カヤクグリ
カヤクグリ(茅潜、萱潜[4]、学名:Prunella rubida (Temminck & Schlegel, 1848)[2])は、イワヒバリ科カヤクグリ属[5]に分類される鳥類の1種。
カヤクグリ | ||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
カヤクグリ Prunella rubida
| ||||||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Prunella rubida (Temminck & Schlegel, 1848)[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
カヤクグリ | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Japanese accentor[3] |
分布
編集日本(北海道、本州中部以北、四国、九州)、ロシア(南千島)に分布する[6][注釈 1][2][5][7]。
漂鳥で夏季に四国の剣山や本州中部以北、南千島などで繁殖し、冬季になると低地[8]や本州、四国、九州の暖地へ南下して越冬する[7][4]。九州では冬鳥[5]。
形態
編集全長が約14 cm[5][7][8]、翼開長が約21 cm[7]、スズメほどの大きさ[9]。体重が15-23 g[10]。目立つ模様がなく色彩は地味[7][11]。雌雄同色で、頭部の羽衣は暗褐色[5][8]。体上面の羽衣は赤褐色で、暗褐色の縦縞が入る[5]。胸と腹は灰褐色で[8]、体側面から尾羽基部の下面(下尾筒)にかけての褐色の縦縞が入る[5]。頬の辺りに薄い黄褐色の斑点模様がある[9]。風切羽は暗褐色で外縁は茶色っぽい[6]。大雨覆と中雨覆先端に黄色の斑がある[5]。尾羽は暗褐色[6]。初列風切羽は9枚(長さ52-63 mm、幅8 mm)、次列風切羽は6枚(長さ48-55 mm、幅7-10.5 mm)、三列風切羽は3枚、尾羽は12枚(長さ62-65 mm、幅7-8 mm)[12]。
虹彩は茶褐色[5]。眼の周囲に小さな白斑がある[5]。嘴は細く黒色[5][8]。足は橙褐色[8]。
-
前面
-
羽繕い中に翼を広げた様子
生態
編集亜高山帯から高山帯にかけてのウラジロナナカマド、ハイマツなどの林や岩場に生息する[8]。林の中にいることが多く、イワヒバリほどは岩場にで出てこない[4]。繁殖期にはハイマツの枝上[13]などの明るい場所に出てきてさえずったり、採食をする[6]。冬季には平地から低山地の林、灌木林、山間部の沢沿いの藪、集落の庭の藪、林縁などの標高の低い場所へ移動し[5][8]、単独もしくは数羽からなる小規模な群れを形成しひっそりと生活する[7][14]。繁殖期には「チリチリチリ」や「チーチーリリリ」[7]とさえずり、地鳴きは「ツリリリ」[6][8]で、ヤマヒバリの鳴き声に似ている[5]。
食性は雑食で、灌木を縫うように移動しながら小型の昆虫、幼虫類、クモ、草や木の種子などを食べる[6][7][9]。夏季は昆虫、冬季は種子を主に食べる。樹上でも地上[6]でも採食を行う。
繁殖形態は卵生。繁殖期になるとオスとメスそれぞれ数羽からなる小規模な群れを形成し、オスとメスともに複数とかかわり繁殖する[14]。一妻二夫で繁殖するとも考えられている[15]。形成した群れではオス間に順位があると見られている[15]。メスがオオシラビソ[10]、キャラボク[16]、ダケカンバ、ハイマツ[4]などの高さ1 mほどの樹上に枯草や苔などを組み合わせたお椀状の巣を作る[14][17]。メスが猫背になって尾羽を水平に伸ばし、細かく振動させてオスに対して求愛行動をする[15]。6-9月に1日1個ずつ1腹2-4個[10]の卵を早朝に産む[15][17]。卵の長径は約2 cm、短径は約1.5 cmで青色無斑[17]。メスだけが13-14日間抱卵し、孵化後13-14日で巣立つ[17]。巣によっては同じ群れのオスが巣で抱卵中のメスに給餌を行う[15]。
名前の由来
編集学名のPrunella rubidaは、「赤い褐色の小鳥」を意味し[11]、種小名rubidaは「赤い、赤みがかった」の意。和名は冬季に藪地(カヤ=ススキなどの総称)に潜むように生活し、なかなか姿を見せず藪の下を潜ることに由来する[4][11]。藪の中を好み体色がミソサザイに似ていることから江戸時代には、「おおみそさざい」、「やまさざい」と呼ばれていた[11]。「しばもぐり」、「ちゃやどり」の異名をもつ[11]。和名は夏の季語となっている[11]。
種の保全状況評価
編集国際自然保護連合(IUCN)により、レッドリストの軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]。個体数は安定傾向にある[1]。日露渡り鳥条約の指定種[18]。
カヤクグリ属
編集カヤクグリ属(学名:Prunella Vieillot, 1816 )はイワヒバリ科に分類される唯一の属で、以下の種が知られている[2][30]。ヨーロッパ、サハラより北のアフリカ、南の半島部を除くアジアに分布し、低木林などの山地に生息する[30]。全長13-18 cm、体重18-26 g[30]。地上、低木の中、岩の隙間などにカップ形の巣を作る。3-6個の明るい青緑色から青色の模様がない卵を産む[30]。抱卵期間は11-15日、孵化後12-14日で巣立つ。夏は主に昆虫を食べ、冬に植物の種子や果実を食べる[30]。
- イワヒバリ P. collaris (Scopoli, 1769) - 南西、南中央、東ユーラシア大陸と北西アフリカから日本にかけて分布する。
- ヒマラヤイワヒバリ P. himalayana (Blyth, 1842) - 中央アジアに分布する。
- ムネアカイワヒバリ P. rubeculoides (Moore, F, 1854) - ヒマラヤに分布する。
- アカチャイワヒバリ P. strophiata (Blyth, 1843) - ヒマラヤに分布する。
- ヤマヒバリ P. montanella (Pallas, 1776) - ユーラシア大陸の北部と東部に分布する。まれに冬鳥として日本に飛来する[10]。
- ウスヤマヒバリ P. fulvescens (Severtsov, 1873) - ユーラシア大陸の中南部と東部に分布する。
- コーカサルイワヒバリ P. ocularis (Radde, 1884) - ユーラシア大陸の中南部に分布する。
- アラビアイワヒバリ P. fagani (Ogilvie-Grant, 1913) - アラビア半島南西部に分布する。
- ノドグロイワヒバリ P. atrogularis (von Brandt, JF, 1843) - ユーラシア大陸の南西部と中部に分布する。
- シロハライワヒバリ P. koslowi (Severtsov, 1887) - ユーラシア大陸の中南部と東部に分布する。
- ヨーロッパカヤクグリ P. rubida (Linnaeus, 1758) - ユーラシア大陸の西部と南西部、アフリカ北西部に分布する。
- カヤクグリ P. rubida (Temminck & Schlegel, 1845) - 日本(北海道、本州中部以北、四国、九州)、ロシア(南千島)に分布する。以下の2亜種に分類されることがある[10]。
- クリイロイワヒバリ P. immaculata (Hodgson, 1845) - ヒマラヤからブータン北部と中国中央部にかけて分布する。
近縁種
編集- イワヒバリ - 岩雲雀(学名:Prunella collaris (Scopoli, 1769) )、同じく高山帯に生息するが、全長が約18 cmと一回り大きくく、嘴の基部が黄色であることなどで識別できる[31]。
- ヨーロッパカヤクグリ - ヨーロッパ茅潜(学名:Prunella modularis (Linnaeus, 1758) )、温帯ヨーロッパやアジア西部に分布し、少数はアフリカ北部で越冬する[32]。
-
体色が似るクロジ、嘴はカヤクグリより太い
Emberiza variabilis -
イワヒバリ
P. collaris -
ヨーロッパカヤクグリ
P. modularis
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c “Prunella rubida (Japanese Accentor) in IUCN Red List of Threatened Species. Version 2014.2” (英語). 国際自然保護連合(IUCN). 2014年10月21日閲覧。
- ^ a b c d “IOC World Bird List 4.3 (Waxbills, parrotfinches, munias, whydahs, Olive Warbler, accentors & pipits)” (英語). 国際鳥類学会議(IOC). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “Prunella rubida (Temminck & Schlegel, 1845)” (英語). ITIS. 2014年10月21日閲覧。
- ^ a b c d e 真木 (2012)、187頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m 真木 (2014)、652頁
- ^ a b c d e f g 叶内 (2006)、463頁
- ^ a b c d e f g h 中川 (2010)、176頁
- ^ a b c d e f g h i 五百澤 (2014)、304頁
- ^ a b c d 高木 (2000)、71頁
- ^ a b c d e f g 日高 (1997)、94頁
- ^ a b c d e f 国松 (1995)、180頁
- ^ 笹川 (2011)、390頁
- ^ 梓川鳥類生態研究会 (1993)、11頁
- ^ a b c 梓川鳥類生態研究会 (1993)、12頁
- ^ a b c d e 日高 (1997)、95頁
- ^ a b “レッドデータブックとっとり改訂版(動物)” (PDF). 鳥取県. pp. 67 (2012年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ a b c d 小海途 (2011)、128-129頁
- ^ a b “青森県レッドデータブック(2010年改訂版)” (PDF). 青森県. pp. 208 (2010年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “日本のレッドデータ検索システム「カヤクグリ」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2014年10月21日閲覧。 - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
- ^ “兵庫県レッドデータブック「カヤクグリ」” (PDF). 兵庫県 (2003年). 2014年10月22日閲覧。
- ^ “愛媛県レッドデータブック「カヤクグリ」”. 愛媛県 (2003年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “徳島県版レッドデータブック” (PDF). 徳島県. pp. 86 (2011年8月). 2012年12月13日閲覧。
- ^ “奈良県版レッドデータブック(鳥類)”. 奈良県 (2002年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “栃木県版レッドリスト(2011改訂版)「カヤクグリ」”. 栃木県 (2011年3月). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “福岡県の希少野生生物 RED DATA BOOK 2011 FUKUOKA「カヤクグリ」”. 福岡県 (2011年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “レッドデータブックおおいた” (PDF). 大分県. pp. 326 (2001年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “千葉県レッドデータブック動物編(2011年改訂版)” (PDF). 千葉県. pp. 121 (2011年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “いわてレッドデータブック 岩手の希少な野生生物 web版「カヤクグリ」”. 岩手県 (2014年3月). 2014年10月21日閲覧。
- ^ “福井県レッドデータブック(動物編)「カヤクグリ」”. 福井県 (2002年). 2014年10月21日閲覧。
- ^ a b c d e 黒田 (1986)、62頁
- ^ 五百澤 (2014)、302頁
- ^ 三省堂編修所・吉井正 『三省堂 世界鳥名事典』、三省堂、2005年、529頁。ISBN 4-385-15378-7。
参考文献
編集- 梓川鳥類生態研究会『日本アルプスの鳥』信濃毎日新聞、1993年6月。ISBN 4784093087。
- 五百澤日丸、山形則男、吉野俊幸『新訂 日本の鳥550 山野の鳥』平凡社〈ネイチャーガイドシリーズ〉、2014年3月8日。ISBN 978-4829984000。
- 小海途銀次郎、林良博『決定版 日本の野鳥 巣と卵図鑑』世界文化社、2011年9月6日。ISBN 978-4418119004。
- 叶内拓哉、安部直哉『山溪ハンディ図鑑7 日本の野鳥』(第2版)山と溪谷社、2006年10月1日。ISBN 4635070077。
- 国松俊英『名前といわれ 日本の野鳥図鑑1 野山の鳥』偕成社、1995年4月。ISBN 4035293601。
- 笹川昭雄『決定版 日本の野鳥羽根図鑑』世界文化社、2011年9月20日。ISBN 978-4418119011。
- 黒田長久(監修) 著、C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン 編『動物大百科鳥類III』平凡社〈第9巻〉、1986年10月15日。ISBN 4582545092。
- 高木清和『フィールドのための野鳥図鑑-野山の鳥』山と溪谷社、2000年8月。ISBN 4635063313。
- 中川雄三(監修)『ひと目でわかる野鳥』成美堂出版、2010年1月。ISBN 978-4415305325。
- 日高敏隆(監修)『日本動物大百科 鳥類II』平凡社、1977年3月20日。ISBN 4582545548。
- 真木広造『名前がわかる野鳥大図鑑』永岡書店、2012年4月10日。ISBN 978-4522430866。
- 真木広造、五百澤日丸、大西敏一『日本の野鳥650』平凡社、2014年1月31日。ISBN 978-4582542523。