and chemical profile of Lebanese qishta (heat-coagulated milk)” (英語). World Health Organization - Regional Office for the Eastern Mediterranean. 2025年3月8日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i Najib, Mustapha; Hallab, Mohamad Walid; Hallab, Karim; Hallab, Zaher; Delaplace, Guillaume; Hamze, Monzer; Chihib, Nour-Eddine (2020年01月24日). “Qishta—A Lebanese Heat Concentrated Dairy Product Characteristics and Production Procedures” (英語). Foods 9 (2): 125. doi:10.3390/foods9020125. ISSN 2304-8158. PMC 7073747. PMID 31991542. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7073747/. 
  3. ^ a b c Najib, Mustapha; Bray, Fabrice; Khelissa, Simon; Flament, Stephanie; Richard, Elodie; El Omari, Khaled; Rolando, Christian; Delaplace, Guillaume et al. (2022年01月01日). “Effect of milk heat treatment on molecular interactions during the process of Qishta, a Lebanese dairy product”. International Dairy Journal 124: 105150. doi:10.1016/j.idairyj.2021.105150. ISSN 0958-6946. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0958694621001783. 
  4. ^ Kassaify, Z. G.; Najjar, M.; Toufelli, I.; Malek, A. (2010). “Microbiological and chemical profile of Lebanese qishta (heat-coagulated milk)” (英語). Eastern Mediterranean Health Journal 16 (9): 926–931. doi:10.26719/2010.16.9.926. PMID 21218717. https://www.emro.who.int/emhj-volume-16-2010/volume-16-issue-9/article-02.html 2024年9月16日閲覧。. 
  5. ^ Hassan, Hussein F.; Kassaify, Zeina (2014年03月01日). “The risks associated with aflatoxins M1 occurrence in Lebanese dairy products”. Food Control 37: 68–72. doi:10.1016/j.foodcont.2013.08.022. ISSN 0956-7135. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0956713513004143. 
  6. ^ a b c d e f “Lebanon’s Tripoli, capital of oriental delicacies | Omar Ibrahim | AW” (英語). AW. (2016年3月4日). https://thearabweekly.com/lebanons-tripoli-capital-oriental-delicacies 2025年3月9日閲覧。 
  7. ^ a b Choueiry, Ramzi (2012年10月01日) (英語). The Arabian Cookbook: Traditional Arab Cuisine with a Modern Twist. Simon and Schuster. ISBN 978-1-62087-747-0. https://books.google.com/books?id=lGb6SXklY6YC&q=Ashta+&pg=PT280 
  8. ^ a b c d Fatimah (2023年01月11). “Ashta, Middle Eastern Clotted Cream” (英語). FalasteeniFoodie. 2024年9月16日閲覧。
  9. ^ a b Epicurious. “Eishta or Kaymak” (英語). Epicurious. 2025年3月9日閲覧。
  10. ^ a b Ezzat, Farida M. (2019年5月5日). “19 Middle Eastern Desserts to Remember this Ramadan | Egyptian Streets” (英語). 2025年3月9日閲覧。
  11. ^ Kobeissi, Hoda. “Atayef with ashta cream (sweet pancake stuffed with clotted cream”. SBS. https://www.sbs.com.au/food/recipes/atayef-ashta-cream-sweet-pancake-stuffed-clotted-cream 2020年12月3日閲覧。 
  12. ^ a b Qatayef Asafiri (Stuffed Semolina Pancakes) Recipe” (英語). NYT Cooking (2022年4月13日). 2025年3月9日閲覧。
  13. ^ a b Zebib, Hadia (2024年2月27日). “Best Ramadan Sweets from Lebanon and the Middle East” (英語). hadias lebanese cuisine. 2025年3月9日閲覧。
  14. ^ Maamoul Mad bi Ashta” (英語). Colorful Recipes (2025年2月26日). 2025年3月9日閲覧。
  15. ^ Zaatar (2020年5月31日). “Maamoul Mad b Ashta (Lebanese Dessert) by Zaatar and Zaytoun” (英語). Zaatar & Zaytoun. 2025年3月9日閲覧。