オーヴァー・ゼア
「オーヴァー・ゼア」(Over There)は、1917年に発表されたアメリカの軍歌。第一次・第二次の両世界大戦でアメリカ軍人によって広く歌われた。
概要
編集1917年、ジョージ・コーハンが作詞・作曲した。FirstWorldWar.comのマイケル・ダフィーによれば、コーハンは1917年の米国参戦直後、ニューロシェルからニューヨークまで列車で旅行している最中、聞こえてきた音楽や言葉からインスピレーションを得て歌詞や曲を思いついたのだという[1]。この曲は英国の『遥かなティペラリー』と同様、愛国心を煽るべく第一次世界大戦で広く歌われた。1936年6月29日、フランクリン・ルーズベルト大統領は「オーヴァー・ゼア」を含む多くの作曲を手がけた功績を讃え、コーハンに議会名誉黄金勲章を授与した。「オーヴァー・ゼア」は第二次世界大戦期にも広く歌われ、その後ベトナム戦争頃までにはほとんど歌われなくなっていたが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件頃から再び歌われるようになったという[2]。
ノラ・ベイズ、エンリコ・カルーソー、ビリー・マレイ、チャールズ・キングによる録音がよく知られる。
タイトルのOver there(向こう側)とは、元々はアメリカから大西洋を挟んだ向こう側、すなわちヨーロッパを指していた。しかしOver thereという語が特定の国を指さないことから、「オーヴァー・ゼア」の歌詞はあらゆる国に対する軍事介入を示唆する勧告の意味をもつようになった。
また「ヤンキーが来るぞ」(The Yanks are Coming)のスローガンとその否定形「ヤンキーは来ない」(The Yanks are not Coming)はこの歌に由来する。
歌詞
編集元歌詞
編集- 1番
- Johnny,[3] get your gun, get your gun, get your gun.
- Take it on the run, on the run, on the run.
- Hear them calling you and me,
- Every Son of Liberty.
- Hurry right away, no delay, go today.
- Make your Daddy glad to have had such a lad.
- Tell your sweetheart not to pine,
- To be proud her boy's in line.
- 繰り返し部
- Over there, over there,
- Send the word, send the word over there
- That the Yanks are coming, the Yanks are coming
- The drums rum-tumming everywhere.
- So prepare, say a prayer,
- Send the word, send the word to beware -
- We'll be over, we're coming over,
- And we won't come back till it's over, over there.
- 2番
- Johnny, get your gun, get your gun, get your gun.
- Johnny, show the "Hun"[4] you're a son-of-a-gun.
- Hoist the flag and let her fly
- Yankee Doodle[5] do or die.
- Pack your little kit, show your grit, do your bit.
- Yankee[6] to the ranks from the towns and the tanks.[7]
- Make your Mother proud of you
- And the old red-white-and-blue[8]
- (繰り返し部)
日本語訳
編集大衆文化への影響
編集映画
編集「オーヴァー・ゼア」は様々な映画で使用されたが、特に有名なのはジェームズ・キャグニーが主演したジョージ・コーハンの伝記映画『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(1942年)であろう。同作でキャグニーはアカデミー主演男優賞を受賞している。作中ではオーヴァー・ゼアがひょんなきっかけから作曲され、またクライマックスのパレードでも軍楽隊によって演奏されている。市民らが軍人と共にオーヴァー・ゼアを歌う中で、コーハンがそれに聞き入っていると、彼が作曲したことを知らない市民や兵士に「こんな有名な歌を知らないのか」とからかわれるのである。
1969年の映画『素晴らしき戦争』では、桟橋に到着したアメリカ軍の兵士らが「オーヴァー・ゼア」を歌っている。ただし歌詞の最後が「我々は戻らない、『向こう側』に葬られる」(We won't come back, we'll be buried over there) に変えられている。その他、2008年の映画『かけひきは、恋のはじまり』や1963年の映画『枢機卿』、1979年の映画『1941』などでも「オーヴァー・ゼア」が歌われるシーンがある。
「ジョニーよ銃を執れ」(Johnny, get your gun)は19世紀末以来使われてきた米軍の兵士募集の宣伝文句であったが、この曲で非常に有名になった。第一次世界大戦後を舞台にした反戦小説『ジョニーは戦場へ行った』(Johnny Got His Gun)の原題はこれにちなんでいる[9]。
スポーツ
編集イギリスの音楽グループThe Babe Teamは、2002 FIFAワールドカップのために「オーヴァー・ゼア」の繰り返し部に基づく曲(シングル化された)を作成した。また2010 FIFAワールドカップのアメリカ男子サッカー代表の応援にも「オーヴァー・ゼア」を元にした応援歌が歌われた。
「ヤンキーは来ないぞ」("The Yanks Are Not Coming")
編集1939年7月24日、独ソ間でモロトフ・リッベントロップ協定が締結されると、世界各国の共産党と同様にアメリカ共産党(CPUSA)でも第二次世界大戦を帝国主義戦争として非難し、反戦の姿勢を取った。この際に「オーヴァー・ゼア」の歌詞から「ヤンキーは来ないぞ」("The Yanks Are Not Coming")のスローガンを掲げたのだという。
しかし1941年6月22日、アドルフ・ヒトラーが協定を破棄しバルバロッサ作戦を発動すると、アメリカ共産党は姿勢を再び転換してアメリカの参戦を強く促した。
脚注
編集- ^ Duffy, Michael (2 August 2003). “Vintage Audio: Over There”. FirstWorldWar.com. 2007年8月21日閲覧。
- ^ Collins, Ace (2003). Songs Sung, Red, White, and Blue: The Stories Behind America's Best-Loved Patriotic Songs. HarperResource. ISBN 0060513047, pages 138-145.
- ^ ジョニー(Johnny)は英語圏における一般的な名の1つ。ここでは無名の男の代名詞として用いられている。
- ^ a b 現在この部分は「Johnny on the run...」と歌い変えられる事が多い。その場合は「ジョニーよ、走れ」となる。
- ^ a b 現在この部分は「Like true heroes...」と歌い変えられる事が多い。その場合は「真の英雄なら」となる。
- ^ a b 現在この部分は「Soldiers...」と歌い変えられる事が多い。その場合は「兵隊達は」となる。
- ^ ここでいうtankとは「tank town」、すなわち蒸気機関車に水を供給していた小さな町の意味。
- ^ a b 現在この部分は「And to liberty be true」と歌い変えられる事が多い。その場合は「真の自由を」となる。
- ^ “SparkNotes: Johnny Got His Gun: Themes, Motifs, and Symbols”. SparkNotes.com. 2012年11月14日閲覧。
外部リンク
編集- Vintage Audio: Over There
- Rendition by Billy Murray and quartet
- Sheet music for "Over There", Leo Feist, Inc., 1917.