カクチケル語
カクチケル語(カクチケルご、Kaqchikel[2])は、グアテマラ中央高地のカクチケル族の話す言語で、マヤ語族のキチェ語群に属する。グアテマラの7つの県の45以上のムニシピオで話される[3]。
カクチケル語 | |
---|---|
話される国 | グアテマラ |
話者数 | 約50万 |
言語系統 |
マヤ語族
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言語コード | |
ISO 639-3 |
cak |
Linguist List |
cak |
Glottolog |
kaqc1270 [1] |
消滅危険度評価 | |
Vulnerable (Moseley 2010) |
概要
編集カクチケル語はグアテマラ県、サカテペケス県、チマルテナンゴ県、ソロラ県、スチテペケス県、エスクィントラ県、およびバハ・ベラパス県の一部で話される[3]。キチェ語地域の南に位置する。
カクチケル族のすべてがカクチケル語を話すわけではない。話者人口は資料によって異なるが、2002年のグアテマラの国勢調査によると、カクチケル族全体の人口が83万人であるのに対し、3歳以上のカクチケル語の話者数は44万人となっている[4]。リチャーズによる推計(2001年)によると話者数は約48万人であり、グアテマラでキチェ語、ケクチ語、マム語についで4番目に多く話されるマヤ語族の言語とされる[5]。
16世紀にスペイン人がグアテマラを征服したとき、カクチケル族ははじめスペイン人と協力した。カクチケル族の中心都市であったイシムチェはグアテマラの最初の首都となり、その後も非先住民の人口の中心、とくにアンティグア・グアテマラとグアテマラシティに近いところにカクチケル族は住んでいた。これらの地域のカクチケル族はマヤ人としての習慣を放棄するよう圧力がかかっていたが、その一方で辺境に住むカクチケル族は古くからの習慣を保った。このためカクチケル族の風習には町ごとに相当の違いがある[6]。
スペイン植民地期に『カクチケル年代記』のようなカクチケル語の文献を残したが、しかしその後は20世紀末までカクチケル語をふくむマヤ諸語の多くはあまり書かれなくなった[7][8]。近年まで学校でマヤ語を話すことは抑圧され、その結果マヤ語の話者であってもマヤ語を書くのはスペイン語を書くよりも困難であった。1990年代になってグアテマラ・マヤ言語アカデミーが設立され、マヤ語教育や言語の標準化が進められている[9]。しかしながら標準化されたカクチケル語では話し言葉に見られる前置詞と人称接頭辞+関係名詞が融合した形を「不正」として歴史的な形に直すなど、人工的に作られた形が見られる[10]。
音声
編集キチェ語と異なって母音の長短の区別がなく、本来の短母音(a e i o u)がゆるみ母音(ä ë ï ö ü)に変化している。区別される母音の数は方言によって異なり、5母音から10母音までがある。たとえばサカテスペス県サンタ・マリア・カウケ方言ではëを除く9つの母音(a e i o u ä ï ö ü /a e i o u ə ɪ ɔ ʊ/)がある。äのある方言は多いが、その音価は方言によって異なっている。ëのある方言は少ない[11]。ソロラ方言では10個全部の母音を区別すると報告されているが、ベネットの調査によるとiとïは区別されていないようだという[12][13]。ゆるみ母音は強勢のある最後の音節にのみ出現する。また動詞語根の大部分はゆるみ母音を含む[14]。
両唇音 | 歯茎音 | 後部歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 口蓋垂音 | 声門音 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
破裂音 | p bʼ | t tʼ | k kʼ | q qʼ | ʼ | ||
破擦音 | tz tzʼ | ch chʼ | |||||
摩擦音 | s | x | j | ||||
鼻音 | m | n | |||||
流音 | l r | ||||||
半母音 | w | y |
文法
編集カクチケル語のもっとも基本的な語順はVOS型(VOA)であるが、実際には主語が主題化してSVOになることが多い[16]。また目的語が先に出てOSVになることもある[17]。
脚注
編集- ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “カクチケル語”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History
- ^ ALMGによる正式な綴り。古くはCakchiquelとも書いた。
- ^ a b García Matzar(2004) p.5
- ^ Censos Nacionales XI de Población y VI de Habitación 2002. Instituto Nacional de Estadística Guatemala. (2003). p. 32 (pp.32,34)
- ^ Richards (2003) p.60
- ^ Carlsen (2001) p.85
- ^ England (2003) p.736
- ^ Romero (2017) p.392
- ^ Romero (2017) p.386
- ^ England (2003) p.737
- ^ Bennett (2016a) pp.471-472
- ^ England & Baird (2017) p.179,190
- ^ Bennett (2016b) p.12
- ^ Bennett (2016a) p.475
- ^ England & Baird (2017) p.178
- ^ 金情浩、八杉佳穂、Juan Esteban Ajsivinac Sian、Lolmay Pedro Oscar Gárcia Mátza、小泉政利「カクチケル・マヤ語の統語的基本語順」『言語研究』第143号、2013年、81-93頁。
- ^ England (2003) pp.737-738
参考文献
編集- Bennett, Ryan (2016a). “Mayan Phonology”. Language and Linguistic Compass (10): 469-514 .
- Bennett, Ryan (2016b). “La tensión vocálica en el kaqchikel de Sololá, Guatemala: un estudio preliminar”. Las Actas del Seminario Phonologica. Colégio de México .
- Carlsen, Robert S. (2001). “Kaqchikel”. Oxford Encyclopedia of Mesoamerican Cultures. 2. Oxford University Press. pp. 85-87. ISBN 0195108159
- England, Nora C. (2003). “Mayan Language Revival and Revitalization Politics: Linguists and Linguistic Ideologies”. American Anthropologist 105 (4): 733-743. JSTOR 3567138.
- England, Nora C.; Baird, Brandon O. (2017). “Phonology and Phonetics”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages. Routledge. pp. 175-200. ISBN 9780415738026
- García Matzar, Pedro Oscar (2004). Gramática pedagógica Kaqchikel. Guatemala: Universidad Rafael Landívar(教育用の文法書)
- Michael Richards (2003). Atlas Lingüístico de Guatemala. Guatemala
- Romero, Sergio (2017). “The Labyrinth of Diversity: The sociolinguistics of Mayan languages”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages. Routledge. pp. 379-400. ISBN 9780415738026
関連文献
編集- Ri chʼutiʼ ajpop. translated by Lolmay Pedro Oscar Gárcia Matzar. Neckarsteinach: Edition Tintenfass. (2011). ISBN 9783937467924(『星の王子さま』のカクチケル語版)
外部リンク
編集- Kaqchikel Maya Language Resources, Native Languages of the Americas Online Resources(カクチケル語の発音、基本的単語、カクチケル族に関するリンク集など)